「顔真卿自書建中告身帖」事件判決と実務

最二小判昭和59年1月20日民集第38巻1号1頁)(昭和58年(オ)171号書籍所有権侵害禁止事件)
著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は、原作品の所有権を侵害するものではないというべきである。
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/DFE979802F014DBB49256A8500311F7D?OPENDOCUMENT

という判決がある。
つまり、美術の原作品所有者は有体物としての排他的支配権を有するからといって、
著作物(無体物)については何らの権利も有しないということである。
この点に関して、神谷信行『知って活かそう!著作権―書・音楽・学校の現場から』21-22頁(日本評論社,2005/04)には、

 ……中には、著作権の消滅した古典作品を美術館等が所有している時に、「撮影料」や「掲載料」を求められることがありますが、これは著作権の使用料ではありません。所有者は有体物としての真筆を管理しており、写真撮影に真筆を提供するというところで、いったん所有者として直接的支配を解除し、撮影者へ作品をゆだねています。この所有者としての直接支配・管理を解除する対価として、支払っているということであり、これは所有権にもとづいて徴収されている料金です。

とある。あくまでも有体物のレンタル料(手数料)として料金を支払うことになっているということである。
ところが続けて次のような記述がある。

 ちなみに所蔵者の書道博物館に聞いてみましたところ、『告身帳』を写真に撮らせてもらうと五〇〇〇円かかるそうです。直接撮影せず、図録の写真をもとに掲載するときには、撮影料は必要なく、掲載料五〇〇〇円をお納めいただきたいとのことでした。

確かに、『告身帳』そのものを写真に撮らせてもらう場合、保管しているものを持ち出してきてということを考えると、
その有体物としての『告身帳』の管理手数料として、撮影料五〇〇〇円を支払うことは不当とはいえない。
しかし、「直接撮影せず、図録の写真をもとに掲載するときには、撮影料は必要なく、掲載料五〇〇〇円をお納めいただきたい」
という点については少し理解できない。
単に任意の寄附ということなのか、写真撮影用「図録」の管理手数料なのか。
著者の神谷氏は判決を紹介し、さいごの引用の点を紹介しているが、この点についてのコメントはなされていない。
最高裁判決、しかも「顔真卿自書建中告身帖」についてなされた判決があっても、実務とはそういうものなのか。
掲載料5000円の法的性質如何。かなり気になるところである。

参考記事
モナリザの利用・鳥獣戯画の利用〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(19)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050815/1124075685