三井環氏vs検察庁(その2)

まずは、asahi.comの記事から。

大阪高検公安部長に実刑判決 収賄罪で大阪地裁
 捜査情報を得ようとした元暴力団組員から飲食や女性の接待を受けたなどとして、収賄や公務員職権乱用などの罪に問われた元大阪高検公安部長の三井環(たまき)被告(60)に対する判決公判が1日午前、大阪地裁で開かれた。宮崎英一裁判長は「現職の検察幹部でありながら、検察に対する社会の信用を大きく損なった」として、懲役1年8カ月、追徴金約22万円(求刑懲役3年、追徴金約28万円)の実刑を言い渡した。被告が訴えた検察の調査活動費(調活費)の流用疑惑については「社会的に重大な問題で、究明が必要であることは明らか」と述べた。
 収賄の起訴事実のうち、元組員(42)=贈賄罪で懲役5カ月の実刑確定=に大阪市北区のホテルで勤務時間中に女性の接待を受けたとされる事件については「元組員の供述が変遷しており、信用性に疑問が残る」として無罪とした。被告側は控訴する方針。大阪地裁は同日、三井被告の保釈を決定した。
 三井被告は流用疑惑についてテレビ局の取材を受ける予定だった02年4月22日に大阪地検特捜部に逮捕された。判決は「経緯に照らすと被告らが『口封じ』と主張するのは無理からぬところ」とした。
 そのうえで、検察の捜査について検討。高度の廉潔さを求められる検察官が暴力団関係者との交遊を背景にした犯罪行為を犯した可能性があれば法務・検察当局が捜査するのは当然、と指摘。「捜査を控えなければならない理由はない」として捜査の正当性を認めた。
 判決は、有罪と認定した計5件の収賄事件について「贈賄側の元組員との間で互いに相手の立場を知りながら接待されており、被告に職務に関連している認識があったと強く推認される」と指摘。また公務員職権乱用罪などについても、入手した暴力団関係者らの資料が捜査に使われた形跡は認められない、などとして有罪とした。
 最後に判決は、被告側が公判で一貫して主張した調活費の不正流用問題について言及。「不正流用問題は社会的に重大な問題であり、検察幹部として自ら関与したという被告の供述は軽視できない」と述べた。さらに、「問題の究明が必要であることは明らかである」と指摘した。
 公判で被告側は、起訴事実を全面的に否認して無罪を主張。「捜査は口封じのための不当なものだ」として、公訴棄却も求めていた。 (02/01 13:26)
http://www.asahi.com/national/update/0201/010.html

まずは、本来の刑事裁判から。
三井氏有罪判決の主文は「懲役1年8カ月、追徴金約22万円」(求刑懲役3年、追徴金約28万円)の実刑」。
判決内容はわからないし、事実認定についてどうこういうことはできないが、
公訴事実のひとつにつき「元組員の供述が変遷しており、信用性に疑問が残る」として無罪とした点からも、
当たり前だが相当慎重に(検察と結びつくことなく)事実認定したことの証だろう。いや、当たり前だが…。
そして、事実があるというのであれば、
「現職の検察幹部でありながら、検察に対する社会の信用を大きく損なった」として、実刑は当然である。
「経緯に照らすと被告らが『口封じ』と主張するのは無理からぬところ」と理解しながらも、
「捜査を控えなければならない理由はない」との判断も当然であろう。

 ◇法務省実刑は当然」
 判決を聞いた法務省幹部は「暴力団と付き合うなんて検事の常識では考えられない。検察からああいう人間が出たのは極めて遺憾。実刑は当然で、裁判所は事件の破廉恥さをきちんと認定してくれたと思う」と、三井被告を批判した。別の検察幹部も「前代未聞の事件で、厳しい判決は当然だ」と語った。
 ▼南野知恵子法相の話 判決自体への所感は差し控えるが、高検幹部であったものがかかる不祥事を起こしたことは誠に遺憾だ。
毎日新聞) - 2月1日12時58分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050201-00000056-mai-soci

あえてコメントするまでもないが、検事が収賄とはあってはならないのである。
法務大臣の「判決自体への所感は差し控えるが」三権分立を意識しての発言だろうか?
だとすれば、いいのだが…。


さて、これだけで終わるのであれば、問題は簡単なのであるが、それだけで終わらないのがこの事件である。
「調活費疑惑」というのがある。
刑事裁判という意味では、とりあえずこれとは切り離して判決したというのはもっともな判決ではあるが、
直接的な争点ではないものの(公訴棄却の主張との関係では直接か?)
「口封じと主張するのは無理からぬところだ」というにとどまらず、
「不正流用問題は社会的に重大な問題であり、検察幹部として自ら関与したという被告の供述は軽視できない」
「問題の究明が必要であることは明らかである」と指摘しているのである。
このことは、被告人自身に刑事裁判とは別途問題にされるべき問題である。
先の南野大臣の(少なくとも紹介された)ことばではこの点についても触れられていない。

 調査活動費(調活費)について、検察幹部は「もともと本件とは無関係な話。被告が『逮捕は調活費問題を明るみにさせないための口封じ』と主張しているのは根拠がなく詭弁(きべん)」だ」と指摘。法務省幹部は「被告は具体的な事実を挙げて追及したわけではなく、彼が言っていることのほとんどはでたらめ。ただ、調活費について指摘があったことは真剣に受け止め、現在はきちんと監督しながら執行している」と話した。
同上。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050201-00000056-mai-soci

本当に詭弁だろうか?詭弁だとしても、この検察幹部自身「彼が言っていることの“ほとんどは”でたらめ」という。
事実はあるのはではないかという疑念は払拭できない。
また、法務省幹部も「“現在は”きちんと監督しながら執行している」という。
かつてはきちんと監督しながら執行していなかったことのあらわれであろう。
監督していないにもかかわらず、でたらめだとどうしていいきれるのか?
2人とも疑惑事実の存在を立証を三井氏に求めているようであるが、
疑惑が浮上した以上、存在しないことを国の側で証明しなければならない。

 ◇「検察の歴史に泥」土本・帝京大教授
 元最高検検事の土本武司帝京大教授(刑事法)の話 収賄の一部が無罪になったのは捜査不十分と言うほかないが、実刑判決は検察がほぼ完勝したといえる。現職検事と暴力団の癒着ともいえる事件で、検察の公正さと信頼を著しく傷つけた。これまで検事の不祥事がなかったわけではないが、その多くは職務熱心のあまりであり、三井被告は日本検察の歴史に泥を塗った。本件と調査活動費とは全く別問題。調活費の件があってもなくても厳しくただされるべきものであり、もし調活費流用疑惑があるなら、検察は本件とは別に自ら国民に説明すべきだ。
同上。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050201-00000056-mai-soci

という。
土本教授の指摘するように、検察は、有罪判決とは別途きちんとするべきであろう。
「本件と調査活動費とは全く別問題」なのである。
むしろ、今まで放置してきたことは怠慢といわざるを得ない。
そのことも土本元検事のいう「検察の公正さと信頼を著しく傷つけ」る行為であるというべきではないか?
さらにいえば、元検事である土本教授もこの件にコメントするのであれば、
自身としてどうだったのか?ご自身の経験でそういうことがあったのか、なかったのかを説明するべきであろう。
今現在も大学教授として刑事訴訟法の研究・講義をしているのであるし、大いに重要な関心事である。


三井氏の刑事裁判については、放っておいても手続きはすすんでいく。
しかし、検察庁の裏金疑惑はそうはいかない。
あるにせよ、ないにせよ、国民にわかるように検察はきっちりと調査して、説明すべきであろう。