三井環氏vs検察庁(その3)

まずは、この記事を読んでいただこう。

大阪高検公安部長に実刑判決 収賄などで大阪地裁

 捜査情報を漏らす見返りに元暴力団組員から接待を受けたとして、収賄や公務員職権乱用、詐欺などの罪に問われた元大阪高検公安部長、三井環被告(60)に対し、大阪地裁は1日、収賄の一部を無罪とした上で懲役1年8月、追徴金約22万円(求刑懲役3年、追徴金約28万円)の判決を言い渡した。

 元検事が現職時の収賄で有罪判決を受けたのは初めてで、宮崎英一裁判長は「被告は現職検察幹部という高度の廉潔性が求められる立場にありながら、暴力団関係者と交流するなど検察官や刑事司法に対する社会の信頼を大きく損ねた。職責の重さを自覚せず反省もない」と厳しく批判した。

 被告側は「逮捕・起訴は検察の調査活動費(調活費)流用問題の告発を防ぐための口封じで事件はでっち上げ」と主張したが、宮崎裁判長は「調活費問題は社会的に重大な問題で糾明が必要だが、処罰とは別の問題で被告の刑罰が減免されるものではない」と指摘。

 さらに「告発の口封じ逮捕と被告が主張するのも無理はないが、一部を除き犯罪は成立しており起訴は裁量権を逸脱していない」と公訴権乱用との被告側主張を退けた。

 収賄事件の接待に関しては「相手の立場を知りながら接待を受けたこと自体、被告は接待が検事としての職務に関連すると認識していた」と認定。一部を無罪とした理由について「贈賄側の元組員の証言は、接待場所など重要な事実について変遷しており信用性に疑問が残る」と述べた。

 三井被告側は判決を不服として控訴した。検察側は閉廷後、収監手続きに入ったが、弁護団が保釈を請求し大阪地裁が認めた。

 判決によると、三井被告は2001年6−7月、捜査情報を漏らす見返りに元組員(42)から飲食など計約22万円相当の接待を受けたほか、競売で落札した神戸市中央区のマンションに住んでいるかのように装い、同年8月に区役所から税軽減のための証明書を詐取するなどした。

 収賄罪に問われた6回の接待のうち、01年7月にデートクラブの女性による接待を受けたとされる1件を無罪とした。

 三井被告は1972年に検事に任官。高知、高松両地検の次席検事などを経て99年、大阪高検公安部長に就任し02年5月に懲戒免職された。(共同)

 ■調査活動(調活)費 検察庁法務省が情報収集活動をするための経費で、公安情報提供者への謝金などが中心とされる。しかし、調活費をめぐる文書開示訴訟で2004年9月の仙台高裁判決は、仙台高検・地検について不正流用の疑いを認定した。検察庁の調活費は1998年度に約5億5000万円あったが、99年度以降、急激に減少し03年度は約7800万円に。最高検は02年、調活費執行状況を調べる監察担当検事を置き「監察結果に問題はない」とした。(共同)

 ≪静かにうなずく三井被告≫

 「主文、被告人を懲役1年8月に処する」。静まり返る1日の大阪地裁201号法廷。宮崎英一裁判長が判決を言い渡すと、大阪地裁で最も広い法廷にただ1人立つ三井環被告(60)は何度もうなずいた。

 午前9時45分。三井被告はグレーのスーツ姿でノーネクタイ、黒のコートを羽織り、やや硬い表情で裁判所に入った。しかし、所内で知人らを見かけると、握手したり、談笑したりするなどリラックスムード。

 傍聴席を通って入廷した三井被告に、「前に立ってください」と告げる裁判長。「電磁的公正証書原本不実記録、同供用罪…」。罪名が読み上げられると、三井被告は証言台の前で手を組んだ。

 主文を言い渡されてもゆっくりうなずくだけで、表情は変わらない。被告人席に戻る際、弁護団の方を振り向いたが、こわばった表情の弁護団は視線を合わせなかった。(共同)

 ≪三井被告をめぐる経過≫

 1996年7月 高松地検次席検事時代に弁護士の接見交通権を不当に制限したとして、減給の懲戒処分を受ける

 99年7月 大阪高検公安部長に就任

 2001年2月 暴力団組長の親族名義の競売マンションを1651万円で落札

 6−7月 マンションの売買交渉をめぐり知り合った元組員から飲食や女性の接待を受ける

 02年4月22日 検察の調査活動費を告発する民放の録画収録予定日に大阪地検特捜部が、競落したマンションをめぐる詐欺や公務員職権乱用容疑などで逮捕

 5月10日 特捜部が収賄容疑などで再逮捕。懲戒免職の通知

 7月30日 大阪地裁の初公判で無罪主張

 9月24日 贈賄側の元組員に実刑判決(確定)

 03年3月12日 三井被告を保釈

 04年9月28日 検察側が懲役3年、追徴金約28万円を求刑

 05年2付き1日 懲役1年8月、追徴金約22万円の実刑判決

(共同)

 ≪判決要旨≫

 1日、大阪地裁が元大阪高検公安部長の三井環被告(60)に言い渡した判決の要旨は次の通り。

 【争点に対する判断】

 ▽公訴権乱用

 被告が逮捕された経緯に照らすと、捜査、起訴について(調査活動費の)「口封じ」の意図に基づく、と主張するのは無理からぬところである。

 しかし、現職の検察官である被告には高度の廉潔性が求められるのに、かりそめにも被告が罪を犯し、その犯罪が暴力団関係者との交遊関係を背景とするなら、法務・検察当局が放置できる事態ではなく、嫌疑があれば捜査し、訴追すべきなのは当然である。

 被告が調査活動費の不正流用問題を公表しようとしていたからといって、捜査や訴追を控えなければならないということにはならない。

 起訴事実の一部について、裁判所は認定できないと判断したが、逮捕、拘置、起訴の段階で嫌疑があったことは否定できず、その他の起訴事実はいずれも犯罪が成立することからすると、訴追裁量を著しく逸脱したものといえず、起訴自体が無効にはならない。

 ▽公務員職権乱用

 暴力団の捜査資料や関係者の前科調書などを検察庁職員らに入手させたことについて、被告は犯罪の嫌疑を抱いたなどというが、資料を入手する以上の行為をしていないことや私的な資料と一緒に保管されていたことなどから、いずれも職権の適正な行使として入手したものではないと認められる。

 ▽収賄

 収賄の立証は主に(贈賄側の)元組員の公判供述に依拠するが、ホテルグランドカームでの収賄については、元組員が供述を変遷させているので信用性に疑問が残る。当時の元組員の運転手が記載した運転日報などによれば、元組員はこの日(ホテルのある大阪市内でなく)兵庫県内にいた可能性がある。

 また元組員が被告から聞いたとする特徴が合致したデート嬢は当時デートクラブにいたが、元組員自身がこのクラブを利用しており、デート嬢を知っていた疑いがある。

 以上から、ホテルグランドカームでの収賄の事実を認定することはできない。

 【量刑の理由】

 被告は当時、大阪高検公安部長という幹部の地位にあったが、本件犯行で検察官、ひいては刑事司法への社会の信頼を大きく損なった。

 公務員職権乱用と収賄については職務と関連し、元組員の前科調書などを入手したことは暴力団関係者との交遊の中で行われたものであり、悪質な犯行だ。

 自己の責任の重さを自覚することなく犯行に及び、発覚後も十分な反省は見受けられず、厳しい非難を免れない。

 それぞれの罪について個別にみると、次の通りである。

 ▽公務員職権乱用

 個人のプライバシーに関する資料が安易に扱われたことや、このような行為を4回も繰り返したことなども考慮すると、公務執行の適正さとこれに対する国民の信頼は大きく害されたといえる。

 ▽収賄

 そもそも暴力団関係者との交遊は、検察官の職にある者として厳に慎むべきなのに、交遊しただけでなく、わいろを収受したことは、検察官の職務行為の公正に対する社会の信頼を著しく失墜させた。犯行は約半月という短期間に5回も繰り返され、規範意識が低下していたといえる。

 ▽電磁的公正証書原本不実記録、同供用、詐欺

 マンション購入の際、不動産登記に伴う登録免許税の軽減措置を受けるため、各犯行に及んだもので、その経緯に酌量の余地はない。

 他方、収賄事件については、利益収受額が多額とはいえないこと、被告は暴力団関係者と飲食を共にしたことについて検察官倫理上、問題があったことを自認していること、事件が大きく報道された上、懲戒免職処分となり、一定の社会的制裁を受けたこと、長年にわたって検察官としての職責を果たしてきたことなど、酌むべき事情が認められる。

 ところで、被告は公判を通じ、一貫して検察幹部による調査活動費の不正流用問題と、これに対する法務・検察当局の対応の問題を訴えている。

 調査活動費の不正流用問題は社会的に重大な問題であり、検察幹部として自ら関与したという被告の供述は軽視できないものであって、その問題の糾明が必要なことは明らかである。

 しかしながら、これは本件犯行についての被告への処罰とは別の問題であり、調査活動費の問題があるからといって、被告に対する刑罰が減免されるものではない。

(共同)

(02/01 13:30)
http://www.sankei.co.jp/news/050201/sha052.htm

非常によくまとまっている。産経Webからである。が、すべて共同の配信記事なのである。
大手新聞社ですら、これくらい配信記事に依存いているのであるから、
地方新聞になると、もっとすごいのであろう。
配信記事の抗弁を考える上で、非常に興味深い実態である。
(だからあえて全文引用した。)
次に気になったのだが、「らんよう」は「濫用」「乱用」どちらでもいいのだが、
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?p=%A4%E9%A4%F3%A4%E8%A4%A6&stype=0&dtype=0
「職権らんよう」というのときの「らんよう」は「濫用」である。法文上、職権“濫用”罪である(刑法193条)。
「公訴権らんよう」も「公訴権乱用」ではなく「公訴権濫用」が一般的だと思うが…。


さて、この記事ではさりにげ途中に登場する「調査活動(調活)費」が気になる。
「調活費をめぐる文書開示訴訟で2004年9月の仙台高裁判決は、仙台高検・地検について不正流用の疑いを認定した。」
検察庁の調活費は1998年度に約5億5000万円あったが、99年度以降、急激に減少し03年度は約7800万円に。」
最高検は02年、調活費執行状況を調べる監察担当検事を置き「監察結果に問題はない」とした。」
02年に一応調べはしたらしいが、 本当に「監察結果に問題はない」のか?。
03年には7800万円になったという事実、04年のという大いに疑問が残る。
この判決や、その後の調査結果を踏まえ再度調査すべきである。
場合によっては、前の調活費執行状況を調べる監察担当検事の職務執行の適正すら疑われよう。
再度調査を要することはもちろんのこと、検察不祥事を解明する制度も必要と思われる。