選撮見録その10〜選撮見録と公衆送信(雑)

目 次
○共用録画でも見れるのは自分の設定した分だけでしょ?
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050122#p1
○(株)クロムサイズ「選撮見録」事件
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050125#p1
○選撮見録その3-実際の説明
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050127#p5
○選撮見録その4〜重大な視点の見落とし
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130#p1
○選撮見録その5〜訴状の内容を推察してみる。
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130#p3
○選撮見録その6〜録画ネット決定(1)事案紹介と判旨
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050203#1107399229
○選撮見録その7〜録画ネット決定(2)評釈
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050209#1107879578
○選撮見録その8〜裁判どうなってる?/itmediaの記事について
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050301#1109611056
○選撮見録その9〜被告訴訟代理人弁護士小倉秀夫氏のblog(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050303#1109785908
○選撮見録番外編1〜アンケートに御協力ください〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050316#1110910154
 →http://page.freett.com/okeydokey/yoridorimidori.html


そろそろ次の公判期日だろうか?一回目の公判から1ヶ月が経ったし…
ということで地裁に問い合わせたところ、傍聴できる口頭弁論期日ははいっていないらしいです。
結審はしていないらしいので、非公開期日ってことなんでしょうか…。それとも和解中?


さて、久しぶりに、本訴訟の争点になりうるものを改めて考えてみた。
原告の求めるものは販売差止めである。
ということで端的には、このシステムでの録画行為が著作権著作隣接権侵害であり、
そのような物の販売も寄与侵害になるということだろうか。
そこで、そもそも本システムでの録画行為が複製権を侵害するかを検討するに、
一般に利用者の複製行為は、私的使用目的の複製にあたるものであるが、本件の特殊性としては、
1.「“公衆”の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」にあたるのではないか?
2.「一括録画」が「使用目的」を欠くのではないか?
3.複製主体が管理組合やクロムサイズとされ、私的使用目的の複製にあたらないのではないか?
となるように思われる。
「一括録画」については、仮に利用者に主体性を認めたとしても「視聴」という使用目的を欠くのではないか、
という点だけでなく、複製物選択が機器に委ねられていることから侵害主体性を転換要素になるのではないか、
いう疑問も生じる。これらの点についてはすでに述べた通りである。


次に、公衆送信権(23条)侵害に考えると、まず2項にあたらないことは問題ないであろう。
同項はそのまま伝達することを禁じるもので、一旦複製されている以上複製権の問題と解すれば足りるからである。
そこで1項の公衆送信にあたるかどうかである。
まず、録画再生に際して必然に行われる送信行為についても、この点つき検討を要するか、
そうだとして、録画後の再生時に送信が、2条1項7号2の「公衆送信」にあたるか。
「公衆」性はあるか、共用部分のシステムと各個別の占有領域における再生とで「同一の者の占有」とはいえないか、
また、「一括録画」による再生は(個別の指示にせよ、)“実質的に”「自動公衆送信」ではないかが問題となろう。


さらに、送信のための録画が「送信可能化」権侵害ではないか、ということも一応問題になろう。


定義規定の関係上、考察順が少し変になったが、このシステムのどの点をどう捉えて、そう主張するかで、検討も大きく異なる。
このシステムで再生行為時になされる送信を、公衆送信だと捉えらてその侵害を主張するにしても、
そもそも「公衆」送信なのか、送信行為がすべて「公衆」の所有にかかる場合でも「公衆送信」にあたるのか、
さらに一括録画は実質的にクロムサイズの送信可能化なのか、考え出したら違法主張の構成なんて
何十通りもあるようにさえ思えてきた。
これだけあったら一個くらい裁判所が認めてくれるのでは?とさえ思えてくる。
ほんと裁判での主張がどういうものか非常に気になるところ。


大雑把な私見としては、一番あやしいと思うのはやはり「一括録画」機能。
これさえなければ、共有ゆえに「公衆」性を緩やかに解して適法ではないか、というのが今の所の考え。
つまり、「一括録画」が「使用」目的を逸脱するという認定以上に、
利用主体性判断にも影響し、かかる機能は実質的に販売元であるクロムサイズが
複製、公衆送信(送信可能化)していると判断される可能性もあるのではないか?という懸念がある。
確かにスイッチを推すのは利用者だが、ほぼ確実に利用者の誰かにスイッチをおさせることにより、
居住者に送信するという構成である。(この意味では主体性転換により、実質的に配信サービスということもできる。)
この場合、居住者間では「公衆」でないにしろ、クロムサイズからすれば居住者は「公衆」に認定されることになろう。
なお、本機器は、一般的なDVD/HD/VHSレコーダーと異なり、放送の著作物だけをターゲットにしており、
P2Pとかと異なり、許諾のない著作物の(私的使用目的としての)複製しか予定していないが、
私的使用目的の複製が許される以上、この点はあまり結論に影響しないであろう。、
以上から、クロムサイズの配信サービスという構成自体は考えられるところではあり、その手段として
販売差止請求ということが考えられなくはない。
この点については、販売利益があくまで機器の価格であるとするならば、支配性が間接的で、
経済的利益を受けているとはいえず、販売者に利用主体性を認めるのは困難であるが、
メンテナンス契約などで、他者へのメンテナンスを拒否し、過大なメンテナンス料を得ているのであれば、
複製もしくは/および送信による経済的利益が強度であるといえ、販売者に利用主体性を認めうるかもしれない。
システム的なことよりも契約的なことの方が実は問題なのではと思っている次第である。


とりあえず、仮処分決定だけでもでてくれないかなぁ…。
もっとも、仮処分で権利侵害が認められなければ、ほぼ適法ってことなんだろうけど…。