試験問題と著作権

過去の参考記事
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050116#p1
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050206#1107709211

「Library & Copyright 図書館と著作権あれこれ」というblogに、「入試問題で著作権対策が広がっているようですが・・・」という記事をみつけた。
そこでは、

入試問題、広がる著作権対策 原則受験生のみに提供も
2005年04月11日10時56分
 著作権を尊重する立場から、大学入試の試験問題をより慎重に扱う動きが出ている。試験終了後、予備校など受験産業に大学側が渡してきた入試問題を受験生に限ったり、予備校でも慎重に扱ったりするようになった。作品を引用された著作権者との間で無用なトラブルが起きるのを防ぐためという。
 著作権法上、試験問題は、著作権者の許諾がなくても大学側などが出題できることになっている。ただ、営利目的に使う場合は通常と同じで、受験産業などは著作権者に対する責任を負う。
 今年の入試で、原則的に問題を受験生のみに配布することを決めたのは旭川医大。ただ、予備校や出版社が希望する場合には、使用目的のほか、著作権者との間に問題が起きた場合は業者側が責任を持つことなどを明記した誓約書の提出を求めている。担当者は「著作権について問題が起きたことはないが、今後も起きないよう対応を決めた」と説明する。
 ほかにも、大学側が試験問題を予備校や出版社に渡す場合は、口頭や文書で著作権者の許諾をとるよう求めることが少なくない。
 一方、駿台予備学校では、札幌校などで新たな著作権対策を始めた。昨年度までは入試後の当日中に翌年の受験予定者が実際の問題を使って腕試しする企画があった。しかし、今年度からは実際の試験問題を使うのをやめて独自に作成した問題を使うことにした。
 試験問題を参考書などに転載する場合は著作権者に確認しているが、入試当日だとそれに間に合わないのでやめることにしたという。
 国立大学協会によると、著作権がからむかどうかは試験問題の内容にもよるので、それぞれの大学の判断で対応しているという。
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200504110124.html

という記事が紹介され、

ここで一つ気になる記述が・・・。
「一方、駿台予備学校では、札幌校などで新たな著作権対策を始めた。昨年度までは入試後の当日中に翌年の受験予定者が実際の問題を使って腕試しする企画があった。しかし、今年度からは実際の試験問題を使うのをやめて独自に作成した問題を使うことにした。/試験問題を参考書などに転載する場合は著作権者に確認しているが、入試当日だとそれに間に合わないのでやめることにしたという」
あれ?これって事後に補償金を払えば大丈夫なんじゃなかったでしたっけ?
それか、「腕試し」だからダメとか??模試だったらいいんでしょうか。ううむ・・・。(著作権法36条2項に該当するような気が・・・)
[参考]著作権法36条
(試験問題としての複製等)
第三十六条  公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2  営利を目的として前項の複製又は公衆送信を行う者は、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

という指摘をしている。そこで、少し考えてみたい。
まず、そもそも普段の模試がここにいう「入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定」なのか、ということである。
この点に関して、加戸守行『著作権法逐条講義四訂新版』257頁(著作権情報センター,2003)は、

人の学識・技能に関する試験又は検定の場合の場合でありまして、入学試験・入社試験などの選抜選考試験、
模擬テストの学力評価試験、運転免許証などの技能検定など、いろいろな場合がございます。

としている。
たしかに、本条の趣旨のひとつに、「試験問題としての著作物の複製について
事前に著作権者の許諾を得るものとすることが実際上困難であり社会実情に適合しないこと」があるとされ、(前掲加戸・256頁)。
試験において「検定を適正に行い、その公正を保つためには、秘密漏洩を防ぐ必要がある」(田村善之『著作権法概説第2版』212頁参照(有斐閣,2001))という
点を強調すれば、模擬試験については秘密保持ゆえに許諾を得ることが「社会実情に適合しない」とはいえないだろう。
しかし、それだけでなく「試験問題としての利用が著作物の通常の衝突をしないこと」も理由に挙げられており、
また、被模擬試験が著作者の許諾なく利用できるのに、その模擬試験が不許諾により利用できないのであれば、
模試を実施して本試験に備える、という公益性を没することにもなりかねない。
試験における公益性という点を考えれば、模擬試験であっても(多少劣るにせよ)本条にあたるといってよいように思われる。
一般には結論として、本条における「試験」に「模擬テスト」を含むと解説されている。(前掲加戸・257頁桑野雄一郎担当部分・金井重彦・小倉秀夫編『著作権法コンメンタール<上巻>1-74条』435頁(東京布井出版,2000)


とするならば、この記事の「腕試しする企画」も同様ではないか?ということになる。
この点、あえてこの種の模擬試験(=「腕試しする企画」)の特殊性をあげるならば、
公表された著作物をそのまますべて複製していることである。
しかし、もとの著作物のこの試験の著作物も「公表された著作物」にはかわりなく、
36条によって複製されたものを含む著作物を複製してはいけないなどという限定はない。
その大学に入れるかどうか等という学識技能を判定する目的で、必要なだけ複製し、それを頒布することも、
36条1項による複製として認められ、ただ、予備校の場合営利目的があるので、
もとの著作物の著作権者及び試験問題の著作権者に補償金を払う必要がある、ということになろうか。
結論としては、やはり上記blog記事で問題ないと思うのだが…。
もちろん、模擬試験としての実質を備えなくてはならないし(時間をはかり、きちんと成績処理するなど)、
解説冊子の作成や解説講義の実施については、いろいろな問題が生じることになる。
しかし、模擬試験として運営する限りにおいては、補償金を支払えばよい。
そもそも模試運営実務においては36条扱いしていないということであれば、この措置も頷けるが、
そこまで著作物利用に萎縮する必要はないように思われる。


ところで、この記事の新聞前段について。

 著作権を尊重する立場から、大学入試の試験問題をより慎重に扱う動きが出ている。試験終了後、予備校など受験産業に大学側が渡してきた入試問題を受験生に限ったり、予備校でも慎重に扱ったりするようになった。作品を引用された著作権者との間で無用なトラブルが起きるのを防ぐためという。
 著作権法上、試験問題は、著作権者の許諾がなくても大学側などが出題できることになっている。ただ、営利目的に使う場合は通常と同じで、受験産業などは著作権者に対する責任を負う。

試験終了後に別にすでに、試験実施のために複製した問題(複製物)を誰に渡してもいいと思いますけどね。
47条の3は36条の複製物の目的外頒布を禁じていませんから。
ただし、36条の複製は「必要と認められる限度」でしか認められませんから、
必要程度の予備や未受験者分などから頒布できるにとどまり、試験目的外で複製することはそもそもできません。
まぁ、慎重になるのは勝手ですからいいんですけど。
ただ、この記事おかしいことだらけ。
「作品を引用された著作権者との間で無用なトラブルが起きるのを防ぐためという。」
う〜ん、「引用」だったらまったく問題になりません。36条は関係ありません。引用でないからトラブルになりうるんです。
(引用かどうかで問題になることは別論で、)この表現は誤りです。
(それとも試験での利用は「引用」といいたいのか?ただ、引用にあたることはあっても、すべてそうでないから36条がある)
著作権法上、試験問題は、著作権者の許諾がなくても大学側などが出題できることになっている。
 ただ、営利目的に使う場合は通常と同じで、受験産業などは著作権者に対する責任を負う。 」との説明も微妙である。
営利目的でない試験利用については、法律上、無許諾無償で利用できる。
これに対して営利目的の試験利用については、法律上無許諾+補償金で利用できる。
許諾はいらない点で「通常と同じ」とはいえないし、金銭の支払いといっても補償金支払いの責任を負うだけである。
この点でも「通常と同じ」とはいえない。誤りのように思われる。
こういう間違った著作権知識を著作物を扱う新聞社が堂々と掲げているからダメなんだよ。
見出しの著作物なんていう解釈上の見解の相違とは異なり、明らかな誤解だと思いますけど…。何か間違ってます?