棋泉vs米長邦雄訴訟(7)訴状要旨と答弁書公表

棋泉vs米長邦雄訴訟
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050520/1116520052
棋泉vs米長邦雄訴訟(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050521/1116607505
棋泉vs米長邦雄訴訟(3)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050523/1116786786
棋泉vs米長邦雄訴訟(4)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050525/1116955919
棋泉vs米長邦雄訴訟(5)/法律書の発行差し止め(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050526/1117047990
棋泉vs米長邦雄訴訟(6)第1回口頭弁論(2005.6.21)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050622/1119381587

武者野勝巳六段が裁判資料を一部公開 - 勝手に将棋トピックスで知ったのだが、
武者野勝巳氏がサイトで訴状の要旨と被告答弁書の一部をサイト上で公表したらしい。
http://www.koma.ne.jp/tousaku/touben/http://www.koma.ne.jp/mario/
基本的には著作権侵害というだけの類似性はないよね?というのが答弁書の言いたいことか。


まずは、(2)(株)棋泉提出の訴状要旨部分をみてみる。(適宜改行は変えています。)

4 将棋ソフト「みんなの将棋」の発売
(1) 平成14年3月7日,被告サクセスより,プレイステーション用将棋ソフト
「みんなの将棋」初級編,中級編及び上級編(以下,これらを一括して「みんなの将棋」という。)が発売された。

この部分はいいでしょう。
答弁書でも「4項(1)は認める」とあり、当事者間に争いのない事実ですし、争っても仕方のない部分です。

(2) 「みんなの将棋」は,被告米長がゲーム画面上に登場して将棋のルール等を解説する等,
初心者であっても将棋を楽しめるようになっており,その構成は,「セミナー21」とほぼ同様のものとなっている。
すなわち「セミナー21」と「みんなの将棋」は,大枠として,
 1. いずれも被告米長が全面的に係わった作品であること
 2. いずれも初級編,中級編,上級編の3部構成となっていること
 3. いずれも従来のコンピューターと対局するだけの対局ソフトとは一線を画して,
    講座,実践解説,問題等がソフトに組み込まれていること
 4. いずれも将棋入門者であっても将棋のルールから順序立てて学んでいくことで
    将棋が上達するシステムになっている他,講義や問題出題などの構成・順序が同じ内容となっていること
 5. いずれも最後には,プレイヤーが段位認定の対局を経て段位の認定を受けられるようになっていること
 6. 「セミナー21」中の「将棋講座」の「ドリル問題」と「みんなの将棋」の総合テスト・章末問題が
    ほぼ同内容であること
の6点において顕著な類似点があり,その内容は,同一であるか,又は極めて類似している。
※なお、○数字1〜6は機種依存文字につき、1.〜6.におきかえた。

以下、筆者の感想というか、勝手な補足。
1.他の記述がわかりませんが(前段階に著作者に関する主張があるはずなんですけど)、
  これだけみるとどっちも被告米長の著作物?と思えてしまいます。
  あえてこの項目にいれるべきことがどうかもよくわかりません。
  類似性というよりは偶然ではない依拠性の話であって、
  両作品(著作物)の類似性に関与したかはどうかは直接は関係ないように思うのですが…。
2.前から主張ですね。3部構成。
3.これはアイデアですね。
4.「将棋のルールから順序立てて学んでいくことで将棋が上達するシステム」もアイデアですね。
  「講義や問題出題などの構成・順序が同じ内容」この“システム”に著作物性があるのか?
5.「レイヤーが段位認定の対局を経て段位の認定を受けられるようになっている」もアイデアですね。
  2〜5の要素は最後の類似性を肯定する要素になっても、これだけではなり得るものではないように思います。
  そうでないとこれと同一構成であれば、著作権侵害になってしまいます。
  著作権法はそういうことを保護する法律ではないように思いますね。
6.「総合テスト・章末問題がほぼ同内容であること」。
  問題はここです。そして、この「ほぼ」がかなりキーのように思いますね。
  全く同一であれば、上記の要素とあわせて類似性ありといえそうですが…。

(3) また,上記両ソフトは,個別の画面においても別紙比較表のとおり共通性を有しており,
その内容は,同一であるか,又は極めて類似している。

これは以前に触れたのでパス。
裁判なのでサイト以上に詳細はとは思いますけど、あれだけだと侵害とは言いにくいです。

(4) したがって,「みんなの将棋」が,「セミナー21」に完全に依拠して制作されたことは明白である。
なお,「みんなの将棋」の発売に際し,被告ら他関係者から,原告に対し,何らの説明もなされていない。

すくなくとも、今までサイト上にあらわれたことをもって、
「完全に依拠して制作されたことは明白」とは、とうてい私には思えません。
(もしかしたら弁護士さんの書いた全部分を見れば明白なのかもしれませんが、
 この中途半端な要約ではまったく必要事項を主張できていません。)
ここが似ていたら全体として著作権侵害の類似性を認めて良いかな?と思う要素はあれど、
その部分については、少なくとも説明(証明)されていないように思います。
まぁ、裁判では明らかになるとは思いますが…。「なお、」以下はどうでもいいです。

5 著作権著作者人格権の侵害
(1) 上記のとおり,被告らが制作・販売するゲームソフト「みんなの将棋」は,その構成及び内容が,
原告が著作権を有する「セミナー21」の構成及び内容と同一であるか又は極めて類似しており,
原告の著作権を侵害するものである。

ここは前述のとおり。複製権なり翻訳権なり主張して欲しいところです。著作権では…。

(2) 被告らは,「みんなの将棋」販売に際し,著作権者である原告の同意を得ることなく
プレイステーション用のゲームソフトとして公表・販売したものであり,
原告が「セミナー21」に対して有する公表権を侵害している。
また,被告らは,「みんなの将棋」販売に際し,その構成及び内容が「セミナー21」と同内容であるにもかかわらず,
原告の著作権表示をしておらず,原告が「セミナー21」に対して有する氏名表示権を侵害している。
さらには,被告らは,「みんなの将棋」販売に際し,将棋ソフトのタイトルを変更している他,
体裁などについても原告に無断で一部変更するなど,原告が「セミナー21」に対して有する同一性保持権を侵害している。
以上より,被告らは,「みんなの将棋」の制作・販売によって原告が「セミナー21」に対して有する
著作者人格権を侵害している。

まず、人格権は著作者の権利です。原告が著作者である必要があります。
著作権者であること=著作者は、論理必然でありません。)
そういえば、そもそも原告の著作者性は争いにはなっていないということでいいのかな?
その上で公表権は、公表された著作物では通常問題にならないので、
被告が原告が著作者たる非公開著作物について公表したという事情が必要です。
まさか二次的著作物としての公表と理解して、原著作物の公表権侵害と構成?
でも、この場合でも原著作物が非公開の場合をいうと思うのですが…。
氏名表示権も、著作権者を表示するのではなく著作者ですね。
著作者=著作権者であれば、現実的な差異はないですのですが、
その部分の主張がネット上ではわからないのは、前述のとおり。

(3) 被告米長,被告米長企画及び被告サクセスは,原告が「セミナー21」に対して有する
著作権著作者人格権を侵害するものであることを知って「みんなの将棋」の販売を行ったものである。

この記述からすると、原告が著作権者であり、著作者であるのかな?

6 損害
(*論点整理のため以下割愛)

割愛でいいですね。ここは。
「著作者」「著作権者」についての主張と認否は知りたかったですね。


さて、これに対する、(3)上記訴状要旨部分に対する答弁スキャン画面。

4(1) 4項(1)は認める。
 (2) 「みんなの将棋」の構成が概ね原告主張どおりのものとなっていることは認める。
 (3) 原告が「セミナー21」の各画面のどの部分が創作的特徴であると主張するのか明確でないが、
   これらの画面がいずれも創作性がないか、仮に創作的特徴があったとしてもその特徴は「みんなの将棋」にはない。
5 5項及び6項は争う。

1〜3については争いがないから、省略されているのかなぁ?
4(2) は見ればだいたいわかるから争っても仕方ない。
4(3) 要は争うってことで。
5はどう読めばいんだろう。侵害を争う?著作者性を争う?ちょっとわかりません。
6は侵害の事実を争う以上当然か。
ここだけをクローズアップしたということは、争点はあくまで、類似性ってことでいいのかな?

(4)答弁書に関するマリオの感想
原告側弁護人からの解説によると、
セミナー21』と『みんなの将棋』の構成が概ね同じになっていることは認めながらも、
「(内容は誰が書いてもこうなるものであるから)独創性はなく、ゆえに原告の著作権は存在しない。
だから同じ内容の講座や問題を用いるソフトを作っても原告の権利を侵害していない」という趣旨です…
とのこと。

この弁護士の説明から考えると、争点は両著作物の類似性ってことでいいのかな?
原告が著作者であり、かつ、著作権者であるということに争いはないのかな?

マリオは裁判の争い方や手法については全く解りませんが、
大きな疑問は初級・中級・上級程度の講座や問題であったなら
「誰が書いても著作権は発生しないのだろうか」ということです。

著作権の保護対象は難しい問題ではなくて、表現の創作性ですからね。
簡単な問題でも独創的な表現であれば保護されうるし、難しい問題でも独創的な表現でなければ保護されない。
ただ、個々の問題文の著作物性はなくても、その編集に独創性があれば編集著作物として保護されうる。
ということをご理解していただかなくてはいけません。
問題のアイデア自体には著作権は及ばない、というのが私見であり、多くの考えだと理解してます。
問題文に著作権はあっても、問題には著作権がない。
問題には「誰が書いても著作権は発生しないのだろうか」というと、発生しないということだと思います。
弁護士もついているので、問題の易難に保護が及ぶという勘違いはまさかないとは思いますが…。
もし、判決がそこを認めると著作権の根本理解が覆されることになると思いますが、
高部さんに限ってそんなことはたぶん……ないですよね???

もしそんな理屈が成り立つのなら、ソフトではなく出版に置きかえて
仮に『羽生善治みんなの将棋入門』という本の講座内容や問題を
何らの了解なく、そのまま転用して『米長邦雄みんなの将棋入門』
という本を出版しても法的には全く問題がないことになってしまう。
(そんなことはあり得ないだろう)というのがマリオの感想です。

ソフトではなく(書籍の)出版におきかえるという発想は間違ってないと思います。
それで、「そのまま転用」の意味にもよりますが、まるまる写して、タイトルだけかえたら、
それこそ氏名表示権侵害で、編集著作物の複製権侵害。これが法的に問題ないというのは、ありえません。
しかし、問題の一部が類似しているけど表現が違うとか、順番が違うとか、構成が違うとかなっていくと、
依拠性が減退していくので、侵害とはいえなくなっていきます。
要するにどの程度ならダメでどの程度ならいいの?ってことが、おそらく今回の争点のように思います。
実際に、挿し絵?にも相当する画面背景が全く同一ではないわけですし、文章も全く同一ではないようです。
武者野氏に説明するなら、本当に「そのまま転用」といえますか?というのが、争点ということでしょうか。
推測の域をでませんが、争点はあくまで、両著作物が権利侵害を認めるだけ類似しているかということか?
なんとなく武者野氏の頭の中は見えた気がしますが、弁護士の主張については相変わらず不明。
なんか中途半端という感じで、弁護士さん、やめさせたら?と全文公開してほしい筆者が思ってしまいます。
原告の主張は「要旨」で武者野氏が書き換えたものの可能性が高いので、
どこまで代理人の主張をきちんと要約できているのかもわかりません。


う〜ん、まとまらず。


最後に、事件番号がわかったのでメモ。
東京地裁「平成17年(ワ)第9771号」著作権損害賠償請求事件と。