JASRAC vs. ダイヤモンド(3)

JASRAC vs. ダイヤモンド(2) - 言いたい放題で紹介したが、
週刊ダイヤモンド2005年9月17日特大号に掲載された記事に関して、JASRACダイヤモンド社名誉毀損で訴えた。
このことに関して、JASRACは2005.11.11付でホームページに

 JASRACは、「週刊ダイヤモンド」2005年9月17日特大号に掲載された「企業レポート 日本音楽著作権協会ジャスラック)」という記事について、発行元である株式会社ダイヤモンド社及び記事の執筆者である記者1名を被告として、平成17年11月11日、不法行為名誉毀損)に基づく損害賠償の支払と名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求めて、東京地方裁判所に訴訟を提起しました。
 この記事は、虚偽の事実または歪曲された事実を記載したり、客観的根拠もなくJASRACの業務遂行の方法を一方的に中傷する表現を用いるなどして、JASRAC著作権管理業務が極めて不適正、不公正に行われているとの印象を読者に与えるものであり、JASRACの社会的名誉と信用とを失墜させ、その業務を妨害しようという意図の下に掲載されたものと考えざるを得ません。
 JASRACは、同社に対し、厳重に抗議するとともに、記事の訂正と謝罪広告の掲載を求めていましたが、同社からこれに一切応じる意思がないとの通告があったため、司法上の救済を求めることにしたものです。
以上
http://www.jasrac.or.jp/release/05/11_1.html

と掲載している。
JASRACに言わせると、「虚偽の事実または歪曲された事実を記載したり、
客観的根拠もなくJASRACの業務遂行の方法を一方的に中傷する表現を用いる」そうである。
また、これより少し前には、

週刊ダイヤモンド2005年9月17日特大号の記事への対応について
2005.10.14
社団法人日本音楽著作権協会
(JASRAC)
 ダイヤモンド社発行の「週刊ダイヤモンド」2005年9月17日特大号に、JASRACの組織運営や業務の遂行方法を一方的に中傷する記事が掲載されました。
 この記事は、事実関係について客観的裏付けのない誤った記述を数多く含んでいる上、JASRACから最新の情報を提供したにもかかわらず、それを用いずに、現在の事業運営と関連性のない過去の情報を引用するなどして、読者がJASRACに対して悪いイメージを持つよう誘導しています。
 JASRACとしては、この記事がJASRACの社会的名誉と信用とを失墜させ、その業務を妨害しようという意図の下に掲載されたものと考えざるを得ず、看過できないことから、ダイヤモンド社に対し、厳重に抗議するとともに、記事の誤りの訂正と謝罪広告の掲載を求める通知書を9月29日付けで送付しました。これに対し、同社は、10月7日付けの回答書をもって、上記のJASRACの請求に一切応じる意思がないことを通告してきました。
 これを受けて、JASRACでは、社会的名誉と信用の回復のための措置について、司法上の救済を求めることも含め対応を検討しています。
以上
http://www.jasrac.or.jp/release/05/09_3.html

ということをコメントしている。
そこですでに多くのブログ等で取り上げられたところではあると思うが、
本件名誉毀損での訴え提起もふまえながら、記事について概観し、思うところを述べてみたいと思う。


問題となった記事は、ダイヤモンド社発行の雑誌「週刊ダイヤモンド9月17日特大号」56-69頁に掲載された
「企業レポート 日本音楽著作権協会ジャスラック
 使用料一〇〇〇億円の巨大利権 音楽を食い物にする呆れた実態」(ダイヤモンド誌・松本裕樹)である。
この記事は次のような書き出しではじまっている。

音楽著作権の管理業務を事実上独占している日本音楽著作権協会ジャスラック)。
年間一〇〇〇億円に達する著作権使用料の徴収・配分について、疑惑が噴出している。
監督官庁である文部官僚たちは、その組織運営の不透明さを黙認し、天下り人事を通じて
大利権の甘い汁を長年にわたって吸い続けてきた。
音楽を食い物にするジャスラックの実態に迫る。

まず年間資料1000億円に達する著作権使用料という。
平成16年度の信託会計の使用料収入の合計が110,007,342,600円=1100億円なので、
http://www.jasrac.or.jp/profile/disclose/pdf/h16/pl_01.pdf)問題ないだろう。


さて、記事ではまず、厳しい取り立ての様子を紹介している。
もちろんそこに権利がある以上それを回収することは当然のことである。
しかし、だからといって何をしてもいいわけではない。
借金の取り立てで何をやってもいいわけではないとされていることと同様である。
また、ここで問題とされているのは、そこまでして取り立てたお金がきちんと権利者に還元されているかということである。
もっとも取り立ての実態とされているものが事実かどうかはわからない。


つづけて、

音楽著作権管理を事実上独占「徴収・配分」の不透明な実態

として、徴収配分のの不透明さを述べている。説明すらなされているないというのである。
確かに包括契約になるとわからない。権利者側にきちんと分配されているかも利用者にはわからない。
この点JASRACはどう答えるだろうか?わからないという事実は間違いないように思うのである。
また「事実上・独占」ということも間違っていないだろう。


「徴収・配分」が不透明な一方で、

トップは驚きの高額報酬 非民主的な理事選出方法

五十年にわたる天下りの歴史 巨大利権の闇はなくならない

ということを指摘している。
まず、高額報酬については1999年定款における記事で現在のものではない。
しかし、わずか6年前のもので決して過去のことといって切り捨てる程昔のものではない。
また、現在の理事長の年収が3565万円と著しく異なるのであれば、サイトで明示すればいいだけである。
JASRACほどの巨大公益法人の理事長なのであるから、公表すべき必要性の方が大きいように思う。
次に、非民主的であるの批判であるが、ここは難しい。
確かに記事のような見方もできるが、衆議院小選挙区制が死票が多く獲得票数に比例しないとか、
アメリカの間接民主制で州の票の総どりが民主的でないとかいうようなもので、
制度自体の問題点について検討すべきということはそうだとしても、必ずしも非民主的とはいえないように思う。
改革派でないと自浄作用を望めないということも必ずしも正しくないだろう。
もっとも、その指摘は、今のJASRACの態度からすれば間違っていないだろうが。
また「天下りの“歴史”」ということも間違いないように思うのである。
現在の吉田茂理事長が元文化庁長官であることからも、現在もこのことにかわりはないのである。


JASRAC vs. ダイヤモンド - 言いたい放題の繰りかえしになるが、
「事実関係について客観的裏付けのない誤った記述」とはどこを指すのか?
「組織運営や業務の遂行方法を一方的に中傷する記事が掲載されました」というが、「中傷」という根拠は何か?
根拠なき批判が「中傷」であって、それを具体的に示さずに「中傷」ということが、むしろダイヤモンド社への「中傷」ではないか?
また、「現在の事業運営と関連性のない過去の情報を引用するなどして」という。
確かに紹介された情報は最新のものではない。しかし、比較的最近のものであることにはかわりないし、
最近の情報を示せば論調がまったくかわってしまうのだろうか?それならそれを示すべきである。
さらに記事によれば、

天下り人事の問題、使用料徴収・配分の不透明な実態についてジャスラックには何度も取材を申し込んだが、
「忙しくて時間がない」(広報部)との理由で、いっさいの取材に応じてはもらえなかった。

とある。
このことに対してはどう反論するのか(記事が嘘なのか)?


記事の最後に次のように締めくくっている。

組織運営のあり方、使用料徴収・配分の実態について、ジャスラックには説明責任がある。
独占の上にあぐらをかくことは絶対に許されない。

もちろん記事がすべて妥当かというとそうではない点もあるとは思う。
公益法人であってもJASRACが司法上の救済を受けるのは権利である。
しかし、公益法人公益法人であるゆえを考えるとまずするべきは、記事が指摘する説明責任を果たすことではないだろうか?
疑問は疑問として正しい指摘ではないだろうか。
JASRACが今まずすべきことは、訴訟をすることではなく、不信をもつ権利者・利用者に説明責任を果たすことである。
疑問に答えずに訴訟にでるその態度こぞが記事で批判されているところだと思うのである。
当ブログではいつでもJASRACの反論を掲載する準備をしてお待ちしております。

JASRAC vs. ダイヤモンド
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051017/1129475686
JASRAC vs. ダイヤモンド(2)
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051111/1131700799