日本国憲法と著作権(1)〜はじめに〜

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はじめに


 ここ数年、著作権法は毎年のように改正されている。そして、著作権法の改正に際しては、権利者側と利用者側それぞれの利益が交錯する。著作権法をどのように規定するか、それは、一次的には民主主義の観点から、国民議論の上で改正されるべきであることは当然である。しかしながら、国民議論を前提にすればいかなる改正をもなしうるというものではなく、憲法に反することは許されない。また、近年の著作物の利用形態の多様化により、解釈上処理すべき事項も多くなってきているが、その解釈も憲法適合的になされるべきである。著作権法改正や現行著作権法の解釈にあたって憲法上どのような注意を払うべきであるのだろうか。
 本稿では、著作者の権利についての憲法上の根拠を確認し、その制約についての限界、及び著作者の権利に対抗する利用者の憲法上の権利など、著作権法日本国憲法との間で生じうる問題点について考察したい。なお、著作権法制は条約によっても規律され、条約の憲法適合性についても問題となるが、本稿では割愛する。

日本国憲法と著作権(2)〜第1章 憲法と著作権法制〜

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第1章 憲法著作権法


 日本国憲法著作権についてどのように規定しているのであろうか。この点、アメリカ合衆国憲法著作権について規定しているのと異なり、日本国憲法には著作権に関する明文規定がない。
 そこでまずアメリカ合衆国憲法上の著作権条項をみると、その第1条第8節第1項が、「連邦議会は、次の権限を有する」*1 とし、その第8項が「著作者およびその発明者に対し、それぞれの著作及び発見に対する排他的な権利を一定期間保障することにより、科学および有用な芸術の進歩を促進すること。」*2と規定されている*3。本条項は、直接的には連邦政府への権限付与条項であるが、かかる権限を付与された以上、連邦政府著作権制度を定める義務を負っているということができよう*4。そして、単に権利をかかる制度を制定するだけでは足りず、排他的権利を一定期間保障することにより、有用な芸術の進歩を促進することが必要とされる。著作物の創作者に著作権という独占権を与える根拠としては、これを自然権とする考え方(自然権論)と産業・文化振興政策として付与されるものとする考え方(インセンティブ論)があるが*5、このような規定から、アメリカ合衆国憲法は後者を採用したものと解されている*6
 このように、合衆国憲法上、著作者の権利はこれを「一定期間」保障することにより、「科学および有用な芸術の進歩を促進するために」認められるものと明記されている。そのために「一定期間」に反することは許されず、永久に著作者の権利を保障することは許されないというべきであろう。この点が争いになった事件として、いわゆるミッキーマウス訴訟がある*7 。ここでは、著作権保護期間延長法(CTEA)が既存著作物の保護期間を事後立法によって遡及的に延長することを認めることは、従前の立法によって著作物の保護期間を限定した趣旨を損ない、また遡及効により議会が延長立法を繰り返すことで、実質的に永続的な著作権をつくり出すことになり、その期間が経過すれば、著作物を自由に利用できることを保障するために憲法著作権の保護を「一定期間」に限っているという著作権条項に反しないかが争われたのである*8
 一方で、日本国憲法には、「著作権」についての明文規定は存在しない。したがって、仮に日本国政府著作権に関する法を制定しなくても、その不作為が直ちに違憲状態とは評価できないことになる。しかしだからといって、憲法上問題が生じないとはいえない。また、著作権が保障されるとしても、ミッキーマウス訴訟において、著作権条項違反とは別に、第一修正(表現の自由)との抵触が問題になったように*9 、その内容と憲法の他の条項と抵触の問題も否定できないであろう。以下、著作者の権利の憲法上の位置付けについて確認するとともに、著作者の権利保護と他の憲法規定との抵触について検討していく。

*1:The Congress shall have power

*2:To promote the Process of Science and useful Arts, by securing for limited Times to Authors and Inventors the exclusive Right to their respective Writings and Discoveries;

*3:翻訳は松井『アメリ憲法入門』330-331頁による。なお、著作権及び特許権に関する条項であるが、本稿では著作権についてのみ検討するものである。

*4:かかる規定により、著作権憲法上の「人権」として保障されているといえるかは疑問であるが、立法不作為については違憲と考えられよう。

*5:田村『著作権法概説』6-9頁参照。

*6:山本『アメリ著作権法の基礎知識』2-5頁参照。

*7:Eldred v. Ashcroft, 537 U.S. 186 (2003).

*8:横山「ミッキーマウス訴訟がもたらしたもの」268頁など参照。

*9:紙谷雅子「コピーライト法は第一修正に「カテゴリィとして」抵触しないのか」108-109頁など参照。