〜高裁決定を受けて〜

オーナー会議で近鉄オリックスの合併が承認された。

プロ野球>セ6、パ5で2リーグ維持 オーナー会議(毎日新聞
 プロ野球の最高議決機関である臨時オーナー会議が8日、東京都内のホテルで開かれ、オリックス・ブルーウェーブ大阪近鉄バファローズの合併を正式承認した。注目されたパ・リーグの「もう一つの合併」は、西武の堤義明オーナーが「ダイエーとロッテの組み合わせだったが、進展はない」と報告。来季はセ6球団、パ5球団で2リーグ制を維持し、今後、セ、パ交流試合の導入を検討することになった。労働組合日本プロ野球選手会古田敦也会長=ヤクルト)は11日からストライキを決行する構えだが、オリックス近鉄の合併が正式承認されたことで、日本プロ野球史上初のストライキを回避することは難しい情勢となった。
 オリックス近鉄の合併は、両球団を除く10球団のオーナーが表決したが、広島の松田元オーナーが「地域の理解を得にくい採決には参加できない」と棄権し、広島以外の9球団が同意した。
 合併の1年凍結を求めている選手会は10日午後5時を最終期限に、11日から週末に限ってストを決行する方針だが、オーナー会議では、スト回避に向けてぎりぎりまで努力を続けることを確認した程度にとどまった。
 ストを巡っては、選手会と日本プロ野球組織(NPB)との間で9、10日に交渉が行われ、この日の会議で、交渉に当たる各球団代表に一定の裁量権を与えることを決めた。さらに、選手会が求めているプロ野球の新規参入の促進に関連して、野球協約で定めている加盟料60億円や参加料30億円を軽減する方向で、自主的に見直すことも決めた。今後、12球団実行委員会で協議し、11月2日のオーナー会議で協約改正を承認する。
 「もう一つの合併」は7月のオーナー会議で西武の堤オーナーが「パの4球団で進行中」と発言し、10球団になった場合、来季からの1リーグ制移行を求めていた。堤オーナーは初めてダイエー、ロッテの球団名を明らかにしたが「一時期は合併の話がかなり進んでいたが、ダイエー産業再生機構入りの問題が浮上し、ダイエーから断りがあった」と説明した。ただし会議では、今後も経済状況などで球団が消滅する場合もあり得るとして「オーナー会議が機動的に対応する」と含みを持たせた。セ、パ交流試合については、9月29日の臨時オーナー会議で協議する。
 今回の会議は、巨人のスカウト不正問題で辞任した渡辺恒雄前オーナーに代わり、後任の滝鼻卓雄オーナーが初めて議長を務めた。【湯浅聡】

 ▽西武・堤義明オーナー もう一つの合併話は、ダイエーとロッテだった。一時期進んだこともあったが、ダイエー本体が産業再生機構入りするか自主再建するかという話があって、球団の問題を先に進めることができなかった。現時点でダイエーとロッテの合併はない。結果的にうまくいかず、残念です。

◇残念な結果です
 ▽古田選手会長 残念な結果です。きょう120万人の反対署名を届け、それをご覧になったうえでの決定でしょうから。新規参入要件の緩和を検討するといっても、具体的ななものも出ていないし……。(ストについては)ボク一人の意見では何ともいえないが、ファンに分かりやすく説明できず、お茶を濁すようにやり方では納得できない。
 ▽近鉄礒部公一選手会長 他の選手にもこういうことはあると伝えていたが、(実際に承認されて)残念な気持ちが強い。6日の会議で(ストに)進む方向は決まっている。明日、交渉するのでその場で話してみたい。個人的な意見は言えない。選手会としての意見がまとまった上で話したい。

 ◇オーナー会議骨子
オリックス近鉄の合併を承認
◆2組目はダイエー、ロッテだった。しかし現時点での合併はなし
◆来季はセ6、パ5球団で2リーグ制を維持。ただし、今後の経済情勢で球団の消滅などに備え、柔軟に対応
◆セ、パ交流試合を導入し、29日の臨時オーナー会議で検討
プロ野球に新参加する場合の加盟料(60億円)、参加料(球団譲渡の場合、30億円)について、軽減する方向で野
 球協約を改正

 ◇オーナー会議出席者◇
パ・リーグ
ダイエー  中内 正オーナー
西   武 堤 義明オーナー
近   鉄 田代 和オーナー
ロ ッ テ 重光昭夫オーナー代行
日本ハム  小嶋武士オーナー代行
オリックス 宮内義彦オーナー
セ・リーグ
阪   神 久万俊二郎オーナー
中   日 白井文吾オーナー
巨   人 滝鼻卓雄オーナー(議長)
ヤクルト  堀 澄也オーナー
広   島 松田 元オーナー
横   浜 砂原幸雄オーナー
【議決権なしでの参加】
根来泰周コミッショナー
小池唯夫パ・リーグ会長
豊蔵 一セ・リーグ会長
http://sports.yahoo.co.jp/hl?c=sports&d=20040908&a=20040908-00000058-mai-spo

もっとも、オーナー側も選手の代表との話し合いを「意識」しているようなので、
多少のストライキ決定の効果はあったのでないか、と思う。
もっとも、「検討する」というだけなのでかなり形だけ、とも思われる。
本来の筋道として、合併承認に先行してあるいは、同時に決定されるべき事項が、
先送りするという手法がとられてことをすれば、
選手会は、その発言力を強化する方向での譲歩を今のうちに確保することも
必要ではないかと思う。
明日の交渉でどのような妥協点を見い出すのかわからないが、
事実として交渉不誠実下で合併承認をしたことは確かである。
とすれば、選手会への抑止力はあくまでストによるファン離れだけであるので、
交渉材料の点では選手会が有利のように思われる。

さて、法律の話。オーナー会議の一方で高裁の判決もでた。

高裁「野球組織は誠実交渉尽くすべき」…仮処分は棄却
 オリックス・ブルーウェーブ近鉄バファローズの球団統合を巡り、労組・日本プロ野球選手会古田敦也会長=ヤクルト)が、日本プロフェッショナル野球組織(NPB)との労使交渉を認めるよう求めた仮処分で、東京高裁(原田和徳裁判長)は8日、申し立てを却下した東京地裁決定を支持、選手会の即時抗告を棄却する決定を出した。
 選手会は、両球団の統合と選手の労働条件について、「団体交渉を求められる地位にある」と確認するよう求めていた。
 高裁決定は申し立て自体は退けたが、選手会が団体交渉権を持つことを認めたうえで、地裁決定より踏み込んで、球団統合問題のうち労働条件を左右する部分については、NPBの「義務的団体交渉事項」に当たると判断した。
 しかし、仮処分申し立てを認めるほど緊急の必要性があるかという点については、<1>誠実に交渉しなければ、不当労働行為に問われたり、野球の権威に対する国民の信頼の失墜を招いたりしかねず、今後は実質的な団体交渉が行われることが期待される<2>野球協約は双方にプロ野球発展のため努力を尽くすことを求めている――などを理由に、認めなかった。
 一方、決定は、「NPBが交渉で誠実さを欠いていたことは否定できない」と指摘。選手会の主張については、「労組としての権利にこだわっているわけではなく、十分な議論を尽くすべきだと訴えている」との解釈を示した。
(読売新聞) - 9月8日21時36分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040908-00000413-yom-spo

この点に関して、選手会が抗告審決定の全文(正本を画像でPDF化したもの)を
アップしてくれた。http://jpbpa.net/news/release/news20040908_1.htm
ってことで、以下、これに即して検討する。
どうせなら、地裁のもアップして欲しい。一部について引用判決(決定)だし。
この決定は、
1. 原審同様に、選手会NPB組織に対して、
  労働組合法第7条第2号の団体交渉をする権利を有することを確認した。
2. バッファローズオリックス間の営業譲渡及び参加資格の統合に伴う
  選手会組合員の労働条件に関する件は義務的団体交渉事項にあたる。
3. (野球協約の規定等に照らし)2.とは別個にバッファローズオリックス間の
  営業譲渡及び参加資格の統合に関する件のうち選手会組合員の労働条件を
  左右する部分については義務的団体交渉事項にあたる。
4. 「現時点では」、保全の必要性(民事保全法23条2項)についての
  疎明が不十分である。
よって、抗告棄却、ということらしい。

まず、3.に関しては、高裁が新たに判断した部分である。
ここでは、協約の第33条(合併)が「 この組織に参加する球団が他の球団と
合併するときは、あらかじめ実行委員会およびオーナー会議の承認を得なければならない。
この場合、合併される球団に属する選手にかんしては、必要により第57条(連盟の応急措置)
および第57条の2(選手の救済措置)の条項が準用される。」とし、第57条の2が、
「球団の合併、破産等もっぱら球団の事情によりその球団の支配下選手が一斉に契約を
解除された場合、または前条による連盟会長の斡旋が失敗し同様の事態となった場合、
もしくは斡旋が不調に終るおそれが大きい場合は、実行委員会およびオーナー会議の
議決により、他の球団の支配下選手の数は前記議決で定められた期間80名以内に拡大され、
契約解除された選手を可能な限り救済するものとする。」と規定しているにもかかわらず、
このような議決がなされていない。そして、「各球団の支配下選手が第79条」(選手の制限数)
(球団は、同一年度中、70名を超える選手を支配下選手とすることはできない。
契約保留選手は支配下選手の数に算入する。ただし、第57条の2(選手の救済措置)が
適用されたときは、支配下選手の数を80名までとする。)「により原則として70名までに
制限されているため、上記議決がなされない限り1球団分の選手が必然的に選手契約を解除
されることになる。」と判示している。
57条の2については、「球団の合併…等もっぱら球団の事情によ」る場合で、「その球団の
支配下選手が一斉に契約を解除された場合」とあるので、「一斉に契約を解除」という事態に
ならなければ、出てこない規定のように思われるので、救済議決は関係ないと思うだが、
いずれにせよ、支配下選手数は限られているという主張が認められたのは大きい。
この点、3.に関する選手会の申立てが、バッファローズオリックス「間の営業譲渡及び
参加資格の統合に関する件(選手の解雇、転籍を不可避的に伴う営業譲渡及び参加資格の統合を
回避することを含む。)というもので、裁判所はその内容を一義的に確定することは困難である
とし、上記のように限定してその内容を判断したのである。
選手会が求めたのは合併承認についても交渉したいということであれば、「純」経営的な部分に
ついては認めないということであろうか。
このような実体判断については賛同できる。

つぎに、4.についてである。
仮処分についてありがちな、保全の必要性がないということなのだが…。
その理由がおもしろい。
1.H16.9.3(原決定の時点)までの推移について
 原決定引用なので、詳細不明である。
 NPB組織は選手会との団体交渉に応じていたことが疎明されるとのこと。
 具体的にどのやりとりをさしているだろうか?原決定がないのでわからない。
2.H16.9.7までの推移について
 同月6日、合併について実行委員会の承認され、同日、選手会が10日の午後5時までに
 要求が受け入れられない場合にはやむを得ず同月11日以降ストライキを行う旨の通告、
 NPB組織はこの通告を受け、同月9日から予定されている交渉を行う旨回答した。
と、まぁ、1.に疑問は残るが決定を読めばわかるので、ここまではいい。
おもしろいのがこの次。
3.H16.9.9から予定されている交渉について
ア.まず、裁判所は、NPB組織は「当審においても、<NPB組織>が労働組合法第7条2号の
  団体交渉権を有すること争うとの従前の主張を続けている。そのため、<NPB組織>が
  これまで応じてきた交渉等が誠実さを欠いてきたことは否定できないし、<NPB組織>が
  応じるという同月9日からの交渉の法的性質等にも疑問の余地が生じる」という。
  つまり、1.で団体交渉存在は認めたものの誠実さについては争う余地を残している。
  また、今後についても、過去に過程に鑑みた場合に、保全の必要性があるという判断も
  可能のように思われるのである。
イ.しかしながら、次のような事情から、保全の必要性を否定した。
  まず、「<NPB組織>の代表者でもあるコミッショナーには、著明な法律家が就任しており、
  当裁判所が<選手会>の団体交渉権について上記のような判断を示しさえすれば、
  <NPB組織>は、同月9日からの交渉において、これを尊重し、実質的な団体交渉が
  行われることが期待される。」というのである。
  ここにいう「<NPB組織>の代表者でもコミッショナー」というのはもちろん根来泰周
  のことである。その彼の経歴は、昭和30年司法試験合格、31年京大法学部卒業、
  33年法務省入省後、神戸地検検事、大臣官房長、法務事務次官、東京高検検事長などを歴任
  平成7年退官。8年8月から14年7月まで公正取引委員会委員長。
  http://www.sanspo.com/baseball/top/bt200401/bt2004012709.html参照。
  法務省の事務方トップである法務事務次官、東京高検検事長公正取引委員会委員長をした
  根来さんがいるのだから、この判決を尊重して、実質的な団体交渉が行われることが期待される、
  というのである。とんでもない決定である。
  今に至るまで、裁判所が決定理由中で批判するほど、たいしたことをできなかったいう事実を
  どう考えるのだろうか?
  彼が判決を遵守する保証はどこにある?その点の疎明がないということなのだろうか?
  そう原田和徳、北澤章功、竹内浩史各裁判官に問いたい。
  当事者(の構成員の一人)が著明な法律家であったら保全の必要性が減少するとは、
  なかなかおもしろいことをおっしゃる。このような判決理由をみとめてよいのだろうか?
  他方で、妥当性はともかく、事実存在する「裁判所の法律家はえらいんだ!」決定のせいで、
  根来氏がとてつもなく重荷を背負わされた形になったと思う。
  さらに裁判所はつづけるている。「また、万一、<NPB組織>が誠実交渉義務を尽くさなければ、
  労働組合法第7条2号の不当労働行為の責任を問われる可能性があるばかりでなく、野球の
  権威等に対する国民の信頼(野球協約第3条(1))を失うという事態を招きかねない。」と。

第3条(協約の目的) この協約の目的は次の通りである。この組織を構成する団体および個人は不断の努力を通じてこの
目的達成を目指すものとする。
(1) わが国の野球を不朽の国技にし、野球が社会の文化的公共財となるよう努めることによって、野球の権威および技
   術にたいする国民の信頼を確保する。
(2)わが国におけるプロフェッショナル野球を飛躍的に発展させ、もって世界選手権を争う。
(3)この組織に属する団体および個人の利益を保護助長する。

すなわち、この判決は、
1.現状では誠実交渉義務を尽くしているとはいえない。
2.万一、<NPB組織>が誠実交渉義務を尽くさなければ、労組法第7条2号の不当労働行為の責任を
 問われる可能性がある。
3.さらに、野球の権威等に対する国民の信頼(野球協約第3条(1))を失うという事態を招きかねない。
4.しかしながら、NPB組織の代表者でもあるコミッショナーには、著明な法律家である根来泰周氏が
 就任しているから、この判決を示せば、誠実交渉義務を尽くさなということはないでしょう、
と述べているのである。

これでは、強制力のない理由中判断おける判決文による事実上の強制である。
裁判所はあまりにも法律家として根来氏に依拠しすぎである。
しかに何にせよ、事実としてそういう判断がでてしまった。
こういう判断がある以上、法律的にどうなるかは(現状)根来氏次第である。
根来氏にはしっかりと、使用者として労働者の権利にあまりに無頓着・無知なオーナー以下の方々に、
労働権とはどうのようなものであるかをわずか2日でレクチャーしていただきたい。
NPB組織代表者たるコミッショナーとして、法律家として、
しっかりとした交渉をもつようにして欲しいと思う。
プロ野球の未来は根来氏にかかっている。

なお、決定は、結局ところ選手会は議論を尽くすように求めているのであって、また上記協約3条のいう
「この組織を構成する団体および個人」にはNPB組織と選手会が含まれるのであって、
双方が「不断の努力」を尽くすことが期待されるとしている。

そこまでいうのなら、認容していいと思うし、私見によればそういう判断はできたと思う。
この判決のいう実体判断にはおおむね賛同できる。
根来氏やオーナーや経営者の方々はこの決定のいわんとしていることを十分に理解して、
選手会と十分な議論を尽くされることを望みたい。