管理職選考受験資格確認等請求事件(2)

最大判平成17年1月25日(平成10年(行ツ)第93号) 管理職選考受験資格確認等請求事件
http://courtdomino.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/f3cd7fd4599ab8af49256f9500263dc3?OpenDocument

目 次
管理職選考受験資格確認等請求事件(1)判決要旨
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050126#p3
管理職選考受験資格確認等請求事件(2)事案の概要
 本 稿


事案の概要
 被上告人乙(原告、控訴人)は,昭和25年に岩手県で出生した大韓民国籍の外国人であり,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める特別永住者である。
 上告人甲(東京都:被告、被控訴人)は,昭和61年,保健婦の採用につき日本の国籍を有することを要件としないこととした。乙は,同63年4月,甲に保健婦として採用された。
 甲人事委員会が実施する管理職選考は,知事,議会議長,公営企業管理者,代表監査委員,教育委員会選挙管理委員会,海区漁業調整委員会及び人事委員会が任命権を有する職員に対する課長級の職への第1次選考としてされるもので,A,B及びCの選考種別とそれぞれについての事務系及び技術系の選考種別とがあり,管理職選考に合格した者は,任用候補者名簿に登載され,その数年後,最終的な任用選考を経て管理職に任用されることとなっていた。なお、平成6年度管理職選考実施要綱は,受験資格を定めており,明文の定めは置いていなかったものの,受験者が日本の国籍を有することを前提としていた。また、本件管理職選考が実施された当時,甲における管理職としては,知事の権限に属する事務に係る事案の決定権限を有する職員のほか,直接には事案の決定権限を有しないが,事案の決定過程に関与する職員があり,さらに,企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行い,事案の決定権限を有せず,事案の決定過程にかかわる蓋然性も少ない管理職も若干存在していた。甲においては,管理職に昇任した職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させるという任用管理は行われておらず,担当がその他の分野の仕事に及ぶことがあり,いずれの分野においても管理的な職務に就くことがあることとされていた。
 乙は,上記要綱に基づいて実施される管理職選考の選考種別Aの技術系の選考区分医化学を受験することとし,所属していた保健所の副所長に申込書を提出しようとしたが,同副所長は,乙が日本の国籍を有しないことを理由に,申込書の受領を拒絶した。乙は,国籍の点以外は上記要綱が定める受験資格を備えていたが,上記のとおり申込書の受領を拒絶されたため,同年5月に実施された筆記考査を受けることができなかった。また,甲人事委員会の平成7年度管理職選考実施要綱には,日本の国籍を有することが受験資格であることが明記されるに至り,乙は,日本の国籍を有しないために同管理職選考を受けることができなかった。
 そこで乙が,日本の国籍を有しないことを理由に受験が認められなかったのは違法であるとして,国家賠償法1条1項に基づき,甲に対し,慰謝料の支払等を請求したものである。
 

 原審は,日本の国籍を有しない者は,憲法上,国又は地方公共団体の公務員に就任する権利を保障されているということはできないし,地方公務員の中でも,管理職は,地方公共団体の公権力を行使し,又は公の意思の形成に参画するなど地方公共団体の行う統治作用にかかわる蓋然性の高い職であるから,地方公務員に採用された外国人が,日本の国籍を有する者と同様,当然に管理職に任用される権利を保障されているとすることは,国民主権の原理に照らして問題があるとしつつも、管理職の職務は広範多岐に及び,地方公共団体の行う統治作用,特に公の意思の形成へのかかわり方,その程度は様々なものがあり得るのであり,公権力を行使することなく,また,公の意思の形成に参画する蓋然性が少なく,地方公共団体の行う統治作用にかかわる程度の弱い管理職も存在する。したがって,職務の内容,権限と統治作用とのかかわり方,その程度によって,外国人を任用することが許されない管理職とそれが許される管理職とを分別して考える必要があり,後者の管理職については,我が国に在住する外国人をこれに任用することは,国民主権の原理に反するものではないとした。
 そして、甲の管理職には,企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行い,事案の決定権限を有せず,事案の決定過程にかかわる蓋然性も少ない管理職も若干存在しており,管理職に在る者が事案の決定過程に関与するといっても,そのかかわり方,その程度は様々であるから,甲の管理職について一律に外国人の任用(昇任)を認めないとするのは相当でなく,その職務の内容,権限と事案の決定とのかかわり方,その程度によって,外国人を任用することが許されない管理職とそれが許される管理職とを区別して任用管理を行う必要がある。そして,後者の管理職への任用については,我が国に在住する外国人にも憲法22条1項,14条1項の各規定による保障が及ぶものというべきであって、甲の職員が課長級の職に昇任するためには,管理職選考を受験する必要があるところ,課長級の管理職の中にも外国籍の職員に昇任を許しても差し支えのないものも存在するというべきであるから,外国籍の職員から管理職選考の受験の機会を奪うことは,外国籍の職員の課長級の管理職への昇任のみちを閉ざすものであり,憲法22条1項,14条1項に違反する違法な措置であるのであるとして,乙の慰謝料請求を一部認容した。