「一太郎」「花子」販売差止!(その2)

その1(報道、判決)
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050201#1107254116
その2(判例簡易解説)
本 稿


まず、今回の判決は上訴により、確定しない見込みのようです。
次に、東京地裁判決平成17年2月1日と東京地裁判決平成16年8月31日の違いは、
前者が「一太郎」「花子」について、後者が「ジャストホーム2家計簿パック」についてで、
前者については、特許侵害を認めたということになります。


では、その侵害された特許の内容とは?
残念なことに、筆者はジャストシステムの商品はATOKしかもっておらず(しかもMac用)、
windows環境もないので、ソフトから体感することすらできません。
そこで、きちんと特許公報から…とうことになる(本来はこっちが先)。
問題の第2803236号特許については、前回紹介した特許請求の範囲他、
特許公報の明細書、図等から読み取るしかない(閲覧方法についてはその1参照)。
イメージとしは、MacOS9等にある「バルーンヘルプ」に近い機能なのだろうか?
windowsのみユーザーにはわからないが…。)
「バルーンヘルプ」は「ヘルプ」メニューから選択すれば、
以後対象となる表示文字等にカーソルをあてると説明表示するのだが、
この特許は、特定の「アイコン」にカーソルをあてた直後に別の「アイコン」を「指定」
(クリックのこと?)すれば、説明表示するということだろうか?


で、この特許の内容と一太郎等の技術が抵触すれば、特許侵害となる。
平成16年判決も平成17年判決も争点は表示がアイコンかどうかである。
「ジャストホーム2家計簿パック」が問題になった平成16年判決では、

…本件特許出願当時の文献によれば,アイコンとは,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示したもの」と一般に理解されていたものということができる。
また,前記…のとおり,アイコンを絵文字であるとした上で,ヘルプ機能を示す「?」,文書を閉じるときの「閉じる」,ページ割付けをするための「ページ割り付け」を「アイコン」と呼ばずに区別していると解される文献もある。
さらに,前記…で認定したとおり,本件特許出願後の文献でも,アイコンは,上記と同様に解されている上…,絵文字で表した「アイコン」と区別して,機能そのものをデザイン化したパソコンの画像表示を「ボタン」と呼んでいる。

とし、製品の「?」ボタン及び「表示」ボタン等の「アイコン」該当性について、

以上…によれば,本件発明にいう「アイコン」とは,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」であるのに対し,本件製品の「?」や「表示」,「プロパティ」及び「キャンセル」は,表示画面上にあり,処理機能を表示しているものの,デザイン化されていない単なる「記号」や「文字」であって,絵又は絵文字とはいえないことは明らかであるから,本件各構成要件における「アイコン」には該当しない。

とした。さらに被告(=反訴原告=松下)の主張については、

被告は,「アイコン」には,絵のほかに文字の記号も含まれると主張する。しかしながら,上記主張を認めるに足りる証拠はない。…「表示」,「プロパティ」,「キャンセル」という機能を文字で表示している本件製品と同様に解することはできない。
また,被告は,本件明細書では,第3図に等,文字の記号や図案化が極めて低いレベルのものもアイコンの概念に含まれることが明らかにされていると主張する。しかしながら,本件明細書の第3図及び第4図では,機能説明のアイコンも単なる丸印で示されていることから,同図はアイコンの表示を単に簡略に記載しただけであると考えられ,第3図の記載をもってアイコンが文字の記号を含むということはできない。

とした。したがって、

 以上のとおり,本件製品をインストールしたパソコンに表示される「?」ボタン及び「表示」ボタン等は,本件各構成要件にいう「アイコン」に該当しないから,本件発明の技術的範囲に属さず,同パソコンを製造等する行為は本件特許権を侵害しない。


 しかしながら、「一太郎」「花子」についての平成17年判決は逆の結論に至ることになる。
 本判決では、「一太郎」及び「花子」の「ヘルプモード」ボタン、「印刷」ボタンについて争われています。
 以下に裁判所の判断をみます。

 1 争点(1)(構成要件充足性)について
  (1) 本件明細書における「アイコン」の意義
   ア 本件明細書…に「アイコン」の定義はないが,特許請求の範囲には,「機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」,「所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコン」及び「表示手段の表示画面上に表示されたアイコン」との記載がある。
イ また,本件明細書…の発明の詳細な説明には,上記特許請求の範囲と同旨の記載のほか,「アイコン」について,次のような記載がある。
(ア) 「先ず,ステップS1で,ウィンドウ情報記憶部5を参照して,表示装置1の表示画面上のどの位置にどんなオブジェクトがあるかを知る。つまり,表示装置1に表示されている各種の処理コマンドを指示するアイコンの表示位置データを得る。」(4欄9行ないし14行)
(イ) 「次にステップS2において機能説明を指示するアイコンが指定されたか否かを判別するが…略…,その機能の終了によって第2図のフローチャートの制御を終了する。」(4欄14行ないし30行)
(ウ) 「以上の構成で,まず,第3図に示すようにウィンドウがオープンされ…略…,マウスボタンをリリースする。例えば通信のアイコンの上に移動する。」(4欄31行ないし41行)
(エ) 「第5図は,機能説明の丸印のアイコンをウィンドウの枠部分に設けられたスクロールバーの位置に移動してリリースした時の機能説明の表示例を示したものである。又第6図に示すように,別のウィンドウに表示されているメニューメッセージ上に移動させる場合の例を示したものである。」(4欄50行ないし5欄5行)
(オ) 「第2図は,本実施例の制御手順を示すフローチャート,第3図,第4図は本実施例を示す図,第5図,第6図は本実施例の他の表示例を示す図である。」(6欄9行ないし11行)
ウ 前記アで認定したとおり,本件明細書には,「アイコン」を定義する記載はなく,アイコンとは,前記アの記載から,表示画面上に表示され,情報処理機能等を実行させるものであり,また,前記イ(ア)の記載から,各種の処理コマンドを指示するものであることが分かる。
 もっとも,前記イ(エ)記載のとおり,機能説明のアイコンをウィンドウの枠部分に設けられたスクロールバーや,別のウィンドウに表示されているメニューメッセージ上に移動させた時の機能説明の表示例が示されているが,「メニューメッセージ」は,「各種の処理コマンドを指示するもの」ではないから「アイコン」には含まれず,本件発明の実施例とはいえない。本件明細書にも,前記イ(オ)のとおり,第3図及び第4図は,「本実施例」とされているが,機能説明のアイコンをメニューメッセージ上に移動させた図である第6図は,本実施例の「他の表示例」とされており,区別されている。したがって,同じく「他の表示例」とされている第5図に記載された機能説明のアイコンをスクロールバー上に移動させた例も本件発明の実施例とはいえない。したがって,スクロールバーは「アイコン」には含まれない。

としました。また、被告の「本件明細書第2図において「アイコン」はドラッグないし移動できるものであることが必要」との主張に対しては、

 本件明細書第2図は,本実施例の制御手順を示すフローチャートであり,ウィンドウ情報取得の後,説明アイコンがYesの場合にドラッグ,リリース,解析・起動の順に手順が記載され,その内容の説明が前記イ(イ)認定のとおり記載されている。この実施例では,第1のアイコンをドラッグし,第2のアイコンの上にリリースする方法となっているが,本件明細書の実施例以外の箇所においては,「アイコン」をドラッグないし移動させることは記載されていない。また,本件発明の特許請求の範囲には,アイコンの「指定」とのみ記載されており,指定方法について,アイコンをドラッグないし移動させることに限定はされておらず,かかる方法の限定の記載はない。よって,本件明細書第2図をもって,本件発明における「アイコン」について,移動可能であるものに限定されていると解することはできない。

とし、さらに被告の「「アイコン」はデスクトップ上に配置可能なものであることが必要とされている」との主張に対しては、

 …本件明細書第3図においては,「ウインドウタイトル」というウィンドウ内に表示されるものがアイコンであるとされているから,本件発明における「アイコン」がデスクトップ上に配置可能なものであることが必要であるとはいえない。

として、「本件明細書の記載からは,「アイコン」について前記ウに認定した以上に定義されているとはいえず,被告が主張するような限定があるとはいえない。」とした。
ここで説明される意味での「アイコン」であれば、特許侵害が問題となることになる。


 続いて、被告の主張を、明細書ではなく、当時の文献から検討している。

  (2) 出願当時における「アイコン」の意義
   ア 次いで,被告の主張について,本件特許出願当時の「アイコン」の意義を参酌して検討する。本件特許出願当時(平成元年10月31日)の文献には,次のような記載がある。
(ア) 昭和64年1月1日発行の「現代用語の基礎知識1989」…には,アイコンについて「ディスプレイの画面の中に,目で見てそれと分かる絵を示し,その絵に相当する処理をさせる方式。たとえば,時間を知りたいときは,時計の形をした絵をマウスで指定する。」との記載がある。
(イ) 昭和64年1月1日発行の「月刊アスキー(1989年1月号)」…には,…。
(ウ) 昭和63年3月30日発行の「電子情報通信ハンドブック」…には,…。
(エ) 昭和61年11月20日発行の「図解コンピュータ百科事典」…には,…。
(オ) 昭和61年4月25日発行の「JStarワークステーション」…には,…。
   イ 前記ア認定のとおり,本件特許出願当時の文献によれば,アイコンとは,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示したもの」と一般に理解されていたものということができる。
     被告は,本件特許出願当時,「アイコン」は,「ドラッグ」ないし「移動」ができることが前提とされ,「デスクトップ上」へ配置可能なことが前提とされていたなどと主張するので,以下この点について検討する。
   ウ 移動可能性の要否
    (ア) 本件特許出願当時の文献「月刊アスキー(1989年1月号)」…には,アイコン群をマウスでドラッグして移動させる旨の記載がある…。他方,同じ文献には,メールウィンドウ内のコマンドを表しているアイコンとメール送信用のウィンドウ内のアイコンがあり…,これらのアイコンがドラッグ又は移動できるとの記載はないし,ウィンドウ内で機能を実行するためにクリックされるものであるから,ドラッグや移動とは関係ないものと解される。
      よって,上記文献に記載されたすべてのアイコンがドラッグ又は移動できるものとはいえない。
    (イ) 本件特許出願当時の文献「JStarワークステーション」…略…。
      よって,上記文献によっても,すべてのアイコンがドラッグ又は移動できるものとはいえない。
    (ウ) そして,前記(2)アで認定したとおり,本件特許出願当時の文献において,「アイコン」が移動可能なものに限定される旨を明確に記載したものは見当たらないことからすれば,本件特許出願当時,「アイコン」がドラッグないし移動ができることを必要とすると解されていたと認めることはできない。
    (エ) 被告は,乙3の記載に依拠してアイコンに移動可能性が必要である旨主張する。
      「先端ソフトウェア用語事典」(乙3)は,本件特許出願後である平成3年5月25日に発行されたものである。上記文献には,アイコンの定義としては,「計算機資源を表すためにディスプレイ画面上に表示される小さな絵。」との記載があるのみで,移動可能性については触れるところがない。また,上記文献には,「マウスを用いてアイコンの選択・起動・移動・複写・削除などができる。」との記載がある…,アイコンはマウスによって直接操作できるということを説明する文脈であり,…また…,同文献から読み取れるのは,アイコンの中には移動できるものも存在するという程度にとどまり,それを超えて,すべてのアイコンがドラッグないし移動可能なものであるという趣旨をいうものと解することはできない。
    (オ) また,被告は,乙4の記載に依拠してアイコンに移動可能性が必須である旨主張する。
      「情報システムハンドブック」(乙4)は,本件特許出願後である平成元年12月5日に発行されたものである。上記文献は…,移動可能性について触れるところがない。また,…すべてのアイコンがドラッグないし移動可能なものであるという趣旨を読み取ることもできない。
  (カ) …本件特許出願後である平成2年5月25日発行の「岩波情報科学辞典」…その他,本件特許出願後の文献においても,「アイコン」が移動可能なものに限定される旨を記載したものは見当たらない。
    (キ) 以上によれば,本件特許出願の前後を通じて,「アイコン」の意義について,「ドラッグ」ないし「移動」ができることを必要とすると解されていたものとはいえない。
   エ デスクトップ上への配置可能性について
     被告は,甲13の44に依拠して,本件特許出願当時「アイコン」は,「デスクトップ上」へ配置可能なことが必要とされていたと主張する。
     この点については,本件明細書上も限定されていないことは前記(1)オのとおりである。また,本件特許出願当時の文献である「JStarワークステーション」(甲13の44)においても,…「アイコン」がデスクトップ上に配置可能であったことを示す証拠はない。さらに,本件特許出願当時の文献である「月刊アスキー(1989年1月号)」…においても同様であることは,前記(2)ア(イ)c認定のとおりである。
     また,前記(2)アで認定したところによれば,本件特許出願当時の文献において,「アイコン」がデスクトップ上に配置可能なものに限定される旨を記載したものは見当たらない。その他,前記(2)アで認定した事実をすべて検討しても,本件特許出願当時の「アイコン」の意義について,デスクトップ上に配置可能であることが必要とされていたと認めることはできない。
     以上によれば,本件特許出願の前後を通じて,「アイコン」は,デスクトップ上に配置可能なことを必要とすると解されていたものとはいえない。
   オ なお,本件全証拠によるも,本件発明の「アイコン」について,モードレス環境で用いられることが必要であるとの限定が存在するものとは認められない。

と判断している。明細書から判断される「アイコン」の意義と出願当時の「アイコン」の意義が異なっていた場合に判断にどのような影響がでるのか、ということの方が興味深いのだが、本件では両者に(すくなくとも結論を異にする)差異はなかったようである。そして、

  (3) 小括
    以上(1)(2)によれば,本件発明にいう「アイコン」とは,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」であり,かつそれに該当すれば足りるのであって,本件明細書の記載によっても,本件特許出願当時の当業者の認識においても,それ以上に,ドラッグないし移動可能なものであるとか,デスクトップ上に配置可能なものであるなどという限定を付す根拠はないというべきである。
  (4) 被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンの「アイコン」該当性について
    被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは,別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載のとおり,表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するものである。よって,被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは,本件発明における「アイコン」に該当する。

さて、ここまでみてきたのは「アイコン」にあたるかどうかにすぎない。
このアイコンにあたるかどうかというのは、特許についての争いのない事実である

(3) 構成要件の分説
 ア 本件第1発明は,次のとおり分説される。
1−A アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と,
1−B 前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と,
1−C 前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段と
1−D を有することを特徴とする情報処理装置。
イ 本件第2発明は,次のとおり分説される。
2−A 前記制御手段は,前記指定手段による第2のアイコンの指定が,第1のアイコンの指定の直後でない場合は,前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させる
2−B ことを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
ウ 本件第3発明は,次のとおり分説される。
3−A データを入力する入力装置と,データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって,
3−B 機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ,
3−C 第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる
3−D ことを特徴とする情報処理方法

の一構成要素にすぎず、これらすべてを充足してはじめて、侵害ということになる。そして、この点につき、

 2 被告製品をインストールしたパソコンの構成要件充足性について
  (1) 本件第1発明について
    上記のとおり,被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは,「アイコン」に該当するところ,上記のうち,「ヘルプモード」ボタンは,「アイコン」に該当する「印刷」ボタンの機能説明を表示するので,「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」に該当する。「印刷」ボタンは,これをクリックすると所定の機能を起動するので,「所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコン」に該当する。これらが被告製品をインストールしたパソコンの画面に表示される。
    次に,被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは,いずれもマウスクリックによって選択することが可能であり,これが「前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段」に該当する。
    さらに,被告製品の「ヘルプモード」ボタンをマウスでクリックし,次に「印刷」ボタンをクリックすることが,「前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定」に該当する。これに「応じて」,「印刷」ボタンの説明が被告製品をインストールしたパソコンの画面に表示されることが,「前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段」に該当する。
    そして,被告製品をインストールしたパソコンが「情報処理装置」であることは明らかである。
    したがって,被告製品をインストールしたパソコンは,本件第1発明の構成要件1−AないしDをいずれも充足する。
  (2) 本件第2発明について
    被告製品の「ヘルプモード」ボタンをマウスでクリックし,その後別の操作を行ってから,「印刷」ボタンをクリックすることが,「前記指定手段による第2のアイコンの指定が,第1のアイコンの指定の直後でない場合」に該当する。この場合,「印刷」ボタンの説明は表示されず,所定の機能が起動されるが,これが「前記制御手段は」,「前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させる」に該当する。
    そして,被告製品をインストールしたパソコンが「情報処理装置」であることは明らかである。
    したがって,被告製品をインストールしたパソコンは,本件第2発明の構成要件2−A及びBをいずれも充足する。
  (3) 本件第3発明について
    被告製品をインストールしたパソコンは,キーボードやマウス等の「データを入力する入力装置」と,モニターの「データを表示する表示装置」とを「備える装置」である。被告製品をインストールしたパソコンを動作させることにより,かかる装置を制御することになる。
    次に,「ヘルプモード」ボタンは,「印刷」ボタンを機能説明を表示するので,「機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」に該当し,「印刷」ボタンは,これをクリックすると所定の機能を起動する機能を有しているので,「所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコン」に該当し,これらが被告製品をインストールしたパソコンの画面に表示される。
    さらに,被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは,マウスクリックによって順次選択することが可能であり,これが「第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定」に該当する。これに「応じて」,「印刷」ボタンの説明が被告製品をインストールしたパソコンの画面に表示されることが,「表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる」ことに該当する。
    そして,被告製品をインストールしたパソコンの使用が「情報処理方法」であることは明らかである。
    したがって,被告製品をインストールしたパソコンの使用は,本件第3発明の構成要件3−AないしDをいずれも充足する。
  (4) 以上のとおり,被告製品をインストールしたパソコン及びその使用は,本件発明の技術的範囲に属するものである。

と判断された。
「被告製品をインストールしたパソコンの使用」となっているのは、もともとワープロ用ソフトとして開発されたからだと思われる。(だからこそ松下が特許をもっているのかもしれない。)
あくまで情報処理装置と一体となって機能を発揮することになるのである。
しかしながら、被告が関与しているのはソフトのみである。そこで、間接侵害が問題となる。

 3 争点(2)(間接侵害)について
  (1) 特許法101条は,いわゆる間接侵害について規定しており,同条2号は,特許が物の発明についてされている場合において,その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為を特許権等の侵害であるとみなしており,同条4号は,特許が方法の発明についてされている場合について,同旨を規定している。
  (2) 前記2において判示したとおり,被告製品をインストールしたパソコン及びその使用は,本件各発明の構成要件を充足するものであるところ,被告製品は,「被告製品をインストールしたパソコン」の生産に用いるものであり,かつ,「(従来の方法では)キーワードを忘れてしまった時や,知らないときに機能説明サービスを受けることができない」という本件発明による課題の解決に不可欠なものであると認められる。また,被告製品が「日本国内において広く一般に流通しているもの」でないことは明らかである。
  (3) 被告は,Windowsというマイクロソフト社のオペレーティングシステムそのものに,本件発明と同様の機能があるから,被告製品は「その発明による課題の解決に不可欠なもの」ではないと主張する。その主張の趣旨は必ずしも判然としないが,仮に被告がいうように,Windowsのヘルプ表示プログラム等によって,「『ヘルプモード』ボタンの指定に引き続いて他のボタンを指定すると,当該他のボタンの説明が表示される」という機能が実現されるとしても,別紙イ号物件目録ないしロ号物件目録記載の機能は,あくまで被告製品をインストールしたパソコンによってしか実行できないものであるから,被告製品は本件発明による課題の解決に不可欠なものであり,被告製品をインストールする行為は,本件特許権を侵害する物の生産であるといわざるを得ない。
  (4) 被告は,遅くとも,平成14年11月7日に原告が申し立てた仮処分命令申立書の送達の時以降,本件発明が特許発明であること及び被告製品が本件発明の実施に用いられることを知ったものと認められる…。
  (5) 以上によれば,被告の…(別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の各製品(以下「被告製品」という。=「一太郎」「花子」)の製造,譲渡等(譲渡,貸渡し,電気通信回線を通じた提供)又は譲渡等の申出をする)行為について,特許法101条2号及び4号所定の間接侵害が成立する。


続いて、被告の権利濫用の主張が検討されている。これは、

本件発明は,その出願前に日本国内において頒布された刊行物等に記載された発明から当業者が容易に発明できるものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものであり,無効理由が存在することが明らかであるから,本件特許に基づく請求は,権利濫用として許されない。

との被告の主張によるものである。特許の無効は本来特許無効審判でまず争われるべきものとされているが、
最高裁判所の「特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、
特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、
審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、
損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。」
との判決に基づく主張であると考えられる。
(最三小判平成12年04月11日民集54巻4号1368頁、平成10年(オ)364号事件)
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/E3E11CFBA14FFAF649256ACE00268977?OPENDOCUMENT
この点について、

4 争点(3)(権利濫用)について
  (1) 公知技術
    証拠によれば,本件特許出願当時,以下のような技術が公知であったことが認められる。
   ア 昭和61年12月11日公開の引用例(特開昭61−281358の公開特許公報。甲13の25)には,次の記載がある。
    (ア) 発明の名称
      ワードプロセツサの機能説明表示方式
    (イ) 特許請求の範囲
      「文字・記号キー,削除,挿入等の編集処理を指示する機能キー及び操作説明キーを有する入力手段,該入力手段からの入力に基づいて文書もしくは操作ガイダンスを表示する表示手段を有するワードプロセッサにおいて,上記操作説明キーと上記機能キーとが連続して入力されると該機能キーにより特定される編集処理機能を説明する説明文を上記表示手段に表示することを特徴とするワードプロセッサの機能説明表示方式。」
    (ウ) 発明の効果
      「本発明によれば,操作説明キーと所望の機能キーとを連続して入力することにより,上記機能キーの処理内容を容易に確認できる。」
   イ 昭和61年4月25日発行の刊行物1(「JStarワークステーション」。…)には次の記載がある。
    (ア)〜(ウ) 略
   ウ 昭和61年5月発行の刊行物2(「日経バイト」。甲13の27)には,「…略…」との記載がある。
  (2) 本件第1発明の進歩性について
   ア 前記(1)アで認定したとおり,引用例には,機能キーと操作説明キーを有するワープロにおいて,操作説明キーと機能キーが連続して入力されると,機能キーにより特定される処理の説明を表示する発明が開示されている(以下「引用例発明」という。)。
     したがって,本件第1発明と引用例発明を対比すると,本件第1発明は,表示画面上におけるアイコンに関する発明であって,「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させるアイコン」を有するのに対し,引用例発明は,キーボードのキーを対象とする発明であって,操作説明キーを有しているが,上記のようなアイコンがないという点において,相違するものということができる。
     本件第1発明は,従来キーボードのキーに担わせていた役割を,現実のキーボードのキーと対応する必然性のない「アイコン」という別個の概念に担わせているものであるのに対し,引用例発明は,あくまで現実のキーボードのキーに関するものであるところ,キーボードのキーを対象としており,表示画面上のアイコンというもの自体が全く想定されていない引用例発明について,キーボードのキーをこれとは質的に相違するアイコンに置き換えることを示唆する刊行物はないから,キーボードのキーに関する引用例発明からアイコンに関する本件第1発明に想到することが容易であったとはいえない。
   イ 被告は,刊行物1及び刊行物2に「実際のキーボードに用意されたキーの操作」を「画面に文字以外の絵又は絵文字によって表示されるマークに対するマウスの選択」で代替させることが開示されているから,キーボードのキーを対象とする引用例に刊行物1及び刊行物2を組み合わせると,表示画面上のアイコンを対象とする本件第1発明に想到することが容易であると主張する。
     前記(1)イで認定したとおり,刊行物1には,実際のキーボードに対応する仮想キーボードを画面上に表示し,画面上に表示された仮想キーボードをマウスで操作することにより実際にキーをタイプしたのと同じになること及び特殊仮想キーボードを画面に表示し,キーボード上のキーに割り当てた機能を,仮想キーボード上で絵として表現されたマークをマウスで操作することにより選択し,実行する発明が開示されている。
     しかしながら,刊行物1に記載されているのは,画面上に実際のキーボードに対応するソフトウェアキーボードを設けた「仮想キーボード」である。この仮想キーボードの専用ウィンドウ内に表示されるキーは,あくまで「キー」とされており,「アイコン」とは完全に区別して記載されているから,刊行物1にキーボードのキーをアイコンに置き換えることが示唆されているとはいえない。
     また,前記(1)ウで認定したとおり,刊行物2は,画面上の「Yes」ボタンに代えてY,Enter又はReturnキーで選択するものにすぎず,「アイコン」に関するものではない。
     なお,本件特許出願当時,現実のキーボードや仮想キーボードのキーに絵柄をあてている文献も存在しており…,こうしたキーが画面上に表示されれば,一見アイコンに類似しているとみる余地もないわけではない。しかし,たとえキーに機能を絵で表現したマークが表示されていたとしても,現実のキーボードのキーはもとより,画面上に表示された仮想キーボードのキーも,あくまで現実のキーボードに一対一で対応するものにすぎず,その範疇を超えるものではないのに対し,アイコンは,前記1(3)で認定したとおり,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」であって,現実のキーボードのキーと対応する必然性はなく,むしろ現実のキーボードのキーに存する数量的あるいは位置的な制約を離れて,多様な機能を自由に担わせることができるものであって,この両者の間には,なお質的な相違が存在しているといわざるを得ない。
     そうすると,本件特許出願当時の当業者にとって,引用例発明と刊行物1及び刊行物2の技術を組み合わせて本件第1発明に想到することが容易であったとまではいうことができない。
   ウ さらに,被告は,刊行物2及び刊行物3により,アイコンとキーは相互置換性があるとして,キーに関する引用例発明に刊行物2及び刊行物3を組み合わせると,表示画面上のアイコンを対象とする本件第1発明に想到することが容易であるとも主張する。
     しかし,前記(1)ウで認定したとおり,刊行物2は,画面上の「Yes」ボタンに代えてキーで選択するものにすぎず,「アイコン」に関するものではない。また,前記(1)エで認定したとおり,刊行物3は,ESCキーの機能を画面上に表示されたESCマークで代替するものであって,やはり「アイコン」に関するものではないから,刊行物2及び刊行物3によりアイコンとキーは相互置換性があるということはできない。
     そうすると,本件特許出願当時の当業者にとって,引用例発明と刊行物2及び刊行物3の技術を組み合わせて本件第1発明に想到することが容易であったとまではいうことができない。
   エ なお,前記1(2)アで認定したとおり,本件特許出願当時も「アイコン」という概念自体は公知であったと認められるが,上記ア,イで判示したとおり,キーボードのキーとアイコンとは質的に相違するものであるから,「アイコン」という概念自体が公知であったことを前提としても,キーボードのキーに関する引用例発明に対して,さらに「アイコン」という概念を導入し,これらを組み合わせて本件第1発明に想到することは,本件特許出願当時の当業者にとって容易であったとまでは認められない。
  (3) 本件第2発明の進歩性について
    本件第2発明は,本件第1発明を前提とするものであるから,本件第1発明が本件特許出願当時の当業者にとって容易に想到することができたものとはいえない以上,本件第2発明も本件特許出願当時の当業者にとって容易に想到することができたものであるとはいえない。
  (4) 本件第3発明の進歩性について
    また,本件第3発明は,本件第1発明を方法の発明として表現したものであるから,本件第1発明が本件特許出願当時の当業者にとって容易に想到することができたものとはいえない以上,本件第3発明も本件特許出願当時の当業者にとって容易に想到することができたものであるとはいえない。
  (5) 以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,本件特許について,無効理由が存在することが明らかであるということはできない。

上記(1)の判断内容についてはなんともいえませんので、紹介まで。詳細は裁判所サイトの判例で。
そういうわけで、

以上のとおり,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。

と仮執行宣言も付されなかったので、しばらく実際上の影響はでない模様。
近日発売の「一太郎2005」「花子2005」がこれらの機能を有しているのかも興味深いところである。


身近な素材で、同一の特許について、一方では特許権侵害を認め、一方では否定した。
比較的わかりやすい(決して容易とまではいえないが)特許であるし、
証拠も雑誌であるので、公共図書館などで入手しやすいものである。
きちんと読んでみるといい学習になると思われるので、記しておきたい。


追記:
一太郎・花子に関する報道につきまして」株式会社ジャストシステム
http://www.justsystem.co.jp/msg/?m=jui2g01