ライブドアvsフジテレビ〜ニッポン放送をめぐる攻防〜その3

その1は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050212#1108151898
241条3項の商法の議決権消滅規定を調べている人は↑で。


その2は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050223#1109154089
導入だけです。

今回はニッポン放送新株予約権について
くわしい情報は、ニッポン放送ホームページに掲載済みです。
http://www.jolf.co.jp/company/IR1242/index.html


さて、新株予約権って?
商法に拠れば、新株予約権とは、「これを有する者(新株予約権者)が会社に対しこれを行使したときに、
会社が新株予約権者に対して、新株を発行し又は新株の発行に代えて会社の有する自己株式を義務を負うもの」
だそうだ。(280の19)う〜ん?

商法(明治三十二年三月九日法律第四十八号)

第三節ノ三 新株予約権

第280条ノ十九  新株予約権トハ之ヲ有スル者(以下新株予約権者ト称ス)ガ会社ニ対シ之ヲ行使シタルトキニ会社ガ新株予約権者ニ対シ新株ヲ発行シ又ハ之ニ代ヘテ会社ノ有スル自己ノ株式ヲ移転スル義務ヲ負フモノヲ謂フ
○2 新株予約権ニ付テハ本法ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外本節ノ定ムル所ニ依ル

http://www.findai.com/yogo/0231.htm
こんな説明もあるけど、素人にはやっぱりう〜ん?
文字通り、将来の株の引受を予約する権利でいいかなと。
ちなみに、平成14年に導入された制度のなので、古い六法にはありません。御注意を。


さて、新株予約権は、定款に定めなき限り、取締役会だけで決定、発行できます。(280の20)
つまりは、ニッポン放送取締役会の経営判断ということでしょうか。

第280条ノ20  会社ハ新株予約権ヲ発行スルコトヲ得
○2 前項ノ場合ニ於テハ左ノ事項ハ取締役会之ヲ決ス但シ定款ヲ以テ株主総会ガ之ヲ決スル旨ヲ定メタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
(各号略)

これに対して、

ニッポン放送ライブドア 24日にも仮処分申請の意向
 ライブドア堀江貴文社長は23日夜、東京都内の同社本社で会見し、ニッポン放送によるフジを割当先とした新株予約権発行について「差し止めを求める方向だ。仮処分の方向で考えている」と述べ、24日にも東京地裁に仮処分申請する意向を示した。堀江社長はまた、「一般株主に大きなリスクを負わせるもので不当。日本の株式市場の価値を毀損する」と批判、「今後もニッポン放送株を買い進める」と、徹底的に争う姿勢を強調した。
毎日新聞) - 2月24日1時6分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050223-00000160-mai-bus_all

ということだそうです。

第280条ノ39  
○4 第222条ノ2第三項、第280条ノ10及第280条ノ11ノ規定ハ新株予約権ヲ発行スル場合ニ之ヲ準用ス
第280条ノ10  会社ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ著シク不公正ナル方法ニ依リテ株式ヲ発行シ之ニ因リ株主ガ不利益ヲ受クル虞アル場合ニ於テハ其ノ株主ハ会社ニ対シ其ノ発行ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得
第280条ノ11  取締役ト通ジテ著シク不公正ナル発行価額ヲ以テ株式ヲ引受ケタル者ハ会社ニ対シ公正ナル発行価額トノ差額ニ相当スル金額ノ支払ヲ為ス義務ヲ負フ
○2 第267条乃至第268条ノ3ノ規定ハ前項ノ支払ヲ求ムル訴ニ之ヲ準用ス

会社が「著シク不公正ナル方法ニ依リテ株式ヲ発行シ之ニ因リ株主ガ不利益ヲ受クル虞アル場合」には、
その新株予約権の発行の差止を請求することができる。
なお、払込期日は、3/24であるので、それまでに請求することが必要である。
今回は、この訴訟についての筆者なりの位置付けをしつつ、どういう判断が妥当かと言う私見をかいてみたい。
(この分野の知識はかなりあいまいなので、客観的な誤りは指摘していただけると幸いです。)


まず、どのような場合が、「著シク不公正ナル方法」なのか。
この点について、弥永真生『リーガルマインド会社法第7版』322頁(有斐閣,2003)は、

…著しく不公正なる方法による新株発行 不等な目的を達成する手段として新株を発行するこという。

新株予約権についても、同じようにいえるように思われる。そして、

たとえば、…取締役…が会社支配を確保するために、ことさら自己または関係者に新株を割り当てること、
などがある。
 これらの場合は、とくに具体的な法令・定款違反はないが、全体的・実質的にみてその発行が著しく
不当であり取締役…の忠実義務(254ノ3…)違反にあたる。

ここまで、読むとライブドアが有利のようにも思える。

ただし、新株発行により株主間の支配関係に変動を生ずる場合でも、会社に現に資金調達の必要があって
新株発行が行われるならば、一部の株主のみの利益を図って新株の割当てがなされるのでないかぎり、
著しく不公正な新株発行とみることはできない。
株主に法律上または定款により新株引受権が与えられている場合を除き、第三者に対する新株発行は、
発行価額が公正であるかぎり、取締役会の権限に委ねられているからである。
このことは、基本的には、会社乗取りや買占めに対する攻防の効果を伴う新株発行についても同様である。
すなわち、会社に現に新株発行による資金調達の必要があって、発行される場合には、
引受け希望者が多いにもかかわらず防戦のために自派の者のみに不当に多数の株式を割り当てるような
場合でないかぎり、その新株発行を著しく不公正なものとみることはできない。逆に資金調達の必要がない
場合には、割当自由を支える基盤がなく、自派に割り当てて発行することは
著しく不公正な方法によるものといえる。

この点、新株発行による資金調達の必要性ついては、

休眠会社でもないかぎり、会社には資金需要は大なり小なり存在するから、資金調達の必要が
全くないといえる場合は普通存在しない。
そこで、主要目的理論が近年主張されている。すなわち、[東京地決平成元年7月25日判時1317号28頁]は、
会社の「支配権につき争いがある場合に、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、
それが第三者に割り当てられる場合、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を
維持することを主要な目的としてされたものであるときは、その新株発行は不公正発行にあたるべきというべきであり、
また、新株発行の主要な目的が右のところにあるといえない場合であっても、
その新株発行により特定の株主の持ち株比率が著しく低下されることを認識しつつ新株発行がされた場合、
その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、
その新株発行もまた不公正発行にあたるというべきである。」と判示した。

と説明されている。つまり、この下級審裁判例にあてはめるならば、本件新株予約権発行は、
理由はともかく「その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を
維持することを主要な目的としてされたものであるとき」にあたることは、ニッポン放送のコメントからも
明らかであろう。したがって、この点では、やはりライブドアに勝機があるということになる。


しかし、ニッポン放送の主張の意図を探れば、いかなる場合であっても、
「特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的として
されたものであるとき」であれば、「著シク不公正ナル方法」にあたるのか、とうことであろう。
一定の場合には、そのような意図があっても、
それだけで「著シク不公正ナル方法」に当たらない場合があるということはできないか、
ということになる。
つまり、本件に即していえば、株式公開買付がおこわれており、
これに取締役会が賛同決議している会社が、
買占め(しかも時間外での)を行う会社を排除する措置が許されるか、ということにつきる。
しかし、株式公開買付中の買占めだからダメということには決してならない。
そのような経営方針に賛同しないからこそ、買い占めたといわれればそれまでなのである。
時間外取引でなければ問題になっていなかったであろう。)
あくまで、その買占めの胡散臭さが問題であると言うことになろう。
違法(脱法的)と思われる株取得による買占めによる、経営者判断の株主保護措置の是非とでもいうべきか?


ところで、仮にかかる取引が実体的に証券取引法上違法であったとして、株取引の効果は無効となるのか?
行為が違法(罰金対象等)でも、株取得自体有効であるならば、株主たる地位を認めざるを得ない。
端的には、フジテレビ他の株主とライブドアの株主の地位をめぐる争いといった方が妥当ではないか?
結局は株式公開買付中のフジテレビが、ライブドア不法行為民法709条)により損害賠償請求できるのか?
ということに尽きるようにも思われるのである。
つまり、別途フジテレビvsライブドアという訴訟自体はあるうるし、
この訴訟であれば、フジテレビに勝機はあるようにも思えるのである。
ただし、時間がかかる。もっとも、フジテレビが勝つようなことになれば、
ライブドアの損害は大きくなるから、和解→株式譲渡という可能性はなくないだろうが…。


さて、話を戻す。
そうだとすれば、ここでニッポン放送がでてくるのは困難と言わざるを得ない。
亀渕社長のコメントももっともらしいが、結局ふさわしいかどうかは終局的に株主がきめることであろう。
そして、株主の判断について、世間がそれを受入れなければ、
会社がつぶれて、株主が損をするというシステムなのである。
だからライブドアグループであるニッポン放送がつぶれて損をするのがライブドアグループであるなら、
当然の結果で問題ないのである。
ただ、ここでつぶれるようなことになるとすれば、株式公開買付をした者が損をする恐れがある。
しかも、放送局特有のややこしさもつきまとう。(あんまり関係ないとは思うけど)
そして、株式公開買付をした者が訴訟をしても時間がかかってしまうのである。
とすれば、事例判断として、会社が株主仲裁的に元の株式比率に戻すという選択肢はあっていいようにも思うのである。
つまり、本件では、特定株主に割り当て自体は否定されないと考えるのである。
しかし、だからといって、それだけで子会社化するだけの割り当ては許されることにはならない。
ニッポン放送のやりすぎ感は否定できないであろう。
そこで、裁判所は新株予約権発行の半分程度の差止めについては、理由ありとして差し止めれば足りる、
という考え方はどうだろうか?
全面的に仮処分を認めなければ、フジテレビが損害を被り(ニッポン放送ではないんだけど)、
全面的に仮処分を認めなければ、ライブドアが損害を被ることになる。
結論だけみれば、中とった感じになってしまうが、それはそれで仕方のないような気がするのである。
違法でないにしろ、法の不備におけるフジテレビの不利益を、実際上どのようにして、裁判所が
ニッポン放送経営判断を通じて“間接的に”救済することにつき、どう判断するかが、見物のように思う。
弁護士の訴訟追行も大きく影響しそうなおもしろい事例である。
会社支配の健全性は、憲法で言う選挙の正当性に匹敵するものであって、会社統治の根本であろう。
本件は、会社支配力取得=株式取得の不健全性が問題視されているのだから、
株式判断だから…で割り切ってしまうことができず、お金で済ませばいいともいえないのである。
この点で、三井住友vsUFJの最高裁決定が、損害賠償で回復可能とし、
事実状態を尊重したことと異なるのである。

最三小決平成16年8月30日 平成16年(許)第19号
情報提供又は協議禁止仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/C431B20F06155AF149256FA3002679C2?OPENDOCUMENT

株式取得の不透明性がからんでいるだけに、
裁判所が“どこまで割り切って”判断するかがポイントのように思う。