ライブドアvsフジテレビ〜ニッポン放送をめぐる攻防〜その4〜

どうでもいいが、法定闘争あくまで主体はライブドアニッポン放送
受けて立つのは、亀渕JF社長であって、日枝フジ社長じゃないと思うのだが…。

その1は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050212#1108151898
241条3項の商法の議決権消滅規定を調べている人は↑で。


その2は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050223#1109154089
導入だけ。


その3は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050224#1109193675


昨晩、実際に仮処分申請をしたので、今日はこの点を。

ライブドア新株予約権発行の差し止め求め仮処分申請
 ライブドアは24日、ニッポン放送フジテレビジョンに対する新株予約権の発行差し止めを求める仮処分を東京地裁に申請した。ニッポン放送が予定通りフジに対し新株を発行するとライブドアの持ち株比率が低下するため、ライブドアニッポン放送の行為が既存株主の利益を損なうことを禁じた商法の「不公正発行」にあたると主張している。ニッポン放送の争奪戦は法廷闘争に突入した。
 ニッポン放送新株予約権発行は、3月下旬にフジが議決権の過半数を得るよう新株を割り当てる内容。ライブドア関係者によると、同社は24日時点で、ニッポン放送株を議決権ベースで約42%保有している。だが、ニッポン放送新株予約権を行使し、最大4720万株を新規発行すると、ライブドアの持ち株比率は約17%まで引き下げられる。
 このため、ライブドアは仮処分の申請理由として(1)フジテレビに対する「有利発行」にあたるのに、新株予約権の発行が株主総会による承認を得ていない(2)ニッポン放送は新株発行による資金調達の必要がない(3)発行目的がフジテレビによる支配権の維持(4)ニッポン放送の株価を下落させる意図が否定できない――の4項目を挙げている。
 ライブドアの仮処分申請について、ニッポン放送は24日夜、「申立書を見ていないので具体的な内容は分からないが、裁判を通して当方の正当性を主張していきたい」とコメントした。フジの日枝久会長は24日朝、「堂々と受けて立つ。(ライブドアの)一連の株買い付けの経緯なども司法の場で問いたい」と強気の姿勢を示し、村上光一社長も同日の会見で「(申し立てを)想定して今回のスキームを組んでいる。正当性はある。(差し止めが認められても)次の対策は考えている」と話した。
 一方、フジは24日、ニッポン放送株の公開買い付け(TOB)の期限を3月2日から同7日まで再延長すると発表した。ニッポン放送がフジに新株予約権の割り当てを決めたことから、期限を延ばして株主への周知徹底を図った上で、TOBの成功を目指す意向。予約権を行使する株数は、TOB終了後、取得した株式の比率に応じて決める。【後藤逸郎、保泉淳子】
毎日新聞) - 2月25日1時36分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050224-00000123-mai-soci

この記事によれば、争点は、
(1)フジテレビに対する「有利発行」にあたるのに、新株予約権の発行が株主総会による承認を得ていない
(2)ニッポン放送は新株発行による資金調達の必要がない
(3)発行目的がフジテレビによる支配権の維持
(4)ニッポン放送の株価を下落させる意図が否定できない
の4項目である。


(2)ニッポン放送は新株発行による資金調達の必要がない
については、すでに「その3」で述べたように一般に否定するのは、困難である。
(ただし、本当にあれだけの資金調達をする必要があるのか、というと、
 ↓を推認する一事情にはなると思いますけど…)
(3)発行目的がフジテレビによる支配権の維持
についても、すでに「その3」で述べました。この目的はニッポン放送自身、
あっさり認めているような気がしてなりません。
杓子定規にあてはめると、ここが一番のライブドアの勝機であり、ニッポン放送の失敗だと思います。
ただし、詳細については、その3で。


さて、前回は触れなかった(1)をみてみる。
商法には、次のように規定がある。

商法(明治三十二年三月九日法律第四十八号)


第280条ノ21  株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ新株予約権ニ付テノ前条第2項第一号、第二号及第四号乃至第八号ニ掲グル事項並ニ各新株予約権ノ最低発行価額(無償ニテ発行スル場合ニハ其ノ旨)ニ付第343条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テハ取締役ハ株主総会ニ於テ株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルコトヲ必要トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス
○2  前項ノ決議ハ新株予約権ニシテ決議ノ日ヨリ一年内ニ発行価額ノ払込(無償ニテ新株予約権ヲ発行スル場合ニハ発行)ヲ為スベキモノニ付テノミ其ノ効力ヲ有ス
○3  第280条ノ2第3項ノ規定ハ第一項ノ決議ニ之ヲ準用ス


第280条ノ20
○2 前項ノ場合[新株予約権の発行]ニ於テハ左ノ事項ハ取締役会之ヲ決ス但シ定款ヲ以テ株主総会ガ之ヲ決スル旨ヲ定メタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
一  其ノ決議ニ基キ発行スル新株予約権ノ目的タル株式ノ種類及数
二  複数ノ新株予約権ニ分割シテ発行スルトキハ発行スル新株予約権ノ総数
四  各新株予約権ノ行使ニ際シテ払込ヲ為スベキ額
八  新株予約権ノ譲渡ニ付取締役会ノ承認ヲ要スルモノトスルトキハ其ノ旨


第343条  前条第一項ノ決議ハ総株主ノ議決権ノ過半数又ハ定款ニ定ムル議決権ノ数ヲ有スル株主出席シ其ノ議決権ノ三分ノ二以上ニ当ル多数ヲ以テ之ヲ為ス
○2 前項ノ決議ニ付テハ出席ヲ要スル株主ノ有スベキ議決権ノ数ハ定款ノ定ニ依ルモ之ヲ総株主ノ議決権ノ三分ノ一未満ニ下スコトヲ得ズ


第280条ノ2
○2 株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ者ニ対シ発行スルコトヲ得ベキ株式ノ種類、数及最低発行価額ニ付第343条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テハ取締役ハ株主総会ニ於テ株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スルコトヲ必要トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス
○3 前項ノ場合ニ於ケル議案ノ要領ハ第232条[株主総会の招集]ニ定ムル通知ニ之ヲ記載又ハ記録スルコトヲ要ス
<<
つまり(1)の主張は、第280条ノ21第1項にいう「株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権
発行スル」場合であって、株主総会の特別決議(第343条)を要するのではないか、ということである。
ここにいう「株主以外ノ者」というのは、「株主ではない者のみならず、株主であっても、株主の資格以外の
立場で新株(予約権)を引き受けるときの株主も含む」とされる。(弥永真生『リーガルマインド会社法第7版』
320頁(有斐閣,2003)ただし、新株発行の項での解説である。以下同じ。)。
したがって、フジテレビが「株主以外ノ者」にあたることは間違いない。
問題は、「特ニ有利ナル条件ヲ以テ」にあたるかということである。
この点、新株発行における「特ニ有利ナル発行価額」(第280条ノ2)とは、
「通常新株を発行する場合に発行価額とすべき価額つまり公正な発行価額と比較して、とくに低い価額を意味する」
とされる。
そして、ここにいう「公正な発行価額」とは、「新株の発行が会社の資金調達のために行われ、
従つて新株の全部について引受および払込がなされることを要する反面、新株の発行によつて旧株主の有する株式の
価額が低落し旧株主が不利益を被ることを極力防止することを要する点にかんがみるときは、新株の発行により
企図される資金調達の目的が達ぜられる限度で旧株主にとり最も有利な価額である」と
東京高判昭和46年1月28日高民集24巻1号1頁は判示している。
http://courtdomino2.courts.go.jp/Kshanrei.nsf/webview/CB3C694538F907B449256CFA0007BEEA/?OpenDocument
具体的には、「普通株式を発行し、その株式が証券取引所に上場されている株式会社が、額面普通株式
株主以外の第三者に対していわゆる時価発行をして有利な資本調達を企図する場合に、
その発行価額をいかに定めるべきかは、本来は、新株主に旧株主と同等の資本的寄与を求めるべきものであり、
この見地からする発行価額は旧株の時価と等しくなければならないのであつて、このようにすれば旧株主の利益を
害することはないが、新株を消化し資本調達の目的を達成することの見地からは、
原則として発行価額を右より多少引き下げる必要があり、この要請を全く無視することもできない。
そこで、この場合における公正発行価額は、発行価額決定前の当該会社の株式価格、右株価の騰落習性、
売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行ずみ株式数、新たに発行される株式数、
株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、
旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものである。」
と最三小判昭和50年4月8日民集29巻4号350頁は、判示している(前掲弥永・320-321頁参照。)。
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/83413A1DECB0681549256A85003120F0?OPENDOCUMENT


では、「特ニ有利ナル条件」については、どう解すべきか。
この点、新株予約権の発行価額をみるのか、新株予約権行使の際の払込金額をみるのか?
その他、諸条件を勘案するのか?
思うに、新株発行の際には「株式ノ種類」「数及最低発行価額」につき総会決議が必要とされ、
「特ニ有利ナル発行価額」は「公正な発行価額と比較して、とくに低い価額」とされ、
その判断には、「…新たに発行される株式数…など諸事情を総合し」て決するとされる。
とするなら、新株予約権発行における「特ニ有利ナル条件」についても、
「行使ニ際シテ払込ヲ為スベキ額」の価額が「特ニ有利ナル価額」であるかどうかを基礎としつつ、
それが「公正な発行価額と比較して、とくに低い価額」かどうかは、
「目的タル株式ノ種類及数」「発行スル新株予約権ノ総数」などを勘案して判断するべきであろう。
また、「新株予約権ノ最低発行価額(無償ニテ発行スル場合ニハ其ノ旨)」についても総会決議に際し、
提示される事項であるから、その価額の妥当性も判断対象となろう。
本件において、「行使ニ際シテ払込ヲ為スベキ額」は5950円/株としつつも、調整するそうなので、
おそらくこの点については問題にならないように設定しているように思われる。
したがって、問題は「新株予約権ノ(最低)発行価額」の妥当性であろう。
約336 円/株ということだが、この妥当性の算出はいまいち判断に悩む。
2005年2月24日の始値(9:25)は6200円だから株価の5%といったところか。
細かいところの判断は筆者の手に負えないのだが、「特ニ有利ナル条件」とはいえないように思われる。


(4)ニッポン放送の株価を下落させる意図が否定できない
というのは、あえて「意図」を問題にしていることから、「之ニ因リ株主ガ不利益ヲ受クル虞アル場合」
という差止め要件に関わる主張とは関係ない別個の主張のように思われる。
推測ではあるが、第272条の株主の差止請求であろうか?

第二百七十二条  取締役ガ会社ノ目的ノ範囲内ニ在ラザル行為其ノ他法令又ハ定款ニ違反スル行為ヲ為シ之ニ因リ会社ニ回復スベカラザル損害ヲ生ズル虞アル場合ニ於テハ六月前ヨリ引続キ株式ヲ有スル株主ハ会社ノ為取締役ニ対シ其ノ行為ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得

ライブドアが「六月前ヨリ引続キ株式ヲ有スル株主」であるという前提であるが、
取締役が「株価を下落させる意図」で、本件新株予約権の発行を決議したのであれば、
一般的な忠実義務(第254条ノ3)違反という法令違反による差止請求であろうか。

第二百五十四条ノ三  取締役ハ法令及定款ノ定並ニ総会ノ決議ヲ遵守シ会社ノ為忠実ニ其ノ職務ヲ遂行スル義務ヲ負フ

ただ、一般的な義務でいえば、フジサンケイグループ云々という経営判断で会社価値を高めるため、
というのであるから、この点は問題になりにくいと思われる。
なお、「行使ニ際シテ払込ヲ為スベキ額」は5950円という現在の株価を下回っていること価額の設定をもって、
株価を下落させる意図であるとの主張も可能であろうが、買付け価額と同額であるから、そのような主張は
困難と思われる。


と、かなり大雑把に検討したが、最大の争点はやはり
(3)発行目的がフジテレビによる支配権の維持、であると思われる。
かなり特異な事例ではあるが、形式的な文言解釈では、ライブドアが有利と思われる。
しかし、字面だけで解釈するのが法解釈ではない。弁護士も腕の見せ所がだが、裁判官の腕の見せ所であろう。
それだけ奥の深い事例だと思うのは筆者だけであろうか。