ライブドアvsフジテレビ〜ニッポン放送をめぐる攻防〜その5

その1は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050212#1108151898
241条3項の商法の議決権消滅規定を調べている人は↑で。


その2は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050223#1109154089
導入だけ。


その3は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050224#1109193675

その4は、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050225#1109271054


昨日まで書いてきた拙稿は、手元の初学者向け会社法テキストを参考に書いたのだが、
新聞やテレビの解説をみていると三者三様、十人十色。
報道もライブドア有利からニッポン放送(フジテレビ)有利まで…。
報道などで、紹介された裁判例で特に気になったのが、
「ベルシステム24新株発行差止仮処分申立事件決定」である。
残念なことに判決文が(無料で)ネット上に見つからない。
両者プレスリリースから判断するところによれば、

http://www.csk.co.jp/news/2004/index.html
http://www.bell24.co.jp/about/release/

子会社ベルシステム24がNPIホールディングスに対して行った第三者割当増資について、
親会社CSKが「著しく不公正な方法による新株発行である」として差止を求めた事案のようである。
結論として、申立ては棄却され、ベルシステム24が勝訴したようである。
確かに、このような裁判例があることだけをあげればニッポン放送に有利である。
しかし、問題はその中身である。
評釈はともかく、決定文すら読んでいない段階でどれだけの指摘ができるかわからないが、
おそらくは「新株発行による資金調達の必要性」が重視されたということであろう。

[東京地決平成元年7月25日判時1317号28頁]
会社の「支配権につき争いがある場合に、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、
それが第三者に割り当てられる場合、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を
維持することを主要な目的としてされたものであるときは、その新株発行は不公正発行にあたるべきというべきであり、
また、新株発行の主要な目的が右のところにあるといえない場合であっても、
その新株発行により特定の株主の持ち株比率が著しく低下されることを認識しつつ新株発行がされた場合、
その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、
その新株発行もまた不公正発行にあたるというべきである。」

と同じ基準を用いたのかどうかわからない。
この基準を用いるのと、
「特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持する目的」と
「その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由」との相関関係で判断すると言うのは大きく異なる。
前者の平成元年地裁基準を踏襲した場合でも、
「特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的」を積極的に認定できず、
「その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない」ことも認定できなかったのであれば、
差止事由との判断は必ずしも不当なものとは言えない。
しかし、ニッポン放送の事例では
「特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的」であることは、
争いのない事実といっても過言ではないように思われるのである。
この点で、ニッポン放送側がベルシステム24事例も同様の事例であることを言えなければ同じ判断にはなりえない。
(しかもニッポン放送は敵対買収に対する敵対的新株発行である点もすこし違うといえば違う。)
また、仮に相関関係で判断するとしても、調達した資金で何をしたいのかが現時点では明確でないように思われる。
資金調達が資本関係の維持であるのでは、かえって支配目的を肯定するにすぎないのではないだろうか。
グループとしての「資本関係の維持」のための新株/新株予約権の発行はどの程度許されるものか、
単なる経営判断ではなく、株主の地位とも関係する大きな問題なのである。
この点について、経営判断を尊重するのでは、会社支配の正当性は担保できないでろう。
また、放送の特殊性といっても、それは取締役会判断でするべきことではないように思われる。
電波は国が管理する(国のものとはあえて言わないが…)のであれば、
そこで調整すればいい。極端な話ライブドアが放送局の株主になれないという法律があればいいのだ。
(もちろん、そんな狙い撃ち法はダメである。外資の間接支配とかでね。)
上記裁判例の詳細がわからないので、憶測にすぎないのだが、
これによっても、ニッポン放送の新株発行の正当性を肯定するには、よほどの特段の事情が必要であろう。


しかし、その3で述べたように、本件では、ライブドア側の株主としての地位の正当性にも疑問がある。
上記すべての議論はあくまで、ライブドア側が正当な株主であるとの地位を前提とするものである。
私見としては、本件の争点はまさにその点にあり、ライブドア側の株主たる地位の正当性が肯定されれば、
ニッポン放送の判断が正当なる余地はほとんどないように思われるのである。
ただ、その地位の正当性を詳細にするには、筆者の制度に対する理解不足があるので、
公開買付中の株式に対する時間外取引での取得の適法性、妥当性如何、という問題提起に留めておく。