2ちゃんねる事件評釈


少し手を抜きました。時間ないので…

東京高判平成17年3月3日平成16年(ネ)第2067号
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/15b36c2ad02d109349256795007f9d09/1645ea3eb994363849256fba0037e2fb?OpenDocument


第一審
東京地判平成16年3月11日平成15年(ワ)第15526号
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/6DDA6947E72559CE49256EC3002925FC/?OpenDocument

東京地裁2ちゃんねるの責任を否定したのに対して、東京高裁は責任を認めた。
両判決はどこが異なるのか?読み比べてみた。
東京地裁判決は、東京地方裁判所民事第46部(裁判長裁判官三村量一、裁判官大須賀寛之、裁判官松岡千帆)によるもの、
東京高裁判決は、東京高等裁判所知的財産第4部(裁判長裁判官塚原朋一、裁判官塩月秀平、裁判官 ?野輝久)によるもの、
である。
なお、事実関係は上記リンクから判決文を参照下さい。
問題のホームページ「http://comic.2ch.net/gcomic/kako/1014/10149/1014993777.html」は、
当該発言を含めてまだ閲覧可能です。「あぼーん」もありません。控訴期間中だから?


まずは、引用であるとの主張について、東京地裁は判決が以下のように述べている。

 1 争点(1)(本件各発言における本件各対談記事の転載は著作権法32条にいう引用に当たるか)について
   被告は,本件各発言の書き込みをした者(以下「本件発言者」という。)が発言の書き込みに際して本件各対談記事を引用することは,著作権法上許された引用の範囲にあると主張する。
著作権法32条1項にいう「引用」とは,紹介,参照,論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうところ,上記引用に当たるというためには,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物を明瞭に区別して認識することができ,かつ,両著作物の間に前者が主,後者が従の関係があると認められる場合でなければならないと解される。
   ……認定の事実によれば,本件各発言を閲覧した者は,本件各文章を独立した著作物として鑑賞することができるのであり,本件発言者がその発言の書き込みにおいて本件各対談記事の内容を転記したのは,本件発言者らが創作活動をする上で本件各対談記事を引用して利用しなければならなかったからではなく,本件各対談記事を閲覧させること自体を目的とするものであったと解さざるを得ない。
   したがって,本件各発言においては,その表現形式上,本件各対談記事の転載部分が従であるとはいえない(むしろ,本件各対談記事の転載部分が主であるということができる)から,本件発言者がその発言の書き込みに際して本件各対談記事の内容を転載した行為が,著作権法上許された引用に該当するということはできない。
   以上のとおり,被告の主張は採用することができない(なお,被告は,スレッドを一体としてみれば,本件各対談記事の引用部分が従であるという趣旨の主張もしているが,本件のような電子掲示板に,発言者が自由に書き込みをしているような場合には,書き込みごとに独立した著作物と解すべきであるから,被告の上記主張も採用することができない。)。

 この部分については、パロディー事件の判例と踏襲したものにすぎず、2ちゃんねる掲示板でのこのような用い方は、引用にあたらない、ということだけを確認しておけばよいように思われる。個別の書き込みを独立したものとみれば、32条の文言からしても、引用にあたらないことが問題ないし、個別の書き込みを独立したものと解することも問題ないように思われる。
 したがって、発言人自身に著作権侵害が認められることは、問題ない。問題は、掲示板の管理人に対して、著作権法上の差止を請求できるかということである。この点について、東京地裁判決は、

 2 争点(2)(原告らは,被告に対して,別紙転載文章目録記載の各発言の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを請求することができるか)について
ア 原告らは,本件各発言が著作権侵害を構成するものである以上,本件電子掲示板を設置,運営し,削除について最終的な権限及び責任を有する被告に対して,本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを請求することができると主張する。しかし,以下に述べるとおり,原告らの上記主張を採用することはできない。
    著作権法112条1項は,著作権者は,その著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を規定する。同条は,著作権の行使を完全ならしめるために,権利の円満な支配状態が現に侵害され,あるいは侵害されようとする場合において,侵害者に対し侵害の停止又は予防に必要な一定の行為を請求し得ることを定めたものであって,いわゆる物権的な権利である著作権について,物権的請求権に相当する権利を定めたものであるが,同条に規定する差止請求の相手方は,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られると解するのが相当である。けだし,民法上,所有権に基づく妨害排除請求権は,現に権利侵害を生じさせている事実をその支配内に収めている者を相手方として行使し得るものと解されているものであり,このことからすれば,著作権に基づく差止請求権についても,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者のみを相手方として,行使し得るものと解すべきだからである。この点,同様に物権的な権利と解されている特許権,商標権等についても,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して一般的に差止請求権を行使し得るものと解することができないことから,特許法,商標法等は,権利侵害を幇助する行為のうち,一定の類型の行為を限定して権利侵害とみなす行為と定めて,差止請求権の対象としているものである(特許法101条,商標法37条等参照)。著作権について,このような規定を要するまでもなく,権利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して,一般的に差止請求権を行使し得るものと解することは,不法行為を理由とする差止請求が一般的に許されていないことと矛盾するだけでなく,差止請求の相手方が無制限に広がっていくおそれもあり,ひいては,自由な表現活動を脅かす結果を招きかねないものであって,到底,採用できないものである。

としている。そして、本件における判断としては、

  イ これを本件についてみるに…,被告は本件電子掲示板を設置,運営する者であるが,本件電子掲示板は300種類以上の個別のテーマの電子掲示板から構成され,各個別のテーマの電子掲示板の中に多数のスレッドが存在していること,本件電子掲示板は公衆の用に供されている電気通信回線(インターネット)を介して無料でだれでも利用することができ,発言をしようと思う者は自由にスレッドに書き込みを行うことができるものであること,書き込まれた発言は直ちに機械的に送信可能化され,被告は送信可能化前に書き込みの内容をチェックしたり,改変したりすることはできないこと,本件各発言も,利用者たる本件発言者が本件スレッドに書き込んだものが機械的に送信可能化され,自動公衆送信されたものであること等の事情が認められる。
    上記の各事実に照らせば,本件各発言について送信可能化を行って本件各発言を自動公衆送信し得る状態にした主体は本件発言者であって,被告が侵害行為を行う主体に該当しないことは明らかである。
そうすると,原告らは,被告に対して本件各発言の送信可能化又は自動公衆送信の差止めを請求することはできないものというべきである。
  ウ この点に関する原告らの主張は必ずしも明らかではないが,現に著作権等の侵害が行われている場合,あるいは行われるおそれの高い場合に,権利を侵害された者において侵害行為を行った主体に対する差止請求を行うことが容易ではない一方で,幇助者の行為が著作権等の侵害行為に密接な関わりを有し,かつ幇助者が被害の拡大を容易に防止することができる立場にあるような場合には,当該幇助行為を行う者は著作権等の侵害主体に準ずる者として,著作権法112条1項に基づく差止請求の相手方になり得ると主張するものと解されないではない。しかしながら,このような主張を採用することができないことは,上記アにおいて説示したとおりである。
    原告らは,また,本件電子掲示板の利用者が発言の書き込みをする際に,氏名,メールアドレス等を記載する必要がなく匿名で行うことができること,著作権侵害の発言について削除要請があっても必ずしも削除されるとは限らず,書き込みをした本人であってもスレッドに掲載された発言の削除を行うことは許されていないことといった本件電子掲示板の特徴に照らすと,被告に対して差止請求を認めなければ著作権侵害に対する救済を欠くことになり,不当であるなどとも,主張する。
    しかし,まず,著作権侵害に限らず,匿名で権利侵害を行っている者に対して差止請求を認めるべきかどうか,認めるとしてどのような方法で差止めを可能ならしめるかは,基本的には立法政策の問題であって,電子掲示板における表現において,匿名での権利侵害行為がなされたからといって,侵害の主体ということができない電子掲示板の設置者ないし自動公衆送信装置の設置者に対して,特段の法規上の根拠も要することなく,差止請求権を行使することができると解することは,到底できない。殊に,憲法上自由な表現活動が保障されている下においては,表現活動に対する抑制行為は厳に謙抑的であることが求められるものであり,このような点に照らしても,原告らの主張するところは,差止請求の相手方を解釈によって無制限に拡張することにつながるもので,到底採用することができない。
    もっとも,発言者からの削除要請があるにもかかわらず,ことさら電子掲示板の設置者が,この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には,電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて,電子掲示板の設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合もあり得ようが,そのような事情の存在しない本件において,被告に対する差止請求を認める余地はない。
    ちなみに,平成14年5月27日に施行された特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号。以下「プロバイダ責任制限法」という。)3条2項においては,特定電気通信役務提供者(本件被告も,これに該当するものと解される。)において,「当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」(同項1号),又は権利を侵害されたとする者から侵害情報等を示して送信防止措置を講じるよう申出があり,当該特定電気通信役務提供者から発信者(本件においては本件発言者)に意見照会をした場合において,「当該発信者が当該照会を受けた日から7日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講じることに同意しない旨の申出がなかったとき」(同項2号)のいずれかの場合には,情報の不特定の者に対する送信(著作権法にいう送信可能化及び自動公衆送信を含むものと解される。)を防止する措置を講じたことにつき,発信者に対して損害賠償責任を負わない旨が規定されている。本件スレッドにおける発言の書き込みの送信可能化及び自動公衆送信も同法にいう「特定電気通信」に該当するものと解されるから,同法施行後に被告が送信防止の措置を講じた場合においては,上記規定が適用となる余地はある。もとより,同項の規定は,特定電気通信役務提供者のとった措置について発信者に対する損害賠償責任が生じない場合を規定しているだけで,特定電気通信役務提供者に対して送信防止措置をとるべき義務を課しているものではないが,前記…事実の下では,上記のプロバイダ責任制限法3条2項各号に規定するいずれの場合にも該当せず,送信防止措置を講じたことにつき同規定により発信者に対する損害賠償責任が免責される場合には当たらないものと解される。この規定の趣旨は,本件においても尊重するのが相当であるところ,上記のとおり送信可能化又は自動公衆送信の防止のための措置をとったことにつき発言者からの責任追及を受けるおそれなしとしない状況の下において,被告に送信可能化又は自動公衆送信を止めるべき信義則上の義務があったということもできない。
  エ 以上のとおり,被告に対して,本件各発言の送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求める原告らの請求はいずれも理由がない。

としている。本判決は、あくまで侵害主体は、発言者であるとした上で、
管理人については、差止請求の客体にはならないという判断をしたものである。
これに対して、高裁判決は、どのように判断したのか?

 2 被控訴人による著作権侵害について
  (1) 自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は,これに書き込まれた発言が著作権侵害公衆送信権の侵害)に当たるときには,そのような発言の提供の場を設けた者として,その侵害行為を放置している場合には,その侵害態様,著作権者からの申し入れの態様,さらには発言者の対応いかんによっては,その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。以下,本件の事実関係に即してこれをみてみる。……
  (4) インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する者は,著作権侵害となるような書き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく,著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。掲示板運営者は,少なくとも,著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には,可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし,更には,著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど,速やかにこれに対処すべきものである。
 本件においては,上記の著作権侵害は,本件各発言の記載自体から極めて容易に認識し得た態様のものであり,本件掲示板に本件対談記事がそのままデジタル情報として書き込まれ,この書き込みが継続していたのであるから,その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコン等に取り込まれたり,印刷されたりすることが可能な状況が生じていたものであって,明白で,かつ,深刻な態様の著作権侵害であるというべきである。被控訴人としては,編集長Aからの通知を受けた際には,直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ,発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであったというべきである。にもかかわらず,被控訴人は,上記通知に対し,発言者に対する照会すらせず,何らの是正措置を取らなかったのであるから,故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。
 被控訴人は,一人で数百にものぼる多数の電子掲示板を運営管理し,日々,刻々とこれに膨大な量の書き込みが行われるため,すべての書き込みに目を通すことは到底不可能であるから,個々の著作権侵害の事実を把握することはできない,と法廷で繰り返し強調していたが,仮に被控訴人の主張することが事実であったとしても,著作権者等から著作権侵害の事実の通知があったのに対して何らの措置も取らなかったことを踏まえないままにこのように主張するのは,自らの事業の管理態勢の不備をいう意味での過失,場合によっては侵害状態を維持容認するという意味での故意を認めるに等しく,過失責任や故意責任を免れる事由には到底なり得ない主張であるといわざるを得ない。
 以上のとおりであるから,被控訴人は,著作権法112条にいう「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当し,著作権者である控訴人らが被った損害を賠償する不法行為責任があるものというべきである。なお,著作権者が発言者に対して著作権侵害に係る発言の削除の要請をするのが容易であるならば,掲示板の運営者が著作権侵害をしていると目すべきでないこともあり得ようが,本件掲示板においては,発言者の実名,メールアドレスなどの発信者情報を得ることはできず,本件各発言の削除要請が容易であるとは到底いうことができない。
 この点に関連し,被控訴人は,本件掲示板の発信者は,IPログから追跡可能であると主張する。被控訴人の主張は,IPアドレスの記録によって発信者が特定できるとの趣旨と理解できるが,IPアドレスによって特定されるのは当該発言がいずれのプロバイダーから発信されたかにとどまり,発言者までの特定は当該プロバイダーが厳格に管理している個人情報を得て初めて可能になるものであることは,公知の事実である。被控訴人の上記主張をもってしても,被控訴人の著作権侵害による責任についての上記判断を左右することができない。
 また,被控訴人は,本件掲示板の運営者として,削除依頼は削除依頼掲示に記載すべきものとするガイドライン(甲9)を設定しており,これ以外の方法による削除要請を受理しなくともよいかのごとく主張するが,これは,被控訴人が一方的に取り決めた通告方法にすぎず,本件掲示板に何ら特別な関係を持たない控訴人らに法的な効力を及ぼすことはできない。被控訴人は,少なくとも,著作権者と称する者から通知があった場合には,その通知者が連絡を取れる実在の者であることが明らかに分かり,かつ,当該発言を読んで明らかに著作権侵害の可能性が高いと判断されるときには,発言者にその旨を通知して対応策を問い合わせる必要がある。なお,被控訴人は,ファクシミリや電子メールを読んでおらず,内容証明郵便も家族が受領して自らは見ていないと主張するが,信用することができない。仮に,被控訴人が上記のとおり一人による事業で管理態勢が不十分であるため,自己に対する電子メールや内容証明郵便も読むことができないのが事実であるとしても,これによって,不法行為責任等の判断において被控訴人が有利に評価されることはあり得ない。
 さらにまた,被控訴人は,著作権が侵害された本件書籍の送付を受けていないこと(弁論の全趣旨)から,著作権侵害の確認をすることができなかったと主張するが,上記のとおり,本件各発言の内容のみから,本件書籍が実際に刊行されたこと及びその内容がどのようなものであるかを容易に知ることができたのであるから, 被控訴人が本件書籍の提示を受けていないとしても,著作権侵害の責めを免れるものではない。
  (5) したがって,被控訴人は本件各発言を本件掲示板上において公衆送信可能状態に存続させあるいは存続可能な状態にさせたままにしている者として,著作権侵害不法行為責任を免れない。

東京地裁判決と東京高裁判決との関係をどのように捉えるべきか。
この点、東京地裁は、一定の場合に利用主体性を転換することについては、表現の自由を保障する趣旨から、
原則として否定しつつも、その一方で、「“発言者からの”削除要請があるにもかかわらず、
ことさら電子掲示板の設置者が、この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には、
電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて、」設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合を
認めている。
これに対して、東京高裁は、「自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は、
これに書き込まれた発言が著作権侵害…に当たるときには、そのような発言の提供の場を設けた者として、
その侵害行為を放置している場合には、その侵害態様,著作権者からの申し入れの態様、
さらには発言者の対応いかんによっては、その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。」
としている。
東京地裁は、発言者自身による削除要請の場合に権利侵害主体を転換する余地を認めたが、
東京高裁は、発言者自身にかぎらず、一定の場合に設置者の責任を認めたのである。
もっとも、東京地裁判決が、表現の自由を根拠として裁判所の差止を限定したのに対して、
東京高裁が一定の場合に表現の自由を制約して差止を認めうるとした根拠は明らかではない。
表現の自由は、裁判所との関係でも重要にあるにもかかわらず、それを根拠に責任を否定した地裁判決変更に際し、
その点に触れずに判決したのは、根拠薄弱と言わざるをえない。
すくなくとも、憲法問題を生じさせない理由を判示するべきであったように思われるのである。
この点、興味深いのが、表現の自由を(のひとつに)根拠にJASRACの責任を否定した
東京高判平成17年2月17日平成16年(ネ)第806号等著作権民事訴訟事件と同じ、
東京高等裁判所知的財産第4部の判決ということである。
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050221#1108985240も参照。
ただ、裁判所の構成が少し異なる。
2月17日判決は、裁判長裁判官塚原朋一、裁判官田中昌利、裁判官佐藤達文によるものであったのに対し、
本判決は、裁判長裁判官塚原朋一、裁判官塩月秀平、裁判官 高野輝久によるもので、2人も構成を異にしている。
このことがどれだけ影響するのかはわからない。
事例も異なるし、利益状況も異なる。結論自体の妥当性と言う観点からは必ずしも高裁判決が不当とはいえない。
しかし、表現の自由への配慮の観点が示されなかったのは、憲法の番人としての裁判所の資質を問わざるを得ないように思う。
では、そのような場合に、開設者に責任が認められるのか?
まず、地裁のいうように、発言者が削除を要請したにもかかわらず、削除しなかった場合には、
侵害主体性を肯定することは問題がないように思われる。
発言者の表現の自由が問題になることはないからである。
問題は、本件のように権利侵害を主張する者が削除を要請した場合に、不作為により権利侵害主体と認定しうるかである。
2月17日判決は、権利侵害が明らかでないことから表現の自由を根拠に実施的な差止である許諾中止措置を採らなかったことが、
損害賠償の対象となることを否定している。
これに対して、判決は、権利侵害が明らかになることを根拠により直接的な差止を認めている。
この整合性を保つためには、権利侵害の明白性ということに尽きるように思われるのである。
どこまで権利侵害か否かの判断責任を負わせるのが妥当かという価値判断が働いているように思えるのである。
しかし、差止のための権利侵害主体をこのように解するのは妥当ではない。
そもそも、112条の解釈としては、(特許法等の比較から)地裁の判決が妥当であって、
法は本件のような場合を想定してないと解さざるをえないとさえ思えるのである。
ただ、そうはいっても、実際上権利者が救済されないおそれもある。だからこそ、高裁判決は差止を認めたのであろう。
しかし、表現内容そのものに対する判断を要請することで責任主体を判断することは、
キャッツアイ判決も意図するところではないであろう。直接的な権利侵害主体性を認めることはやはり困難と思われる。
もっとも、だからとって、一般的な物権的な妨害排除請求を否定するものではないとも思える。
明文のない物権的請求権として、侵害回復を受忍させる、という判断で救済すればよかったのではないだろうか。
したがって、仮に差止を認めるにしても、損害賠償まで認めることは、やはり困難であろう。
少なくとも、権利侵害が確定していないにもかかわらず、請求のみで、削除義務を肯定するのは困難であろう。
翻案の事例(2月17日判決)と異なり、ある程度の判断の容易性は認められるとしても、
すくなくとも判決からは、被侵害著作物が送付された事情もなく、内容証明郵便と書き込みの文面のみから、
その判断をせまるのはやはり困難といわざるをえない。
損害賠償を認めるにしても裁判における侵害が確定した以降というべきであろう。
その意味からすると、損害賠償責任までもを認めた高裁判決は不当と言わざるを得ないであろう。