続 入試問題と著作権(2)

過去にも書いた入試問題と著作権に関して。

大学入試センター試験施行
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050116#p1
1/16「大学入試センター試験施行」の補足
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050206#1107709211
試験問題と著作権
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050412#1113239591
続 入試問題と著作権
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050427#1114595604

前にも書きましたが、こういう報道がありました。

著作権侵害と「赤本」提訴 五味太郎さんら賠償請求
 「赤本」と呼ばれる大学入試の過去の出題問題集で作品を無断使用されたとして、絵本作家の五味太郎さんら11人と財団法人川端康成記念会が27日、出版元の世界思想教学社(京都市)に計約730万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。
 訴状によると、同社は過去約30年にわたり、全国の大学入試過去問題を掲載した問題集を販売。このうち2004年度版を中心とする37シリーズで、川端氏の「雪国」などの作品が作者側の承諾を得ずに掲載されたのが確認されたという。
 中には作者や作品名を記載せず、内容を無断で改変した問題もあり、原告側は著作権使用料などに加え慰謝料の支払いを求めている。
 原告代理人の弁護士は「過去出題問題集をめぐっての提訴は初めてだが、入試問題の二次使用という著作権侵害を公然としている出版社の責任を問いたい」としている。
共同通信) - 4月27日17時45分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050427-00000186-kyodo-soci

前回下記忘れた部分があるので補足したいと思います。
前回は、著作権(著作財産権)を中心に書いたのですが、記事によれば、
「中には作者や作品名を記載せず、内容を無断で改変した問題もあり、原告側は著作権使用料などに加え慰謝料」
とあるので、著作者人格権も問題にしているようです。つまり氏名表示権及び同一性保持権です。
この点については、もともとの出題をした大学にも問題があります。
試験利用を認めた36条が、著作者人格権に影響を与えるものではありませんから(50条)、
いくら無許諾無償で利用できるといっても(営利に補償金を払う場合も)、氏名表示権及び同一性保持権侵害は許されません。

著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)
(試験問題としての複製等)
第五款 著作権の制限
(試験問題としての複製等)
第三十六条  公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2  営利を目的として前項の複製又は公衆送信を行う者は、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
著作者人格権との関係)
第五十条  この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。

もっとも、必ずしも氏名表示が必要であったり、一切の改変が許されないというわけではなく、
試験での利用で、出題目的上表示しないことが已むを得ない場合には、表示しないことも許され(19条3項)、
また、問題作成上の已むを得ない改変も許される余地があるように思います(20条2項4号)。

(氏名表示権)
第十九条  著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。
2  著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示することができる。
3  著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。
(同一性保持権)
第二十条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2  前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
 四  前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

同一性保持権に関して、加戸守行『著作権法逐条講義四訂新版』257頁(著作権情報センター,2003)では、

虫喰いの部分を埋めよという出題ならば問題ありませんけれど、例えば、この文の誤りを正せということで、原作の文章をわざわざ改変して出題するという場合がありますが、著作者の側から同一性保持権侵害とのクレームをつけられる余地がないわけではなりません。

と述べられている。程度問題でもあろうが、注意が必要である。


このような著作者人格権侵害については、出題した大学自体の侵害も主張できるわけですが、
大学をいきなり訴えても、著作者人格権侵害の慰謝料だけではたいした金額にならないのが現実ですし、
そもそも認めてくれるかどうかも不安があります。
→参照:http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050414#1113412430
それよりは、おそらく認められるであろう複製権侵害にあわせて主張して、
これで認められたら大学も訴えるという方が訴訟戦略としては現実的です。(実際にどうするかはわかりませんが)
また、いきなり大学という教育機関に喧嘩をうるのも、社会的にどうかということもあるでしょうし、
それよりは企業相手の方がいいといったところでしょうか。
この部分はあくまで推測ですが…。


実際どういう作品がどういう使われた方をしたのかわかりませんが、試験利用でも何でもありではないので注意が必要でしょう。