被告人はどこに?

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殺人事件公判「被告は弁護士の隣に」 東京地裁が決定
2005年04月28日17時31分
 刑事裁判の法廷で、被告はどこに座ればいいのか――。東京地裁の合田悦三(よしみつ)裁判長は28日開かれた殺人事件の公判で、「弁護士と並んで座りたい」という被告側と「従来通り、弁護士席の前にあるベンチに座るべきだ」という検察側が互いに譲らなかったのに対し、「被告は弁護士の隣に座ってよい」とする決定をした。弁護士席への着席を認めるのは極めて異例だ。
 司法制度改革では、裁判の迅速化と被告の防御権をどう両立させるかが重要な課題になっている。並んで座ることができれば、法廷の中でも、秘密を保った自由な意思疎通が図りやすくなる。
 被告の着席位置は法律や規則では決まっておらず、裁判長がいろいろな事情を考えて決める。それぞれの裁判所の慣例に従うことが多く、東京などは弁護士席の前のベンチが指定席。大阪などでは裁判長の正面に座る形が多く、「お白州型」と呼ばれる。
 今回、座る位置が問題になったのは殺人の罪の共犯などに問われ、無罪を主張している19歳の少女の公判。
 弁護側は従来の着席位置について「自由に意思疎通する権利が侵害される」と主張。「すでに保釈されており、逃亡防止の措置なども必要ない」としていた。
 少女は「私一人と裁判官、検事さんで裁判をやっているみたいで、不安でどうしたらいいのかわからなかった。緊張せずに落ち着いて裁判ができるように席をかえてほしい」などと訴えていた。
 裁判所は少女が保釈されていることや、未成年の事件であることなどを考え、弁護側の「席替え」希望をいったん認めた。しかし、検察側が「法廷の秩序維持が保てない。被告を特別扱いするのは裁判に対する国民の信頼を傷つける」などと異議を申し立て、「待った」をかけていた。
 合田裁判長は28日午前に開かれた公判の冒頭で「検察側には不服申し立てする利益がない」として申し立てを退ける決定をした。
http://www.asahi.com/national/update/0428/TKY200504280219.html

被告人が弁護人に並んで座りたいのであれば、そうすればいいんじゃない?と思うのだが…。
記事によれば、被告の着席位置は法律や規則では決まっていない。
基本的には慣習に従っていればいいと思うが、刑事被告人の弁護人依頼権(憲法37条3項)を考えると、
離れているということ自体があまり誉められたものではない。
そもそも検察官vs被告人で被告人を補助する立場の弁護人が離れていること自体がナンセンスである。
(実際のやりとりは検察官vs弁護人に被告人かもしれないが…。)
被告人に異議がなければ別論、被告人が望むのであればそれをかなえていいのでは?と思う。
記事では「司法制度改革では、裁判の迅速化と被告の防御権をどう両立させるか」というが、
弁護人と被告人が離れていることが裁判の迅速化に資すると朝日新聞社は考えているのだろうか?
むしろ近い方がやりとりしやすい分裁判の迅速化に資するといえるのではないだろうか?
それとも朝日新聞社はやりとりをしない方が裁判の迅速化に資するということだろうか?
被告人の権利を無視してまで裁判の迅速化を図るというのはどうかと思うが…。
毎日新聞と異なり署名がないのが残念である。


記事によれば、検察官は「法廷の秩序維持が保てない」と主張するが、
「法廷の秩序維持」を気にするのは本来裁判官であって、検察官ではないはずである。
この点に関して、元検事の落合洋司弁護士が、

被告人の着席位置については、裁判所の訴訟指揮権に基づいて決めるべき問題ということになると思いますし、被告人によって異なる取り扱いをすることは法廷の秩序維持上、問題があるという、本件での検察官の主張もわからないではありませんが、保釈中で戒護権の問題は生じない上、弁護人の隣に着席することについて、合理的な理由(意思疎通の便宜のほか、未成年者である被告人の精神面への配慮)があるようですから、今回の東京地裁の決定は妥当ではないかと思います。


殺人事件公判「被告は弁護士の隣に」 東京地裁が決定
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050428#1114696414

としている。
結論としての妥当性は認めているものの、少なくとも検察関係者は
「被告人によって異なる取り扱いをすることは法廷の秩序維持上、問題がある」ということ自体に、
不自然さを感じないようです。
一方でどこぞの大学の(刑事法系?)研究者さんは、

今回、裁判所の判断で被告人が弁護人の隣に椅子を並べて座ることが認められた。弁護人と相談しやすくするためである。
逆に、なぜ今までこのようなことがほとんど認められないのか、私なんかには理解できない。弁護人に依頼をし、相談をするのは憲法上の権利ですらある。それを相談しにくいポジションに座らせること自体、ある種、権利制限であるように感じる(特に大阪型=お白洲型)。
検察官が「法廷の秩序が保てない」と反対したそうであるが、そこまで弁護人と被告人が相談されることが嫌なのだろうか。


法廷で被告人が座る場所
http://blogs.dion.ne.jp/verdure/archives/998374.html

としている。筆者とすればこちらの考え方である。
手続保障があってこその裁判の信頼である。
記事によれば、「少女が保釈されていることや、未成年の事件であることなどを考え」てのことだそうだが、
将来的には原則弁護人の側で、逃亡の虞があるなどの特段の事由がある場合にのみ、
それを防止するための(現状のような)座席配置にするという運用に移行していけばと思う。