医師試験の合格者名公表中止

医師試験の合格者名公表中止=個人情報保護法厚労省方針
 厚生労働省は23日、医師国家試験合格者の氏名公表を中止し、受験地と受験番号のみ発表する方針を決めた。4月に個人情報保護法が全面施行されたことを受け、いったん漢字表記をやめてカタカナ表記のみとすることを決めていたが、さらに情報を制限する方向に転換した。 
時事通信) - 6月23日23時1分更新

個人情報保護法」の目的は、「個人情報の適正な取扱い」です。

個人情報の保護に関する法律(平成十五年五月三十日法律第五十七号)
第一条  この法律は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8c%c2%90%6c%8f%ee%95%f1%95%db%8c%ec&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H15HO057&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

なお、国家機関なのでより正確には、

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年五月三十日法律第五十八号)
(目的)
第一条  この法律は、行政機関において個人情報の利用が拡大していることにかんがみ、行政機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項を定めることにより、行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8c%c2%90%6c%8f%ee%95%f1&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=H15HO058&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

つまり、試験出願時に、合格者氏名が公表されることが受験者にわかっていれば、
何らその取扱いの適正に欠くものではなく、「個人情報保護法」の抵触は問題になりえません。
それにもかかわらず、なぜ「個人情報保護法が全面施行されたことを受け」なのか?
調べてみたところ、合格者の氏名の公告については、

司法試験の受験手続及び運営に関する規則(平成十五年十二月二十二日法務省令第七十七号)
第十一条
 第一次試験の合格者及び第二次試験の合格者の氏名は、官報で公告する。第二次試験の短答式及び論文式による試験の合格者の受験番号についても、同様とする。

弁理士法施行規則(平成十二年十二月二十八日通商産業省令第四百十一号)
(合格者の公告)
第九条
 工業所有権審議会会長は、弁理士試験に合格した者に、当該試験に合格したことを証する証書を授与するほか、その者の氏名を官報で公告する。

社会保険労務士法施行規則(昭和四十三年十一月二十八日厚生省・労働省令第一号)
(合格者の公告等)
第八条
 厚生労働大臣は、試験に合格した者に試験に合格したことを証する書面を交付するとともに、試験に合格した者の氏名を官報において公告するものとする。

などと規定があります。

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年五月三十日法律第五十八号)
(利用及び提供の制限)
第八条  行政機関の長は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。

しがたって、この限りでは、その公表は「取扱いの適正に欠く」とはいえません。
しかしながら、医師国家試験にはこのような規定はないのです。

医師法施行規則(昭和二十三年十月二十七日厚生省令第四十七号)
第十七条  国家試験又は予備試験に合格した者には、合格証書を交付する。

おなじ厚生労働省社会保険労務士には、氏名の公告が規定されているのに、医師国家試験にないことについては、
気になるところですが、何にせよ現状では、氏名の公告に関するする規定が省令以上にはないのです。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgiでは検索できませんでした。)
ただ、「法令に基づく場合」でなくても、「利用目的」として明示されていればいいわけです。

(個人情報の保有の制限等)
第三条  行政機関は、個人情報を保有するに当たっては、法令の定める所掌事務を遂行するため必要な場合に限り、かつ、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。
2  行政機関は、前項の規定により特定された利用の目的(以下「利用目的」という。)の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を保有してはならない。
3  行政機関は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。
(利用目的の明示)
第四条  行政機関は、本人から直接書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録(第二十四条及び第五十五条において「電磁的記録」という。)を含む。)に記録された当該本人の個人情報を取得するときは、次に掲げる場合を除き、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。
 <略>

以上のことからすれば、
法令の規定も、目的の明示もないのであれば、「個人情報保護法が全面施行を受け」て
そもそも公表できないのであって中止云々の問題でなくなります。
この場合、カタカナであっても、氏名を公表することは禁止されていることになります。
一方で、法令で規定したり、目的の明示をすれば、「個人情報保護法」の趣旨に反することにはなりません。
そうだとすれば、「氏名公表を中止」するというのは、
個人情報保護法が全面施行されたことを受け」たことと直接関係のあるものではなく、
より実体的なプライバシーの問題として捉えるべき問題のように思います。
個人情報保護法が全面施行」を理由に説明することには非常に違和感をおぼえます。


ちなみに、国家資格試験であることからすれば、氏名を公表することは、
プライバシーの観点からも特に問題はないように思います。
しなくてはいけない、ということにもならないとは思いますが…。