医師試験の合格者名公表中止(その2)

医師試験の合格者名公表中止
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050624/1119554288

前回紹介記事よりは優れています。

医師など国家試験合格者、受験地・受験番号だけ公表
 厚生労働省は23日、医師や歯科医師などの国家試験合格者について、来年から氏名の公表をやめ、受験地と受験番号だけを公表する方式に切り替えることを明らかにした。
 同省は、「(4月に完全施行された)行政機関個人情報保護法に抵触するおそれがあるため」などと説明している。
 合格者氏名の公表を取りやめると、国民が国家資格の取得者を確認する方法がなくなるため、厚労省では新たな資格確認の方法を考える検討会を来月中に発足させる予定だが、同法を理由に公共性の高い国家試験合格者の氏名を非公表とする動きには批判も出そうだ。
 医師らの国家試験合格者について厚労省は従来、本人への合格通知とは別に、受験地と受験番号、カタカナ氏名を同省などに掲示してきたほか、報道機関を通じて漢字氏名を公表してきたが、同法の完全施行を受け、今春の試験では報道機関への公表もカタカナに統一。さらに来年からは、カタカナでの公表も取りやめることを決めた。
(読売新聞) - 6月24日1時24分更新

その1にも書いたが、行政機関個人情報保護法との関係で問題になるのは、無断での報道機関への提供ということだろう。
(ただし、報道機関が合理的な手段で入手して公表することは例外規定にあたろう。)
掲示については、受験要項に「合格発表は、○月×日、掲示場所に受験番号、氏名を掲示して行うとともに…」と
記載しておけば足りるように思う。(さらにいえば、「○○新聞を通じて公表します」とすればよい。)
どうも国家機関は個人情報保護法を個人情報秘匿法か何かと勘違いしているように思うのである。
法文上の趣旨からすれば、個人情報の取扱いの適正化に関する法律である。
ここでの「保護」=適正に取扱うということである。
もちろん、明示すれば何だって許されるわけではないだろうが、それは本法の目的ではないように思う。
少なくとも、国家試験合格者氏名の公表には一定の合理性が認められるところ、
これを法定・明示すれば、それを行うことは可能ではないだろうか?
行政機関個人情報保護法の規定をみると、

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年五月三十日法律第五十八号)
(個人情報の保有の制限等)
第三条  行政機関は、個人情報を保有するに当たっては、法令の定める所掌事務を遂行するため必要な場合に限り、かつ、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。
2  行政機関は、前項の規定により特定された利用の目的(以下「利用目的」という。)の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を保有してはならない。
3  行政機関は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。
(利用目的の明示)
第四条  行政機関は、本人から直接書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録(第二十四条及び第五十五条において「電磁的記録」という。)を含む。)に記録された当該本人の個人情報を取得するときは、次に掲げる場合を除き、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。
 四  取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められるとき。

本法は、目的変更の際に当初の目的との合理的関連性は要求しているが、当初の目的の合理性は要求していない。
あくまで手続的な規定というべきであろう。
そうだとすれば、「(4月に完全施行された)行政機関個人情報保護法に抵触するおそれがあるため」公表を取りやめる、
というのは、個人情報保護法を誤解していると言わざるを得ないであろう。
このような発表をした行政職員の法律理解力を疑うし、報道機関も何の疑問ももたなかったのであろうか?
こういう報道の仕方によって、個人情報保護法の目的が益々誤解されていくことを危惧している。
改めて書こう。
行政機関個人情報保護法に抵触するおそれがある」のであれば、公表する旨法定・明記すれば足りる。
公表することそのものが妥当かどうかは、行政機関個人情報保護法の本来的守備範囲ではない。
そのことの誤解のないようにしていただきたい。


なお、“国家資格”試験であるという時点で合格者氏名は公表するべきと筆者は考えている。
少なくとも“医師”国家試験という試験での合格者の公表は必要不可欠であろう。
もちろん、合格証書による1対1確認は可能であろう。しかし、それだけでは不十分ではないだろうか。
だからこそ、「新たな資格確認の方法を考える検討会を来月中に発足させる予定」というのであろう。
ならどうするのか?結局は何らかの公表がされることになるのではないか?
(もっとも、そうならないように検討会をもつのだろうが…。)
そうすると、今回の措置は今まで漫然と公表し、公表のための法整備を怠ってきた厚生労働省の怠慢のように思えてならない。