企業研修での放送番組利用〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(22)〜

総目次
http://page.freett.com/okeydokey/html/copyrightQA.html
目次1〜20
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050821/1124559935

美術の著作物の著作権著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(11)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050509/1115577829
著作権は誰でももてるか/ホームページへの音楽ファイル掲載〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(12)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050511/1115748685
時刻表の著作権著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(13)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050513/1115915809
パソコンソフトの私的複製〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(14)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050514/1116011532
画風について〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(15)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050529/1117299022
FTPでファイル共有〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(16)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050608/1118167552
キットの組み立て〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(17)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050630/1120065359
引用による著作者に対する名誉毀損の成否〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(18)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050711/1121016269
モナリザの利用・鳥獣戯画の利用〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(19)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050815/1124075685
著作権等管理事業者関係〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(20)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050820/1124469394
医学分野の特許〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(21)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050831/1125480878
※この一覧はあくまで「はてな」での質問に関連して回答したものです。
 著作権絡みの記述は他にもありますので興味のある方は検索してみてください。

question:1124186191
家で私的に録画されていたTV番組の中で仕事の参考になる内容がありました。会社の研修教育で参考事例として紹介するために、録画されていたHDレコーダーをそのまま持参するとか、DVD-Rにダビングして持参するとかして、会社会議室のプロジェクターでオフィシャルに上映するにはどのような手続きを取るのが最良でしょうか?実態と著作権法などの両面で説明してある説得力のあるページを教えて下さい。※例としてNHKのホームページではhttp://www.nhk.or.jp/toppage/nhk_info/copyright.html「番組関係者全員の許諾が必要・・・」とあるだけで具体的な方策が書かれていません。また、「教育の場はOK」と明示されていますが、企業内教育や社会人の自己啓発の事ではない見たいです。

1.テレビ番組を録画することは、著作者の著作権(複製権)、放送事業者の著作隣接権(複製権)を侵害しうる行為である。

(複製権)
第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
(複製権)
第九十八条  放送事業者は、その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、その放送に係る音又は影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する。

2.ただし、自宅でTV番組を録画することは、私的使用のための複製として、権利が制限され、適法である。

(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
著作隣接権の制限)
第百二条  第三十条第一項…の規定は、著作隣接権の目的となつている実演、レコード、放送又は有線放送の利用について準用し、第三十条第二項及び第四十七条の三の規定は、著作隣接権の目的となつている実演又はレコードの利用について準用…する。…

「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する」という目的をこえると、複製権侵害とみなされる。
回答1のコメントに「数十人の研修の資料として」とあることからすれば、超えることに問題ないように思われる。
したがって、「家で私的に録画」することは許されるが、「DVD-Rにダビング」することは、許されない。


3.さらに、「家で私的に録画」していたものも、これを目的外に使用するとはできない。

(複製物の目的外使用等)
第四十九条  次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。
 一  第三十条第一項…に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者
著作隣接権の制限)
第百二条
4  次に掲げる者は、…第九十八条…の録音、録画又は複製を行つたものとみなす。
 一  第一項において準用する第三十条第一項…に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された実演等の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該実演、当該レコードに係る音若しくは当該放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を公衆に提示した者

「録画されていたHDレコーダーをそのまま持参」しても、目的外で利用すると、やはり違法となる。

追記(05.09.03 補足1):
より条文に正確には、私的使用目的以外の目的のために
「複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した」場合には、違法とみなされることになる。


ところで、著作物を公に上映すると、著作者の上映権侵害となりうる。

(上映権)
第二十二条の二  著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。
(上演権及び演奏権)
第二十二条  著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
5  この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。

「多数」概念は相対的だが、「数十人の研修の資料として」上映すると、「公に」といいうる。
ただし、非営利無料の上映については、上映権が制限される。

(営利を目的としない上演等)
第三十八条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

もっとも、会社での研修なので「営利を目的とせず」とはいえない。
また、仮に「営利を目的とせず」にあたり、38条1項の要件をみたすとしても、
上映行為の権利制限が、前提となる複製行為の適法性に影響を与えるものではないので、
(一方で上映行為の適法性は複製行為の違法性の影響を受けないので、)
(上映行為は適法であっても、)結局は複製権侵害が問題となることになる。

追記(05.09.03 補足2):
すでに述べたように、私的使用目的以外の目的のために
「複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した」場合には、違法とみなされることになる。
公衆提示行為(例えば上映行為)が権利制限規定により違法とならない場合でも(例えば上記38条1項)、
違法な複製とみなされない、ということにはならない。
もっとも、複製物頒布や公衆提示行為について、その前提となる複製権が制限されている場合には、複製権侵害とならない。
例えば、私的使用目的で複製した著作物を裁判資料として提出する場合には、無許諾でも複製権侵害とならない。
(42条、47条の3本文)
参考文献
渋谷達紀『知的財産法講義II 著作権法・意匠法』129-132頁(有斐閣,2004)


なお、放送事業者に上映権はない。
ただし、

(テレビジョン放送の伝達権)
第百条  放送事業者は、そのテレビジョン放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利を専有する。

複製権のみを認めれば十分ということか?


したがって何にせよ権利処理が必要になる。
ただ、放送局は「違法だよ」とは言っても「じゃあどうやって許諾を得るの?」という疑問に応えることには極めて消極的である。
権利保護を主張するわりには、その権利の利用法について積極的に明示しないのは極めてナンセンスである。
ちなみに、NHKについては、
財団法人NHKサービスセンターhttp://www.nhk-sc.or.jp/)の
アーカイブス事業部(https://www.nhk-sc.or.jp/archives/top/index.html)で、
放送素材提供、番組提供がなされている(要フラッシュ)。

番組提供
NHKに保存されている放送番組は、博物館・美術館や
企業研修などにご利用いただくことができます。

NHKサービスセンターアーカイブス事業部では、おもに法人のさまを対象に
様々な権利をクリアした上で番組提供をしています。
「もう一度見たい」「録画をするのを忘れたのでかした欲しい」というご要望には
著作権法上、対応できませんのでご了承ください。
https://www.nhk-sc.or.jp/archives/top/index3.html

とのことなので、ここに問い合わせるとよいでしょう。どこまで権利をクリアしてくれるのかも含めて。


質問とは関係ないが、

「もう一度見たい」「録画をするのを忘れたのでかした欲しい」というご要望には
著作権法上、対応できませんのでご了承ください

というのはよくわかりません。これも権利処理すればいいのでは?権利処理しない提供ということか?