選挙運動とインターネット

IT選挙が検討課題に 自民が民主HPを批判
 自民党が1日、民主党のホームページ(HP)上に選挙関連情報を掲載したのは公職選挙法違反に当たると批判したことで、情報技術(IT)化が進む中、選挙運動の在り方とインターネット利用があらためて検討課題に浮上しそうだ。
 公選法は「選挙運動」で、規定のビラやはがきなどを除く「文書図画」の頒布を禁じている。人の視覚に訴えかけるものはすべて文書図画と解され、候補者名や政党名などが記されたホームページやブログ(日記風サイト)の画面も公示日以降は公選法の規制を受け、更新ができなくなる。
 自民党が今回問題にしたのは、民主党HPの30日付の書き込みや幹部の遊説日程を記した1日のメールマガジン自民党はHPやメルマガを公示日以降更新していないという。
共同通信) - 9月1日20時42分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050901-00000192-kyodo-pol

とりあえずは、該当条文。
記事は、「「文書図画」の頒布を禁じている。」としているが…。

公職選挙法(昭和二十五年四月十五日法律第百号)(抄)
(文書図画の頒布)
第百四十二条  衆議院比例代表選出)議員の選挙以外の選挙においては、選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号に規定する通常葉書及び第一号から第二号までに規定するビラのほかは、頒布することができない。この場合において、ビラについては、散布することができない。
 一  衆議院小選挙区選出)議員の選挙にあつては、候補者一人について、通常葉書 三万五千枚、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に届け出た二種類以内のビラ 七万枚
2  前項の規定にかかわらず、衆議院小選挙区選出)議員の選挙においては、候補者届出政党は、その届け出た候補者に係る選挙区を包括する都道府県ごとに、二万枚に当該都道府県における当該候補者届出政党の届出候補者の数を乗じて得た数以内の通常葉書及び四万枚に当該都道府県における当該候補者届出政党の届出候補者の数を乗じて得た数以内のビラを、選挙運動のために頒布(散布を除く。)することができる。ただし、ビラについては、その届け出た候補者に係る選挙区ごとに四万枚以内で頒布するほかは、頒布することができない。
3項以下省略

ホームページは頒布できないから、文書図画の禁止にあたるというのは明らかに誤りといべきです。
HDDを配っているんだったらそれでもいいですけど、違いますね。

(パンフレット又は書籍の頒布)
第百四十二条の二  前条第一項及び第四項の規定にかかわらず、衆議院議員の総選挙又は参議院議員通常選挙においては、候補者届出政党若しくは衆議院名簿届出政党等又は参議院名簿届出政党等は、当該候補者届出政党若しくは衆議院名簿届出政党等又は参議院名簿届出政党等の本部において直接発行するパンフレット又は書籍で国政に関する重要政策及びこれを実現するための基本的な方策等を記載したもの又はこれらの要旨等を記載したものとして総務大臣に届け出たそれぞれ一種類のパンフレット又は書籍を、選挙運動のために頒布(散布を除く。)することができる。
2  前項のパンフレット又は書籍は、次に掲げる方法によらなければ、頒布することができない。
 一  当該候補者届出政党若しくは衆議院名簿届出政党等又は参議院名簿届出政党等の選挙事務所内、政党演説会若しくは政党等演説会の会場内又は街頭演説の場所における頒布
 二  当該候補者届出政党若しくは衆議院名簿届出政党等又は参議院名簿届出政党等に所属する者(参議院名簿登載者を含む。次項において同じ。)である当該衆議院議員の総選挙又は参議院議員通常選挙における公職の候補者の選挙事務所内、個人演説会の会場内又は街頭演説の場所における頒布
3  第一項のパンフレット又は書籍には、当該候補者届出政党若しくは衆議院名簿届出政党等又は参議院名簿届出政党等に所属する者である当該衆議院議員の総選挙又は参議院議員通常選挙における公職の候補者(当該候補者届出政党若しくは衆議院名簿届出政党等又は参議院名簿届出政党等の代表者を除く。)の氏名又はその氏名が類推されるような事項を記載することができない。
4  第一項のパンフレット及び書籍には、その表紙に、当該候補者届出政党若しくは衆議院名簿届出政党等又は参議院名簿届出政党等の名称、頒布責任者及び印刷者の氏名(法人にあつては名称)及び住所並びに同項のパンフレット又は書籍である旨を表示する記号を記載しなければならない。

おなじく頒布できないから、第142条の2にもあたりません。
どちらかというと、文書図画の掲示に近いかと。

(文書図画の掲示
第百四十三条  選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号のいずれかに該当するもの(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては、第一号、第二号、第四号及び第五号に該当するものであつて衆議院名簿届出政党等が使用するもの)のほかは、掲示することができない。
 一  選挙事務所を表示するために、その場所において使用するポスター、立札、ちようちん及び看板の類
 二  第百四十一条の規定により選挙運動のために使用される自動車又は船舶に取り付けて使用するポスター、立札、ちようちん及び看板の類
 三  公職の候補者が使用するたすき、胸章及び腕章の類
 四  演説会場においてその演説会の開催中使用するポスター、立札、ちようちん及び看板の類
 四の二  個人演説会告知用ポスター(衆議院小選挙区選出議員、参議院選挙区選出議員又は都道府県知事の選挙の場合に限る。)
 五  前各号に掲げるものを除くほか、選挙運動のために使用するポスター(参議院比例代表選出議員の選挙にあつては、公職の候補者たる参議院名簿登載者が使用するものに限る。)
2  選挙運動のために、アドバルーン、ネオン・サイン又は電光による表示、スライドその他の方法による映写等の類を掲示する行為は、前項の禁止行為に該当するものとみなす。
3  衆議院小選挙区選出)議員、参議院(選挙区選出)議員又は都道府県知事の選挙については、第一項第四号の二の個人演説会告知用ポスター及び同項第五号の規定により選挙運動のために使用するポスター(衆議院小選挙区選出議員の選挙において候補者届出政党が使用するものを除く。)は、第百四十四条の二第一項の規定により設置されたポスターの掲示場ごとに公職の候補者一人につきそれぞれ一枚を限り掲示するほかは、掲示することができない。
4  第百四十四条の二第八項の規定によりポスターの掲示場を設けることとした都道府県の議会の議員並びに市町村の議会の議員及び長の選挙については、第一項第五号の規定により選挙運動のために使用するポスターは、同条第八項の規定により設置されたポスターの掲示場ごとに公職の候補者一人につきそれぞれ一枚を限り掲示するほかは、掲示することができない。
5  第一項第一号の規定により選挙事務所を表示するための文書図画は、第百二十九条の規定にかかわらず、選挙の当日においても、掲示することができる。
6  第一項第四号の二の個人演説会告知用ポスター及び同項第五号の規定により選挙運動のために使用するポスターは、第百二十九条の規定にかかわらず、選挙の当日においても、掲示しておくことができる。
7  第一項第一号の規定により掲示することができるポスター、立札及び看板の類の数は、選挙事務所ごとに、通じて三をこえることができない。
8  第一項第四号の規定により掲示することができるポスター、立札及び看板の類の数は、演説会場外に掲示するものについては、会場ごとに、通じて二を超えることができない。
9  第一項に規定するポスター(同項第四号の二及び第五号のポスターを除く。)、立札及び看板の類は、縦二百七十三センチメートル、横七十三センチメートル(同項第一号のポスター、立札及び看板の類にあつては、縦三百五十センチメートル、横百センチメートル)をこえてはならない。
10  第一項の規定により掲示することができるちようちんの類は、それぞれ一箇とし、その大きさは、高さ八十五センチメートル、直径四十五センチメートルを超えてはならない。
11  第一項第四号の二の個人演説会告知用ポスターは、長さ四十二センチメートル、幅十センチメートルをこえてはならない。
12  前項のポスターは、第一項第五号のポスターと合わせて作成し、掲示することができる。
13  第一項第四号の二の個人演説会告知用ポスターには、その表面に掲示責任者の氏名及び住所を記載しなければならない。
14  衆議院小選挙区選出)議員又は参議院議員の選挙においては、公職の候補者は、政令で定めるところにより、政令で定める額の範囲内で、第一項第一号及び第二号の立札及び看板の類、同項第四号の二の個人演説会告知用ポスター(衆議院小選挙区選出議員又は参議院選挙区選出議員の選挙の場合に限る。)並びに同項第五号のポスターを無料で作成することができる。この場合においては、第百四十一条第七項ただし書の規定を準用する。
15  略
16  公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この項において「公職の候補者等」という。)の政治活動のために使用される当該公職の候補者等の氏名又は当該公職の候補者等の氏名が類推されるような事項を表示する文書図画及び第百九十九条の五第一項に規定する後援団体(以下この項において「後援団体」という。)の政治活動のために使用される当該後援団体の名称を表示する文書図画で、次に掲げるもの以外のものを掲示する行為は、第一項の禁止行為に該当するものとみなす。
 一  立札及び看板の類で、公職の候補者等一人につき又は同一の公職の候補者等に係る後援団体のすべてを通じて政令で定める総数の範囲内で、かつ、当該公職の候補者等又は当該後援団体が政治活動のために使用する事務所ごとにその場所において通じて二を限り、掲示されるもの
 二  ポスターで、当該ポスターを掲示するためのベニヤ板、プラスチック板その他これらに類するものを用いて掲示されるもの以外のもの(公職の候補者等若しくは後援団体の政治活動のために使用する事務所若しくは連絡所を表示し、又は後援団体の構成員であることを表示するために掲示されるもの及び第十九項各号の区分による当該選挙ごとの一定期間内に当該選挙区(選挙区がないときは、選挙の行われる区域)内に掲示されるものを除く。)
 三  政治活動のためにする演説会、講演会、研修会その他これらに類する集会(以下この号において「演説会等」という。)の会場において当該演説会等の開催中使用されるもの
 四  第十四章の三の規定により使用することができるもの
17  前項第一号の立札及び看板の類は、縦百五十センチメートル、横四十センチメートルを超えないものであり、かつ、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会衆議院比例代表選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙については、中央選挙管理会)の定めるところの表示をしたものでなければならない。
18  第十六項第二号のポスターには、その表面に掲示責任者及び印刷者の氏名(法人にあつては名称)及び住所を記載しなければならない。
19  第十六項において「一定期間」とは、次の各号に定める期間とする。
 一  衆議院議員の総選挙にあつては、衆議院議員の任期満了の日の六月前の日から当該総選挙の期日までの間又は衆議院の解散の日の翌日から当該総選挙の期日までの間

記事にある「頒布」よりも「掲示」に近いでしょう。
もし、自民党が「頒布」だと言っているんだったら、その思考が問題ですね。
法案政策能力にも問題があると言わざるを得ません。文言を拡大意図して法律を作っていることになるのだから。
そうでないなら、共同通信に誤解を招く表現をやめさせましょう。
さりげない一文ですが、自民党の主張か共同通信の作文かは大きな違いがあります。
さて、「掲示」に近いとは書いたけれども、
「ホームページへの掲載」がそもそも「文書図画の掲示」という文言に合致するか?

ぶんしょ 1 【文書】
〔古くは「ぶんじょ」とも〕文字で書き記したもの。書き物。かきつけ。書類。もんじょ。
[ 大辞林 提供:三省堂 ]
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?index=18129100&p=%CA%B8%BD%F1&dtype=0&stype=1&dname=0ss&pagenum=1

とが ―ぐわ 1 【図画】
「ずが(図画)」に同じ。〔法曹界では「とが」と呼び慣らわす〕
[ 大辞林 提供:三省堂 ]
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?index=14493200&p=%BF%DE%B2%E8&dtype=0&stype=1&dname=0ss&pagenum=1


ずが づぐわ 1 【図画】
1 図と画。また、絵をかくこと。絵。
→とが(図画)
[ 大辞林 提供:三省堂 ]
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?index=10678100&p=%BF%DE%B2%E8&dtype=0&stype=1&dname=0ss&pagenum=1

けいじ 0 【掲示
(名)スル
人目につきやすい所に掲げ示すこと。また、示された文書。
[ 大辞林 提供:三省堂 ]
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?index=06080000&p=%B7%C7%BC%A8&dtype=0&stype=0&dname=0ss&pagenum=1

ということなので、ホームページもサイバー空間という「人目につきやすい所」に
「文字で書き記したもの」「図と画」を「掲げ示す」といえるので、文言には合致することになる。
もっとも、この条文は選挙運動の自由・表現の自由という民主主義の発展に不可欠な人権を、
選挙の公正という観点から制約するものである。
そして、公職選挙法がこのような規制をしているのは、ポスターという有体物の掲示においては、
有体物複製の費用のかかることから、お金をかけれるものとそうでないものと差異をなくすためのものである。
そうだとすれば、サイバースペースの掲載は、大量複製という行為を要するものではないのだから、
そもそも、本法の予定しないものというべきで、これを制限しているとの解釈は、憲法上問題があるというべきではないだろうか。
だからといって、度に広汎な規制ゆえに文面無効としていいかというと問題が残ろうが、
(時代の流れからして)合憲限定解釈として、ホームページは規制されないというべきであろう。
ただし、今後も現行規定が改正されないならば、文面上無効といってもいいように思うのである。
筆者としては、総選挙後の国会で公職選挙法改正議論を行い、あるべきルール作り策定するのが望ましいと思う。


なお、

(文書図画の頒布又は掲示につき禁止を免れる行為の制限)
第百四十六条  何人も、選挙運動の期間中は、著述、演芸等の広告その他いかなる名義をもつてするを問わず、第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為として、公職の候補者の氏名若しくはシンボル・マーク、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない。
2  前項の規定の適用については、選挙運動の期間中、公職の候補者の氏名、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者の推薦届出者その他選挙運動に従事する者若しくは公職の候補者と同一戸籍内に在る者の氏名を表示した年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これに類似する挨拶状を当該公職の候補者の選挙区(選挙区がないときはその区域)内に頒布し又は掲示する行為は、第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為とみなす。

にあたらないと解すべきのも同様である。
そもそも「第百四十二条又は第百四十三条の禁止」にあたらないというべきだからである。


ちなみに、

自民党民主党HPは公選法抵触と総務省に注意求める
 自民党は1日、民主党がインターネットのホームページ(HP)に衆院選公示(8月30日)以降の情報を掲載したり、メールマガジンを公示後も発行し続けているのは公職選挙法に抵触するとして、総務省に注意を求めた。記者会見した自民党世耕弘成幹事長補佐は「民主党が1日に発行したメルマガには党幹部の遊説日程や郵政民営化の比較論文などが載っており、まさに選挙運動そのものだ」と指摘した。
 総務省によると、選挙運動のインターネット利用は、公選法上明確な規定はない。同省は「HP更新やメルマガ発行は違法な文書配布にあたる」と解釈しているが、「実際に選挙違反になるかどうかは司法判断を待つしかない」との立場だ。
 民主党は「メルマガは登録者のみに配信しており問題ないと考えている」と反論している。【山下修毅】
毎日新聞) - 9月1日20時57分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050901-00000116-mai-pol

となっている。具体的にどういけないと主張しているのかわからないが、
政府自民党は政府であって国民の立場にないと思えてならない。
なお、ここでも「HP更新やメルマガ発行は違法な文書配布にあたる」という。
「HP更新」が「配布」というのであれば、国語の法律の問題ではなく国語の問題である。
「メルマガ発行」も「配布」かというと疑わしい。

はいふ 0 1 【配布】
広くゆきわたるように配ること。
[ 大辞林 提供:三省堂 ]
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?index=16084800&p=%C7%DB%C9%DB&dtype=0&stype=0&dname=0ss&pagenum=1


くば・る 2 【配る】
(動ラ五[四])
1 割りあてて渡す。分配する。
「郵便物を―・って歩く」「プリントを生徒に―・る」

[ 大辞林 提供:三省堂 ]
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?index=05734900&p=%C7%DB%A4%EB&dtype=0&stype=0&dname=0ss&pagenum=1

「メルマガ発行」は「HP更新」とは異なり現行法上文言的にも規制されていないと思うのだが…。
(だからといって送りまくると印象が悪くなって結果票を得れないだけ。)

そもそも「公選法上明確な規定はない」のに「違法」という考えが生じること自体、
現行法に「萎縮」しているのであって、違憲な状態だと思うのである。