有限責任中間法人日本著作権教育研究会発行『〜教室で迷った時の一冊〜先生のための著作権ハンドブック』

先日、旭屋書店で『〜教室で迷った時の一冊〜先生のための著作権ハンドブック』という小冊子を見つけた。

書名 『〜教室で迷った時の一冊〜先生のための著作権ハンドブック』
著者 内田弘二
仕様 A6判変形(175mm×115mm)/120ページ
定価 500円[税込] (送料 200円)
発行 有限責任中間法人日本著作権教育研究会 http://www.jcea.info/
http://www.jcea.info/hand.html

とある。残念ながら、ISBNがなく、アマゾンなどの多くの書店サイトには掲載されていないようで、
ネットで購入するとなると、

netdirect旭屋書店
http://www.netdirect.co.jp/search/ISSSchDetail.asp?ISBN=2311012231

だろうか。
ワンコインだったので買ってみた。感想を少し。


1頁 表紙
2頁 今なぜ著作権なのか
3頁 小泉内閣知財戦略
 あくまで本書が、「先生のための著作権ハンドブック」とことからすれば、
 知的財産権一般に関することは否定しないけれども、
 知財戦略の説明で産業財産権を例に説明するのはあまり意味がない。
 著作権との関係で説明すべきではないか?
4頁 インターネットの普及
 インターネットの普及による著作権侵害の拡大についてはともかく、
 P2P開発者の著作権法違反での起訴に触れ、「今後こうした事件が増えることも想像されます。」という。
 著作権侵害の重大性を認識させることは重要だけれども、
 争いある事項を強調して、利用を過度に萎縮させることにもなりかねず、それはそれで問題があるように思う。
5頁 了解ととって使う
 「大切なことは、使う前に一言『使わせてください』とお断りしておくことです。」
 確かにそうだ。しかし、この段階では「使わせてください」というべき利用法は説明されていない。
 本題に入る前段階ではあるので、どこまで説明するべきかは難しいのが、
 著作権の対象となる利用とそうでない利用(使用と区別することもある)の差異をどこまで意識した文章であるかは
 少し疑わしい文章のように思う。
 著作物の無断利用がすべて著作権侵害となるわけではない、ということもまた必要な認識である。 
 「教室で教鞭を執られる先生方には、著作権を正しく理解して頂き、大いに著作物を利用し、
  日本の教育をもっと素晴らしいものにして頂きたいますようにお願いする次第です。」
 ということには賛同するが…。
6頁 目次


7頁〜20頁 第一章 著作権法を理解する
特に気になったことだけ書くと、
例などを含めて「先生のための著作権ハンドブック」という点から、
重要な部分をもう少し丁寧にし、そうでないところと区別すればよかったのではないかと。


21頁〜40頁 第二章 著作物が許諾なく利用できるケース
これも特に気になったことだけ書くと、
35条の説明で主体が「教育を担任する者」のみになっていた点は気になりました。
ここでも教育場面のでの利用に関係のあるものはもっと丁寧に説明してもいいのにと思いますが、
第四章の「ケーススタディ」である程度くわしく説明されているので、そちらを参照ということでしょう。


41頁〜46頁 第三章 著作物を正しく使おう
だいたいはそうなんでしょうけど、この説明がどれだけ実用性があるのかは、ちょっとわかりません。
わからない人には、これではわからないし、わかっている人にはわかっているという感じではないかと。


47頁〜61頁 第四章 ケーススタディ(教育現場と著作権
内容については割愛。
見解の相違だけではない気になるところも数点あるのですが…。


62頁 「迷ったときはご相談を」とのこと。


さて、まだ全120頁の約半分なのだが、63-118頁は著作権法の条文(63頁は条文表紙)である。
このことをどう評価するかで、500円の価値も多少は変わる。
条文を簡単に参照できることを評価すればそれになりに便利である。
各条末に「(昭和六一法六四・一部改正)」(1条の例)などとの記載がある。
しかし、附則がすべて省略されている点が残念である。
また、いつ現在の法文かを明記していない点も残念である。
ちなみに最近の改正は(参考:http://www.ron.gr.jp/law/law/chosaku.htm)、

行政事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年6月9日法律第84号)
施行:平成17年4月1日
第八条 次に掲げる法律の規定中「三月」を「六月」に改める。
 十 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第七十二条第一項
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905066.htm

著作権法の一部を改正する法律(平成16年6月9日法律第92号)
施行:平成17年1月1日

裁判所法等の一部を改正する法律(平成16年6月18日法律第120号)
施行:平成17年4月1日
著作権法の一部改正)
第九条 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。
  第百十四条の三第一項中「裁判所は」の下に「、著作者人格権」を、「出版権」の下に「、実演家人格権」を加え、同条第三項中「前二項」を「前三項」に改め、「規定は」の下に「、著作者人格権」を、「出版権」の下に「、実演家人格権」を加え、同項を同条第四項とし、同条第二項の次に次の一項を加える。
 3 裁判所は、前項の場合において、第一項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかについて前項後段の書類を開示してその意見を聴くことが必要であると認めるときは、当事者等(当事者(法人である場合にあつては、その代表者)又は当事者の代理人(訴訟代理人及び補佐人を除く。)、使用人その他の従業者をいう。第百十四条の六第一項において同じ。)、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該書類を開示することができる。
  第百十四条の五の次に次の三条を加える。
  (秘密保持命令)
 第百十四条の六 略
  (秘密保持命令の取消し)
 第百十四条の七 略
  (訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)
 第百十四条の八 略
  第百二十二条の次に次の一条を加える。
 第百二十二条の二 略
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905063.htm

民法の一部を改正する法律(平成16年12月1日法律第147号)
施行:平成17年4月1日
著作権法の一部改正)
第七十五条 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。
  第六十二条第一項第一号中「(相続財産の国庫帰属)」を「(残余財産の国庫への帰属)」に改め、同項第二号中「(残余財産の国庫帰属)」を「(残余財産の国庫への帰属)」に改める。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16105017.htm

であるが、「著作権法の一部を改正する法律」に加え、平成17年4月1日施行の「行政事件訴訟法の一部を改正する法律」
「裁判所法等の一部を改正する法律」による改正には対応しているので、平成17年4月1日現在の法文ということだろうが、
民法の一部を改正する法律」には対応していないのは、編集ミスか。(なお、その他条文の細かい点はチェックしていない。)
せっかく条文ののせるのだから、一現在の法文なのかを明示して、きっちり対応してほしい。


119頁は著作権法に関する主な問い合わせ先一覧。
ここでの取捨選択についてのコメントは割愛する。
120頁は奥付。


500円ということからすれば、この程度のなのかもしれないけれども、
著作権法はわかりにくいからこそ、もう少し問題になりがちな具体例を挙げた上で、
説明してもよかったのではないかと思う。
筆者のような人間が読むには面白いが、果たして先生方にとってどれだけ役に立つかというと…。
手ごろの価格のハンドブックというのは確かに便利なのだが、
内容的にはちょっと物足りない感がする1冊である。