アイコン訴訟控訴審判決

知財高判平成17年9月30日平成17年(ネ)第10040号特許権民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/d36216086504bdc349256fce00275162/ccfb66946ca9762d4925708c00266349?OpenDocument


原審 東京地判平成17年2月1日平成16年(ワ)第16732号特許権民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/79b15c35c791549249256f9b0023169e?OpenDocument

知財高裁(大合議)判決について、概観だけ。
ほとんどメモです。

【請求項1】アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と,前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と,前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有することを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】前記制御手段は,前記指定手段による第2のアイコンの指定が,第1のアイコンの指定の直後でない場合は,前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】データを入力する入力装置と,データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって,機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させることを特徴とする情報処理方法。
(以下,【請求項1】の発明を「本件第1発明」,【請求項2】の発明を「本件第2発明」,【請求項3】の発明を「本件第3発明」といい,これらを併せて「本件発明」と総称する。)

まず、争点1(構成要件充足性)については、

1 争点1(構成要件充足性)について
 当裁判所も,本件特許出願当時,「アイコン」とは,「表示画面上に各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示したもの」と一般に理解されており,本件発明にいう「アイコン」も,表示画面上に各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するものであれば足り,それ以上に,ドラッグないし移動可能性やデスクトップ上への配置可能性という限定を付す根拠はないところ,控訴人製品の「ヘルプモード」ボタン及び情報処理機能を実行させるボタンのうち任意の選択に係るボタン(以下「情報処理ボタン」という。)は,本件発明の特許請求の範囲における前記「アイコン」に該当するから,控訴人製品をインストールしたパソコン及びその使用は,それぞれ本件第1,第2発明及び本件第3発明の各構成要件を充足し,その技術的範囲に属する,と判断する。その理由は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の1,2に記載のとおりであるから,これを引用する。

ということで、基本的には、原判決と同様であることだけ確認して、詳細は割愛。
次に、

2 争点2(間接侵害の成否)について
(2) 本件第1,第2発明についての特許法101条2号所定の間接侵害の成否
ア まず,前記1のとおり,「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,本件第1,第2発明の構成要件を充足するものであるところ,控訴人製品は,前記パソコンの生産に用いるものである。すなわち,控訴人製品のインストールにより,ヘルプ機能を含めたプログラム全体がパソコンにインストールされ,本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が初めて完成するのであるから,控訴人製品をインストールすることは,前記パソコンの生産に当たるものというべきである。
(中略)
オ 以上によれば,控訴人が業として控訴人製品の製造,譲渡等又は譲渡等の申出を行う行為については,本件第1,第2発明について,特許法101条2号所定の間接侵害が成立するというべきである。

と、第1,第2発明については、間接侵害を認める。
一方で、第3発明については、

(3) 本件第3発明についての特許法101条4号所定の間接侵害の成否
 前記1のとおり,「控訴人製品をインストールしたパソコン」について,利用者(ユーザー)が「一太郎」又は「花子」を起動して,別紙イ号物件目録又はロ号物件目録の「機能」欄記載の状態を作出した場合には,方法の発明である本件第3発明の構成要件を充足するものである。そうすると,「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,そのような方法による使用以外にも用途を有するものではあっても,同号にいう「その方法の使用に用いる物・・・であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきであるから,当該パソコンについて生産,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為は同号所定の間接侵害に該当し得るものというべきである。しかしながら,同号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって,そのような物の生産に用いられる物を製造,譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない。本件において,控訴人の行っている行為は,当該パソコンの生産,譲渡等又は譲渡等の申出ではなく,当該パソコンの生産に用いられる控訴人製品についての製造,譲渡等又は譲渡等の申出にすぎないから,控訴人の前記行為が同号所定の間接侵害に該当するということはできない。
 ちなみに,前記(1)のとおり,既に,特許庁は,平成9年2月公表の「特定技術分野の審査の運用指針」により「プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,また,平成12年12月公表の「改訂特許・実用新案審査基準」により「プログラムそのもの」について,それぞれ特許発明となり得ることを認める運用を開始しており,また,平成14年法律第24号による改正後の特許法においては,記録媒体に記録されないプログラム等がそれ自体として同法における保護対象となり得ることが明示的に規定されている(同法2条3項1号,4項参照,平成14年9月1日施行)。このような事情に照らせば,同法101条4号について上記のように解したからといって,プログラム等の発明に関して,同法による保護に欠けるものではない。
 したがって,被控訴人の前記主張は採用の限りではない。

として、第3発明については、間接侵害を否定する。この点は原審と判断を異にする。


では、そもそも本件被控訴人特許が有効か。

3 争点3(本件特許権の行使の制限)について
(1) はじめに
 控訴人は,原審において,本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例(甲13の25)に記載された引用例発明に基づく容易想到性を理由に,本件発明の進歩性の欠如による本件特許の無効理由の存在が明らかであるとして,権利濫用の主張をしたが,原判決において採用されず,当審においては,原判決言渡し後に施行された平成16年法律第120号による新設の特許法104条の3第1項に基づく特許権の行使の制限の主張に改め,前記権利濫用の主張は撤回した。すなわち,控訴人は,当審において,(ア) 新たに,本件特許出願前に外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づく本件発明の新規性の欠如による本件特許の無効の理由として,?乙12発明,?乙13発明,?乙14発明,乙15発明及びラブビュー発明と本件発明との同一の主張を追加するとともに,(イ) 本件発明の進歩性の欠如による本件特許の無効の理由として,?原審と同様の引用例発明に基づく容易想到性のほか,新たに,本件特許出願前に外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づく容易想到性として,?引用例発明,乙13発明及び乙17発明に基づく容易想到性,?乙18発明及び周知の技術事項に基づく容易想到性,並びに,?乙12発明ないし乙15発明,乙17発明,乙18発明及びラブビュー発明に基づく容易想到性を主張している。そこで,控訴人の当審における新たな刊行物に基づく前記(ア)?ないし?及び(イ)?ないし?に係る無効理由の追加的な主張・立証が時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきか(争点4)は,後記4において判断することとし,まず,前記(イ)?の無効理由による本件特許権の行使の制限の主張について検討する。
 なお,前記2(3)において判示したとおり,本件第3発明については,特許法101条4号所定の間接侵害が成立しないから,特許権の行使の制限の主張について判断するまでもなく,被控訴人の請求は理由がないが,念のため,本件第3発明についても当裁判所の判断を示すこととする。
(2) 乙18文献の記載
(3) 乙18発明の構成
(4) 乙18発明と本件発明との対比
ア 本件第1発明との対比
 [相違点]アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」が,本件第1発明では「アイコン」であるのに対し,乙18発明では,「スクリーン/メニュー・ヘルプ」アイテムである点
イ 本件第2発明との対比
 したがって,本件第2発明と乙18発明とは,本件第1発明との前記一致点に加え,制御手段が,「前記指定手段による第2のアイコンの指定が,機能説明表示手段の指定の直後でない場合は,前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させる」点で一致し,前記アの[相違点]で相違する。
ウ 本件第3発明との対比
 したがって,本件第3発明と乙18発明とは,「データを入力する入力装置と,データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって,機能説明を表示させる機能を実行させる機能説明表示手段,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ,機能説明表示手段の指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させることを特徴とする情報処理方法」である点で一致し,前記アの[相違点]で相違する。
(5) 相違点についての判断
 前記1において引用に係る原判決が争点1(構成要件充足性)について認定したとおり,本件特許出願当時,所定の情報処理機能を実行するための手段として「アイコン」は周知の技術事項であり,また,証拠(乙13文献,乙18文献)によれば,同様の手段として「メニューアイテム」も周知の技術事項であったことが認められる。そうであれば,所定の情報処理機能を実行するための手段として,「アイコン」又は「メニューアイテム」のいずれを採用するかは,必要により当業者が適宜選択することのできる技術的な設計事項であるというべきである。
 現に,アイコンの機能説明を表示させる機能を実行するための手段についてみても,本件特許出願前の1988年(昭和63年)7月に頒布された乙12文献(「ハイパープログラマーのためのハイパーツール」)には,「ハイパーツールは,あなたが異なるツールに関する情報を素早く得ることを可能とする,組み込みヘルプ機能を含みます。このスクリーン上のツールについてヘルプを得るには,ヘルプ・アイコンをクリックします。そして示されたツールのアイコンのうちいずれかをクリックします。」(訳文〔甲19〕14頁下から7行目ないし下から4行目)と記載されているから,本件特許出願当時,ヘルプを得るためのアイコン,すなわち,機能説明を表示させる機能を実行させるアイコンも,既に公知の手段であったことが認められる。
 そうであれば,乙18発明において,アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」として,「スクリーン/メニュー・ヘルプ」アイテムに代えて「アイコン」を採用することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。
 そして,本件発明の構成によってもたらされる作用効果は,アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」として周知の「アイコン」を採用することにより当然予測される程度のものであって,格別顕著なものとはいえない。
(6) 被控訴人の主張について
(7) まとめ
 以上によれば,本件発明,すなわち,本件第1発明ないし本件第3発明は,乙18発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る本件特許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるというべきである。したがって,特許権者である被控訴人は,同法104条の3第1項に従い,控訴人に対し,本件特許権を行使することができないといわなければならない。


ちなみに、「同法104条の3第1項に従い」というのは、「はじめに」にもあるように、

特許法(昭和三十四年四月十三日法律第百二十一号)
特許権者等の権利行使の制限)
第百四条の三  特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2  前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。

で、「裁判所法の一部を改正する法律(平成16年法律第120号)」により追加されたものであって、
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905063.htm参照)
平成17年4月1日に施行された。
地裁判決では権利濫用論が主張されたのが、立法的に解決されたということになる。
特許法104条の3に関する点は割愛。
例えば、
飯村敏明「知的財産訴訟の制度改正の概要と実効のある制度運用」(知財管理vol55 no3 2005)
http://www.ip.courts.go.jp/documents/pdf/thesis/200503.pdf

一太郎」「花子」販売差止!(その1)
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050201/1107254116
一太郎」「花子」販売差止!(その2)
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050202/1107326321
知財高裁大合議部始動。
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050511/1115747671
ジャストシステムvs松下電器産業知財高裁大合議第3回口頭弁論
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050714/1121275321