内閣総理大臣靖国参拝訴訟

昨日こういう判決が東京高裁であった。

首相の靖国参拝訴訟、東京高裁「私的参拝」と認定
 2001年8月の小泉首相靖国神社参拝は政教分離を定めた憲法に違反しているとして、千葉県内の戦没者遺族や宗教家ら39人が、小泉首相と国に一人当たり10万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は29日、請求を棄却した1審・千葉地裁判決を支持、原告の控訴を棄却した。
 浜野惺(しずか)裁判長は「参拝は個人的な行為の域を出ない」と述べ、私的参拝と認定した。原告は上告する方針。
 1審判決は公的参拝と認定したが、2審は<1>2001年8月15日に予定していた参拝を、公的参拝と受け取られないよう同13日に変更した<2>献花代を私費で負担<3>内閣総理大臣と記帳したのは肩書を付したにすぎない――などとして、政教分離原則には違反しないと判断した。
 ただ、「公的参拝であれば違憲の可能性がある」とも指摘した。
 小泉首相靖国神社参拝が違憲かどうかが争われた訴訟で、高裁レベルの判断は、今年7月の大阪高裁判決に続き2件目。同判決は、参拝が公的か私的かの判断も示さず、請求を棄却していた。
(読売新聞) - 9月29日21時59分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050929-00000313-yom-soci

千葉地裁判決は、判決文があっぷされているので、当記事末尾参照。
東京高裁判決はまだアップされていないし、アップされるかどうかもわからないが、
記事にあるような要素をもとに、政教分離原則には違反しないと判断した。


が、一夜あけてその翌日(今日)、大阪高裁が異なる判決をだした。

首相靖国参拝 大阪高裁、初の違憲判断 職務行為と認定
 小泉純一郎首相の靖国神社参拝は憲法が定めた政教分離に違反し、精神的苦痛を受けたと主張し、旧日本軍の軍人・軍属として戦死した台湾先住民族の遺族ら188人が首相と国、靖国神社に1人1万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪高裁(大谷正治裁判長)は30日、参拝は首相の職務行為と認定したうえで「憲法の禁止する宗教的活動にあたる」と高裁段階で初の違憲判断を示した。賠償請求は認めず、原告側の控訴を棄却した。原告側が「実質勝訴」とみて上告しなければ、請求は棄却されているため、国側が判決理由を不服として上告することは事実上難しく、判決は確定することになる。
 ◇賠償請求は棄却
 小泉首相靖国参拝を巡る同種訴訟は全国6地裁で7件起こされ、違憲判断は、04年4月の福岡地裁判決(確定)以来2回目。今回の判決は、福岡地裁の判断を踏襲したものといえる。高裁判決は、7月の大阪高裁(別の原告団)と今月29日の東京高裁と2回あるが、憲法判断せずに原告側が敗訴している。
 判決は、(1)参拝は、首相就任前の公約の実行としてなされた(2)首相は参拝を私的なものと明言せず、公的立場での参拝を否定していない(3)首相の発言などから参拝の動機、目的は政治的なものである−−などと指摘し、「総理大臣の職務としてなされたものと認めるのが相当」と判断した。
 さらに、参拝は客観的に見て極めて宗教的意義の深い行為と判断し、国内外の強い批判にもかかわらず参拝を継続しており参拝実施の意図は強固だったとして「国は靖国神社と意識的に特別のかかわり合いを持った」と指摘。「国が靖国神社を特別に支援し、他の宗教団体と異なるとの印象を与え、特定の宗教に対する助長、促進になると認められる」と述べ、憲法20条3項の禁止する宗教的活動と結論付けた。
 一方で、原告の思想や信教の自由などを圧迫、干渉するような利益の侵害はないとして首相らの賠償責任を否定した。
 昨年5月の1審判決は「国の機関としての総理大臣の職務行為とは言えない」と私的参拝と判断、憲法判断せずに請求を棄却。原告側が控訴していた。
 小泉首相は01年8月、02年4月、03年1月、04年1月の計4回、靖国神社に参拝。秘書官を同行して公用車で訪れ、「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳、献花料は私費で支払っていた。訴訟で首相側は「個人の思想、信条に基づくもの」と私的参拝を主張している。【一色昭宏】
 ▽細田博之官房長官の話 基本的には国の勝訴だが、そのような(違憲との)見解が出されたことは、首相は従来、私的参拝と言ってきているので、たいへん遺憾だ。私人としての参拝なので、(今後の参拝が)影響されるのかされないのか分からない。
 ▽高金素梅原告団長の話 大阪高裁は正義に向けて一歩踏み出したが、反省と謝罪と賠償が判決に含まれなかったことには怒りを感じる。小泉首相はもう靖国神社を参拝すべきではない。


■大阪高裁判決の骨子■
小泉首相の参拝は、内閣総理大臣としての職務行為と認めるのが相当
・参拝で国は靖国神社と特別のかかわり合いを持った。特定の宗教を助長し、相当の限度を超えており、憲法の禁止する宗教的活動に当たる
・参拝で原告の思想、信教の自由などについて利益が侵害されたと認めることはできず、小泉首相、国、靖国神社の責任を認めることはできない
毎日新聞) - 9月30日17時9分更新(一部略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050930-00000015-maip-soci

あくまで記事からの印象ですけど、
政治公約実行としての参拝だから「職務行為」。
で、その職務行為が、目的効果基準のようなものに照らして「宗教的活動」にあたるから違憲であり「違法」。
だけど、それによる具体的な「他人への損害」がないから、棄却ということ?
確かに小泉さんの場合、かなり政治的に参拝していますね。
彼自身、かなり参拝について、(個人の問題といいながらも)政治的に発言しているようですし。
ただ、個人的な宗教行為を政治的にしているのは実は外野だったりもする。
その点もあわせてどれだけ世俗化するか、というのがかなり気になるところ。


ところで、

主文に「不正義」の声、「違憲」と分かり原告拍手
 小泉首相が行った靖国神社参拝を「公的行為」と認定し、政教分離を定めた憲法に違反するとした30日の大阪高裁202号法廷。
 大谷正治裁判長は「本件控訴を棄却する」と主文だけを述べ、要旨を読むことなく法廷を後にした。傍聴席で「説明しろ」と憤り、「不正義判決」との紙を掲げる原告ら。一方、「立派な判決だ」とする傍聴者もおり、廷内は騒然とした。
 この時は、誰もが違憲判決とは思っていなかった。が、傍聴者らが法廷の外に出、判決の内容を知り、状況は一変。「違憲判断が出ました」とする支援者の声に、大阪高裁北側の路上に集まっていた原告らからは拍手がわき上がった。「よし」「素晴らしい」などと声を張り上げながら手を取り合ったり、こぶしを高々と上げてガッツポーズをしたりして喜んだ。
 ◆まさか高裁で…遺族会に衝撃◆
 東京都千代田区九段会館内にある日本遺族会(会長・古賀誠衆院議員)では、大阪高裁判決の内容をいち早く知ろうと、午前10時すぎから職員がインターネットでニュース速報をチェック。同10時半ごろに判決内容が流れると、フロア内に驚きが走った。ある職員は「地裁レベルでは過去にも同様の判決はあったが、まさか高裁で違憲判断が出るとは」とショックを隠せない様子で話した。
 遺族会幹部の1人は「原告側は裁判を運動に利用しているにすぎず、判決自体は訴えの利益がないとして、請求を棄却した」とし、「首相の行動が公的か私的かの定義はあいまいで、ここまで厳格に政教分離を定めている国は世界でもまれだろう。本当に違憲なら今後、憲法の改正を求めていくしかない」と語った。
(読売新聞) - 9月30日13時50分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050930-00000105-yom-soci

ということが記事になるように、判決結論と違憲判示は関係がなく、傍論、井上判事のいう蛇足ということになる。
先の毎日新聞記事にもあるように、被告の勝訴なので、控訴できず、この点の判断を覆すことができなくなる。
訴訟的な問題点が一応残る。
ちなみに、日本遺族会が宗教的に中立なのかどうかはわからないが、
こういう人たちが首相の参拝を事実として望んでいることが社会的にどう評価するか、ということも、
先の世俗性と関連して気になるところである。

小泉首相靖国参拝訴訟裁判例高等裁判所
(2) H17.10. 5 高松高等裁判所 (追記)
(4) H17. 9.30 大阪高等裁判所
(5) H17. 9.29 東京高等裁判所
(1) H17. 7.26 大阪高等裁判所


小泉首相靖国参拝訴訟裁判例地方裁判所
(6) H17. 1.28 那覇地方裁判所 平成14年(ワ)第959号,平成15年(ワ)第1274号 損害賠償請求事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/6B1A20702CD30FC949256F9D001A8CB3/?OpenDocument

内閣総理大臣である被告小泉純一郎靖国神社を参拝したことによって,原告らの信教の自由,平和的生存権等が侵害されたとして,原告らが被告小泉純一郎及び被告国に対し,不法行為等に基づいて慰謝料の支払を求めた事案において,被告小泉純一郎靖国神社参拝により原告らの法的権利ないし利益が侵害されたとは認められないとして,原告らの請求を棄却した事例。

(5) H16.11.25 千葉地方裁判所 平成13年(ワ)第2870号等 損害賠償請求事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/D542BB97F31AEB4B49256F7700329AB4/?OpenDocument

内閣総理大臣が行った靖國神社の参拝は,客観的に職務執行の外形を備えた国家賠償法上の職務行為に当たると認められるが,それによって原告らの信教の自由が侵害されたとは認められず,また,原告らが被侵害利益として主張する宗教的人格権,平和的生存権等は,法律上保護される具体的な権利ないし法的利益とはいえないとして,国に対する国家賠償請求を棄却した事例

(4) H16. 5.13 大阪地方裁判所 平成15年(ワ)第1307号 損害賠償請求事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/F9C6A7560CF9D2ED49256E9900162ADA/?OpenDocument

1 内閣総理大臣である小泉純一郎が,平成13年8月13日,平成14年4月21日及び平成15年1月14日に靖國神社を参拝した行為は,国の機関としての内閣総理大臣の行為と客観的外形的にみるべきものではなく,国賠法1条1項にいう「職務を行うについて」に該当する行為であるとはいえないとされた事例
2 小泉純一郎靖國神社を参拝した行為によって原告らの法的利益が侵害されたとは認められないとされた事例
3 靖國神社小泉純一郎の参拝を受け入れた行為によって原告らの法的利益が侵害されたとは認められないとされた事例

(3) H16. 4. 7 福岡地方裁判所 平成13(ワ)3932 損害賠償請求事件<確定>
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/9150D634B0A70BFC49256EA50001E63B/?OpenDocument

本件は,内閣総理大臣である被告小泉純一郎がその職務として靖国神社に参拝したことは政教分離規定等に違反する違憲行為であるとして,損害賠償を求めたが,本件参拝は「職務を行うについて」に当たるが,不法行為の成立を認めることはできないとした事案である。

(2) H16. 3.16 松山地方裁判所
 裁判所サイト掲載なし
(1) H16. 2.27 大阪地方裁判所 平成13年(ワ)第11468の1,2 靖国参拝違憲確認請求事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/C12DD1AB8B417CEB49256E4D0008B1EE/?OpenDocument

平成13年(ワ)第11468号の1
1 内閣総理大臣である小泉純一郎が平成13年8月13日に靖國神社を参拝した行為は,内閣総理大臣としての資格による参拝であって,国賠法1条1項の「職務を行うについて」した行為に当たり,また,憲法20条3項の「国及びその機関」の活動にも当たるとされた事例 
小泉純一郎靖國神社を参拝した行為によって原告らの法的利益が侵害されたとは認められないとされた事例
平成13年(ワ)第11468の2
1 小泉純一郎靖國神社を参拝した行為が行訴法3条1項の「公権力の行使」に当たらないとされた事例
2 小泉純一郎靖國神社を参拝した行為によって原告らの法的利益が侵害されたとはみとめられないとされた事例