著作権処理をしてみよう!というイベント

ちょっとかわったイベントの案内をみつけた。
著作権処理をしてみようというイベントがあるらしい
会場は兵庫県なので、関西方面向けということになりそうです。

実践!著作権フェア
著作権の専門家を招き、教員・生徒・保護者、
それぞれの立場から権利処理実務について学ぶ実践的なプログラムです。
2005年10月23日(日)午前10時〜午後6時
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/index.html

開催概要をみると、
「ひょうごe-スクールコンソーシアム ITコンテンツ部会」というところが、
社団法人私的録画補償金管理協会の助成を受けて行う、著作権と権利処理について学ぶイベントだそうで、
イベントの目的については、

本企画は2つの目的をもっています。
第1の目的は、映像コンテンツ制作を実際に行い、著作物の制作過程の中で著作権の意義と、 実際的な処理手順を学ぶというものです。これは、従来の講演や啓蒙ビデオの上映という講習会形式でなく、 体験を通して、具体的で実際的な手順を学び、意識を向上させるためです。
第2の目的は、制作した作品の発表、模擬販売を通して、実践的に、保護者や教師、さらに一般の市民に向けて、 著作権制度への関心と理解の促進を図ることです。 参加した生徒は自ら作品を制作し、権利処理を行い、販売し、販売額に応じて「著作者印税(ロイヤルティ)」を受け取ります。 まさに一般の映像商品の制作者と同じ体験をします。
著作権イベントは、映像作品を制作する「著作権ワークショップ」と、 作品の発表、模擬販売、著作権教育についての専門家ディスカッションなどを行う 「実践!著作権フェア」の2つのステップから 成り立っています。
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/kaisaigaiyou.html

とある。
すでに第1の目的に関して、映像作品を制作する「著作権ワークショップ」という最初のステップの企画があったようで、
その「著作権ワークショップ」の内容については、

 県内から20名、5グループの中学生・高校生が公募によって選ばれ参加しました。 参加生徒達は、権利処理なしでは利用できない、音楽や放送番組などの映像を積極的に利用し、自分たち自身で権利処理を行い、 映像作品を完成させました。
 権利処理予算は5万円までと決められ、予算内での借用を工夫することが生徒グループには求められました。 このため会場では、次のような光景が散見されました。
 CDからの音源使用が1曲15万円という場合は、「お金がない」と交渉し、「今回に限り無償」という回答や、 安価な使用料を引き出しました。そして、音楽や映像の使用申請書を作成し、無償提供に応じてくれた方にはお礼状を書いました。 撮影に応じてくださった方には、販売に際し改めて許諾書を送り、承諾書をもらうといったことも学びました。
 ワークショップでは、著作権の学習や権利処理と平行して、映像編集も行わなければなりませんから、生徒達は大忙しでした。 映像制作指導の先生からアドバイスを受け、構成を変更したり、それに併せて「こんな映像がほしい」 「こんなBGMの方がいい」という話し合いを何度もおこないました。
 こうした学びの体験の中で、生徒たちは、お互いの協力の大切さや、一つの作品に多くの人が関わっていることに気付いていきました。 権利処理については、「やればできる」「交渉すれば著作物は利用できるのだ」という思いを新たにしたようです。
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/workshop.html

と説明されている。
確かに「著作権とは何か?」とか「著作物は原則無断で利用してはいけません」という話はあれど、
「実際にどうやって利用すべきなのか?」という点については、広められていないように思うところ。
まして実際に映像作品を作成する過程でそれを学ぶという機会は通常ないと思われ、面白い試みだと思う。
また、同時にこうした過程で自らが作品の著作者となり、著作権の意義を学ぶことができる。
権利者としての立場と利用者としての立場の両方を学ぶことができるという意味でも、面白い試みだろう。
その趣旨や枠組み自体については、大変興味深い。
もっともワークショップ自体はすでに終了している。


さて、冒頭に掲げた「実践!著作権フェア」は、その「著作権ワークショップ」の次のステップだそうだ。

 ワークショップで制作した作品は、「実践!著作権」フェアの会場において、有償(1000円程度)で販売されます。 作品を制作した生徒達は、作品の「著作権者」として、販売数に応じて「著作権印税(ロイヤルティ)」を得ます。 制作から印税受領まで一般市販のDVDと同じ過程を踏襲することで、 「作品を作る」ということ、その作品から対価を得るということがどれほど大変なことであるか、 そして、全体を通じてどれほど多くの人が関わっているかを肌で感じてほしいと願っています。
 「実践!著作権」フェアでは、生徒だけでなく、学校関係者、一般市民とたくさんの方にお越し頂きたいと期待しております。 「作品を生み出すこと」と「作品を守ること」、「作品を楽しむこと」と「作品を利用すること」について、もっと身近に感じ、 著作権についての考える機会を提供したいと願っています。皆様のご参加をお待ちしています。
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/syoukai_hanbai.html

まず、参加した生徒からすれば、制作した作品(著作物)のDVDを売って対価を得るという最終段階の場ということになる。
とはいえ、いくら「ワークショップ」に興味をもった筆者でも、(生徒には申し訳ないが)わざわざDVDを買うためだけに、
(物理的距離や時間的問題は捨象しても、)行こうとは思わないわけで、
筆者のような人間からすれば、その説明などに関するイベントの方が気になるところ。
そこで、そのプログラムを順にみてみると、まず、

10:00〜11:30  著作権専門家によるパネルディスカッション
          「学校現場における著作権教育を考える」
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/index.html#pro

というのがある。

司会:兵庫県立大学環境人間学部 助教授 宮本節子 
パネリスト
・神戸市教育委員会 指導主事 青木典司
・NHK大阪放送局 放送センター編成 石黒亜有実
・社団法人日本音楽著作権協会 映像部映像一課 課長 野方英樹
大阪市立大学大学院創造都市研究科 助教授 近 勝彦
内容
 従来も今も、教育現場では著作権法の例外として複写などが認められています。しかし、この規定が正しく機能するのは、学校が現実社会から隔離されている状況です。今日、インターネットは学内外で普及し、子供達は、学校にいても社会とつながっています。ネットを使えば、容易に、いくらでも音楽や映像をダウンロードすることができます。こうした現状において、「学校内ではよいが社会では違反」というルールを周知させるのは難しいと思われます。学校と権利者側の間に新たな関係が求められているのではないでしょうか。
 ディスカッションでは、冒頭、「一方で著作権侵害への恐れから借用を躊躇い、もう一方で無意識の侵害を引き起こす」教育現場の状況を紹介します。これを切り口として、権利者側と教育現場の双方から、こうした問題をどのように認識しているのか、著作権の保護と利用はどうあるべきか、についてご意見をいただきます。また、教育現場から創造されるコンテンツの流通という問題に関し、著作権をどのように捉えていくべきか、提言いただきます。
 ワークショップ参加生徒の心の中には、権利処理の実務を通して、「著作権はお金が絡む権利」「交渉すれば利用できる」という意識が芽生えたように思われます。著作権学習の新たな展開を目指して、パネラー、そしてフロアーの皆様と議論したいと考えております。
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/10-11.html

権利側の人としては、NHKとJASRAC、利用者(学校)側は神戸市教育委員会の指導主事、
大学(助)教授が2名(含司会)が参加しているが、いずれもいわゆる著作権法のセンセイではないようである。
その意図は推測にすぎないが、より実務的な内容のパネルディスカッションを企図しているのだろうか?
法学者や弁護士、文化庁が参加しないというのは(文化庁が参加しないのは関西だから?)それはそれで面白い企画のように思う。
もっとも、教育委員会の人が1名なので、権利者側からの均衡の観点からはもう1名、現場の先生でも欲しいところ。
内容については、「学校現場における著作権教育を考える」といっても様々な視点があるわけだが、

「一方で著作権侵害への恐れから借用を躊躇い、もう一方で無意識の侵害を引き起こす」教育現場の状況
こうした問題をどのように認識しているのか
著作権の保護と利用はどうあるべきか

ということからすれば、「権利者や現場の“意識”をもとに、著作権(制限規定)のあり方」ということだろうか?
また、

教育現場から創造されるコンテンツの流通という問題に関し、著作権をどのように捉えていくべきか

という点は今話題の試験問題の流通の問題であり、著作物が複合していくなかでの利用許諾のあり方などもあるのだろうか?
ところで、“「学校内ではよいが社会では違反」というルール”、について
学校内というのは「学校が現実社会から隔離されている状況」を指し、
それ自体必要十分ではないにせよ、わかりやすい表現だとは思うけれども、
単に「学校内ではよい」としてしまうと、「インターネットは学内外で普及」した状況でどうなんだろうと思ったり。

12:30〜13:00  オープニング・開会式

13:00〜14:00 基調講演「創作ってすばらしい!」
          向谷 実(カシオペアキーボード奏者、名古屋芸術大学音楽学部教授)
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/13-14.html

講演者向谷実氏のプロフィールとブログ
http://www.casiopea.co.jp/mukaiya1.html
http://mukaiya.cocolog-nifty.com/mukaiya/
基調講演は、教育と著作権というよりは、
タイトルから察するに、創作行為から著作物保護の重要性を講演するのかな?
ちなみに筆者は「カシオペア」も「向谷実」も知りません。有名?

14:00〜15:40  生徒作品発表

最初のステップである「著作権ワークショップ」で生徒が作成した作品の発表らしい。
単なる映像作品コンクールではなく、“著作権”ワークショップであることからすれば、
作品の上映会+ワークショップでの実際の権利処理についての報告でもあるのだろうか?
この著作物は許諾がでました。これはでませんでした。これは権利者が分からずに苦労しました、とか。
価格が折り合わずに許諾断念はまだ仕方ないけど、非許諾ありきがあれば、ちょっとイヤだな。
「このBGMの使用料は安かったので使いました。
 あのBGMの使用料は高かったので使いませんでした(使えませんでした)」ということに、
多くの人が興味ありそうなんだけど、さすがに具体的金額を発表するとなると問題アリかな?
15万だったり、今回は(企画に配慮して特別に?)無償だったりしてみたいだけど…。
全体で5万以下ってことらしいけど、なんとなくの値段は知りたい気がする。
もっとも、これは純商用利用ではないだろうし、無償でないにしろ配慮もあるだろうから、
商売で同じものを使うとなると値段はそれより高くなりそうだけど。
でも、法律上は非商用でも許諾が必要であり、対価を要するのだから、相場?は知っていて損はないし、
関心をもつことは悪くないと思う。

15:40〜16:40  教員によるディスカッション
          「コンテンツ制作を通した著作権学習の意義」

司会:大橋明教諭(兵庫県立姫路工業高等学校
コメンテーター:大貫恵理子((株)徳間書店
パネリスト:
松野和平教諭(学校法人・須磨学園)、諏訪清二教諭(兵庫県立舞子高等学校)、森本雄一教諭(兵庫県東播工業高等学校
内容:
 「著作権ワークショップ」に参加した生徒たちの所属校の先生方にお集まりいただき、コンテンツ制作を通して著作権実務を学ぶ、このような試みが、教育現場でどのような意義をもつのか、また、今後の著作権学習はどうあるべきか、議論いただきます。
ディスカッションの進行は、「実践!著作権」ワークショップにおいて、映像表現を指導した大橋教諭が担当し、著作権講義・権利処理を担当した大貫氏が実務家の観点からコメントします。
 ディスカッションの冒頭で、司会の大橋教諭から、「創造することと借用すること」の関係について問題提起をいただき、実際の映像作品指導の現場における著作権の取り組みをご紹介いただきます。パネリストの方々には、今回の著作権学習を通して、生徒が何を学び、どのように成長したか、このワークショップでの経験を今後どのように発展させるのかなど、お話いただきます。
 さらに、フロアーを交え、授業における著作権指導の課題や、家庭でのモラル学習について、意見交換を行いたいと考えております。多数のご来場を期待しております。
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/15-16.html

で、今度はその「著作権ワークショップ」に参加した生徒の先生と講師によるディスカッション。
前述の「著作権ワークショップ」という試みが、
「教育現場でどのような意義をもつのか、また、今後の著作権学習はどうあるべきか」という議論。
著作権ワークショップ」に関しての運営者側からの報告はここでの議論の中であるのかな?
詳細は見に来てね、ってことかもしれないけど、総論についていえば、
幼稚園でのお買い物ごっこや、小学校での社会実習のようなことで有体物売買については学ぶけれども、
著作権という無体物については、そういう機会がないことからすれば、そんな何時間はとれないにせよ、
実習みたいなことがあってもいいのかなぁ?とは思います。
ただ、実際はJASRACなどの一部を除いては、きちんと許諾システムが構築されておらず、
そうわかりやすいものではないし、許諾を得るには申請するだけではダメで交渉が必要になったりもするだろうから、
時間コストがかかってしまうところは、悩みどころだろうけど。
ただ、こういうことで利用者意識の改善され、権利者の違法違法と叫ぶだけの意識もかわればと思います。
他には、授業における著作権指導の課題や、家庭でのモラル学習について、意見交換があるもよう。
「実践!著作権フェア」は、保護者向けのイベントでにあり、この「家庭でのモラル学習」なんかが特にそうなんろうけど、
結局(著作権モラルとの文脈において)は、親がどれだけきちんと著作権を意識しているか、ということに尽きるような…。
著作権を知った上での多少の解釈の幅は仕方ないけど、海賊版ソフトを堂々と買ってきて見ることは避けたいし、
親がP2Pで違法に公開されている楽曲をダウンロードしているというのも避けたいところ。
普通子どもと一緒にスーパーいって子どもの前で万引きして、それを使って晩ご飯は作らないでしょ、って。
お父さん、お母さんが最低限そういう意識を持つだけでも、著作権意識はかわるのではないかなぁ、と。

17:00〜18:00  作品講評

ここでも「著作権ワークショップ」の報告があるのかな?


JASRACについては一応権利処理システムが表示されている。
しかし、それ以外についてはかなり不明瞭であることは否定できない。
一方で、権利者側は違法主張の度合いを強めている。
そういった状況の中、どのようにして著作物を許諾を得て利用するのか?ということについては、
利用者側が学ぶべき必要性が高いといえ、そういった視点から、このイベントはおもしろいと思う。
一方で、こうやって学んだ上でも使いにくい状況があるならば、権利者側が態度を改めるべきであろう。
必ずしもこのイベント案内サイトからは詳細がわからないし、最終的には参加しないといけないのだろうけど、
単に「著作権とは」という講義のみならず、体験学習するというのは、そうなかったように思う。
内容の是非についてはなんともいえないが、こういう類いのイベントが増えればとは思う。
著作権者が著作権経済的利益を得たいのであれば、
単に違法だと叫ぶのではなく、著作権をどうやって使うのかということの普及に重点を置くべきではないだろうか?


ちなみに、最初にあるようにこの一連のイベントは社団法人私的録画補償金管理協会の助成を受けている。
私的録画補償金制度には反対だけど、こういうことに使われているのは悪くない。
とはいえ、権利者の正当な利益のための補償金というのであれば、本来権利者に直接還元するべきであろう。
筆者個人としては、現在補償金を払うべき機器を媒体をもっていないので、
こういう研究利益(助成出版物など)を受けるだけなので、実は経済的には損はしないけれども、
私的(録音)録画補償金制度の是非となると、悩ましいところです。
この点に重要性があるなら、税にするという議論も可能なわけで…。

ひょうごe-スクールコンソーシアム
http://www.hyogo-c.ed.jp/~conso/
未来のクリエイターたちへ 実践!著作権フェア インデックス
http://www.lab-warp.ne.jp/sarvhevent/
社団法人私的録画補償金管理協会
http://www.sarvh.or.jp/