見出しの著作物性

※判決文がまだなので、かなりまとまりがありません。あしからず。


まだ裁判所のホームページには判決文があがっていないので、新聞記事から。
読売の記事もあるのだが、一応当事者ということで、まずは第三者の記事。

新聞見出し無断ネット利用に賠償命令 著作物性は再び否定
 インターネット向けに配信した記事の見出しを無断で使用され、著作権を侵害されたとして、読売新聞東京本社がネットニュース配信会社に使用差し止めと損害賠償を求めた訴訟の判決が10月6日、知的財産高裁であった。
 塚原朋一裁判長は見出しの無断使用を不法行為と認め、請求を棄却した一審判決を変更し、約23万8000円の支払いを命じた。
 読売新聞側は「見出しは著作物であり、著作権法で保護されるべき」と主張していたが、判決は「著作物として保護されるための創作性があるとはいえない」として一審判決同様に認めなかった。
 訴訟は、デジタルアライアンス(神戸市)が運営している「ライントピックス」をめぐるもの。読売新聞は「ネット向けに配信している記事の見出し部分を無断使用して著作権を侵害し、不当に広告収入を得ている」などとして2002年12月、デジタルアライアンスに見出しの使用差し止めと損害賠償約6800万円を求める訴訟を起こした。
 訴訟では新聞の見出しの著作物性が争点となった。2004年3月の東京地裁判決は、見出しは事実をごく短く制約のある形で表現したものであって創作性があるとは言えず、「思想または感情の創作的な表現」と著作権法が定義した「著作物」には当たらないとして、読売新聞の請求を退けた。
 控訴審判決は見出しの著作物性は一審同様に否定し、使用差し止めは認めなかった。だが「見出しは、多大な労力や費用をかけた報道機関の活動が結実したもの」として法的保護に値すると認め、営利目的による無断の反復使用は不法行為が成立すると判断。デジタルアライアンスの不法行為責任を認め、損害賠償を命じた。
ITmediaニュース) - 10月6日21時18分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051006-00000069-zdn_n-sci

この記事からわかる裁判事項は、
・「著作物として保護されるための創作性があるとはいえない」
・「見出しは、多大な労力や費用をかけた報道機関の活動が結実したもの」で保護すべきである、
とのこと。額に汗では、著作物性は認めないけれども、その汗は法的に保護すべきということだろうか?
一般論として見出しに著作物性はない、という判断は正しいと思う。
事実の伝達であり、短文であることから創作性は通常ないということができるからである。
もちろん個別的に認められる余地はあるだろうけど、通常はないといってよい。

その一方で、著作物性のないものの「汗」を保護するというのは、
著作権法があらゆる表現のうち著作物のみを保護したということに反するのではないか?と思うのである。
この点について、本判決も差止までは認めておらず、準著作物的な価値までは認めていないかもしれない。
しかし、無体物のうち保護すべきはものは著作権法ほか知的財産権法が保護しており、
それ以外についてはパブリックドメインにあり、誰でも自由に使えるというのが原則である。
そうだとすれば、そのような情報に何らの権利はなく、その単なる利用について不法行為を認めることはできない。


そこで、もう少し判決を詳しく知る必要がある。ということで、読売新聞の記事をみてみる。

ネット記事の見出し無断配信「違法」…初の司法判断
 インターネット上で配信された新聞社の記事の見出し部分を無断使用し、利益を得ているのは違法として、読売新聞東京本社がインターネットサービス会社「デジタルアライアンス」(神戸市)に、2480万円の損害賠償と記事見出しの使用差し止めを求めた訴訟の控訴審判決が6日、知的財産高裁であった。
 塚原朋一裁判長は「新聞社が多大な労力をかけて作成した見出しを、無断で自己の営業に使ったのは、社会的に許容されず、不法行為に当たる」と述べ、請求を棄却した1審・東京地裁判決を変更し、約23万7700円の賠償を命じた。差し止めの請求は退けた。
 ネット上での見出しの無断使用を違法とした初の判決で、ニュース配信を巡るルールに影響を与えそうだ。
 デジタル社は、新聞社・通信社が「ヤフー」に有料配信している記事の見出しを無断利用し、「一行ニュース」として配信して広告収入を得ている。見出しをクリックすると、ヤフーのホームページに飛び記事本文が読める。
 判決はネット上のニュースについて、「多大の労力・費用をかけた取材、編集などの活動があるから有用な情報となる」と指摘。見出しも、「報道機関としての活動が結実したもので、法的保護に値する利益となりうる」と述べた。
 そのうえで、デジタル社の事業について、〈1〉見出しが作成されて間もない、情報の鮮度が高い時期に、複製利用している〈2〉営利目的で反復継続している――などの点を挙げ、「原告の法的利益を侵害している」と結論付けた。読売側の損害は月に1万円とした。
 判決は、見出しの著作権について、一般的には認められないとしたが、「表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もある」と述べた。
 読売新聞東京本社広報部の話「記事見出しの無断使用は違法となることを認めた初の司法判断で、インターネット上のニュース配信の指針となる意義の大きい判決と考えます」
(読売新聞) - 10月7日0時10分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051006-00000116-yom-soci

〈1〉見出しが作成されて間もない、情報の鮮度が高い時期に、複製利用している
〈2〉営利目的で反復継続している
というのが、「原告の法的利益を侵害している」そうである。
「情報の鮮度が高い時期に」「営利目的で反復継続」であれば、一般不法行為法上、情報利用は保護されるというのである。
わかりやすく考えると、新聞社が新鮮な情報の伝達者であるということをもとに、それをそのまま営利で反復継続利用することは、
その業務を妨害する行為であるから、不法行為ということだろうか。
読売新聞社の情報配信ににフリーライドしたことが問題ということだろう。
これを前提に考えれば、判決の射程は極めて狭いことになる。
「情報の鮮度が高い時期」「営利目的で反復継続」ということになる。
業として同様のことをすれば「営利目的で反復継続」ということになるが、
「情報の鮮度が高い時期」の判断基準はなお問題が残る。
記事の初掲からなのか、事象の発生からなのか…。30分なら?40分なら?1時間なら?
さらに具体的な本事案への適用についての妥当性も検討する必要があろう。
ちなみに損害は「月に1万円」だそうだ。その根拠も気になるところ。


ところで、少し著作物性の話に戻ると、
まず、判決は見出しについて「表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もある」という。
この点は先述のように問題ない。
もっとも、「多大の労力・費用をかけた取材、編集などの活動があるから有用な情報となる」から
見出しも、「報道機関としての活動が結実したもので、法的保護に値する利益となりうる」とし、
これが情報そのものを保護すると言う意味であれば、著作権法に反するもののように思うのである。
見出しの著作物性については、(表現に向けた)「編集」の点を考慮して、
見出しの集積が、認知した事件の創作的な取捨選択・配列の表現として編集著作物の余地は考えられようが、
仮にそのような考え方を認めても、その創作性が認められる余地は少なく、
100%複製でもない限り、その成立は難しいだろう。まして、個々の見出しの複製となると侵害は否定される。
また、見出しがタイトルとすると、目次(全体)の著作物性ということも関連しうるもので、
その点に創作性が認められにくいものであることからすれば、著作権で考えるのは一般に困難だと思われる。


まだきちんと考えていないし、判決文も見ていないのでなんともいいにくいが、
筆者としては、情報そのものに価値があるとしても、それ自体が法的保護の対象となるという構成よりは、
単なる新鮮なニュース配信の利益に加えて、
というだけではく、例えば「ネット記事の見出し無断配信「違法」…初の司法判断(“読売新聞”)」という、
新聞社の信用を基礎にした情報の信用を含めた点へのフリーライドについて、不法行為が成立しうるというべきと考える。
数あるニュースの中からの編集著作物“的”な情報の取捨選択へのフリーライドという点に関して、
不法行為の成立の余地があると考えるが、この点はかなり特別な事例のみであり、通常は認められないように思う。
本件で「新聞社の信用を基礎にした情報の信用を含めた点へのフリーライド」があれば、違法との結論自体は不当ではなかろう。
もっとも、「多大の労力・費用をかけた取材、編集などの活動があるから有用な情報となる」から
情報を保護すべきという点については(現段階では)少し疑問を覚える。


それにしても、読売新聞。
国民の知る権利に奉仕するのであれば、判決文公開してもらえませんか?

原審:東京地判平成16年3月24日平成14年(ワ)第28035号著作権民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/FEE475DAE38CD32849256EC300292612/?OpenDocument