見出しの著作物性(2)

見出しの著作物性
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051007/1128619974

こんなのあったのね。気づかなかった。てか、ネットなんだから全文もあげられるでしょ?
とりえあずざっと書いてみました。

記事「見出し」無断使用訴訟判決の要旨
(2005年10月6日23時42分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051006ic27.htm

 インターネット上の記事見出し無断使用をめぐる訴訟で、知財高裁が6日言い渡した判決要旨は次の通り。
 【著作権侵害
 一般的にニュース報道における記事見出しは、報道対象となる出来事などの内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用できる字数にもおのずと限界があり、表現の選択の幅は広いとは言い難い。創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難く、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないと考えられる。
 しかし、ニュース報道における記事見出しが、直ちに著作物性が否定されるものと即断すべきものではない。表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではないのであって、結局は各記事見出しの表現を個別具体的に検討し、創作的表現であるといえるかを判断すべきである。
 本件で主張された読売新聞のウェブサイト「ヨミウリ・オンライン(YOL)」の365個の見出しは、いずれも事件、事故などの社会的出来事、あるいは政治的・経済的出来事などを報道するニュース記事に付された記事見出しだが、個々に検討しても、いずれも各見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。

まず、著作物として主張されたのは、365個の個々の見出しということか。
そして、見出しは一般的に、限られた文字数で、ある事実を表現するというものであることからすれば、
著作物性を認めうる場合はあるにせよ、一般論としては、個々の見出しについて著作物性を認めることは困難であり、
個々の具体的あてはめはなんともいえないが、判示の規範自体は不当ではないだろう。
ところで、数々ある事件の中で一部の事件のみをニュースとして配信している点から、
事件の取捨選択に創作性があるとして、見出しの集合体にを編集著作物であるとの主張も考えうるところである。
ただ、それだけで保護すべき創作性があるかというと、それは考えにくい。
その他見出しの配列等も加味した上で認められることはあるだろうけども、よほどの特殊な場合に限られよう。
したがって、(個別判断は別にして)見出しに(一般的に)著作物性がないという判断は妥当だろう。

 【不法行為
 不法行為が成立するには、必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、法的保護に値する利益が違法に侵害された場合であれば不法行為が成立すると解すべきである。
 ネット上では大量の情報が高速度で伝達され、利用者に多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし、価値のある情報は、何ら労力を要することなく当然のようにネット上に存在するものではなく、情報を収集・処理し、これを開示する者がいるからこそ大量の情報が存在する。
 ニュース報道における情報は、報道機関による多大の労力、費用をかけた取材、原稿作成、編集、見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそネット上の有用な情報となり得る。
 とりわけ、YOLの見出しは、読売新聞東京本社の多大の労力、費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること、著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの、相応の苦労・工夫により作成されたものであって、簡潔な表現により、それ自体から報道される事件などのニュース概要について一応の理解ができるようになっていること、YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば、YOL見出しは法的保護に値する利益となり得るものというべきである。
 一方、デジタル社は読売新聞東京本社に無断で、営利目的で、かつ反復継続して、しかもYOL見出しが作成されてまもない情報鮮度の高い時期に、YOL見出し及びYOL記事に依拠して、特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピー(丸写し)ないし実質的にデッドコピーして「ライントピックスサービス(LT)」見出しを作成し、自らのホームページ上のLT表示部分のみならず、2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザーのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど、実質的にLTリンク見出しを配信しており、このようなサービスが読売新聞東京本社のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できない。
 デジタル社の一連の行為は、社会的に許容される限度を超えたもので、読売新聞東京本社の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。
 読売新聞東京本社にはデジタル社の侵害行為で損害が生じたことが認められるが、使用料について適正な市場相場が十分に形成されていない現状では、損害の正確な額を立証することは極めて困難であるといわざるを得ず、デジタル社の侵害行為によって生じた損害額は1か月につき1万円であると認めるのが相当で、読売新聞東京本社に生じた損害額は23万7741円ということができる。

見出しの複製・公衆送信が著作権侵害でないとしても、その態様について一般不法行為が成立する場合がある。
かかる一般論についてはそれほど問題ないように思う。
もっとも、どの点に不法行為を認めるか、という点については、必ずしも判旨を支持できない。
前回は、うまくまとめられなかったが、結論だけを書くと、
「(著作物性のない)見出し」(以下、単に「見出し」)そのものに法的保護を与えること難しく、
むしろ保護すべきは、業としての新聞見出し及び記事を作成するまでの労力であり、
デジタル社が、その労力にフリーライドして、
業として見出し配信という新聞社と同一の行為を行った点にあるという方がすっきりするのではないか、ということである。
通常、新聞見出しで記載される情報は、それ自体単純な事実である(例えば「内閣総理大臣に○○氏指名」)。
そのような事実を単純に表現したにすぎないすなわち見出しという情報に、法的利益があるというのは、
著作権法などが、ある種の情報にのみ保護をあたえたことからして、やはり考えにくいように思うのである。
一方で、「本紙世論調査 内閣支持率○%」だとの場合、新聞社が情報を作出している面もあるが、
ここでも何らかの利益を認めるにしても、それは情報そのものであって、「見出し」ではないだろう。
したがって、表現としての「見出し」に保護すべき利益を認めることはできないと考えられる。
もっとも、情報としての「見出し」には保護すべき利益を認めうる場合があることは否定できないことになる。
しかしその場合すべての「見出し」が保護されるわけではないし、要旨を見る限りは前者の文脈であるように思うのである。


そうだとすれば、ここで保護すべきは額の汗に基づく「見出し」ではなく、額の汗そのものであり、
額の汗を欠くべき同種事業者が額に汗をかかなかったことが問題というべきではないだろうか。
実際要旨も「営利目的で、かつ反復継続して、」「情報鮮度の高い時期に、」
「見出し及記事に依拠して、特段の労力を要することもなく」「競合業務」を行った点を問題視しているのである。
だとすれば、単純にこの点、すなわち、
「ニュース配信事業」における業務上の労働成果不正搾取を問題にすればよかったのではないかと思うのである。
加えて筆者は、ニュース業者としての読売新聞の信用にフリーライドしてニュース配信した点についても、
問題視していいのではないかと思うのである。(もっとも配信形態がちょっとよくわからないし、原告・控訴人の主張にもよる。)


もちろんあらゆる情報になんらかの価値があることは否定できない。
しかしここで法的に保護すべきは見出しそのものの価値ではなく、
その見出しの配信に向けられた労力であり情報配信者である新聞社名だったのではないかと思うのである。
もっとも、判決も見出しについて法的保護に値する利益を有するというだけで、準物権的権利性を認めるものではないし、
その通常利用は社会的に許容され、その利益侵害を(違法と)認めるのは、上記のような限定的な場合に解するので、
見出しそのものに利益を認めるという考え方が明らかにおかしい、ということにはならないように思われる。
判決のような要件のもとに不法行為を認めるのであれば、結論として、私見と異なるものではない。
もっとも、判決にしろ、私見にしろ、ここでの「営利目的」や「情報鮮度」などの縛りをどの程度考えるかは難しい。
私見を言えば「営利目的」はあくまでも見出し配信の点に必要であろう。
また、新鮮度についても、配信直後〜数分程度という新鮮さが必要のように思われる。
私見でのデジタル社への適用も事実がわからないのでなんともいえない。)
判決の射程は別途検討する必要があるが、利益侵害が認められるのはごく限られた場合であるから、
ブログ(企業ブログであっても)に見出しを書くことを躊躇する必要はまったくないように思う。

 【差し止め請求】
 一般に不法行為に対する被害者救済としては損害賠償が予定され、差し止め請求は想定されていない。本件で差し止め請求を認めるべき事情があるか検討しても、デジタル社の将来にわたる行為を差し止めなければ損害賠償では回復し得ないような深刻な事態を招来するものとは認められず、不法行為に基づく差し止め請求は理由がない。

ちなみに、名誉毀損プライバシー権侵害も不法行為だが、これに差止が認められるのは、
人格権侵害であり物権同様に排他性を有する物だから。詳細は割愛。
そういうわけで、ここで差止を認めを認めなったことからも、その利益に準物権性は認めていないことがわかります。

原告・控訴人サイト:YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/
被告・被控訴人サイト:1行ニュースリンク配信 - LINE TOPICS
http://linetopics.d-a.co.jp/

(追記)
知財高判平成17年10月6日 平成17年(ネ)第10049号 著作権 民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/d36216086504bdc349256fce00275162/0c642a4a124dc13d492570970018104b?OpenDocument
ただし、「上記判決につき,平成17年10月7日付け更正決定あり。」だそうです(末尾)。
更正決定とは、計算違い、誤記、その他これらに類する明らかな誤りがある場合になされるものです(民訴法257条1項)。