選撮見録その16〜大阪地裁判決評釈<暫定版1>

大阪地判平成17年10月24日平成17年(ワ)第488号 著作権 民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/bb65331fa6fb8960492570a50003ebec?OpenDocument

選撮見録裁判判決文の掲載
平成17年(ヨ)第20004号 著作権侵害差止仮処分申立事件
http://www.cyz.co.jp/pdf/2005_20004.pdf[pdfファイル]約17.3 MB
平成17年(ワ)第488号 著作権侵害差止等請求事件
http://www.cyz.co.jp/pdf/2005_488.pdf[pdfファイル]約7.0 MB
http://www.cyz.co.jp/news/2005/20051026_01.html

はじめにお断り。
訴訟経過の資料には目をとおせてませんので、あくまで判決をもとにコメントです。
今回はざっと書くので後日改めるかもしれません。改めないかもしれません。
裁判所の判断部分はほとんど削ってませんので、長いです。気になるところには下線を付しました。

          主    文
 1 被告は、原告株式会社毎日放送、原告朝日放送株式会社、原告関西テレビ放送株式会社及び原告讀賣テレビ放送株式会社に対し、滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県及び和歌山県の各府県内の集合住宅向けに、原告テレビ大阪株式会社に対し、大阪府内の集合住宅向けに、それぞれ、別紙物件目録記載の商品を販売してはならない。
 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は、これを6分し、その1を被告の負担とし、その余を原告らの連帯負担とする。

だいたい原告勝訴。ただし、訴訟費用からすれば被告負担は1/6だけ。
かなり無駄な主張をしているようで、下記の請求と主文を比較すればある程度は納得。

          事実及び理由
第1 請求
 1 被告は、別紙物件目録記載の商品を、使用し、又は集合住宅の所有者をして上記商品を集合住宅の入居者に使用させてはならない。
 2 被告は、前項記載の商品を集合住宅向けに販売してはならない。
 3 被告は、第1項記載の商品を廃棄せよ。
 4 仮執行宣言

第2 事案の概要
 本件は、大阪市に所在するテレビ放送事業者である原告らが、被告が販売する別紙物件目録記載の商品(以下「被告商品」という。)が、原告らがテレビ番組の著作者として有する著作権(複製権及び公衆送信権)並びに原告らが放送事業者として有する著作隣接権(複製権及び送信可能化権)の侵害にもっぱら用いられるものであると主張し、上記各権利に基づいて、被告に対し、その商品の使用等及び販売の差止め並びに廃棄を請求した事案である。
1 前提となる事実(いずれも争いがない。)
 (1) 原告らは、いずれも、大阪市に本社を置く一般放送事業者である株式会社であり、地上波テレビ放送事業を行っている。
    被告は、システムコンサルティング事業、ソフトウェア開発事業、ハードウェア設計開発事業、システムエンジニア派遣事業等を行う株式会社である。
 (2) 被告は、集合住宅向けに、「選撮見録」という商品名で、テレビ放送を対象としたハードディスクビデオレコーダーシステムの販売の申し出を行っている。
2 争点
 (1) 〔本案前の主張〕本件請求は特定を欠くものとして不適法なものであるか
 (2) 被告商品の構成
 (3) 著作権に基づく原告らの請求について、これを基礎付けるに十分な事実が主張されているか
 (4) 被告商品の使用によって、被告商品のサーバーのハードディスクに録画された放送番組は、公衆送信されるといえるか
 (5) 被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を送信可能化するといえるか
 (6) 被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組ないし放送に係る音及び影像を複製する主体、放送番組を公衆送信する主体、放送を送信可能化する主体は、被告といえるか
 (7) 被告が、複製、公衆送信ないし送信可能化の主体ではない場合における被告商品の販売差止め等の対象とすることの可否
 (8) 被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組ないし放送に係る音及び影像を複製することは、著作権法30条1項(同法102条1項により準用される場合も含む。)により適法化されるか(「私的使用のための複製」の抗弁・「公衆用自動複製機器」の再抗弁)
3 争点に関する当事者の主張
<省略>

ということで、これら争点についての裁判所の判断(証拠関係一部省略、白丸数字部分は[1]などと表記)。

第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(本案前の主張)について
<省略>

被告商品の特定が不十分という主張ですが、ここでは省略します。
次に被告商品=選撮見録そのものについては、

 2 争点(2)(被告商品の構成)について
(1) 「選撮見録」について被告が作成したカタログ、「選撮見録」の取扱説明書の版下及び「選撮見録チャンネルプリセット変更マニュアル」、「選撮見録」についての被告のウェブサイト上での説明、被告が作成した「選撮見録」についての説明、弁護士P1他1名作成の2004年7月15日付被告宛書面、被告代表取締役P2作成の陳述書、「選撮見録」の導入が予定された集合住宅の広告及び導入予定先の被告商品についての回答書並びに弁論の全趣旨によれば、被告は、「選撮見録」という名称を付した集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムとして、少なくとも、以下の構造及び機能を有する商品の販売の申し出をしていることが認められる。
 なお、被告は、「選撮見録」は、個々の建設業者等の発注に応じ製作される特注品であり、その構造、機能等がその都度決定されるものであると主張する。しかし、上記各証拠に照らしても、また、本件における被告の主張に照らしても、「選撮見録」は、少なくとも、共通して、以下の構造及び機能を有する商品であることが認められる。
 したがって、本件において原告らが差止め等の請求の対象とする被告商品は、以下の構造及び機能を有する、集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムであるということができる。
 [1] 被告商品は、大要、テレビ放送受信用チューナーと放送番組録画用ハードディスクを備えたサーバー並びに各利用者用のビューワー及びこれを操作するコントローラーからなる。
  その設置者は、集合住宅全体の所有者や、集合住宅が区分所有に係る場合には、その管理組合ないし管理組合法人であるが、集合住宅の建築時に導入される場合には、建築業者が設置し、その後、上記のような者が設置者の地位を承継することもある。
 [2] サーバーは、集合住宅の共用部分(管理人室等)に設置される。また、サーバーのチューナー部はテレビ放送受信用アンテナに接続される。
  各利用者用のビューワー及びそのコントローラーは、集合住宅の居室に、各戸1台ずつ設置され、各ビューワーとサーバーとの間が配線で電気的に接続される。また、ビューワーにはテレビ受像機を接続することを予定しているが、ビデオテープレコーダー等の録画装置を接続することもできる。
  1サーバー当たりのビューワー数は、具体的な設置場所によって異なるが、その上限は50個(50戸)程度とすることが予定されている(ただし、この上限は技術的な上限ではない。)。したがって、これを超える数のビューワーを設置する際には、これに応じてサーバーを増設することとなる。
 [3] 「選撮見録」は、そのサーバーによって、テレビ放送から、あらかじめ選定され設定された、最大5局分の番組を、同時に、1週間分録画することができる。
  この放送局の選択は、導入時に設置者が選定して被告が設定するが、「選撮見録」の設置後にも、設置者において変更することができる。
  放送番組の録画は、サーバーのハードディスク上にされ、1週間を経過した番組の音声及び映像の情報は、自動的に消去される。
 [4] 放送番組の録画は、ビューワーからの録画予約指示によって自動的にされる。
  録画予約モードには、「個別予約モード」と「全局予約モード」があり、各利用者において、各ビューワーごとに設定することができる。
  個別予約モードは、各利用者において、ビューワーを用いて、録画すべき番組を個別に予約するものであり、全局予約モードは、1週間分5局分の番組すべてを録画するように予約するものである。
  サーバーに接続された複数のビューワーから、同一の番組について複数の録画予約(全局予約モードの設定による予約も含む。)がされていても、1つの放送番組は、1サーバーにおいては、1か所にしか録画されない(したがって、1つの放送番組についての音声及び映像の情報は、1サーバーにおいて1つしか記録されない。)。
 [5] 録画された放送番組の再生は、ビューワーからの再生指示によって自動的にされる。
  各利用者が、ビューワーを用いて、既に録画予約(全局予約モードの設定による予約も含む。)の指示をしてある番組の中から、再生すべき番組を指定して再生の指示をすると、サーバーから当該ビューワーに録画してある番組の音声及び映像の情報が信号として送信され、各利用者は、当該ビューワーに接続されているテレビ受像機を用いてその番組を視聴することができる。
  ビューワーの録画予約モードが個別予約モードに設定されている場合には、当該ビューワーから録画予約の指示をしていなかった番組については、仮にサーバーにおいてその番組の録画をしていても、当該ビューワーから再生の指示をして番組の視聴をすることはできない。
(2) 上記(1)[4]の点につき、被告は、「選撮見録」においては、「全局予約モード」はオプションで付属させることができるものであると主張する。
 しかしながら、「選撮見録」について被告が作成したカタログ及び「選撮見録」についての被告のウェブサイト上での説明のいずれにおいても、「選撮見録」の機能として、「全局予約」が主要な機能として記載されており、これがオプションであるとの記載は全く存在しないことに照らせば、被告の上記主張は採用することができない。

というのが前提。特に目新しいことはないように思う。

 3 争点(3)(著作権に基づく請求)について
 原告らは、自社制作により自らが著作権を有する放送番組があり、原告らが日々継続的に行っている放送の中に、そのような番組が必ず含まれていると主張し、甲第14号証として、平成16年12月6日から同月12日までの新聞紙上のテレビ番組表に掲載された放送番組のうち、原告らが著作権を有する番組に原告らにおいて印を付けたとするものを提出する。
 しかしながら、同号証は、原告らが印を付けた番組について、原告らが著作権を有すると主張するに等しいものであって、直ちに原告らが著作権を有していることの証左となるものではない。
 そして、被告において、原告らが放送番組について著作権を有していることを否認し、また、原告らが著作権を有する放送番組の特定等について争っているにもかかわらず、原告らは、これ以上の特定や著作権の取得原因について主張せず、また、同号証以外に、原告らの上記主張を裏付けるに足りる証拠を提出しない。また、原告らが自ら著作権を有すると主張する放送番組についても、その内容が明らかではなく、これらの著作物性の有無についても判断することができない。
 したがって、原告らの上記主張は採用することができず、本訴請求のうち、原告らの著作権に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないというほかはない。
 また、原告らが著作権を有すると主張する放送番組について、原告らが放送事業者として放送を行っている地域以外の地域において、これらが放送されていることは、原告らは明確に主張せず、本件の全証拠によっても、その範囲をを認定することができないから、これらの地域についての請求は、この点においても理由がない。

ここはいいでしょう。著作隣接権を主張すれば十分でしょうし、実際上も原告はあまり立証する気がなかったようです。
判断も立証不十分ってだけのようです。

 4 争点(5)(送信可能化性)について
(1) 著作権法における、「送信可能化」(2条1項9号の5)、「自動公衆送信」(同項9号の4)、「公衆送信」(同項7号の2)、「放送」(同項8号)及び「有線放送」(同項9号の2)の定義は、それぞれ以下のとおりである。
 [1] 送信可能化
    次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすること。
     イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
     ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。
 [2] 自動公衆送信
    公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)。
 [3] 公衆送信
    公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うこと。
 [4] 放送
    公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信。
 [5] 有線放送
    公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信。
    また、著作権法において、「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとされている(同条5項)。
 以上を前提として、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができるか、検討する。
(2) 前記2のとおり、被告商品は、個々の利用者が全局予約モードに設定しているか個別予約モードに設定しているかに関係なく、サーバー毎に、これに接続されたビューワーのいずれかから録画予約された番組(全局予約モードに設定しているビューワーがある場合は全番組)について、そのサーバーのハードディスク上の1か所にのみその音声及び映像の信号を記録し、そのサーバーに接続されたビューワーで、当該番組の予約をしたビューワー(全局予約モードに設定しているビューワーは当然にこれに含まれる。)から、録画から1週間の保存期間内に番組再生の要求があった場合には、自動的に、録画した番組の音声及び映像の情報信号を、当該ビューワーにのみ、送信するものである。
 そして、前記2のとおり、被告商品は、サーバーとビューワーが有線回線によって電気的に接続され、サーバーは集合住宅の共用部分に、ビューワーは個々の入居者の居室に設置されている。
 以上によれば、被告商品の使用時においては、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することによって、「サーバーに接続されたビューワーの設置された居室の入居者によって直接受信されることを目的とした有線電気通信の送信」であり、「当該入居者からの求めに応じ自動的に行われるもので、放送又は有線放送のいずれにも該当しないもの」が、行われ得る状態になるということができる。
(3) ところで、これが、自動公衆送信し得る状態であるというためには、送信を要求し、信号を受信する者、すなわち各居室の入居者が「公衆」である必要がある。
 この点につき、被告は、[1]あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーの利用者のみが、番組の再生指示(送信の要求)をしてその信号を受信し、番組を受信することができるのであるから、送信を要求し、信号を受信する者を「公衆」ということはできない、[2]「公衆」とは特定かつ多数の者を含むとされているが、被告商品では1サーバーに接続されるビューワー数は50個程度を上限としているから、その数に照らして、その利用者を「公衆」ということはできない、と主張する。
 しかしながら、前記2のとおり、被告商品においては、番組の録画は、録画予約をしたビューワーの数にかかわらず、サーバーのハードディスク上の1か所にのみ、1組のみの音声及び映像の情報が記録されるものである。したがって、あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーすべてに対し、その要求に応じて、記録された単一の情報が信号として送信されるものであるから、その人数の点を別とすれば、被告商品の利用者は、「公衆」であることを妨げる要素を含んでいるものではない。被告は、公衆送信における「公衆」とは、不特定者や第三者であることを要すると主張するかのようでもあるが、そのように解することができない。
 そして、被告商品においては、ビューワーは、集合住宅の各戸に設置されることが予定されているから、1サーバーに接続されるビューワー数は、設置場所によって異なるとしても、集合住宅向けに販売される以上、少なくとも10個以上は接続されるものと推認される。これは、10世帯以上の入居者(したがって、その入居者数は10に留まるものではない。)が利用者となることを意味するものである。ところで、上記のとおり、著作権法における公衆送信の定義においては、有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内にあるものによる送信を除くこととされているが、その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域を単位として上記の「同一の構内にある」か否かを判断することとされており、その結果、同一の建物でも、その内部が区分され、占有者を異にする区域が複数存在する場合には、その建物の中で「公衆送信」がされ得ることとされている。このことに照らせば、被告商品の利用者の数は、公衆送信の定義に関して「公衆」ということを妨げない程度に多数であるというべきである。
 したがって、被告の上記主張は採用することができず、被告商品の利用者、すなわち、送信を要求し、信号を受信するものは、「公衆」であるということができる。
 よって、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することにより、その放送番組は自動公衆送信し得る状態になるものである。
(4) さらに進んで、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができるか、検討する。
 既に検討したところに照らせば、被告商品において、サーバーとビューワーとを接続している配線が、電気通信回線であり、これが公衆に該当する利用者の用に供されていること、被告商品のサーバーが、自動公衆送信装置に、そのハードディスクが、公衆送信用記録媒体に、それぞれ該当することは、明らかである。
 そして、利用者がビューワーにより録画予約の指示をすることにより、被告商品のサーバーに、放送番組の音声及び映像の情報が記録され、これによって、上記(2)、(3)のとおり、当該放送番組の情報が自動公衆送信し得るようになるのであるから、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組が録画されることにより、その放送は「送信可能化」されるということができる(上記(1)[1]イ)。
(5) この点につき、被告は、「送信可能化」とは、いわゆる「ウェブキャスト」のように、受信した番組を録音・録画せず、サーバー等を通じてそのまま流す場合のみを対象とし、いったん録画されたビデオ等を用いて送信可能化する行為は、送信可能化にはあたらないと主張する。
 しかしながら、上記(1)[1]イのとおり、著作権法上、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に、情報を記録することにより、自動公衆送信し得るようにすることも、「送信可能化」として定義されているのであるから、被告の上記主張は採用できない。
(6) 以上のとおりであるから、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができる(ただし、「送信可能化」の主体が誰であるかについては、後記5において検討する。)。

さて、ここからが本題。
おそらく、裁判所の言いたいことは(5)の「しかしながら」以下の下線を附した部分につきるように思われる。
なんであれ形式的に定義に該当する以上、公衆送信にあたるということである。
確かに、裁判所のようにわりきって形式的にあてはめることも可能かもしれない。
しかし、そのように単純あてはめていいのか、という疑問は残る。
そもそも、法が技術的に選撮見録のようなシステムを予定して定義していたのか疑わしいし、
価値判断としても、(適法と理解される)ビデオデッキによる録画と比べて録画物が一つの固体に固定されている点で、
権利者をより害さないシステムということもできるのである。
だとすれば、複製権についての権利制限規定により合致したものともいえ、
それにもかかわらシステムの一部のみについて、文言を形式的あてはめ処理して公衆送信と判断することは、
果たして妥当なのかと、判決には若干の疑問を覚えなくもない。法「解釈」を放棄してしまっているように思うのである。
さらにいえば、裁判所のもつそもそもこのシステムに関して「送信可能化」のための権利処理をさせるべきである、
という価値判断自体がよくわからないのである。
裁判所にいわせればそれは立法府の考えるべき事項であり、明確におかしいとはいえない、ということかもしれないが…。

選撮見録その17〜大阪地裁判決評釈<暫定版2> - 言いたい放題へつづく>

○共用録画でも見れるのは自分の設定した分だけでしょ?
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050122/p1
○(株)クロムサイズ「選撮見録」事件
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050125/p1
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○選撮見録その4〜重大な視点の見落とし
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 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050301/1109611056
○選撮見録その9〜被告訴訟代理人弁護士小倉秀夫氏のblog(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050303/1109785908
○選撮見録番外編1〜アンケートに御協力ください〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050316/1110910154
 →http://page.freett.com/okeydokey/yoridorimidori.html
○選撮見録その10〜選撮見録と公衆送信(雑)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050401/1112285786
○選撮見録番外編2〜選撮見録の商標
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050409/1112981682
○選撮見録番外編3〜公判期日について(4/22現在)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050422/1114161312
○選撮見録番外編4〜弁論期日について(5/25現在)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050526/1117036969
○選撮見録その11〜録画ネット異議審決定(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050604/1117817520
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 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050730/1122660948
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