録画ネット事件(10)〜抗告審決定について(1)

録画ネット事件(1)〜選撮見録その6〜録画ネット決定(1)事案紹介と判旨
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050203/1107399229
録画ネット事件(2)〜選撮見録その7〜録画ネット決定(2)評釈
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050209/1107879578
録画ネット事件(3)〜放映権?ほか
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050523/1116778278
録画ネット事件(4)〜異議却下
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050602/1117648668
録画ネット事件(5)〜異議審決定について(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050604/1117817520
録画ネット事件(6)〜異議審決定について(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050606/1117985564
録画ネット事件(7)〜異議審決定について(3)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050610/1118334744
録画ネット事件(8)〜抗告審資料/本案訴状
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050908/1126173890
録画ネット事件(9)〜抗告審準備書面・決定は10月中
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051013/1129133779

結局11月なった知財高裁抗告審決定があった。

11月15日に知的財産高等裁判所の決定が下されました。残念なことに敗訴です。サーバーの所有権は仮装だという、厳しい判断です。今後の対応については抗告の決定を良く読んで、検討します。
http://www.6ga.net/

ということで、録画ネット(株式会社エフエービジョン)の側の敗訴であった。
以下、決定文を一部抜粋して紹介しておく。

知財高決平成17年11月15日平成17年(ラ)第10007号著作隣接権侵害差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件
http://www.6ga.net/koukoku_kettei.pdf


異議審(原審)
東京地決平成17年5月31日(平成16年(モ)第15793号仮処分異議申立事件)
http://www.6ga.net/igishinkettei.pdf
保全
東京地決平成16年10月7日(平成16年(ヨ)第22093号著作隣接権侵害差止請求仮処分命令申立事件)
http://www.6ga.net/kettei.pdf

    主    文 


1 本件抗告を棄却する。
2 広告費用は抗告人の負担とする。


    事実及び理由


第1 抗告の趣旨
  <省略>


第2 事案の概要
1 事案の要旨
  <省略>
2 前提事実、争点及びこれに関する当事者の主張
  次のとおり当審における当事者双方の主張の要点を付加するほか、原決定の「理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし7に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当審における抗告人の主張と要点
 (1) 自然的観察によれば、本来の放送の複製行為を行っているのは利用者であると認められるから、上記複製行為には、著作権法102条1項、30条1項が適用され、適法行為である。そうである以上、これに業者が関与したからといって、利用者の行為の法的性質が変化することはない。利用者と業者の行為が共同行為であるというためには、共同意思に基づく共同行為の分担が必要であり、言い換えれば、利用者の行為も業者の行為もそれ単独では複製行為を認められないことが必要であるから、利用者の行為がそれ単独で複製行為である以上、業者との共同行為にはなりえない。
 (2) 利用者と業者の「管理支配の程度」を比較衡量して複製主体の認定を行うという原決定の手法は不当である。このような曖昧な基準により複製主体を決定することは、利用者にとっても業者にとっても予見可能性がなく不意打ちである。また、仮に「管理支配の程度の比較衡量」を行っても、本件の事実関係によれば、抗告人の関与は弱く、複製主体は利用者のみである。
 (3) 本件サービスは、パソコンをアンテナに接続している点を除き、一般的なハウジングサービスと同一であるところ、アンテナ接続の点には何ら違法性がない。現在、市販のパソコンのほとんどテレビパソコンであるから、ハウジング業者が預かったパソコンにテレビアンテナをつなぐことは、ハウジングサービスとして当然のことである。
4 抗告人の主張に対する相手方の反論
  抗告人の主張を争う。


第3 当裁判所の判断
1 本件サービスの内容
  当事者間に争いのない事実に疎明及資料及び審尋の全趣旨を併せれば、抗告人が利用者に提供している本件サービスの内容として、次の事実が認められる。
 (1) 概要
   <省略>
 (2) システム構成
   <省略>
 (3) 機器の設置、管理等
   <一部省略>
    これら機器類は、すべて抗告人の所有であり(なお、テレビパソコンについては、後記(10)参照)、抗告人が調達したものである。
 (4) 録画可能な放送
   <省略>
 (5) 具体的な録画の手順
   <省略>
 (6) 抗告人と利用者の契約の内容
    抗告人は、一定の台数のテレビパソコンを調達し、本件サイト上でその都度利用者を募集している。利用者は、これに応じることにより、本件サービスの利用者となることができ(その際、利用者は、テレビパソコンを「購入」した形式を採るが、実際には、後記(10)において説示したとおり、テレビパソコンの所有権が利用者に移転したとは認められない。)。……<以下、省略>
 (7) 抗告人の宣伝内容 
   <省略>
 (8) サポート体制
   <省略>
 (9) 本件サービスの利用者数
   <省略>
 (10) 事実認定の補足説明
    なお、抗告人は、本件サービスにおいてテレビパソコンの所有者は利用者に移転している旨を主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件サービスにおけるテレビパソコンは、[1] 抗告人の調達したものに限られるとともに、抗告人の管理下に設置され、抗告人事務所内において本件サービスの用に供することのみしか認められていない、[2] 故障の場合、抗告人の費用で修理を行うこととされている、[3] 契約終了時において、他の利用者への無償での「譲渡」という通常の取引では考え難い選択肢が用意されている、[4] 契約終了後にテレビパソコンの「返却」を受ける場合には、ハードディスクを初期化することとされている、というのである。これらの事情によれば、本件サービスにおいて、テレビパソコンを自由に使用、収益、処分することができる権利(所有権)(民法206条)が利用者に移転しているとはいえず、所有権の移転が仮想されているにすぎないというべきである。
2 被保全権利について
 (1) 複製行為の主体について
    前記事実認定によれば、[1] 本件サービスは、抗告人自身が本件サイトにおいて宣伝しているとおり、海外に居住する利用者を対象に、日本の放送番組をその複製物によって視聴させることのみを目的としたサービスである、[2] 本件サービスにおいては、抗告人事務所内に抗告人が設置したテレビパソコン、テレビアンテナ、ブースター、分配機、本件サーバー、ルーター、監視サーバー等の多くの機器類並びにソフトウエアが、有機的に結合して1つの本件録画システムを構成しており、これらの機器類及びソフトウエアはすべて抗告人が調達した抗告人の所有であって、抗告人は、上記システムが常時作動するように監視し、これを一体として管理している、[3] 本件サービスで録画可能な放送は、抗告人が設定した範囲内の放送(抗告人事務所の所在する千葉県松戸市で受信されたアナログ地上波放送)に限定されている、[4] 利用者は、本件サービスを利用する場合、手元にあるパソコンから、抗告人が運営する本件サイトにアクセスし、そこで認証を受けなければ、割り当てられた本件サイトにアクセスすることができず、アクセスした後も、本件サイトに接続した後も、本件サイト上で指示説明された手順に従って、番組の録画や録画データのダウンロードを行うものであり、抗告人は、利用者からの問い合わせに対し個別に回答するなどのサポートを行っている、というのである。これらの事情によれば、抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を管理していることは明らかである。
    また、抗告人は、本件サイトにおいて、本件サービスが、海外に居住する利用者を対象にし日本の放送番組をその複製物によって視聴させることを目的としたサービスであることを宣伝し、利用者をして、本件サービスを利用させて、毎月の保守費用の名目で利益を得ているものである。
    上記各事情を総合すれば、抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を行っているものというべきであり、抗告人の上記複製行為は、相手方が本件放送に係る音又は影像について有する著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものである。
 (2) 抗告人の主張について
  ア 上記の点に関し、抗告人は、利用者の行為がそれ単独で複製行為であることを前提として、利用者と業者の行為が共同行為とはなり得ない旨主張する。
    しかしながら、前記のとおり、利用者ではなく、抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を行っているというべきであるから、抗告人の上記主張は、その前提を欠くものであって採用することができない。
  イ また、抗告人は、本件サービスが、パソコンをアンテナ接続している点を除き、テレビパソコンのハウジングサービスにすぎないし、アンテナ接続の点には違法性がないと主張する。
    しかしながら、前記のとおり、抗告人は、有機的に結合した本件録画システムを構成する機器類及びソフトウエアをすべて自ら暢達・所有すると共に、同システムを一体として管理しており、しかも、本件サービスの利用者は、抗告人の定めるアクセス方法、録画方法、ダウンロード方法に従って本件サービスを利用するものであり、抗告人に問い合われば個別の回答を受けられるなどのサポートを抗告人から受けているというのであるから、これらの事情に照らせば、本件サービスは、単にテレビパソコンを預かり、空調等の環境を管理し、各機器類に電気を供給する等の通常のハウジングサービスの範囲をはるかに超えているといわざるを得ない。抗告人の上記主張は、採用することができない。
  ウ さらに、抗告人は、本件において差止を認めることは、利用者である海外在留邦人の知る権利を侵害するとか、ハウジング業者を利用しないでテレビパソコンを利用する者との取扱いとの関係で平等原則違反である旨主張する。
    しかしながら、前記のとおり、抗告人のサービスにおける複製行為は、相手方の複製権を侵害しているものであるところ、海外在留邦人は、違法な本件サービスを利用しなくても、適法な手段により相手方の放送を視聴することが可能であるから、抗告人に対する差止の事実上の効果として、利用者が本件サービスを利用して相手方の放送を視聴することができなくなったとしても、何ら利用者の知る権利の侵害となるものではないし、合理的理由のない差別的な取扱いに当たるものでもない。抗告人の上記主張は、採用することができない
  エ また、抗告人は、原決定後に本件サービスにつき、SSHポートを解放し、SSH接続を可能とする等の変更を施した旨主張する。
    しかしながら、抗告人が指摘する疎明資料(乙38ないし47、49)によっても、実際にそのような変更が行われたことを疎明するに足りず、他に上記事実を疎明するに足りる資料はない。なお、仮に、抗告人主張のとおりの変更があったとしても、[1] 今後も、本件サービスは、海外に居住する利用者を対象に、日本の放送番組をその複製物のによって視聴させることを主要な目的としたサービスであり、抗告人もそのような宣伝を続けているものと認められ、一方、利用者も、本件サービスを利用することによって、容易に日本の放送番組をすることができるからこそ本件サービスを利用するという実態に何ら変化はないと認められること、[2] SSH接続は利用者によって容易なことではないから、利用者が、前記認定のアクセスによらず、SSH接続をした上で抗告人作成のソフトウエアを経由せずに本件サービスを録画するなどの利用方法を実際に実際に行うことは通常考え難く、本件サービスの利用者のほとんどは、従前通り、抗告人の定めるアクセス方法、録が方法、ダウンロード方法に従って本件サービスを利用するものと認められること(審尋の全趣旨)等の事情によれば、抗告人の主張の変更は、本件サービスにおける複製の主体について前記判断に変更をもたらすものではないというべきである。
3 保全の必要性について
 抗告人が、本件サービスにおいて、相手方の放送に係る本件放送を複製していることにより、相手方が本件放送に係る音又は影像について有する著作隣接権としての複製権(著作権法98条)についての侵害が日々継続的に惹起され拡大しているものであるから、この状態を放置すれば、相手方の権利の保護に欠ける事態となり、相手方に著しい損害が発生することは明らかである。したがって、本件についての保全の必要性も認められる。
4 結論
 以上によれば、相手方の本件仮処分命令申立ては理由があるから、これを認容した本件仮処分決定及びこれを認可した原決定は、結論において正当なものとして、是認することができる。
 よって、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

  平成17年11月15日
     知的財産高等裁判所第3部
         裁判長裁判官  三村量一
            裁判官  嶋末和秀
            裁判官  沖中康人

決定内容についての意見は次回。