録画ネット事件(11)〜抗告審決定について(2)

録画ネット事件(1)〜選撮見録その6〜録画ネット決定(1)事案紹介と判旨
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050203/1107399229
録画ネット事件(2)〜選撮見録その7〜録画ネット決定(2)評釈
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050209/1107879578
録画ネット事件(3)〜放映権?ほか
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050523/1116778278
録画ネット事件(4)〜異議却下
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050602/1117648668
録画ネット事件(5)〜異議審決定について(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050604/1117817520
録画ネット事件(6)〜異議審決定について(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050606/1117985564
録画ネット事件(7)〜異議審決定について(3)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050610/1118334744
録画ネット事件(8)〜抗告審資料/本案訴状
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050908/1126173890
録画ネット事件(9)〜抗告審準備書面・決定は10月中
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051013/1129133779
録画ネット事件(10)〜抗告審決定について(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051117/1132225278

知財高決平成17年11月15日平成17年(ラ)第10007号著作隣接権侵害差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件
http://www.6ga.net/koukoku_kettei.pdf


異議審(原審)
東京地決平成17年5月31日(平成16年(モ)第15793号仮処分異議申立事件)
http://www.6ga.net/igishinkettei.pdf
保全
東京地決平成16年10月7日(平成16年(ヨ)第22093号著作隣接権侵害差止請求仮処分命令申立事件)
http://www.6ga.net/kettei.pdf

まず、知財高裁は、複製行為の主体について、

2 被保全権利について
 (1) 複製行為の主体について
    前記事実認定によれば、[1] 本件サービスは、抗告人自身が本件サイトにおいて宣伝しているとおり、海外に居住する利用者を対象に、日本の放送番組をその複製物によって視聴させることのみを目的としたサービスである、[2] 本件サービスにおいては、抗告人事務所内に抗告人が設置したテレビパソコン、テレビアンテナ、ブースター、分配機、本件サーバー、ルーター、監視サーバー等の多くの機器類並びにソフトウエアが、有機的に結合して1つの本件録画システムを構成しており、これらの機器類及びソフトウエアはすべて抗告人が調達した抗告人の所有であって、抗告人は、上記システムが常時作動するように監視し、これを一体として管理している、[3] 本件サービスで録画可能な放送は、抗告人が設定した範囲内の放送(抗告人事務所の所在する千葉県松戸市で受信されたアナログ地上波放送)に限定されている、[4] 利用者は、本件サービスを利用する場合、手元にあるパソコンから、抗告人が運営する本件サイトにアクセスし、そこで認証を受けなければ、割り当てられた本件サイトにアクセスすることができず、アクセスした後も、本件サイトに接続した後も、本件サイト上で指示説明された手順に従って、番組の録画や録画データのダウンロードを行うものであり、抗告人は、利用者からの問い合わせに対し個別に回答するなどのサポートを行っている、というのである。これらの事情によれば、抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を管理していることは明らかである。
    また、抗告人は、本件サイトにおいて、本件サービスが、海外に居住する利用者を対象にし日本の放送番組をその複製物によって視聴させることを目的としたサービスであることを宣伝し、利用者をして、本件サービスを利用させて、毎月の保守費用の名目で利益を得ているものである。
    上記各事情を総合すれば、抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を行っているものというべきであり、抗告人の上記複製行為は、相手方が本件放送に係る音又は影像について有する著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものである。

とする。簡単にまとめると、抗告人の管理(支配)性について、
 [1] 放送番組をその複製物によって視聴させることのみを目的としたサービスである 
 [2] 抗告人事務所内に抗告人が設置した機器類並びにソフトウエアが、有機的に結合して1つの本件録画システムを構成しており、これらはすべて抗告人が調達した抗告人の所有であって、抗告人は、上記システムが常時作動するように監視し、これを一体として管理している、
 [3] 本件サービスで録画可能な放送は、抗告人が設定した範囲内の放送に限定されている、
 [4] 抗告人は、利用者からの問い合わせに対し個別に回答するなどのサポートを行っている、
という点を考慮している。
この点、[2]に関連して、抗告審はテレビパソコンの所有権についても、

 なお、抗告人は、本件サービスにおいてテレビパソコンの所有者は利用者に移転している旨を主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件サービスにおけるテレビパソコンは、[1] 抗告人の調達したものに限られるとともに、抗告人の管理下に設置され、抗告人事務所内において本件サービスの用に供することのみしか認められていない、[2] 故障の場合、抗告人の費用で修理を行うこととされている、[3] 契約終了時において、他の利用者への無償での「譲渡」という通常の取引では考え難い選択肢が用意されている、[4] 契約終了後にテレビパソコンの「返却」を受ける場合には、ハードディスクを初期化することとされている、というのである。これらの事情によれば、本件サービスにおいて、テレビパソコンを自由に使用、収益、処分することができる権利(所有権)(民法206条)が利用者に移転しているとはいえず、所有権の移転が仮想されているにすぎないというべきである。

として、その所有権が抗告人側にあることを理由に、主体転換の妥当性を補強しているように思われる。
仮にそうだとすると、主体性転換について、複製機器の所有権が誰にあるのか、ということをより重視しているように読むことができる。
他方で、上記テレビパソコンの所有権について抗告人あるとの認定の妥当性が問題となる。
訴訟法的に、利用者と抗告人とのテレビパソコン所有権の帰属について、
本件訴訟でそのような認定をしていいのか、ということが気になる。
もちろん本決定のかかる判断が、直ちに利用者に及ぶということにはならないが、
所有権を有していると考えている利用者にとっては不利益な判断である。
「通常の取引では考え難い」とはいえ、当事者間で争いになっているわけでもないのだから、
有権者たる利用者の「自由に使用、収益、処分することができる権利」行使の結果として、
認定の事情が生じていると考えるべきではないだろうか。
著作物の複製主体について、複製機器の所有権が問題となるというのであれば、
対抗要件がないとか、信義則に反するといった処理をするべきだったのではないかと思うのである。
もっとも、あえて所有権を強調する必要があるかというとそれも疑問である。
たとえば、カラオケでカラオケ機器がリースである場合を考えるといい。
実質的に機器の使用権限が誰にあるかという観点から考察することでもよかったのではないだろうか。
そうすれば、所有権が利用者にあるとしても、本質的に利用権限は契約上抗告人あるといえたようにも思うのである。
ただ機器の管理保守契約があるだけのように思われ(もちろんそうでないという認定も可能だが)、
本件で、複製利用についての管理性が抗告人にそれほど強固に認められるとは思えないのである。
それゆれ決定はテレビパソコンのみでなく、
「“有機的に結合した”本件録画システム」を複製機器と理解しているのかもしれないと思うのである。
もっとも、複製行為の主体性を認めるだけの機器についてはきちんと認定するべきであろう。


次に、[3]は理由になり得ないと思われる。
「抗告人が設定した範囲内の放送(抗告人事務所の所在する千葉県松戸市で受信されたアナログ地上波放送)に限定されている」
というのは何も語っていないに等しい。
特定の番組であるとか、特定のチャンネルのみというのであれば別論、受信可能なアナログ地上波というだけで、
番組「複製」への支配性を認めるのは困難であろう。


ここでおそらく管理支配性要件の判断要素として、一番問題だと筆者が思うものは、[4]である。
「ハウジングサービス」とはいいながら、録画サポートに特化しているのではないか、という点である。
つまりハウジングと付随一環として行っているのが、録画設定であり、それへのサポートであるということである。
これによって、番組の複製への支配性が及んでいるといいうるのである。
もっとも、複製機器をサポートしたからといって、違法となるのではない。
(ビデオデッキやDVD、HDDレコーダーのサポートによって電機会社が複製主体になるとはいえないだろう)。
あくまでハウジングに付随するものが、テレビ受信録画の設置であり、ソフトのインストールであり、
それのサポートであり、そのようなハウジングの付随的サービスを重視して、複製主体と判示したように思うのである。
[2]と[4]、それに[1]の目的もあわさって、複製主体ということなのだろうか。
しかしながら、そのようにして設置された機器について録画をしているのは、あくまでも利用者である。
(録画代行と異なり)自然的に操作しているのも、利用者である。
そこで、複製に際しての利益帰属という視点が特に重要であるように思われる。
しかしながら「毎月の保守費用の名目で利益を得ているものである」と決定はあっさりしている。
通常の保守費用を超える「名目」であることを指摘する必要があるが、それはない。
所有権の帰属について力説した点と比較しても、バランスを欠くものといえるだろう。


抗告人は、

利用者と業者の「管理支配の程度」を比較衡量して複製主体の認定を行うという原決定の手法は不当である。このような曖昧な基準により複製主体を決定することは、利用者にとっても業者にとっても予見可能性がなく不意打ちである。また、仮に「管理支配の程度の比較衡量」を行っても、本件の事実関係によれば、抗告人の関与は弱く、複製主体は利用者のみである。

と主張していた。筆者は管理支配の程度の比較衡量」というのは否定するものではないが、
その比較要素については厳格かつ明確にする必要があると考える。


さて、その他の判断について軽くみておく。

ア 上記の点に関し、抗告人は、利用者の行為がそれ単独で複製行為であることを前提として、利用者と業者の行為が共同行為とはなり得ない旨主張する。
  しかしながら、前記のとおり、利用者ではなく、抗告人が相手方の放送に係る本件放送についての複製行為を行っているというべきであるから、抗告人の上記主張は、その前提を欠くものであって採用することができない。

裁判所は、共同行為ではなく、抗告人の行為と認定しているようである。

イ また、抗告人は、本件サービスが、パソコンをアンテナ接続している点を除き、テレビパソコンのハウジングサービスにすぎないし、アンテナ接続の点には違法性がないと主張する。
  しかしながら、前記のとおり、抗告人は、有機的に結合した本件録画システムを構成する機器類及びソフトウエアをすべて自ら暢達・所有すると共に、同システムを一体として管理しており、しかも、本件サービスの利用者は、抗告人の定めるアクセス方法、録画方法、ダウンロード方法に従って本件サービスを利用するものであり、抗告人に問い合われば個別の回答を受けられるなどのサポートを抗告人から受けているというのであるから、これらの事情に照らせば、本件サービスは、単にテレビパソコンを預かり、空調等の環境を管理し、各機器類に電気を供給する等の通常のハウジングサービスの範囲をはるかに超えているといわざるを得ない。抗告人の上記主張は、採用することができない。

おそらく抗告人がハウジングサービスであることを強調し過ぎたように思うだが、
例えば、録画管理ソフトの販売、インストール、管理なども複合的にしているとすればよかったのではないだろうか。
もっとも、他社製録画を許容しない場合には、違法となるかもしれない。一方で、サーバー管理ソフトは自社製でも問題ないように思うが。

ウ さらに、抗告人は、本件において差止を認めることは、利用者である海外在留邦人の知る権利を侵害するとか、ハウジング業者を利用しないでテレビパソコンを利用する者との取扱いとの関係で平等原則違反である旨主張する。
  しかしながら、前記のとおり、抗告人のサービスにおける複製行為は、相手方の複製権を侵害しているものであるところ、海外在留邦人は、違法な本件サービスを利用しなくても、適法な手段により相手方の放送を視聴することが可能であるから、抗告人に対する差止の事実上の効果として、利用者が本件サービスを利用して相手方の放送を視聴することができなくなったとしても、何ら利用者の知る権利の侵害となるものではないし、合理的理由のない差別的な取扱いに当たるものでもない。抗告人の上記主張は、採用することができない

違法前提であれば知る権利違反の排斥もやむを得ないも思うが…。平等原則違反は問題ないでしょう。

エ また、抗告人は、原決定後に本件サービスにつき、SSHポートを解放し、SSH接続を可能とする等の変更を施した旨主張する。
  しかしながら、抗告人が指摘する疎明資料(乙38ないし47、49)によっても、実際にそのような変更が行われたことを疎明するに足りず、他に上記事実を疎明するに足りる資料はない。なお、仮に、抗告人主張のとおりの変更があったとしても、[1] 今後も、本件サービスは、海外に居住する利用者を対象に、日本の放送番組をその複製物のによって視聴させることを主要な目的としたサービスであり、抗告人もそのような宣伝を続けているものと認められ、一方、利用者も、本件サービスを利用することによって、容易に日本の放送番組をすることができるからこそ本件サービスを利用するという実態に何ら変化はないと認められること、[2] SSH接続は利用者によって容易なことではないから、利用者が、前記認定のアクセスによらず、SSH接続をした上で抗告人作成のソフトウエアを経由せずに本件サービスを録画するなどの利用方法を実際に実際に行うことは通常考え難く、本件サービスの利用者のほとんどは、従前通り、抗告人の定めるアクセス方法、録画方法、ダウンロード方法に従って本件サービスを利用するものと認められること(審尋の全趣旨)等の事情によれば、抗告人の主張の変更は、本件サービスにおける複製の主体について前記判断に変更をもたらすものではないというべきである。

これはちょっと結論ありき感が強い。
傍論だが、SSH接続を可能とする等の変更という客観面の変更によっても、
抗告人さらには利用者の主観面ゆえに複製主体性がかわらないというのは、主観面を強調しすぎとも思える。
あくまでも客観面で補っておくべき事項のように思われる。

3 保全の必要性について
 抗告人が、本件サービスにおいて、相手方の放送に係る本件放送を複製していることにより、相手方が本件放送に係る音又は影像について有する著作隣接権としての複製権(著作権法98条)についての侵害が日々継続的に惹起され拡大しているものであるから、この状態を放置すれば、相手方の権利の保護に欠ける事態となり、相手方に著しい損害が発生することは明らかである。したがって、本件についての保全の必要性も認められる。

テレビ録画の損害というものは何か。
「相手方に著しい損害が発生することは明らか」というが、実はよくわからない。


個別的な事情によっては、録画ネットは違法かもしれない。
しかし、少なくとも判示のような理由で違法とすることには違和感がある。
どうしても、違法との結論あり気感が否めないのである。
私的複製のためのシステム、特に放送という一過性のある著作物の複製システムは、
個人のテレビ著作物の享受にとって必要不可欠なものである。
とくに今日の生活の多様化のなかで、受け手のタイムシフト・メディアシフトは必要であろう。
私的複製の現在的意義も考えつつ、適法幇助と利用主体性転換を考える必要があると思うのである。
それにもかかわらず、そういった視点を無視して、しかも曖昧なまま違法としたこと本決定には疑問が残る。
(仮処分とはいえ)知財高裁には十分に考慮してほしかったと思うところである。


ところで、http://www.homealive.net/setubi/で、(テレビに接続する前提で)ビデオデッキを貸出せば複製権侵害なのか?
この事例で、ビデオデッキのレンタルをしていることを強調し、テレビ録画できることを売りにすれば違法なのか?
どういう場合に違法となるのか。考えてみるとおもいしろい。