「亡母の1400万円、14歳少年の同居祖母らが横領」(読売新聞)

タイトルは読売新聞の見出しをそのまま使わせてもらった。
この見出しを見て、最初に思うことは「あれ?親族相盗例?直系血族じゃないの?」ということである。
もっとも、この謎はきちんと記事中で説明されている。

亡母の1400万円、14歳少年の同居祖母らが横領
 未成年後見人の立場を悪用し、母親と死別した少年(14)の貯金口座から現金約1400万円を流用したとして、福島地検は12日、少年と同居する祖母の福島市大森、ホテル従業員山口たかの(71)と、少年の伯父の同市郷野目、会社員山口博幸(46)と妻京子(48)の3容疑者を業務上横領の罪で福島地裁に起訴した。
 起訴状などによると、少年の母は2001年6月に病死し、たかの容疑者が福島家裁から少年の後見人に選任されたが、たかの容疑者は博幸容疑者夫婦と共謀し、03年11月にかけて、母親の生命保険金などが入っていた少年名義の口座から現金1383万円を引き出し、たかの容疑者の夫の葬儀費用や博幸容疑者の子供の学費、車の購入費用、旅行費用などに充てた。
 たかの容疑者は年1回、福島家裁に財産管理報告書を提出することになっていたが、領収書が添付されていなかったり、提出が遅れたりしたことから流用が発覚。少年側と福島家裁の告訴・告発を受け、地検が11月22日、3容疑者を逮捕した。
 刑法は、両親や祖父母などの直系血族らが窃盗などを犯しても刑を免除する「親族相盗(そうとう)」を定め、業務上横領罪にも準用される。福島地検は、流用された金が3容疑者の個人的な用途や遊興費などに使われていたことを重視。このケースについて、財産管理を委託する側とされる側にある「信任関係」は、少年とたかの容疑者の間だけではなく、後見人に選任した福島家裁とたかの容疑者との間にもあったと解釈。福島家裁も信任関係を裏切られた被害者だとし、事件は「親族相盗」の適用外だと判断した。同地検によると、この規定の及ぶ罪で直系血族が逮捕、起訴されるのは初めて。
 福島地検の片岡康夫次席検事は「このような解釈で直系の血族を起訴した例はないが、公判では主張を訴えたい」と話している。
(読売新聞) - 12月13日3時7分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051213-00000501-yom-soci

刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)
(親族間の犯罪に関する特例)
第二百四十四条  配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2  前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3  前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
   第三十八章 横領の罪
(業務上横領)
第二百五十三条  業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
(準用)
第二百五十五条  第二百四十四条の規定は、この章の罪について準用する。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8c%59%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=M40HO045&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

立法論的には「業務上横領」に準用することはどうなのかな?と思わなくもないけれども、
祖母が直系血族である孫の財産を業務上横領したということなので、255条により244条が準用されることになる。
「刑法は、両親や祖父母などの直系血族らが窃盗などを犯しても刑を免除する「親族相盗(そうとう)」を定め」というのは、
この244条(1項)のことである。
そういうわけで、この祖母である被疑者山口たかのに刑を科すべきと考える場合には、何らかの解釈が必要となる。
そこで、福島地検が持ち出したのが、未成年者の財産管理について、
単に未成年後見人(祖母)と未成年被後見人(孫・少年)との信任関係に基づくものではなく、
成年後見人(祖母)と後見人選任者(家庭裁判所)の信任関係にも基づくものであるというのである。
横領罪は、財産犯であるので、保護法益は一次的には財産であると考えるべきだが、
この財産が単に未成年被後見人により委託財産ではなく、裁判所にも委託された財産であると考えると、
地検の解釈も支持しうるように思われる。
一方で、究極的には未成年被後見人による委託財産であると考えると、親族相盗例が妥当することになるように思われる。
ただ、親族相盗例が、法は家庭に入らずということを趣旨にしているとすれば、
成年後見人との関係では純粋な家庭内の問題であるということはできず、かかる解釈も認められる余地は十分になると思う。