模写の著作物性

こんな判決がありました。といっても、新聞記事ですが…。

出版社に支払い命令 模写絵の著作権東京地裁
 江戸時代の挿絵などを模写した作品の無断使用は著作権侵害に当たるとして、日本画家の故三谷一馬さんの長男が、柏書房(東京都文京区)に慰謝料など約1200万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は23日、作品4点のうち2点について侵害を認め、約28万円の支払いと2点を掲載した書籍の増刷や販売の差し止めなどを命じた。
 判決理由で設楽隆一裁判長は「模写した作品に制作者による新たな創作的表現が付与されている場合、作品は原画の2次的著作物として著作物性を有する」との判断を示した。
 その上で作品4点を原画と比較し、新たな創作的表現が付与されたかどうか検討。2点について、著作物性があると結論付けた。
共同通信) - 3月23日17時58分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060323-00000159-kyodo-soci

判決文そのものがあがっていないので、この記事から分かることを前提に少し。


模写には著作物性がない、というのが一般的な理解だと思う。
模写を辞書でひくと、

もしゃ 【模写/▼摸写】
芸術作品などをそっくりそのまま写し取ること。また、写し取ったもの。コピー。
「名画を―する」「現実を最高模範として、芸術は之れを―する外は無い/文芸上の自然主義(抱月)」
[ 大辞林 提供:三省堂 ]
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?index=20109900&p=%CC%CF%BC%CC&dtype=0&stype=1&dname=0ss&pagenum=1

とある。
つまり、言葉の辞書的な意味からすると、模写とはコピーであって、著作物性がないものをいうことになる。
もちろん、「模写」といわれるものであっても、それに創作性が付与されるなら、著作物性が認められる。
二次的著作物として、著作物性を有するとの裁判所の判断はもっともである。
しかし、この時点で、それは模写ではなくなる。模写以上の何かを有する作品となってしまうのである。


本件で気になるのは、裁判をしたのが、著作者の長男ということである。
もちろん、それが著作物であるならば、著作権があり、長男が相続しうる。
権利者として、このような裁判を起こすことも可能だろう。
しかし、著作者が「模写」作品として発表した作品を、第三者がそれを否定する裁判を起こすことは果たして妥当なのだろうか。
この判決は作品が模写であることの否定である。
もし、模写が、創作性を注入することのなく、模すことに意義があるとすれば、
このことはかえって、作者の意に反することになるようにも思えるのである。
本件について具体的なところはわからない。
ただ、一般的には、模写として制作された作品に裁判所が創作性を与えることは、どうなのか?と思うのである。
もちろん客観的に創作性が認められるならば、それは著作物であろう。
しかし、そのように示すことはある意味で外形に対する「意に反する改変」である。
故三谷一馬さんが、模写ではない、といわれることを望んだのかどうか、気になる。