政見放送関係2

政見放送関係 - 言いたい放題の件が影響しているようです。


読売新聞報道

動画投稿サイトに政見放送、選管「法に抵触の可能性」
4月1日10時8分配信 読売新聞
 利用者が急増しているインターネットの動画投稿サイトに、東京都知事選(8日投開票)の立候補者の政見放送や街頭演説の映像が投稿され、いつでも自由に見られる状態になっている。
 候補者の映像などの公開は、公職選挙法で決められた方法に限るのが原則だが、動画投稿サイトでの政見放送“放映”は想定外で、明確な定めはない。都選挙管理委員会は「公選法に抵触する可能性もある」としながらも、映像を前に手をこまぬいているのが実情だ。
 動画投稿サイトは、もともと利用者が自分で撮影した映像などを公開するためのものだったが、テレビ番組などの録画映像が勝手に投稿されるケースも目立つ。米国の「YouTube(ユーチューブ)」が有名で、国内でも同様のサイトが運営され、急速に利用者が増えている。これらのサイトでは現在、複数の候補者の街頭演説や、支持者向けに作成された政策ビデオの映像などが視聴可能だ。(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070401-00000002-yom-soci

動画サイトに都知事候補の政見放送、選管が削除要請
4月5日23時24分配信 読売新聞
 インターネットの複数の動画投稿サイトに、東京都知事選の立候補者の政見放送の映像が投稿されている問題で、都選挙管理委員会は5日夜、米国の動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」と、日本の投稿サイト「アメーバビジョン」を運営するサイバーエージェント(渋谷区)に映像の削除を要請した。
 政見放送のネット投稿が野放しになっている中、「政権放送は公職選挙法で回数が定められており、特定の候補者の映像がいつでも視聴可能になっているのは公平性が保てない」と判断した。
 投稿サイトで流されているのは、過激な発言内容で注目された一部の候補者の政見放送。都選管ではこの2サイト以外でも政見放送の投稿を確認し次第、同様の要請をする方針だ。(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070405-00000113-yom-soci

インターネットを想定していない現行法を前提にすれば、やむを得ないのかもしれないが、
すべての候補者についてアップロードすれば、公平性は確保される上に、いつでも見れるのでいいのではないかと思う。
テレビの方がアクセスが容易である人が多く、放送による政見放送の必要性は否定しないが、
ネットでも見れるようにすることによる利益は多く、他方でそのことによる不利益というものは少ないよう思われる。


ところで、「政権放送(ママ)は公職選挙法で回数が定められており、」と記事にはあるが、

公職選挙法(昭和二十五年四月十五日法律第百号)〜都道府県知事選挙の政見放送に関するもののみ〜
政見放送
第百五十条
3  …(略)…都道府県知事の選挙においては、当該公職の候補者…は、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中日本放送協会及び一般放送事業者のラジオ放送又はテレビジョン放送の放送設備により、公益のため、その政見…を無料で放送することができる。この場合において、日本放送協会及び一般放送事業者は、その政見を録音し又は録画し、これをそのまま放送しなければならない。
5  第三項の放送に関しては、それぞれの選挙ごとに当該選挙区(選挙区がないときは、その区域)のすべての公職の候補者に対して、同一放送設備を使用し、同一時間数(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては当該選挙区における当該衆議院名簿届出政党等の衆議院名簿登載者の数、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては参議院名簿登載者の数に応じて政令で定める時間数)を与える等同等の利便を提供しなければならない。
6  前各項の放送の回数、日時その他放送に関し必要な事項は、総務大臣日本放送協会及び一般放送事業者と協議の上、定める。この場合において、衆議院比例代表選出)議員の選挙における衆議院名簿届出政党等又は参議院比例代表選出)議員の選挙における参議院名簿届出政党等の放送に関しては、その利便の提供について、特別の考慮が加えられなければならない。

法律で具体的な回数が決まっているわけではなく、「総務大臣日本放送協会及び一般放送事業者と協議の上、定め」た回数と決められているということ。
法律の趣旨は、各候補者同条件にするということなので、同条件が確保されていれば、実質的な問題はないように思われる。
立法をもってインターネット時代に即した、より民主制に資する制度設計をするべきように思う。


ところで、前回の衆議院議員選挙の際にインターネットを用いた選挙活動についてのルール作りの必要性が指摘されたが、その後どうなったのか?
IT選挙「解禁」?へ。 - 言いたい放題であるように、現在の通常国会で審議中のようである。

第164回通常国会提出衆法第40号
 議案名「公職選挙法等の一部を改正する法律案」の審議経過情報
  http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DA102A.htm
 同 提出時法律案
  http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16401040.htm
 同 要綱
  http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g16401040.htm

ところで、この法律案をみると、あくまでも「頒布」にインターネット公衆送信も含めた上で調整するということのようで...。

第百四十二条の三 第百四十二条(パンフレット又は書籍の頒布)の規定にかかわらず、選挙運動のために使用する文書図画は、インターネット等を用いる方法(当該文書図画を頒布しようとする者の使用に係る電子計算機と受信者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、当該文書図画を当該受信者の使用に係る電子計算機の映像面に表示させる方法をいう。以下同じ。)により、頒布することができる。

でも、参議院議員選挙に間に合うのかな。
一方、違憲判決在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件判決(3)〜要旨2〜 - 言いたい放題のでた部分はすでに対処されているみたいです。

第164回通常国会提出閣法第60号→平成18年6月14日法律第62号
 議案名「公職選挙法等の一部を改正する法律案」の審議経過情報
  http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DA0116.htm
 同 提出時法律案
  http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16405060.htm

他にこんなものできてます。

第164回通常国会提出衆法第33号→平成18年6月23日第93号
 議案名「公職選挙法等の一部を改正する法律案」の審議経過情報
  http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DA0116.htm
 同 提出時法律案
  http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16405060.htm


話はもどって、政見放送。今度は著作権法との関係で少し。
まず、候補者(政治家)の演説の著作権については制限されることになっている。

(政治上の演説等の利用)
第四十条  公開して行なわれた政治上の演説又は陳述及び裁判手続(行政庁の行なう審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
2  省略
3  省略

すなわち、政見放送の書きおこしによる無断利用ついては、著作権法上問題とならない。


次に、政見放送にあっては、こういった政治上の演説が放送されることになるが、
この放送を録音・録画・放送・公衆送信等により利用することについてがどうか。
この点については、放送事業者の著作隣接権が絡んでくる。

著作隣接権の制限)
第百二条  第三十条第一項、第三十一条、第三十二条、第三十五条、第三十六条、第三十七条第三項、第三十八条第二項及び第四項、第四十一条から第四十二条の二まで並びに第四十四条(第二項を除く。)の規定は、著作隣接権の目的となつている実演、レコード、放送又は有線放送の利用について準用し、第三十条第二項及び第四十七条の三の規定は、著作隣接権の目的となつている実演又はレコードの利用について準用し、第四十四条第二項の規定は、著作隣接権の目的となつている実演、レコード又は有線放送の利用について準用する。この場合において、同条第一項中「第二十三条第一項」とあるのは「第九十二条第一項、第九十九条第一項又は第百条の三」と、第四十四条第二項中「第二十三条第一項」とあるのは「第九十二条第一項又は第百条の三」と読み替えるものとする。
2  略
3  略
4  略
5  略
6  第三十九条第一項又は第四十条第一項若しくは第二項の規定により著作物を放送し、又は有線放送することができる場合には、その著作物の放送又は有線放送を受信してこれを有線放送し、又は影像を拡大する特別の装置を用いて公に伝達することができる。
7  略

まず、第102条第1項には、第40条第1項は含まれていない。
これは、著作隣接権の目的となっている放送の利用について、準用されないことを意味する。

第四節 放送事業者の権利
(複製権)
第九十八条  放送事業者は、その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、その放送に係る音又は影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する。
(再放送権及び有線放送権)
第九十九条  放送事業者は、その放送を受信してこれを再放送し、又は有線放送する権利を専有する。
2  前項の規定は、放送を受信して有線放送を行なう者が法令の規定により行なわなければならない有線放送については、適用しない。
送信可能化権
第九十九条の二  放送事業者は、その放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送を送信可能化する権利を専有する。
(テレビジョン放送の伝達権)
第百条  放送事業者は、そのテレビジョン放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利を専有する。

つまり、政治上の演説が放送された場合、この放送のそのものの利用は、政治上の演説であることだけをもって、権利制限はされず、
ただ、40条の放送局が権利制限規定を受けて放送したものについては、有線放送、公伝達できるというにすぎない。99条1項のうち有線放送についてと、99条の2が権利制限を受けるにすぎないことなる。


この点、作花文雄「詳解著作権法(初版)」430頁は、「準用は不要」とし、
大谷惣一・菊池他編「著作権法の基礎」303頁には「想定される事態がそもそも著作隣接権の範疇に入らないため、準用の必要がない。」
としている。
これは、演説という言語の著作物については、放送の利用という態様によらずとも利用できるのであるから、関係ないということであろう。
前述した、書きおこしという態様で利用できる以上関係ない、ということであろう。
しかし、政見放送というそのまま放送・有線放送されることを予定したもので、放送局の意図が介在する余地がほとんどないものであって、
選挙という民主主義にとって重要な政見放送に関してまで、隣接権を制限しないことは、40条の趣旨からいって疑問が残る。
政見放送については、隣接権も制限するべきように思われる。
政見放送の取り扱いについて、今一度、広く再考されることを期待したい。