「壇弁護士の事務室: 無駄な考察」について

前回保護期間問題part2 - 言いたい放題という記事を書きました。
同じ件について壇弁護士も書かれております。
無駄な考察: 壇弁護士の事務室
壇弁護士が、著作者性についても検討されております。結論はよくわからないそうですが。
とりあえず筆者は前回、無名・変名著作物の著作物の場合には言及してませんでした。反省。

さて、壇弁護士の記事ですが、二カ所気になったところがあります。
まず一点目。

第五十二条　第三条乃至第五条中三十年とあるは演奏歌唱の著作権及第二十二条の七に規定する著作権を除く外当分の間三十八年とす。

というわけで、黒澤映画が、独創性がないという人はいないであろうから、生前公表物か、無名変名著作物であっても登録をしていた場合は、旧著作権法３条と５２条か６条但し書きで、著作者の死語３８年となりそうである。

他方で、無名、変名著作物であったり、団体名義で発行または興行した著作物であれば、発行または興行のときから３８年で、７０年改正や２００３年改正の保護期間延長の恩恵を受けなければ著作権切れになりかねない。

無名・変名著作物と団体名義では取り扱いが異なると思います。団体名義の場合は、３０年ではないでしょうか？（旧法５２条２項）

旧著作権法
第五十二条　第三条乃至第五条中三十年とあるは演奏歌唱の著作権及第二十二条の七に規定する著作権を除く外当分の間三十八年とす

第三条　〔保護期間−生前公表著作物〕　発行又は興行したる著作物の著作権は著作者の生存間及其の死後三十年間継続す
数人の合著作に係る著作物の著作権は最終に死亡したる者の死後三十年間継続す
第四条　〔同前−死後公表著作物〕　著作者の死後発行又は興行したる著作物の著作権は発行又は興行のときより三十年間継続す
第五条　〔同前−無名・変名著作物〕　無名又は変名著作物の著作権は発行又は興行のときより三十年間継続す但し其の期間内に著作者其の実名の登録を受けたるときは第三条の規定に従う

第六条中三十年とあるは演奏歌唱の著作権及第二十二条の七に規定する著作権を除く外当分の間三十三年とす

第六条　〔同前−団体著作物〕　官公衙学校社寺協会会社其の他団体に於て著作の名義を以て発行又は興行したる著作物の著作権は発行又は興行のときより三十年間継続す

第二十三条第一項中十年とあるは当分の間十三年とす

筆者もアップ後に気づいて訂正したのですが…。

第二点目。

そして、問題となっている映画の公表日をしらべてみた。
姿三四郎…公開日１９４３年３月２５日
生きる…公開日１９５２年１０月９日

のようである。　

新著作権法（昭和四十五年五月六日法律第四十八号）が施行されたのは、昭和４６年１月１日施行である。

というわけで、「生きる」は新法の適用である。すると、黒澤氏は、新法２９条１項で著作権者ですら無い可能性が高い。

（映画の著作物の著作権の帰属）

まず、生きるの公開年1952年＝昭和27年ではないでしょうか（西暦下２桁ー２５年）。昭和47年（西暦下２桁＋２５年）ではないです。
「生きる」も「姿三四郎」も旧法下での問題と思われます。
また、仮に現行法も問題とした場合でも、今回問題となるのは「著作権者」ではなく、「著作者」ですので、現行法29条（映画の著作物の著作権の帰属）ではなく、
第16条（映画の著作物の著作者）ではないかと思います。

（映画の著作物の著作者）
第十六条 　映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。

この場合、著作者にはなりえるかと思います。（但し、現行法では、映画の著作物の保護期間は、著作者の死亡年とは関係ありません。）

なお、この点、現行法附則 （昭和四十五年五月六日法律第四十八号）には、

（法人名義の著作物等の著作者についての経過措置）
第四条 　新法第十五条及び第十六条の規定は、この法律の施行前に創作された著作物については、適用しない。

としています。
ちなみに、著作権の帰属についても、

（映画の著作物等の著作権の帰属についての経過措置）
第五条 　この法律の施行前に創作された新法第二十九条に規定する映画の著作物の著作権の帰属については、なお従前の例による。
２ 　新法の規定は、この法律の施行前に著作物中に挿入された写真の著作物又はこの法律の施行前に嘱託によつて創作された肖像写真の著作物の著作権の帰属について旧法第二十四条又は第二十五条の規定により生じた効力を妨げない。

という規定があります。

いかがでしょうか？壇先生、お疲れではありませんか？