録画ネット事件(6)〜異議審決定について(2)

録画ネット事件(1)〜選撮見録その6〜録画ネット決定(1)事案紹介と判旨
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050203#1107399229
録画ネット事件(2)〜選撮見録その7〜録画ネット決定(2)評釈
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050209#1107879578
録画ネット事件(3)〜放映権?ほか
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050523/1116778278
録画ネット事件(4)〜異議却下
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050602/1117648668
録画ネット事件(5)〜異議審決定について(1)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050604/1117817520


東京地決平成17年5月31日(平成16年(モ)第15793号仮処分異議申立事件)

http://www.icpf.jp/archives/620_past/kettei.pdf
http://www.icpf.jp/archives/2005-06-03-1018.html


録画ネット事件(5)〜異議審決定について(1) - 言いたい放題のつづき。

1.変更前の本件サービスにおける複製の主体について
(3) 変更後の本件サービスについて
 ア 債務者は、原決定後、本件サービスにつき前提事実(4)の変更を施した旨主張するが、実際にそのような変更が行われたことの疎明はない。
 イ 仮に、債務者主張のとおり変更があったとしても、I.本件サービスが、海外に居住する利用者を対象に、日本の放送番組をその複製物によって視聴させることを主要な目的としたサービスで、債務者もそのように宣伝を続るものと認められること、II.利用者も本件サービスを利用することによって、容易に日本の放送番組をその複製物によって視聴することができるからこそ本件サービスを利用することに何ら変化はないと認められること、iii,SSH接続は、利用者によって容易なことではなく、それを現実に利用するものが本件サービスの利用者の大半を占めるに至るとは到底考え難いこと(審理の全趣旨)、iv.有機的に結合している本件録画システムにつき、テレビパソコン等に加え、アンテナケーブル等の一部を利用者の所有とし、債務者が開発したソフトウェア等をはずしたとしても、放送波を受信し、それをテレビパソコンに供給するテレビアンテナは依然として債務者所有であることなどからすると、債務者の主張の変更は、本件サービスにおける複製主体の判断に変更をもたらすものではない。
※ローマ数字I.,II.,III.,IV.は原文では白抜丸数字1〜4であるが、機種依存文字のため置き換えた。

ここでまず、SSH接続云々というのは、これを可能とすることにより、パソコンを録画再生目的以外でも利用できることを
可能にするものであるものである。
これによって、本サービスは、テレビ録再生だけのものということができなくなり、債務者に有利な事情となる。
しかし、(疎明のないから結局否定されるが、)現実的に容易でないからダメということらしい。
しかし、このような判断は妥当か?
これは裁判所がテレビパソコンという利用者の所有物の利用法にあまりに介入しているのではないか?
テレビパソコンをどう使おうと購入者たる利用者の勝手である。
債務者は、録画再生以外の使い方をサポートしている以上、そのサポートを受ける受けないは利用者の勝手ではないか?
債務者が(可能であることにもかかわらず)それを用いないことをもって、主体性を認めるのは酷であろう。
SSH接続を(実質的に)サポートしていれば、それを客たる利用者が使うかどうかについて介入すべきではないのではないだろうか?


ところで、本決定は、前半部分で以下のようは判示をしている。

(※参考)1(1) ウ 私的複製について
 本件録画システムを利用しての各利用者の複製行為は、「その使用する者が複製する」(著作権法102条1項、30条1項柱書)との要件を満たしていないから、適法とならない。
 すなわち、前記のとおり、著作権法30条は、家庭内などの私的領域における零細な規模の複製は著作権者の複製権を侵害する程度が小さいことを考慮し、複製権との例外として、私的使用のための複製を適法としているところ、前記前提事実によれば、債務者は、テレビパソコン、テレビアンテナ等の機器類及びソフトウェアが有機的に結合した本件録画システムのうち、テレビパソコン及びその内部のソフトウェアの一部以外を所有し、かつ、本件録画システムを設置・管理し、しかも、本件サービスが海外に居住する利用者を対象に、日本の放送番組を複製物によって視聴させることを目的としたサービスであることを宣伝し、利用者はそれに応じて本件サービスを利用し、債務者は、毎月の保守費用の名目で利益を得ているものであるから、本件放送の複製行為は、利用者と債務者が共同して行っているものと認めるべきであり、本件サービスにおける利用者の行為をもって、「その使用する者が複製する」(著作権法102条1項、30条1項柱書)との要件を満たすものと認めることはできない。

つまり、
a.「有機的に結合した本件録画システムのうち、テレビパソコン及びその内部のソフトウェアの一部以外を所有し」
b.「本件録画システムを設置・管理し、」
c.「本件サービスが…放送番組を複製物によって視聴させることを目的としたサービスであることを宣伝し」
d.「利用者はそれに応じて本件サービスを利用し」、
e.「債務者は、毎月の保守費用の名目で利益を得ているものである」こと
が必要ということだったのであるが、
このうちc.d.は残っているといってもいいだろう(I.II.)。
a.の所有については、以前よりも利用者所有物が増えているにもかかわらず「テレビアンテナ」の所有をもって否定している。
アンテナ所有権もあくまで主体性の一要素ということなのだろうが、そこまで要求していいのだろうか?
アンテナ所有者による有償使用権設定は違法なのか?
いわゆる共同アンテナの所有権について詳しくないが、そのことへの影響も考えてみるとおもしろいかもしれない。
このことからすれば、アンテナを共有物とすればいいのか?

(4) まとめ
 以上によれば、本件サービスにおいては、債務者のサービス内容の前後を通じ、利用者及び債務者が共同行為者として本件放送の複製を行っているものと認められる。そのため、このような複製は、著作権法102条1項、30条1項により適法とならず、債権者の有する著作隣接権著作権法98条)を侵害するものである。債務者は、複製の共同行為者であるから、債務者に対して侵害の停止(112条1項)を求めることに、何ら法的問題はない。

以上が決定直後の感想である。
今後、いろいろ文献がでてくると思うが、それを読んで再考してみたいと思う。
なお本決定評釈のトラックバックは歓迎しますので、ここに言及しなくても、どんどん送信してください。

個人情報関係いろいろ

個人情報保護関係で最近の記事から2件。


1.嘘をつくなら発表するな。
少し前の記事。

<匿名発表>被害者らの保護理由に、警察が「ウソ」も
 警察など捜査当局が重大な事件・事故について報道機関に発表する際、「被害者や遺族の希望」などを理由に当事者の名前を伏せるケースが相次いでいることが毎日新聞の調査で分かった。中には虚偽の事実を発表した警察もあった。今年4月の個人情報保護法の全面施行後、発表内容を制限する例もあり、論議を呼びそうだ。
 毎日新聞が今月、全国の本社・支局などの取材網を通じて調べた。
 熊本県警多良木署は昨年11月、息子が父親を乗用車内に閉じ込めて暴力を振るった逮捕監禁事件で、父親を匿名で発表し、逮捕した息子との間柄を「知人関係」と発表した。父親側から「発表しないでほしい」との申し入れがあり、プライバシーに配慮したという。
 山梨県警塩山署は今年2月、恐喝未遂事件の被害者となった主婦を匿名で発表した際、年齢を実際には「30代」なのに「46歳」と偽って公表した。同署によると「被害者保護」が理由で、主婦から住所や氏名、年齢を発表しないでほしいと要請があったための措置だったという。
 三重県警は、殺人・死体遺棄事件の被害者の名前が判明した際、「遺族の希望」を理由に匿名で発表し、地元記者クラブの抗議で約6時間後に実名を公表した。
 この他、▽議員や警察官の犯罪について「書類送検」を理由に匿名発表したり、発表そのものをしない▽「通院歴がある」などを理由に殺人事件などの容疑者を警察段階では匿名発表しながら、結果的に検察庁が起訴して実名が明らかになる――などの例も全国的に相次いでいる。
毎日新聞) - 5月31日3時3分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050531-00000009-mai-soci

被害者保護の流れや個人情報保護の観点から被害者の意に反する公表を差し控えるというのは、ある程度理解できる。
しかし、だからとって虚偽発表をしていいことにはならない。
それならそれで、被害者は○歳代だけとか性別だけを発表したり、
あるいはすべてにつき、被害者の要望つき警察としては非公表とすればよい。それだけのことのように思う。
その上で、何を非公表とするべきかが問題となる。
山梨県の恐喝未遂の例であれば、氏名と住所を非公表にすればいいのではないか?
(県内の)30代主婦だけでは何らの「個人情報」性はないはずである。
これだけで個人を特定することにはならないし、プライバシー性もない。
わざわざ46歳と虚偽発表をする必要があるのか、ないであろう。
(ただし、これは警察として発表しないだけである。
 マスコミは独自に情報を入手して、独自判断で公表するかもしれない。
 また、裁判では明らかになることである。)
一方で、悩ましいのが熊本県の事例である。
子が父親を逮捕監禁したとして、被疑者氏名を公表することは、被害者を公表するに等しい。
このような場合に被害者のプライバシーをどの程度考慮するのかは考える必要がある。
ふせるという判断であれば、父親を監禁したということを伏せればよい。
そこで「知人関係」であるが、「知人関係」に親子関係を含まないとはいえない。
確かに一般的用法からは離れるがこれくらいは許容してもいいように思う。
かなり限定されるが、親族関係でもいいかもしれない。


話は少し違うが、
「議員や警察官の犯罪について「書類送検」を理由に匿名発表したり」ということに関しては、
公務員性から直ちに公表するという運用を採るべきではないか。
これは、個人情報どうこうという感じではないかと。
むしろプライバシーは制約されると考えた方がよいように思う。
個人情報保護法の意義がいまいち理解されていない状況でこの構成はちょっと…。


警察発表の指針を策定して公表すれば、その指針自体の批判は可能だし、恣意的運用も防止できる。
個人情報保護法」における個人情報保護は秘匿すべき、ということではなく、適正な取扱いなのだから、
どう取扱うのか、それを策定・公表するのが先であろう。


2.教育現場と個人情報

生徒のけんか→刑事事件 個人情報保護法理由に相手の名前教えず 大阪の府立高校
「説明、謝罪さえあれば…」
 大阪市大正区の府立高校で生徒同士のけんかで負傷した生徒の親が、相手生徒の謝罪を求め、学校に氏名や連絡先を問い合わせたところ、個人情報保護法を理由に拒否されていたことが三日、分かった。被害生徒側は大正署に被害届を提出し、警察が捜査に乗り出したが、被害生徒の親は「相手から説明や謝罪があれば、刑事事件にするつもりはなかった」。府教委も「拒み続けるべきでなかったかもしれない」としている。
 関係者によると、事件は四月一日に起きた。一年生の男子生徒が、別のクラスの男子生徒に校門近くに連れ出され、殴られるなどの暴行を受け、顔などに約六週間のけがを負った。
 学校はけんかと判断し双方を停学処分とした。この際、被害生徒の両親が相手生徒の氏名や連絡先を尋ねたが、学校側は「個人情報」と拒否。相手側から連絡させるとして、被害生徒の連絡先を相手側に伝えた。
 ところが、相手側から連絡はなく学校側は「(学校は)民事に介入しない」と拒んだという。
 同校ではプライバシー保護を理由に生徒にも名簿などを一切配布しておらず、入学当初は生徒同士でも相手の姓しか分からなかったという。
 両親は「容疑者不詳」で大正署に被害届を提出。同署で傷害容疑で捜査を始めているが、学校は警察にも情報提供を拒否。法で認められた捜査上の必要性を説明後、ようやく情報を伝えたという。同署はすでに双方の生徒から事情聴取などをしている。
産経新聞) - 6月4日3時5分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050604-00000019-san-soci

ははは。被害生徒両親にとっては笑い事ではないが、ここにもでてきました個人情報保護法
府立高校だからなぁ、どこでもこういう問題はおこるということか?
こういう場合に第三者たる他の生徒の両親に情報提供できるのか、ということでしょ?
そして、ここではこういう目的設定はされていないと。
学校教育の現場において、こういう場合の利用もできないとすることが、そもそも制度的にどうなのか?という問題ということか。
そうでなければ、単に運用の誤りか。
捜査の場合も断ったのか。令状がないと個人情報提供を提供できない?
とすると、捜査の場合には提供するという指針のないということ?法律的なことはともかくとして。
いったい学校がどういうプライバシーポリシーで個人情報の利用をしているのか、気になるところです。


話は少しそれるが、
「男子生徒が、別のクラスの男子生徒に校門近くに連れ出され、殴られるなどの暴行を受け、顔などに約六週間のけがを負った。」
で、「学校はけんかと判断し双方を停学処分」?
一体どんな高校だ。一方当事者(自称被害者側)の主張しか含まれていないからなのか?
停学処分おきながら、民事に介入しない?
ちょっとわけのわからない学校のような気がします。