〜高裁決定を受けて〜

高裁の決定がでた。

プロ野球】高裁も選手会の主張認めず−球団合併を容認
 オリックス近鉄の球団合併をめぐり、労働組合日本プロ野球選手会古田敦也会長と両球団の選手会長が、オーナーと選手会による特別委員会での議決なしに合併を承認しないよう日本プロフェッショナル野球組織(NPB)に求めた仮処分申請の即時抗告審で、東京高裁(原田和徳裁判長)は6日、選手会側の抗告を棄却する決定をした。
 原田裁判長は決定理由で「球団の統合承認は、選手契約に関する条項の改正を要しないため、プロ野球協約上、特別委の議決事項に当たらない」との判断を示した。
 プロ野球選手会が団体交渉権の確認を求めた抗告については審理を分離し、決定を先送りした。
 近鉄オリックスは6月に合併方針を発表し、8月27日に正式契約を締結。選手会側は、経営者と選手間で契約に関する事項を決める特別委の議決なしに球団合併は進められないとして、仮処分を申請した。
 東京地裁決定は9月3日、今回とほぼ同じ理由で申し立てを却下したため、選手会側が即時抗告していた。
 NPBは6日午後開く臨時実行委員会で合併を承認し、8日の臨時オーナー会議で最終承認を得る。
 根来泰周コミッショナーの話 「裁判は勝った負けたで大騒ぎすることではない。こちらの主張が認められたということだけ。団交については、これまでもやっている」
http://www.sanspo.com/sokuho/0906sokuho023.html

高裁が地裁判決を明確にした。いや、より論理的に正したというべきか。
「球団の統合承認は、選手契約に関する条項の改正を要しないため、プロ野球協約上、
 特別委の議決事項に当たらない」ということだそうです。
つまりは、野球協約第19条(特別委員会)の「選手契約に関係ある事項」には、
事実上影響を与えるかどうかは関係ないということで、
あくまで(協約中の?)選手契約に関する条項の改正に関係するかどうかが
重要ということらしい。
なら、地裁が言った「両球団の選手は解雇されないことで12球団が合意している」
かどうかは、どうでもいいということ、判決としては余計な話ということだろう。
だとすれば、確かに承認は不要とも思われる。協約全部を読んだわけではないが…。

さて、選手会はストを決めたそうです。
これに対して球団は損賠云々といっているわけですが…。

ストなら損害賠償
 日本プロ野球組織(NPB)は6日に行われる臨時実行委員会で、選手会ストライキ権を行使した場合、選手の賃金カットだけでなく、損害賠償請求訴訟の可能性を検討する。実行委員会では東京地裁選手会の仮処分申請を却下したことを受け、近鉄オリックスの合併を承認する予定。また、選手会側は、神戸市内のホテルで12球団の選手会長、役員らが出席し臨時運営委員会を開き、ストライキを実施するかどうかも含めて細かく協議する。
 横浜の峰岸球団社長は「するかしないかは別として、損害賠償請求はできるものと思っている」と話し、ストライキで球団が損害を被った場合、選手会に対し損害賠償請求訴訟を起こす考えを示した。
 その根拠として日本プロ野球選手会労働組合として認められないことを挙げた。選手会は合併差し止めなどを求めた仮処分申請を却下した地裁の決定で、労働組合であると認められたと主張している。
 しかし、峰岸社長は「選手会は団体交渉を認められたことをとらえて、労組として認められたとしているがそれは違う。選手会の労働者性が認められたわけではない」と真っ向から対立する見解を示した。
 選手会労働組合でないならば、ストライキは選手契約の不履行にあたる。このため請求額については「試合を開催した場合に得られる利益」。仮にXデーとされる11、12日の横浜―阪神戦にストが実施されると、横浜として2日合わせて1億数千万円もの損益の賠償を求めることになる。また、仮に近鉄選手会が主張する「無期限スト」となれば、膨大な金額となる。
 阪神・野崎社長は「(無期限ストは)想定していないが、その場合でも12球団で足並みをそろえて対応する」とし、損害については「(主催球団だけ)運が悪かったというわけにはいかない。12球団みんなで負担をすることになる」との認識を示した。だが峰岸社長は「世の中には公平、不公平はある」と非主催球団に負担は求めず、あくまでも選手会側の責任を追及する考えだ。
 さらに「やるとなればみんな一緒に。どこかがやって、どこかがやらないのはおかしい」と損害を被った球団が足並みをそろえて訴訟を起こす必要性を強調。「弁護士と相談している」という横浜の提案を受け、6日の臨時実行委員会では、損害賠償請求訴訟の可能性が検討されることになる。
[デイリースポーツ]
[ スポーツナビ 2004年9月6日 12:15 ]
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/npb/headlines/20040906-00000000-spnavi_ot-spo.html

では、プロ野球選手会は法律上の労働組合か?この点、

第二条(労働組合
 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善
その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団
体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
一 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、
使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにそ
の職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい
触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
二 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、
労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉するこ
とを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若し
くは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基
金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
三 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの
四 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの

とある。
この点、峰岸社長は「選手会は団体交渉を認められたことをとらえて、労組として
認められたとしているがそれは違う。選手会の労働者性が認められたわけではない」
という。そもそも「労働者」でないから、「労働者が主体となつて…」にあたらないと。
ちなみに、労働組合法は、

第三条(労働者)
 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる
収入によつて生活する者をいう。

確か、税法上は個人事業主だったと思うが、これとは別論。「この法律で」だから。
ところで、選手と球団との間にかわす契約に関して、「統一契約書様式」なるものがある。
この冒頭には、

[球団会社名]は、プロフェッショナル球団であって、他の友好球団と提携して[セントラル野球/パシフィック野球]連盟を構成し、[パシフィック野球/セントラル野球]連盟およびその構成球団とともに日本プロフェッショナル野球協約およびこれに付随する諸規程に署名調印している。これらの野球協約ないし規程の目的は、球団と選手、球団と球団、球団と連盟の関係を規律して、わが国のプロフェッショナル野球を利益ある産業とするとともに、不朽の国技とすることを契約者双方堅く信奉する。

とあります。今の流れを見てるとなんかこれに反しているような気がするのですが…。
さて、地裁は、決定で土田裁判官は「選手会は団交の主体になり得ると認められる」、
「労使交渉の状況から仮処分の必要はない」と判断したそうなので、「団交の主体」は
普通労働者が団結したものと考えられるし、
「労使交渉」というからには「労働者」と判断したんでしょうね。
一方、高裁は「プロ野球選手会が団体交渉権の確認を求めた抗告については審理を分離し、
決定を先送りした。」(双方抗告した?)ということなので、
これを否定されるときついわけだが…。
ただ、「プロ」野球選手が、「賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者」
ではないというのは、社会通念と異なるような…。
辞書的な意味として、

プロ
1 《「プロフェッショナル」の略》ある物事を職業として行い、それで生計を立てている人。
 本職。くろうと。「その道の―」「―顔負けの腕前」「―ゴルファー」アマ。
2 「プログラム」「プロダクション」「プロレタリア」「プロパガンダ」などの略。

                                                                                                                                              • -

[ 大辞泉 提供:JapanKnowledge ]
http://dic.yahoo.co.jp/bin/dsearch?index=16390400&p=%A5%D7%A5%ED&dtype=0&stype=1&dname=jj&pagenum=1

であり、「統一契約書様式」の第2条では、
「選手が、プロフェッショナル野球選手として、
特殊技能による稼動に対する球団のために行なうことを、本契約の目的として…」
と規定する。そうだとすれば、プロ野球選手は、
プロ野球を「職業として行い、それで生計を立てている人」だし、
プロ野球することに対する報酬(第3条)を
「賃金、給料その他これに準ずる収入とし、これによつて生活する者」
というべきなのではないかと思う。
この点、機構側は
「85年11月5日に東京都地方労働委員会(都労委)が選手会
労働組合として認定している中、同顧問は「実行委員会は選手会労働組合とは認知していない。
都労委との和解文書の中でも“組合”という言葉は1度も使っていない」と言明。
そのため労働組合法第8条の適用は当てはまらないとの見解から「ストが決行されれば、
年間シート席など興行の実害が生じる。それに対する損害賠償の要求をすべきとの声が
12球団の幹部からも届けられている」と訴訟を視野に入れていることを明らかにした。」
http://www.sponichi.co.jp/baseball/kiji/2004/08/13/01.html
ただ、「都労委との和解文書の中でも“組合”という言葉は1度も使っていない」としても、
以上のことからすれば、労働組合でないと解するのは厳しいような気はする。
そして、先の「統一契約書様式」の冒頭に関わる事項であることからすると、
労働組合性は否定できず、むしろ争議行為として「正当なもの」がどうかの方が疑問なのだが…。

その後の球団側もコメントから察するところ、正当性の方での議論にきりかえた。
では、合併を承認をしないことを求めるスト正当なものか。
一般的にも企業合併は労働条件に関する経営または人事の問題が生じるので、
これによって生じうる事態に対処するべく、争議行動できるものと考えられる。
さらにプロ野球では、合併についての当事者球団以外であっても、
プロ野球野球協約およびこれに付随する諸規程の上に成り立っており、
またそれによれば、合併については各球団が承認という判断を下すことを要しており、
また実際にもそういう手続きを踏むことからすれば、
選手会全体として同盟怠業をすることは正当なものといえるのではないかと思う。
そもそも、各球団と選手との労働条件において、球団および選手双方が、
「わが国のプロフェッショナル野球を利益ある産業とするとともに、
不朽の国技とすることを堅く信奉する義務を負」っていることからすれば、
かかる義務に関して争議行動をとりうるところなのではないかと思う。

プロ野球という特殊な業界での特殊な契約下においては、かかる事項についての
争議行動について、その正当性は否定されないと思うし、裁判所としても、
その正当性を否定して、損害賠償を否定するという結論を下すことについて
不都合性を見い出さないのではないかと思うのだがどうだろうか。