岡本薫氏、著作権侵害で「被害届」

次のようなニュース記事があった。

著作権被害届>文科省課長が出版社を
 著作権の専門家を自任する文部科学省の課長が13日、教育関係の新聞などを発行する教育家庭新聞社に自分の原稿を勝手に書き換えられたとして、著作権法違反容疑の被害届を警視庁蔵前署に出した。同省企画・体育課長の岡本薫さん(49)で、文化庁著作権課長や国際著作権課長などを計6年半務めたエキスパート。
毎日新聞) - 9月15日0時9分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040915-00000000-mai-soci

「無断書き変えで著作権侵害」=専門家の文科省課長−執筆記事で被害届
 著作権分野の専門家で文部科学省の課長が、教育関係の新聞などを発行する教育家庭新聞社(東京都台東区)に署名入りで執筆した文章を無断で書き変えられ、著作権が侵害されたとして、14日までに、著作権法違反容疑の被害届を警視庁蔵前署に提出した。
 この人は、現在、同省企画・体育課長の岡本薫さん(49)。岡本さんは著作権課長などを長く務めた著作権法の専門家で、「著作権の考え方」(岩波新書)などの著書もある。
 岡本さんによると、同社が発行する「教育家庭新聞」の「修学旅行の思い出」と題するシリーズに署名入りで執筆。しかし、掲載された8月28日付の新聞では、「試験が楽しくした?修学旅行」というタイトルを「授業の内容とからめて」に変えられたり、本文の表現数カ所も変更されたりした。いずれも岡本さんの承諾は求めず、無断変更だった。
 岡本さんは同社に謝罪と訂正などを求めたが、同社側は著作権侵害を認めなかったという。 
時事通信) - 9月15日6時4分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040914-00000150-jij-soci

ソースの違う同一事件。
この岡本薫氏、著作権法の世界では有名な人なのだが、
毎日新聞の「著作権の専門家を自任する」ってなんか棘ありません?
さて、そんなことのためにわざわざ記事を転載したわけではありません。
両記事とも著作権法違反容疑の「被害届」を提出となってます。
もし、両記事が正しいならば、彼のとった行動が理解できません。
どういうことかといと…。

著作権法(抄)(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)
第八章 罰則
第119条  次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
一  著作者人格権著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害した者(第30条第1項(第102条第1項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者又は第113条第3項の規定により著作者人格権著作権、実演家人格権若しくは著作隣接権(同条第4項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第120条の
2第3号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)
二  (略)
第120条〜第122条  (略)
第123条  第119条…の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2  (略)
第124条  (略)

著作権法には罰則規定があります。
そして、ここで彼が主張しているのは
「自分の原稿を勝手に書き換えられた」ということ、
すなわち、著作権のなかでも著作者人格権といわれる権利の侵害である
ということだと思われます。

(著作者の権利)
第17条  著作者は、…第20条第1項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)…を享有する。
2  著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
(同一性保持権)
第20条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2  前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一〜四  (略)

つまり、「『試験が楽しくした?修学旅行』というタイトルを
『授業の内容とからめて』に変えられたり、
本文の表現数カ所も変更されたり」を
「いずれも岡本さんの承諾は求めず、無断変更」だったことが、
20条の「その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」という
その著作物及びその題号の同一性を保持する権利(著作者人格権)を侵害する、
という主張であると思われます。
ところで、著作権侵害親告罪です。
著作権侵害(の一部)について処罰するには
「告訴がなければ公訴を提起することができない。」
とされ、被侵害者が処罰を求めるには「告訴」をする必要があります。
(逆に言えば「告訴」がなければ刑事罰は加えられないということです。)
しかしながら、彼は「被害届」をだしたにすぎない。
「告訴」は被害を申告して、訴追してもらう意思を表するものにあるのに対して、
「被害届」は単に被害を申告するにすぎず、これを提出しても「告訴」とは言えません。
まさか、著作権専門家の文科省課長が、「告訴」と「被害届」の違いを
知らないはずはないと思います。では、何をしたいのか?単なる脅しなのか?
なぜ「告訴」ではなく「被害届」なのか?が理解できないのです。
新聞社の間違いなのか?御存知の方これを見られたらご教授下さい。