選撮見録その5〜訴状の内容を推察してみる。

http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050122#p1
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050125#p1
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050127#p5
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130#p1


訴状の内容がわからないくても、素材としてはおもしろい事例だとは思っている。
すでに述べたが、私見としては30条の問題としては「一括録画」が使用目的を欠くので、
そのような装置も違法というのが、てっとり早いように思われる。
ただ、原告民放各社の主張がいまいちよくわからない。
そこで、ネット上のニュースから訴状の内容や民放側のコメントがわかる部分を抜粋してみた。

マンション用録画装置は違法、在阪民放5社が提訴
 訴状によると、このシステムは3月末に入居開始予定の大阪市内の分譲マンションに導入され、録画を指示した番組は共有のサーバーに保存し、1週間以内なら、入居者がいつでも再生、視聴できる。同時に5局の番組を録画でき、サーバー1台で約50世帯が使用可能とされる。
 民放側は「集団的複製、利用行為という私的使用の範囲を逸脱した違法行為で看過できず、提訴に踏み切った」としている。
(2005/1/21/22:57 読売新聞 無断転載禁止)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050121i214.htm

「マンション各戸にテレビ番組配信は違法」,関西の民放5社がサーバ提供企業を訴える
2005/01/25 21:10
 民放側は,著作権法が定める「複製権(第21条と第98条)」「送信可能化権(第99条の2)」「公衆送信権(第23条)」を侵害するものだとして,クロムサイズに対して同システムの販売中止を求めている。
 5社が問題視したのは,クロムサイズが販売する録画システム「選撮見録(よりどりみどり)」。同システムの中核になるのは,5チャンネルのテレビ番組を1週間分,同時録画できるサーバである。このサーバは,マンションの各戸に置かれた端末とLANでつながれており,住民は個別に番組単位で予約・録画できる。複数のチャンネルあるいは全チャンネルのテレビ番組を同時に予約・録画することもできるという。各戸の端末は,住民自身が保有するテレビ受像機とつなぐ。民放側の説明によると,最大50戸まで対応できるという。
 …伊藤忠ケーブルシステムのWWWサイトを見ると,共通のキャプチャー・サーバがいったん全テレビ番組を録画し,所有者ごとに用意したハード・ディスク装置(HDD)にコピーする形態を採る。キャプチャー・サーバと各部屋のセットトップ・ボックス(STB)はLAN経由で接続する。この仕組みにより,各戸向けに用意したHDDの録画内容は,別の住民からは見ることができないようになっている。各戸のHDDにコピーした時点で,キャプチャー・サーバの録画情報は消去するという。
  クロムサイズ側は「現時点では裁判所から訴状を受け取っていないのでコメントできない」としているが,同社のWWWサイト上では「著作権を侵害するものではない」と反論している。民放側は「交渉経緯から自主的な販売中止が期待できなかった」としているが,クロムサイドは,民放5社に対して話し合う場を作りたいと申し入れたが,実現しなかったと主張している。
菊池 隆裕=日経エレクトロニクス
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20050125/101024/

「共用録画は著作権侵害」 民放5社が販売会社を提訴
 …システムは著作権を侵害するとして、在阪の民放5社が21日、東京のシステム機器販売会社「クロムサイズ」にシステムの販売や使用差し止めなどを求める訴訟を大阪地裁に起こした。
 提訴したのは毎日放送朝日放送関西テレビ読売テレビテレビ大阪。5社はこの日、同様の仮処分も申し立てた。
 訴状によると、録画システムは集合住宅用に開発され、サーバー一式で約50戸に対応。民放5チャンネルをまとめて録画予約することが可能で、番組のデータは1週間、共有のサーバーに保存され、入居者は予約した番組を各戸の端末で自由に再生できる。
 著作権法で著作物の複製は「個人的、家庭内そのほかこれに準ずる限られた範囲」の私的使用に限定されており、民放側は「多くの世帯が録画番組を利用することを目的にしたシステムは著作権を侵害する」と主張。
(共同)
(01/21 20:30)
http://www.sankei.co.jp/news/050121/sha088.htm

ここまで、複製権との関係を中心に検討してきた。
この点については、民放側は「集団的複製、利用行為という私的使用の範囲を逸脱した違法行為」
「多くの世帯が録画番組を利用することを目的にしたシステムは著作権を侵害する」と主張しているようである。
「個人的、家庭内そのほかこれに準ずる限られた範囲」かどうかという点で、問題になっているようであるが、
複製物が多数対1であることを問題しているのであろうか?
しかし、一般に1対1で作られることからすれば、多数対1でも複製物は1であって、
むしろ、複製物が限定されているのであるから、複製権侵害にあたらないといってよいように思われるのである。
結局、実際上、複製指示をした人がその家庭内でみるための複製なのであるから、問題ないように思われるのである。
ハードディスクを各家庭に配置すれば明らかに違法でないといってようであろう。 
ただ、その場合、各家庭に複製物が蓄積されることになる。(さらに公衆送信等の問題も生じない。)
複数蓄積で、媒体の移転可能性があるのが適法で、他方一蓄積で、しかも媒体の移転可能性はないのに違法というのは、
均衡を欠くように思われるのである。むしろ、後者の方が複製権に配慮しているということができるのである。
私的使用目的の複製装置が複製物の生成を制限すればするほど、違法とされるのは、非常に不可解である。
結局のところ、本システムを物理的に評価するか、機能的に評価するかということの違いのように思われる。
物理的に評価することによる権利者保護と機能的に評価することによる利用者の利用とのバランスということであろうか?
筆者は価値判断としては、後者の価値を重視したい。


また、「送信可能化権(第99条の2)」「公衆送信権(第23条)」侵害も主張されているようである。

送信可能化権
第九十九条の二  放送事業者は、その放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送を送信可能化する権利を専有する。

公衆送信権等)
第二十三条  著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2  著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

結局のところ、サーバーに記憶された複製物をどう捉えるかによるように思われる。
複製物は1つであるが、それぞれが個別の指示のもとで概念上は個別の複製されたものを、
それぞれの要求に応じて送信しているとすれば、結局公衆に対するものではないといえ、該当の余地はないうように思われる。
他方であくまで1複製物であれば、そのマンションの戸数が「公衆」かということが問題になる。
公衆送信との関係で、約50戸が公衆か否かと言えば、公衆でない、すなわち特定少数であるというのは困難に思われる。
この点については、どのように複製を評価することとある程度は関連するように思われる。
すなわち、私的複製にあたると解するのであれば、この点についても侵害しないと解するのが相当であろう。
他方で、みんな(公衆)のための複製とすれば、みんな(公衆)のための送信といえよう。
なお、すでにのべた「使用目的」を欠くという構成をとれば、この点は適法と解してよいように思われる。


時間があれば、6ga.netの裁判を参考にも検討したいと思うが、
侵害は何であるか、それに対する防御としての主張などを考えると非常におもしろい事案である。
繰り返しになるが、訴状の内容の知らないし、システムの詳細も知らない。
あくまで、ネット上わかる事項から推測した上での私見ではあるが、
今のところ、「一括録画」の装置さえ外せば、問題なく適法というべきにように思われる事案のように思う。
つまりは、クロムサイズにかなり贔屓目にみても、現状では違法くさい…ということになってしまうのだが…。
加えて、筆者が適法と思う部分についても裁判所が適法といってくれるかといえば、疑問である。
ただ、少なくとも裸の価値判断としては、違法という必要は全くないと思っているし、
解釈論としても、適法と判断される可能性はあると思われる。
筆者自身考えがまとまっていないが、そこはまぁ「言いたい放題」ということで御容赦ください。