音声や映像の引用

今日は映像の引用について考えてみたい。
あまり映像の引用と言うのはきかないが、法律上は何の制限もない。


著作権法32条は、著作物の引用にかかる権利制限を規定している。

(引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2  国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

引用の対象となる著作物は、法文上「公表された著作物」であれば足りる。
これ以上の限定はなんら加えられていないのである。
したがって、音声や映像の引用だって、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、
報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」であれば、可能なのである。
判例上、引用の一般的要件として、さらにいくつかの要件をかされている。
その是非はともかくとして、映像や音声の著作物だからといって引用は否定されないのである。
たとえば、検証に必要であれば引用することは可能であろう。
ビデオ化されていれば、(引用として許容される範囲内で)それを上映して批評したり、
ビデオコンテンツの一部に複製して引用することも可能だと思われるのである。
そして、テレビ番組のように別途入手困難なものは、それが可能なものより、
比較的広範囲に引用を認めてよいように思うのである。


もっとも、テレビ放送の場合、それが一度は複製されている必要がある。
通常、これは私的使用目的の複製としてなされると思われる。
では、このような複製物から引用をすることが可能だろうか?
引用という利用行為自体については、問題はない。
しかし、引用にあたり、私的使用目的のためになされた複製物が、
目的外使用されており、違法とはならないだろうか。
この点、49条は、目的以外の目的のために、私的使用目的で作成された
著作物の複製物を頒布し、外で複製物を頒布(公衆に譲渡又は貸与すること)し、
又は当該複製物によって当該著作物を公衆に提示した場合に、違法な複製とみなすとする。
したがって、かかる複製物を用いて例えば「批判ビデオ」で引用することは許されると解せられる。
当該複製物を頒布するわけではないし、公衆に提示するわけでもないからである。
しかし、講演会でビデオを上映して批判するというのは許されないことになる。
当該著作物を引用して上映した場合、上映は引用利用として適法でも、
「当該著作物を公衆に提示した場合」にあたるからである。
同じく文献複写したものとを、論文で引用し、その論文を複製する場合には許容される。
しかし、それと同内容を講演会で講演して例えばOHPにその複製したものを映写することは、
文言上違法となるように思われる。
両者にどれほどの違いがあるだろうか。
しかも前者は複製物がでまわるが、後者は一過的である。
さらに、引用は表現の自由との調和であるところ、このような場合に違法というのは問題ではないか、
とも思われるのである。
今現在の筆者の理解では、残念ながら、一部の引用利用は、法文上違法となろうが、
一般的な複製による引用については、複製権も問題にならないように思われる。


音声や映像の引用というものがもっとあっていいと思われるのである。
それが行われていない現状から推測するに、表現の自由が過度に萎縮されているいうべきであろう。
公正な利用が躊躇されることのないように、著作権法の理解が進むことを願いたい。