選撮見録その7〜録画ネット決定(2)評釈

○共用録画でも見れるのは自分の設定した分だけでしょ?
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050122#p1
○(株)クロムサイズ「選撮見録」事件
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050125#p1
○選撮見録その3-実際の説明
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050127#p5
○選撮見録その4〜重大な視点の見落とし
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130#p1
○選撮見録その5〜訴状の内容を推察してみる。
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130#p3
○選撮見録その6〜録画ネット決定(1)事案紹介と判旨
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050203#1107399229


続・録画ネット決定。事案紹介と判旨については、前回(上記目次)を参照して下さい。

東京地決平成16年10月7日、平成16年ヨ第22093号著作隣接権侵害差止請求仮処分命令申立事件
http://www.6ga.net/kettei.pdf
なお、裁判所ホームページの知財判例集には未掲載です。


<評釈>
 本件では、債務者乙が複製権侵害であると訴えられている。
したがって、複製主体が債務者乙でなくてはならないということになる。
 確かに、複製主体が、各利用者であるとすれば、各利用者の私的複製として許容されることになる。
裁判所もいうように、私的複製に関与する行為も、「その『幇助』として評価し得るものである限り、
それが第三者により業としてなされる場合であっても、『適法行為の幇助』にすぎない」のである。
 しかし、「私的複製と認められるためには使用者自身が複製行為を行なうことが要件であるから、
三者が複製を行なう場合は、例え使用者に依頼され、その手足として複製を行う場合であっても
その者が「個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」の者である場合を除き、
私的複製とは認められないことになる。」
つまり、複製主体が誰であるのか、ということが重要な争点となるのである。
 そして、「著作物の複製主体を評価、認定するにあたっては、…前提として…具体的事実を検討し、
本件サービスにおける複製にかかる債務者の管理・支配の程度と利用者の管理・支配の程度の程度などを
比較衡量した上で、複製の主体を認定すべき」ことになる。
つまり、一見すれば複製主体は別人のように思えても、法的にはそうではないことがあるということである。
 ところで、このような判断基準は、カラオケ伴奏による客の歌唱につきカラオケ装置を設置したスナック等の
経営者が演奏権侵害による不法行為責任を負うとされたクラブキャッツアイ事件最高裁判決によるものと思われる。
最三小判昭和63年3月15日民集45巻3号199頁(昭和59年(オ)1204号)


この判決も、カラオケスナックでの客の歌唱について、カラオケスナックの経営者A(上告人)らが、
そ「の共同経営にかかる…スナツク等において、カラオケ装置と、…楽曲が録音された
カラオケテープとを備え置き、ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し、
客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの
再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等にも客とともに
あるいは単独で歌唱させ、もつて店の雰囲気作りをし、客の来集を図つて利益をあげることを
意図していたという」場合には、「ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、
演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体はAらであり、かつ、
その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべきである。」というのである。
その理由としては、「客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること」…
は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、Aらと無関係に歌唱しているわけではなく、
Aらの従業員による歌唱の勧誘、Aらの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、
Aらの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、Aらの管理のもとに歌唱しているものと解され、
他方、Aらは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用して
いわゆるカラオケスナツクとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を
増大させることを意図していたというべきであつて、前記のような客による歌唱も、
著作権法上の規律の観点からはAらによる歌唱と同視しうるものであるからである」としている。
ここでは、カラオケスナックでの演奏及び歌唱主体が、管理支配性、及び、図利性により、Aと解されている。
なお、本判決には伊藤裁判官の意見があり、「カラオケ伴奏によりホステス等従業員が歌唱する場合に、
営業主たるAらをもつて、その演奏(歌唱)という形態による音楽著作物の利用主体と捉えることには異論はなく、
また、ホステス等が客とともに歌唱する場合も、ホステス等と客の歌唱を一体的に捉えて利用主体は営業主たる
Aらであると解することができるであろう。しかしながら、客のみが歌唱する場合についてまで、
営業主たるAらをもつて音楽著作物の利用主体と捉えることは、いささか不自然であり、
無理な解釈ではないかと考える」と、客の歌唱については行為主体性を否定しているが、詳細は割愛する。
 ところで、このような利用主体性の問題は、権利侵害の主体を誰とするのが損害賠償を求めるのに
有利であるのかということからくる。
クラブキャッツアイの事例で言えば客の歌唱とすれば、各客を相手にしなくてはならないが、
客が主体であれば、そもそも権利制限規定により権利主張をできないおそれがあるし、
できたとしても、わずかな額を請求して多くの者から回収する必要が生じることになる。
しかし、店を相手とすれば、一括して請求できるのである。このような、現実問題があるのである。
 さて、著作物の利用主体性の判断にあっては、法的には誰がその著作物の利用による効果が帰属しているのか、
ということが問題になるように思われる。
そのため、一見(形式的には)別の者が利用主体であるにもかかわらず、実質的な利用主体が誰であるのかを
判断する必要が生じることになるのである。
 そうするとまず、誰の意思の現れであるのかということが問題となる。誰がその著作物の利用を欲しているのか、
ということが問題になるのである。
 また、著作物の利用行為が経済的側面に着目した行為であるところ、その判断要素して著作物の利用による
経済利益が誰に帰属するのか、ということが問題になろう。
 このように考えると、管理支配性、及び、図利性により利用主体を判断すると言う枠組みは妥当なものといえよう。
(くわしく検討していないが、かかる判断基準を妥当なものとした上で、以下検討をすすめる。)


 このような枠組みその後の下級審判決にもかかる多数意見を踏襲したものが多く見られるようであり、
本判決でも債務者乙に管理支配性を認めることにより、侵害主体と認めるに至っている。
 この点、本決定は「複製にかかる債務者の管理・支配の程度と利用者の管理・支配の程度の程度などを
比較衡量した上で」としており、「など」ということから図利性を排したものではないと思われるが、
管理支配性を中心に検討しているようである。
債務者と利用者のいずれの支配性が強いかとうこと検討しているのである。
あえて図利性を強調しなかったのは、毎月の保守費用だけでは、複製の対価と認定しにくかったからであろうか?
一方で、管理支配性は、積極的にこれを認定している。
そして、先にみたように、債務者乙の管理支配性について、
・本件サービスのシステムを構成する機器はすべて債務者が調達、設定、管理していること。
・販売するテレビパソコンは債務者が選定、調達したものであること。
・販売後の設置場所も債務者の事務所に限られていること。
・債務者乙は予約ソフトウェアをインストールするほか、各種データを記録し、
 保守管理を行うなどして、利用者が本件サービスを利用する限り、これを管理・支配下においていること。
・実際の録画の過程という側面からみても、現実の複製にあたって利用者が行う行為は、
 ソフトウェアに従った録画予約の指定のみであり、その後の録画は、債務者が構築し、
 管理するシステムによって自動的になされており、さらに、本件サービスにおいては、
 本件サイトを通してのみ録画予約が可能になっていること。
という点を評価している。
しかし、これらのすべてが本当に複製主体性の判断要素として妥当かというと、総合衡量説からも疑問がある。
(例1)賃貸マンションに据え置きビデオデッキでの複製ということと比較してみると、なお面白い。

追記(2005/6/1)
補足:ここでは、30条1項1号は無視して下さい。

このようなビデオデッキでの録画は実質的に貸し主の複製なのだろうか?
・調達、設置は貸主。所有者も貸主。修理費も貸主負担。
・設置場所も賃貸物件内に限られている。
(例2)これをさらにテレビパソコン搭載の賃貸ウィークリーマンションにすると…、
・調達、設置は貸主。所有者も貸主。修理費も貸主負担。
・設置場所も賃貸物件内に限られている。
・貸主は予約ソフトウェアをインストールする。保守管理する。
・実際の録画の過程という側面からみても、現実の複製にあたって利用者が行う行為は、
 ソフトウェアに従った録画予約の指定のみである。
 部屋にいないと、録画予約できない。
となる。
もちろん、裸の価値判断が先にあるから、これらも違法と言うべきかもしれないし、
これらが違法でないのは、利用者側の事情かもしれない。
本決定では、利用者の管理・支配性について、
・利用者はテレビパソコンを購入し、その所有権を有しているとはいえ、そもそも、
 債務者が調達、販売する以外のテレビパソコンを購入して本件サービスに加入することはできず、
 テレビパソコンの設置場所も債務者の事務所に限られていること。
・テレビパソコンについて利用者ができる操作は、ソフトウェアを通じたもののみであり、
 それ以外の用途に利用することも、それ以外の方法でハードディスクのデータに
 アクセスすることもできず、テレビパソコンの返還を受けることはできるが、
 それは本件サービスを解約した場合のことであるから、…利用者がテレビパソコンを
 管理・支配する程度は、極めて弱いと言わざるを得ないこと、
・実際の録画の過程についても、利用者の行為は限られたものであること、
と、複製装置への支配度を問題にしているように思われる。
しかし、これは上記例1や例2、でも同じである。
さらにソフトウェア制限は権利制限として許される複製を目的外で使われるのを可及的に防ぐ手段ともいえ、
権利者に配慮した結果ともいえるのである。
一見、詳細な利益考量をしたかのようで、全く恣意的なあてはめであるように思われるのである。


ところで、裁判例は、カラオケボックスでの演奏もカラオケボックスに権利侵害を認めている。
例えば、東京高判平成11年7月13日(平成10年(ネ)第4264号等)著作権民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/5A533F72ABFD5F1249256A7700082C89/?OpenDocument

 以上説示したところによれば、本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、主として顧客自らが各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、通信カラオケ又はCDカラオケにより管理著作物である伴奏音楽の再生による演奏が行われ、管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽の複製物を含む映画著作物であるレーザーディスクカラオケの上映によって、管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽の複製物の上映が行われていることが明らかである。そして、前認定のとおり、本件店舗の経営者である控訴人らは各部屋にカラオケ装置を設置して顧客が容易にカラオケ装置を操作できるようにした上で顧客を各部屋に案内し、顧客から求められれば控訴人らの従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示しているのであり、顧客は控訴人らが用意した曲目の範囲内で選曲するほかないことに照らせば、控訴人らは、顧客の選曲に従って自ら直接カラオケ装置を操作する代わりに顧客に操作させているということができるから、各部屋においてカラオケ装置によって前記のとおり管理著作物の演奏ないしその複製物を含む映画著作物の上映を行っている主体は、控訴人らであるというべきである。
 また、本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、顧客が各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱することによって、管理著作物の演奏が行われていることが認められるところ、控訴人らは各部屋にカラオケ装置と共に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、また、顧客の求めに応じて従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示するなどし、顧客は指定された部屋において定められた時間の範囲内で時間に応じた料金を支払い、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱し、歌唱する曲目は控訴人らが用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られることなどからすれば、顧客による歌唱は、本件店舗の経営者である控訴人らの管理の下で行われているというべきであり、また、カラオケボックス営業の性質上、控訴人らは、顧客に歌唱させることによって直接的に営業上の利益を得ていることは明らかである。
 このように、顧客は控訴人らの管理の下で歌唱し、控訴人らは顧客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における顧客の歌唱による管理著作物の演奏についても、その主体は本件店舗の経営者である控訴人らであるというべきである。
 そして、右1及び2で認定したように、伴奏音楽の再生及び顧客の歌唱により管理著作物を演奏し、その複製物を含む映画著作物を上映している主体である控訴人らにとって、本件店舗に来店する顧客は不特定多数の者であるから、右の演奏及び上映は、公衆に直接聞かせ、見せることを目的とするものということができる。

この場合、テレビ録画と異なり、そもそもレーザーディスクを店側が調達してる点で、
管理支配性を店に認めて良いように思うのである。
客への演奏/上映が公衆といえるのであれば、
レーザーディスクの演奏/上映主体を店しているという点については問題ない。
(客の歌唱についてまで、転換するのはかなり困難であろう。)


このようにみてみると、管理支配性といっても、録画ネットでのあてはめが
かなり恣意的であることは否定できないように思われる。
簡単にしかみていないが、過去の判例との相違点にも、あまりに無頓着であるように思われるのである。
(もっとも、ここは債務者の訴訟追行によるものかもしれない…)
思うに図利性も利用行為への対価である必要である。
カラオケがカラオケ演奏の対価、ダビング屋さんがダビングの対価である。
そうすると、複製機材の保守として相当なのかどうかという検討が必要であろう。
保守費用としての合理性をこえれば利用への図利性があるといえる一方、
それがなければ、それは単なる私的複製のための複製機器の保守であり、適法な幇助というべきなのである。


<選撮見録について>
このように判例の枠組み自体は認めるにしても、具体的にあてはめには疑問を覚える。
上述したように、私見によれば、録画ネットの事案では、必ずしも債権者の主張を容れるのが、
妥当だとは思えないのである。
しかし、実際に決定は、債権者の主張をいれている。
このような裁判所の判断の流れからすれば、選撮見録の事例でも
・各戸区分所有者共有物で、
・管理会社はシステムを保守管理するだけであり、
・録画指示は各利用者が指示をだし、
・費用がそのための合理性があるものである、としても、
・一緒に引っ越しできないことや、
・ソフトウエアは組み込まれている、
などという理由で、複製主体性を肯定されるようにも思われるのである。
(ただし、これを否定しても、私的使用目的として許容されない複製の幇助の問題は残る。)


なお、筆者は選撮見録のシステムを熟知しておりませんし、訴状の内容を存じていません。
あてはめ部分は筆者の新聞社の記事等からの推測によるもので、
本事案の判決そのものを予測する趣旨ではありません。
あくまで、本事件を素材にした検討ですので、あしからずご了承ください。
念のため、付記しておきます。