選撮見録その9〜被告訴訟代理人弁護士小倉秀夫氏のblog(1)

目 次
○共用録画でも見れるのは自分の設定した分だけでしょ?
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050122#p1
○(株)クロムサイズ「選撮見録」事件
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050125#p1
○選撮見録その3-実際の説明
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050127#p5
○選撮見録その4〜重大な視点の見落とし
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130#p1
○選撮見録その5〜訴状の内容を推察してみる。
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050130#p3
○選撮見録その6〜録画ネット決定(1)事案紹介と判旨
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050203#1107399229
○選撮見録その7〜録画ネット決定(2)評釈
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050209#1107879578
○選撮見録その8〜裁判どうなってる?/itmediaの記事について
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050301#1109611056


興味深いblogを見つけました。
というか、そのコメント欄に拙稿へのリンクを貼っていただいたのでわかっただけなのですが…(リンクは自由にどうぞ)。
そのblogは被告訴訟代理人を務める小倉秀夫氏のblog小倉秀夫の「IT法のTop Front」である。
(岡弁護士は訴訟代理人はしてないのかな?)
当該記事は、
http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/994c44619dfb37de2651ac84c6e2686b
当該記事へのコメントは、
http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/cmt/994c44619dfb37de2651ac84c6e2686b


コメント欄では、結構いろいろ言われている様ですが、係争中の事件の訴訟代理人なので、
あんまり変なこといえないし、被告側なので、あくまで相手(原告)の主張あってのこと。
なぜ違法と考えるかという主張があっての反論なので、氏に適法であることの説明を求めるのがナンセンスに思うし、
(むしろ報道機関たる原告がきちんとプレスリリースするべきと筆者は考えているが、)
○○だから違法であるとの反論として、適法であるとのことだろう。
筆者の考えであえて適法の根拠をあげるなら、
 被告自身は複製行為を行っていない。複製者は各利用者でその複製は私的使用だから許される。
 私的使用として許される複製を行うための複製機器の提供は許される。
ということであろうか。
ただ、私的使用として許されるか、という点で多少の疑問があることも事実であるが…。
いずれにせよ、筆者も違法論者に違法の根拠を掲げてもらいたいと思っている一人である。
もっとも、被告側にも、(的を射ているかどうかは別として)原告主張を提示してもらえるとありがたいことも事実。
現時点で「争点」をあげろ、というのは、結局は権利侵害の有無という抽象論になってしまうので、
多少無理があるかもしれませんが…。
(争点が何かなんてこれから主張を整理にして明らかになるんでしょ?)
特に事例からいろいろ検討を試みている筆者にとっては選撮見録にあてはまるかどうかというより、
そういう法律構成が考えられる、という部分を知りたいとおもっているわけです。


ところで、同氏のblogによれば、第1回弁論の内容について、

第1回目は、「選撮見録」の仕様について説明しただけなので、「選撮見録」の仕様に対する正しい理解を前提としたときに、なおもどういう法律構成で差止請求権があることをテレビ局が主張するのかが明らかではないです。

ということだそうなので、実際何もすすんでいないという印象を受けます。
裁 判 長:被告代理人、この仕様でいいですか?裁判所としては、これを前提に…。
被告代理人:裁判長、訴状記載の仕様は選撮見録の実際と異なっています。
裁 判 長:説明できますか?
被告代理人:次回までに仕様書を提出します、ってな感じですかねぇ〜。
(被告がいちいち自己の仕様を立証するのも変ですが、立証責任をめぐる最近の傾向かなと…)
場合によっては訴状が見当違い→取り下げということもないことはないかもしれませんが…。
筆者もそうですが、原告自身も「選撮見録」についてくわしく知らなかった様です。
ただ、事例をもとに好き勝手書いているだけの筆者と、
それを訴訟にする側では調査義務が全く異なると思いますが…。
また、

訴状や仮処分申立書では...

と述べられているので、仮処分申請も同時(異時?)進行しているということで間違いないようです。


ところで、原告の主張に関連して

そこでは、「タイムシフト視聴」の当否が争点の一つとなっています。

との記載があった。まぁ、原告は一応書いておいたというところだろうか?
筆者としては、はぁ?どさくさまぎれになんという主張をしているのだ?という感じはしますが…
さて、この「タイムシフト(time-shifting)」という概念がでてきたのが、
アメリカでのソニー・ベータマックを巡る訴訟においてである。
アメリ著作権法では、私的複製自体、権利制限として規定されていない。
そこで、原告は家庭での私的複製は直接侵害であり、録画システムは寄与侵害であるという主張をしたのである。
しかし、連邦最高裁は、家庭内でのtime-siftingについてfair useを認めて、原告の主張を退けたのである。
Sony Corp v. Universal City Studio,464 U.S.417(1984))
確かに、フェアユースは一般規定であるからこの事例では認められても、
選撮見録がアメリカで権利侵害かどうかという検討はなお必要である。
しかし、ここは日本であるし、そもそも、裁判所はフェアユースの概念を採用していない。
しかも、タイムシフトはそもそも被告の抗弁であるので、原告の最初に主張すべきでもない。
(おそらくは抗弁潰しってことなんでしょうけど…。)
そもそも日本の著作権法においては、私的複製を認める条項(30条)があるので、
結局は私的使用目的の複製の限界論ということに尽きると思われるのです。
もちろん、その要素に原告の主張の趣旨が採用されることはあるかもしれませんが…。
そして、かかる主張からは、原告が複製主体性を各戸の利用者と考えているということがうかがえます。
一次的には、直接侵害を主張して、二次的に寄与侵害を主張しており、その寄与侵害に関連した文脈であれば、
まぁわからなくもないですが、どういう文脈での主張なのか少し気になるところです。


参考文献

の134-151頁


ただ、

大阪の民放5社は、視聴者が1週間分の全番組の中から希望する番組を好みの時間に視聴すること(タイムシフト視聴)が可能となると、スポンサーによる広告料に支えられている民放による無料放送の存立基盤を根底から覆しかねないと主張しています。

との主張が容れられると、VHSシステムなども違法との評価を受ける可能性があります。
これは、科学技術の発展との調和、視聴者の利益からも問題だと思うのです。
さらにいえば、録画できなければ単に見なくなるだけで、テレビ放送の意義がなくなっていまうように思います。
この点についてはいろいろ議論できると思いますが、本稿のテーマである著作権(隣接権)侵害如何という点では、
テレビ放送を録画できるシステムであるというだけで侵害になるとはいえません。
私的使用目的の複製が許されている以上、その許される行為への寄与行為は違法性を構成しないというべきと思います。
この点については、前回までで述べてきたとおりです。


ところで、ふと思った。
もし仮に原告の仮処分申請が容れられた場合、すでに導入されている選撮見録への影響はどうなのか?
仮処分決定が確定しても判決効自体は販売済み分には及びませんよね?
それに萎縮して、運用を止めるということはあるかもしれませんが…。
それとも、クロムサイズへの判決効ですでに販売された選撮見録にも影響するようなシステムなのでしょうか?
だとすれば、複製主体がクロムサイズとされてしまう余地はあるかもしれません。


憶測論なだけに抽象的にいろいろ検討できるのはいいのですが、
事件そのものへの関心としては、訴状などの訴訟資料を閲覧したいところです。
裁判傍聴に行けばわかるのだろうか?民事だし期待できないだろうな…。


選撮見録は関係ないけど、小倉秀夫氏ってこれの編著者。

著作権法コンメンタール〈上巻〉1条~74条

著作権法コンメンタール〈上巻〉1条~74条

著作権法コンメンタール〈下巻〉75条~124条

著作権法コンメンタール〈下巻〉75条~124条

加戸守行氏のコンメンタールでない、という点では良い本です。