最近の最高裁判例について

この一週間にいろいろあったので、メモを兼ねて若干のコメント

ビデオリンク方式合憲判決
最一小判平成17年4月14日(平成16年(あ)第1618号)


要旨:
いわゆるビデオリンク方式,遮へい措置を定めた刑訴法157条の3,157条の4は,憲法82条1項,37条1項,2項前段に違反しない
http://courtdomino.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/144d513d450531c149256fe4002a8657?OpenDocument

「弁護人濱田広道の上告趣意のうち,違憲の主張」が具体的にどのようなものなのか気になります。
その内容を比べてみないとわかりませんが、判決文を読む限り、
特に不都合のある判決とは思いません。

最一小判平成17年4月14日(平成16年(あ)第2077号 監禁致傷,恐喝被告事件)


要旨:
恐喝の手段として監禁が行われた場合であっても,両罪は,牽連犯の関係にはない
http://courtdomino.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/605d719653e26e3c49256fe3002e968c?OpenDocument

判例変更…被告人や弁護人にとっては悲しい結末…。
大審院判決がなければそれほど悔やまれないのでしょうが…。

最小三判平成17年4月19日(平成12年(受)第243号、平成17年(オ)第251号 国家賠償請求上告,同附帯上告事件)


要旨:
1 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官が同庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として接見の申出を拒否することができる場合
2 検察官が検察庁の庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人が同庁舎内における即時の接見
を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合における検察官が執るべき措置
http://courtdomino.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/bd8754580eaa332d49256fe800215d08?OpenDocument

裁判所が検察官に求めている被疑者被告人に対する人権意識は意外に低いのね、というのが印象です。

以上のとおり,B検事が,被上告人の上記各接見の申出に対し,面会接見に関する配慮義務を怠ったことは違法というべきであるが,本件接見の拒否(1),(2)は,それ自体直ちに違法とはいえない上,これらの接見の申出がされた平成4年当時,検察庁の庁舎内における接見の申出に対し,検察官が,その庁舎内に,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しないことを理由に拒否することができるかという点については,参考となる裁判例や学説は乏しく,もとより,前記説示したような見解が検察官の職務行為の基準として確立されていたものではなかったこと,かえって,前記の事実関係によれば,広島地検では,接見のための専用の設備の無い検察庁の庁舎内においては弁護人等と被疑者との接見はできないとの立場を採っており,そのことを第1審強化方策広島地方協議会等において説明してきていること等に照らすと,B検事が上記の配慮義務を怠ったことには,当時の状況の下において,無理からぬ面があることを否定することはできず,結局,同検事に過失があったとまではいえないというべきである。

義務違反を認めながら、過失なし、で賠償責任否定という結末で、敗訴判決です。
義務違反を認めた点が蛇足なのかどうかということについて、井上薫判事のご意見を聞きたいところ。
井上薫「司法のしゃべりすぎ」新潮社,2005参照)
義務内容だけ判示して、仮にそのような義務に反する点があったとしても、
当時の状況からすれば、過失は認められない以上、義務違反を判断するまでもなく上告棄却というべきか。
さらにいえば、刑訴法が規定する以上に接見交通権に配慮する義務があるとしても、
それ自体直ちに違法とはいえない上、当時の状況を考えるなら、その義務違反を判断するまでもなく、
過失はなく、上告棄却か。
井上氏はどこからを蛇足とするのかわからないが、
筆者としては、少なくとも義務の内容を提示しないとそれに対する過失の有無も判断できないと思うだのが、
どうだろうか?
そして、訴訟が国家賠償請求訴訟であることからすれば、人権保障のための蛇足は構わないと思われる。
「司法のしゃべりすぎ」の最初の例(殺人行為に対する損害賠償)にあるような私人間紛争ではなく、
相手が国であるような場合、相手の裁判の受ける権利の保障を考える必要性は少ない。
この場合、B検事が違法を認定されたことを争えない、という反論もあるかもしれないが、
個人として裁判を受けるものではないし、特段の考慮は不要と思われる。


ところで、元検事の落合洋司弁護士は氏のブログで次のように書かれている。

 昔、私がある地検で勤務していた時、地検で身柄事件の被疑者に接見したいという弁護人がいましたが、その地検には接見室がありませんでした(古い建物でした)。断ろうと思えば断ることもできましたが、すぐに終わるので何とか、と頼まれたので、「先生、私の部屋でも構わないですか?警察官も私もいますけど。」と聞いたところ、構わないということだったので、押送の警察官に被疑者を私の部屋まで連れてきてもらって、短時間、接見してもらいました。話の内容は覚えていませんが、ごく事務的なことで、2,3分程度で終わったと思います。弁護人からはお礼を言われましたが、押送の警察官は、異例なことで非常に気になったようで、「検事さん、大丈夫ですか?」などと心配していました。私は、「弁護人に異存がないし大丈夫だよ。」と言っていた記憶です。
 今回の判例で、最高裁は、……としていますが、私が行った上記のような取り扱いは、この最高裁判例を先取りしたものと言えるな、と思った次第です(別に先見の明を誇ったりしているわけではありません)。
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050420#1113930742

そして、氏のプロフィール(http://d.hatena.ne.jp/yjochi/about)によれば、

平成元年4月 司法修習終了 東京地方検察庁検事任官


平成12年8月 千葉地方検察庁検事を退官

とある。どの時点の出来事なのか「ある地検」で、としかないのでわかりませんが、
場合にっては、本当に過失なし?としていいのか、という点には
なおいっそうの疑問を持たないといけないのかもしれません。
いずれにせよ、検察官が無罪推定中の被疑者被告人に対して、この程度の人権意識なのですから、
刑務官が有罪確定の服役囚に対して、人権意識が欠如しているのもわかるような気がします。(飛躍し過ぎ?)
この点、最高裁は「かえって,前記の事実関係によれば,広島地検では,
接見のための専用の設備の無い検察庁の庁舎内においては弁護人等と被疑者との接見はできないとの立場を採っており,
そのことを第1審強化方策広島地方協議会等において説明してきていること等」として、
特に仕方なかったという事情を強化したかったのかもしれませんが、
検察庁として、よってたかって人権を制約する立場をとっていれば、人権制約は許される、ということであって、
むしろ、B検事個人では無く、検察庁として人権侵害を推奨してきたということであって、
国(検察庁)の行為をあわせてみれば、責任の程度は重くなるのでは無いか?とさえ思えてしまう。
あまりにも実務に与える影響が大きいことに考慮したのかもしれないが、
そのような刑事実務だからこそ、裁判所も厳しく判断するべきだったのではないか、と思う。

司法のしゃべりすぎ (新潮新書)

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