尼崎列車事故報道

尼崎列車報道を見ていると疑問をもつコメントや分析が多い。
専門家は自己の専門的知見をあてはめて「こう思う」とするものであるから、
たとえば自己原因の分析が結果的に誤っていても構わない。
しかし、報道局の問題の伝え方が整理されておらず、あまりにも無理な問題提起が多いように思う。
番組の司会者によっては、特にタレントコメンテーターの暴走をさりげに訂正する人もいるが、
全体的には暴走気味のように感じるのである。


まず、レスキューがあまりにも時間がかかりすぎている、という指摘があった。
もちろん3日という時間は絶対評価としては長い。
しかし状況を考えなくてはならない。現場にはいろいろな危険が予測されているのである。
時間を急いで事故が起これば、それこそ列車事故の二の舞いである。安全かつ迅速に行うべきなのである。
列車事故原因の分析で、遅れの取り戻しを批判しておきながら、この主張は合理性を欠く。
もちろん事後の検証は必要であるという指摘は正しいと思うが、
今レスキューに時間がかかりすぎている、という評価をするのは、誤りでないかと思う。
木村太郎よ、君のことだよ。これは。


また、JRの体質の検証が目立つ。
そして、検証するのは結構だがあまりにも予断偏見が多いように感じる。
たとえば「お客さまの信頼確保の時間厳守」自体が問題であるかのようにあおる報道がある。
しかし、このこと自体は決して責められない。この命題自体は誤っていない。
(時間にきっちりした日本人気質?が問題だというのであれば別論だが…。)
問題は、その上で安全性とどう両立させるかということである。
「時間に遅れたら罰する」というのも理由によっては当然である。
問題はその運用がまずいためにプレッシャーとなり
現場の意識が安全よりも時間確保となってしまっていることである。
つまり、報道によるところの遅延時の回復法について何も決められていない一方で、
遅れたら即罰せられるという印象を運転士がもっており、実際にそういう運用がされているのではないか?と
指摘されているところが問題なのである。
たとえば、今回の事故でオーバーランをした以上それは懲罰対象であり、
この時点での1分30秒の遅れが懲罰対象となる。
そして、遅れを回復しても、それ自体減免とはならず、
その状態のまま状態(1分30秒)のままの遅延であればそれ以上懲罰がない。
実際上の不利益もない、というのであれば、問題ないはずである。
とすると問題は、時間厳守そのものではなく、
「安全性を犠牲にした時間厳守が推奨された」ということなのであり、
それはいつのまにか「お客さまの信頼確保の時間厳守」とは異なるものになっていたことが問題なのである。
このことは、JRが書類に安全輸送の次の項目に「お客さまの信頼確保の時間厳守」をあげていることが
問題なのではなく、形式的には「お客さまの信頼確保の時間厳守」といいながら、
「安全性を犠牲にした時間厳守が推奨された」という実態が問題なのである。


過密ダイヤ、これ自体も仕方ない。それだけ人口が集中しているのである。
(これをJRにせいにされてはたまったものではない。)
意味もなく過密ダイヤなのではない。あの電車だって現に600人近く乗車していたのである。
(一方で混雑してるから女性専用車両というのは背理である。)
社会の問題であると指摘していた御遺族の方がいたが、ある意味で正しい指摘であると思う。
しかしだからといってどうしようもない。
尼崎で接続を良くするのは、単に客の利便というだけでなく、
乗換えをスムーズにすることにより、駅ホームの混雑を緩和し、転落事故等を防止するという観点からは、
むしろするべきことであると思う。
そもそも遅れたら遅れたで、実は過密ダイヤの場合の方が接続先も過密ダイヤであって、
本数の少ない地域の電車よりも影響はすくないともいえるのである。
とすれば、それはあくまで一次的に遅れた(今回の場合はオーバーラン)ことが問題であって、
以後の事象は関係ないということさえできるのである。
つまり、ここでの問題は、
時間を取りかえさければならないという意識を(暗に)運転手にあたえてしまっていることである。
彼がオーバーランしてしまった以上もうどうしようもないからこれ以上遅れないしよう、
回復しようとして事故したらそれこそ問題だ、と思うような指導をしていればよかったというだけである。


とするならば、報道でいいたいことは、結果的「時間厳守」の指導に問題があったということになる。
運転手が結果的に尼崎での時刻だけを気にするような管理をしていたことが問題だったという主張に
尽きるように思うのである。結局のところ、JRの管理体制である。
一方で安全確保を掲げながらそれを担保できるようなシステムを構築することなく、
定時運行という二次的目標を重視しぎたということになる。
社会が悪い、というのであれば、そのような視点もありかもしれないが、
事故原因を検証するという意味では、あまりにも無理のある問題提起のように思われる。


ところで、こんな「はてな」があった。

普段乗っている電車(JRや地下鉄、私鉄など)が予定時刻より遅れることについて

尼崎の事故後、遅れを取り戻すより安全でお願いします、と思うようになった 24
尼崎の事故の前も後(現在)も、遅れは許せない 6
尼崎の事故の前も後(現在)も、遅れは特に気にしていない 20
自分が急いでいるときは、遅れは許せない 9
自分が急いでいるときでも、遅れは気にしない 7

おもしろいアンケートだけど選択肢をもうちょっと考えて欲しかったですね。
ちなみに私は「尼崎の事故の前も後(現在)も、遅れは許せない 」(のみ)
遅れてもいいように、できるだけ早めに行動してますので、多少遅れても支障はないですが、遅れは許せません。
以前から「遅れを取り戻すより安全でお願いします」とは思ってますけど…。
(基本的に遅れたものはどうしようもないですからね。ダイヤに余裕があれば自然と取り戻せますが…。)
むしろ今まで安全より遅れ回復と思っていた人が多かったことにびっくり。

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