美術の著作物の著作権〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(11)〜

登録商標一覧?〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(1)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050324#1111595733
著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050406#1112753849
著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(3)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050410#1113141421
教育目的利用〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(4)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050411#1113154362
著作権侵害の慰謝料〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(5)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050414#1113412430
企業とのやりとりメールの公開〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(6)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050414#1113445853
漫画の引用?〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(7)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050418#1113816642
著作物の利用と個人情報保護〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(8)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050422#1114144419
番組見逃した!他〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(9)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050427#1114583745
契約書の著作権著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(10)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050502#1114964637

今回も質問に関連して。

美術館等に行って写真撮影等をするとだめなのでしょうか?美術館にもよると思いますが、だめだとしたらなぜ禁止しているのでしょうか?

ここでは著作権関連だけ。
回答にもありますが、まずは当該著作物に著作権が存続しているかということ。
著作権の存続期間が満了しているなら著作権は問題になりません。
細かい規定はありますが、一般的には著作者の死後50年と覚えておけばよいでしょう。

著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)
第四節 保護期間
(保護期間の原則)
第五十一条  著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2  著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。
(保護期間の計算方法)
第五十七条  第五十一条第二項、第五十二条第一項、第五十三条第一項又は第五十四条第一項の場合において、著作者の死後五十年、著作物の公表後五十年若しくは創作後五十年又は著作物の公表後七十年若しくは創作後七十年の期間の終期を計算するときは、著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する。
(保護期間の特例)
第五十八条  文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約により創設された国際同盟の加盟国、著作権に関する世界知的所有権機関条約の締約国又は世界貿易機関の加盟国である外国をそれぞれ文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約著作権に関する世界知的所有権機関条約又は世界貿易機関を設立するマラケシュ協定の規定に基づいて本国とする著作物(第六条第一号に該当するものを除く。)で、その本国において定められる著作権の存続期間が第五十一条から第五十四条までに定める著作権の存続期間より短いものについては、その本国において定められる著作権の存続期間による。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%92%98%8d%ec%8c%a0%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S45HO048&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律(昭和二十七年八月八日法律第三百二号)
(目的)
第一条  この法律は、連合国及び連合国民の著作権に関し、日本国との平和条約第十五条(C)の規定に基き、著作権法 (昭和四十五年法律第四十八号)の特例を定めることを目的とする。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%92%98%8d%ec%8c%a0%82%cc%93%c1%97%e1&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S27HO302&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

以下著作権があるものとして考えてみる。


では、まず美術館側で「写真撮影OK」といえるかであるが、
そもそも写真撮影という複製の一形態を認める権限の所在を確認しておく必要がある。
この点、その美術の著作物の原作品の所有者が著作権をもっているとは限らない。
仮にその美術品が美術館の著作物であったしても、著作権の譲渡を受けていなければ、
複製権にかかる許諾をできないのである。

(美術の著作物等の原作品の所有者による展示)
第四十五条  美術の著作物若しくは写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができる。
2  前項の規定は、美術の著作物の原作品を街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合には、適用しない。

美術の原作品はそれ自体が譲渡されても著作権の移転が当然に生じるものではなく、
あくまで展示することについてのみ合理的な意思として認められているにすぎないのである。
なお、美術の所有者が所有権の効力として著作権の内容を行使することもできない。
最二小判昭和59年1月20日民集第38巻1号1頁)(昭和58年(オ)171号書籍所有権侵害禁止事件)
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/DFE979802F014DBB49256A8500311F7D?OPENDOCUMENT
したがって、著作権(美術館が有する場合は美術館自身)が撮影を許可している場合でなければ、
正式に「写真撮影OK」とはいえないことになる。
なお、この点については、8の回答が禁止する権限がないとしていますが、
正確には許諾する権限がないから原則どおりできない、ということだと思われる。
また、禁止はあえて書かなくても、以下に記述する個人的な複製などの例外にあたらない限り違法となるが、
個人的な複製として認められるならば、「写真撮影OK」であることと実際上の差異はそれほどないように思われる。


では、著作権者(必ずしも美術館とは限らない)の許諾なく複製することはできるか。
ここで30条の私的使用目的の複製が問題となる。

(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
 一  公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合

権利者側が私的使用目的の複製をどこまでコントロールできるか、というのは難しい問題。
この点について、本条の趣旨のひとつに個人的な複製を現実的に取り締まることができないから、
ということも挙げられることからすれば、
場所的に個人的な領域での複製に限定される解釈することができ、
美術館での複製についてはコントロールできることになるともいえる。
しかし、このような解釈からすれば、雑誌などの情報窃盗も著作権でコントロールできるが、
一方でコンビニでの10円コピーもできないことになり、現行法との均衡を考えれば困難である(30条1項1号と附則5条の2)。
だとすれば、あくまで個人的な複製である限りその複製は許容されることになる。
そして、著作権法が権利者と利用者のバランスを図るために例外を認めた趣旨にかんがみれば、
個人的な複製を権利者側で禁じることはできないというべきである。
そうでないと、権利者側でその禁止を表示するだけで個人的な複製が禁じられてしまうからである。


もっとも、場所の管理権や秘密情報が著作物である場合の情報秘匿義務などと関連して、
合理性が認められる場合には、個人的な複製でも著作権とは別の効力として禁じられることはあると思われる。
(今回はこの程度の指摘にとどめます。)
したがって、美術館の管理権として写真撮影を禁止することも可能である。
ここではもはや著作権の問題ではないことに注意するべきである。
例えば、雑誌をかわずに写真を撮るような行為はこれで否定することが可能になる。
ただっこのように考えても、美術館という著作物に触れる場で実質的に著作権法の例外に反する結論を
導くことの可能とするような規定を設けることの是非を検討する必要があるように思うが、
少なくともフラッシュ撮影については所有物を物理的に守るという意味では合理性はあると思われる。


フラッシュなしは認めてもいいと思いますけどね。
(携帯電話は音がなるから不可でもいいとは思うし、同様にフラッシュも見学の妨げで禁止でもいいけど)。
そもそも、美術館での美術館での展示の意義を考えると、原作品に触れることに意味があるのだし、
展示した以上、個人的な複製を認めることが法の趣旨だと思っています。
著作権を理由とする撮影禁止に納得がいかないという意見には賛成です。