名誉毀損罪で逮捕。

表現の自由にくわしくない人は何が問題なのかわからないかも。

鹿砦社 社長を名誉棄損容疑で逮捕 神戸地検
 神戸地検特別刑事部は12日、関西のプロ野球球団元職員やパチスロ機製造会社役員らを出版物やインターネットで中傷したとして、兵庫県西宮市甲子園七番町の出版社「鹿砦社(ろくさいしゃ)」社長の松岡利康容疑者(53)を名誉棄損容疑で逮捕した。同社事務所など3カ所を家宅捜索している。容疑について、松岡容疑者は「コメントを差し控える」と黙秘しているという。出版物の内容を巡って、出版社の社長が逮捕されるのは異例。
 調べでは、松岡容疑者は02年9月に発行した雑誌などに、関西のプロ野球球団職員が98年に神戸市内のビルから転落死した事故に関し、この職員の遺族が書いた、職員の元上司ら2人が転落死に関与したかのような内容の原稿を掲載して、2人の名誉を棄損した疑い。また、パチスロ機製造会社役員に対しては、刑事事件への関与や私生活についての記事を、02年8月〜03年9月に販売された雑誌に掲載するとともに、04年9月からインターネット上に流すなどして名誉を棄損した疑い。
 地検は以前から、転落死に関して出版物に原稿を寄せた職員の娘からも任意で事情聴取してきた。娘はその時点で容疑を認めていたといい、地検は関与について慎重に調べる方針。
 球団の元上司ら2人は03年、神戸地検に松岡容疑者を名誉棄損で告訴。パチスロ機製造会社役員も03年6月、この出版物を巡って名誉棄損容疑で神戸地検に松岡社長を刑事告訴していた。一方、民事でも神戸地裁尼崎支部に申し立てた出版差し止めの仮処分が認められ、東京地裁では名誉棄損などによる出版差し止めと3億円の損害賠償を求める訴訟が係争中。
 鹿砦社は人文科学、歴史などの学術出版社として1969年、東京都千代田区神田駿河台に創業した。72年に法人組織として鹿砦社を設立。88年に松岡利康社長が就任し、本社を兵庫県西宮市に移転。芸能人やスポーツ選手らのスキャンダルを扱った「暴露本」で話題を集め、人気タレントの自宅周辺の写真などを掲載した「おっかけ本」では東京地裁が出版差し止めの仮処分を決定している。
毎日新聞) - 7月12日17時28分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050712-00000017-maip-soci

出版の自由どこまで 鹿砦社社長逮捕
2005年07月12日
 「言論・出版の自由の蹂躙(じゅうりん)だ」。名誉棄損容疑で逮捕された兵庫県西宮市の出版社「鹿砦(ろくさい)社」社長の松岡利康容疑者(53)は12日朝、神戸地検の係官に任意同行を求められた際、集まった報道陣に向かって訴えた。取材者の自由か、取材される側の人権か。「告発本」の出版社が強制捜査を受けるという異例の事態は、言論界に一つの波紋を投げかけた。
 12日午前6時半ごろ、西宮市甲子園七番町の松岡利康社長の自宅に、神戸地検特別刑事部の係官数人が入った。約40分後、自宅から出てきた松岡社長は、係官の運転する車で自宅から約300メートル離れた鹿砦社の事務所に向かった。
 事務所では、係官約10人が松岡社長を立ち会わせ、捜索を始めた。松岡社長は同8時半過ぎ、係官と一緒に事務所から出てきた。集まった報道陣に向かって、「憲法21条の言論・出版の自由を蹂躙(じゅうりん)するもので、私は断固闘う」と話し、係官の運転する車に乗り込んだ。
 ●90年代から「裏話」に力
 鹿砦社は、90年代から人気芸能人やスポーツ界を巡るスキャンダルを描いた「暴露本」を相次いで出版した。しかし、記事の対象とされたタレントらからは出版を差し止める訴訟を起こされている。
 人気アイドルグループSMAPのメンバーらを紹介する記事を所属事務所の承諾もなく雑誌から無断で引用した「SMAP大研究」では、メンバーらから提訴され、東京地裁で98年に差し止めが認められた。
 また、宝塚歌劇団の団員の自宅住所や地図などを掲載した「タカラヅカおっかけマップ」では、団員らから提訴され、神戸地裁尼崎支部が97年、差し止めの仮処分を決定した。その後、絶版などを条件に和解している。
 プロ野球の球団職員の転落死問題を書いた季刊誌「スキャンダル大戦争」は、ほかにも著名人らの「裏話」を実名で取り上げていた。例えば、有名タレントの代理人だった弁護士を「悪の枢軸」と名指ししたり、男性作家について「天才か変態か、それが問題だった」との見出しをつけて私生活に触れ、「セクハラされた」とする匿名の女性の投書を掲載したりしていた。
 今年4月には、雑誌「月刊 紙の爆弾」を出版。メディア批判や、都市銀行幹部の人間関係について実名で書いていた。
 差し止め訴訟で提出された松岡利康社長の陳述書によると、松岡社長は当初、人文社会科学などの専門書を手がけていたが売れず、経営的に苦しくなったため、「暴露本」などにジャンルを広げたという。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200507120047.html

表現の自由への萎縮ということを考えると、公権力が名誉毀損で逮捕というのはできるだけさけるべきでしょう。
実体的な違法性存在の蓋然性はもちろん、手続的逮捕の必要性もより高度に要求されていると言ってもいいように思います。
それにもかかわらず逮捕したということは、相応の嫌疑があるということでしょうか?
逮捕という強制捜査にでた以上は、起訴→有罪とならないことには、
神戸地検の担当検事とか特別刑事部長のクビが飛ぶと思ってもおかしくないように思います。
今回の逮捕何件かの名誉毀損の被疑事実があるようですが、
名誉毀損といっても違法な名誉毀損とそうでない名誉毀損があるわけです。
逮捕に至った以上は、実体的に違法である嫌疑が必要といえることが必要でしょう。
必ずしも、公共の利害に関する事実ではない、公益を図る目的がない、とはいえないでしょうから、
摘示した事実が虚偽であるとの確証があるということでしょうか?
そうだとしても、故意があるのか(過失では不十分)?
逮捕に至ったという事情からすれば、よほどの積極的な悪質性があるということなのでしょうか?
また、逮捕するだけのよほどの事情があったということでしょうか?

出版社が記事の内容をめぐって刑事責任を問われたのは、東京地検特捜部が95年6月、月刊誌「噂(うわさ)の真相」の当時の編集長と編集部員を名誉棄損罪で在宅起訴した例がある。この事件では、2人は、推理作家が盗作しているとした記事を掲載したなどとして訴追された。元編集長は懲役8カ月執行猶予2年、元編集部員は懲役5カ月執行猶予2年の有罪判決が確定している。
http://www.asahi.com/national/update/0712/OSK200507120030.html

という事例がありますが、在宅なので逮捕とはかなり違います。


ちなみに、この件に関する鹿砦社のコメントは以下のとおり。

<2005年7月12日小社代表取締役松岡利康が逮捕されました>
以下鹿砦社の声明文です。


拝啓 平素は小社活動にご注目いただき、厚く御礼申し上げます。
 本日、鹿砦社代表取締役 松岡利康が、大手パチスロ機器メーカー「アルゼ」及び阪神タイガース球団に対する告発書籍、及びそれに関連するインターネット上での記述について、名誉毀損の疑いで神戸地検特別刑事部に逮捕されました。
 これは不当逮捕です。憲法で保証された「表現の自由」への挑戦です。言論弾圧です。
鹿砦社としては、断固戦います。
 小社<アルゼ本>第2弾『アルゼ王国はスキャンダルの総合商社』(2003年9月10日発行)の内容が名誉毀損にあたるかどうかについて、東京地裁における民事控訴で係争中です。特に、第3弾『アルゼ王国の崩壊』(2004年3月1日発行)及び第4弾『アルゼ王国 地獄への道』(2005年3月25日発行)につきましては、神戸地裁尼崎支部より差し止めの仮処分を受けたものの、地裁の判断によりすでに却下されております。
 小社代表松岡は、2度にわたる事情聴取を神戸地検で受けており、証拠の隠滅や逃亡のおそれは全くありませんでした。なぜ逮捕する必要があったのか。全く理解できません。
逮捕という2文字は、非常に重く、言論弾圧にほかなりません。
 松岡の矜持は、市民の視線から声を拾い上げ、伝えることでした。それを実践したのがアルゼであり阪神タイガースへの告発でした。
 小社としては、今回の不当逮捕について断固として闘います。
 本件は言論にたいする権力の介入であり、決して一出版社、一企業の問題ではありません。皆様のご賛同、ご支援をお願い申し上げます。
敬具


2005年7月12日
株式会社鹿砦社
http://www.rokusaisha.com/

毎日新聞の記事中にある神戸地裁尼崎支部の差し止めの仮処分は地裁で却下されているそうです。
だとすれば、記事の正確さとしては少し問題があるように思います。
被疑者の出版者のコメントによると、逮捕の必要性が本当にあったのか?ということも疑問でしょう。
家宅捜索すると、なお一層表現の自由への萎縮となるということも別途問題になります。
もちろん、表現の自由の名のもとに何をやってもいいというわけではありません。
「転落死に関して出版物に原稿を寄せた職員の娘からも任意で事情聴取してきた。娘はその時点で容疑を認めていたといい」
ことも逮捕の一要素となっていることでしょう。
まぁ、この会社、いろいろ印象が悪いことも否定できないのでしょうが…。(だからといって本件で逮捕が妥当かは別の話)

 人気アイドルグループSMAPのメンバーらを紹介する記事を所属事務所の承諾もなく雑誌から無断で引用した「SMAP大研究」では、メンバーらから提訴され、東京地裁で98年に差し止めが認められた。
 また、宝塚歌劇団の団員の自宅住所や地図などを掲載した「タカラヅカおっかけマップ」では、団員らから提訴され、神戸地裁尼崎支部が97年、差し止めの仮処分を決定した。その後、絶版などを条件に和解している。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200507120047.html

いずれも有名な事件ですね。
タカラヅカおっかけマップ事件
 神戸地尼崎支決平成9年2月12日判例時報1604号127頁
SMAP大研究事件
 東京地決平成10年10月30日判例集未登載


それにしても朝日新聞の記事はいかにも実名が問題であるかのような書きぶり。
それはちょっと違うのでは?という気がします。
同じような事実を伝えていますが、朝日新聞の記事は毎日より少し感情的に批判的という感じがします。
今回の事件が特異なケースで通常?の表現活動には影響しないということを伝えるためなのでしょうか。
報道の自由に敏感なはずの新聞社の事件についての報道をみていると、
それはそれでいろいろおもしろかったりします。
表現の自由や人格権法学者目線でいくと、様々な裁判例を提示してくれる会社なのかなぁ、と。