楽譜コピー問題/楽譜と著作権

JASRACのホームページをみて気づいたのだが、2005.9.1付で、

楽譜コピー問題協議会(CARS)がホームページを開設
                 

 楽譜の無断コピー防止に向け、昨年9月、日本音楽作家団体協議会(FCA)、JASRAC日本楽譜出版協会、日本作曲家協議会、日本現代音楽協会、日本童謡協会の6団体が連携して、継続的な啓蒙活動の具体策を検討するために発足させた「楽譜コピー問題協議会」(CARS/カーズ)が、ホームページを開設しました。
 ホームページには、「楽譜・歌詞のコピーに関するQ&A」のほか、CARSが制作したリーフレットの郵送を希望する人のための申込み窓口を設けています(リーフレットの中身はPDF画像で見ることができます)。
 また、このホームページからCARSのロゴマークを自由にダウンロードすることができ、CARSでは、このマークをコンサートのチラシやプログラムに印刷し、楽譜の無断コピー防止を呼びかけてほしいとしています。

http://www.jasrac.or.jp/release/05/09_1.html

というのがあった。解説されたホームページは、

楽譜コピー問題協議会(CARS)
http://www.cars-music-copyright.jp/index.html

である。
同サイトによれば、構成団体は、

・ 日本音楽作家団体協議会(FCA
・ 社団法人 日本音楽著作権協会JASRAC) http://www.jasrac.or.jp/
日本楽譜出版協会(JAMP) http://www.j-gakufu.com/html/main_fset.html
・ 社団法人 日本作曲家協議会(JFC) http://www.jfc-i.org/
・ 日本現代音楽協会(JSCM) http://www.jscm.net/
・ 社団法人 日本童謡協会(ACS) http://www.douyou.jp/doyo/utage.html

だそうだ。


さて、この構成団体のひとつ日本楽譜出版協会のサイトの「よくある質問」に次のような記述がある。

?質問-2
作品の中味に著作権がない場合はどうですか。
!答え-2
確かに現行の著作権法ではこれに対する規定はありません。しかし、すでに平成2年、著作権審議会は出版者の出版行為がいかに重要なものであり、具体的には、出版者が作成した版面は法的にも保護されるべきものであると報告しています。わたくしたちは「版面権」の正当性とその保護のための法制化を早期に実現して欲しいと主張を続けています。したがって、作品の中身に著作権があるか否かにかかわらず、あらゆる音楽活動の源でもある楽譜の版面を、その製作者である出版社に無断で複製することは適当でないと考えます。出版社の出版活動の安定と活発化を確保することは、音楽活動全般の発展のためにも必要だと考えます。
http://www.j-gakufu.com/html/link.html

法があえて権利を認めていないのに、
こういう主張をしていることが「楽譜コピー問題」なんじゃないか?と思ったのだが…。
ちなみに「版面権」にはリンクがあり、「協会の主張」として、

  「版面権」について


 いわゆる「版面権」とは、「出版者に固有の権利」すなわち、ゼロックス等の複写 機器の発達と普及に伴うコピー公害から出版者の経済的利益を保護するために創設するのが適当だとの判断から平成2年6月22日、当時の著作権審議会第8小委員会が作成した「出版者の保護関係・報告書」で提言された権利を意味します。
 同報告でいうこの権利の目的は出版者の出版行為そのものの保護ということから、「出版者に固有の権利」と呼ばれていますが、その具体的な利用行為は、出版物の版面 (組版)の利用に関するものであることから、一般に「版面権」と呼ばれています。
 著作権法は、著作隣接権、つまり著作物の著作者ではないけれど著作物を公衆に伝達するための重要な役割を果たしている者、すなわち実演家、レコード製作者、放送事業者等に対し著作権に類似した権利を与え、著作物の伝達活動の安定と活発化を図ろうとしています。それにもかかわらず、同じように重要な役割を果 たしているはずの出版者の出版活動が著作権法上なんら保護されていないのはおかしいと考えるわけです。
 そこで著作権審議会は、これを保護することは適当であり、そのことが「わが国における学術・文化の一層の発展に資するものであると考える」と結論しました。しかし、この考えに対し経団連の強い反対があり、同報告があってから11年もの歳月が経過した今日もなお、法案の作成すらなされぬ ままになっています。
 一方、この11年の間の技術的な進歩はめざましく、今やデジタル化・ネットワーク化が急速に進んでいます。前述の報告が検討されたときは、「複写問題に対応した範囲において権利を認める」としており「電子媒体等に係る版面 の入・出力」についてはその「技術の発展や普及の動向を見極めつつ、別途検討すべき事柄である」としていました。したがって、今日われわれが抱える問題はもはや「複写機器による複製」だけではなく、新たな様々な複製に対応できる権利内容が必要だということです。

 日本楽譜出版協会では、平成2年当時、同報告を支持し早期法制化の要望を文化庁長官に提出しましたが、平成11年4月27日、新たな技術についても「別途検討」の上、改めて早期法制化を願う旨の要望を行ったところであり、今後も引き続き要望を続けるつもりです。
http://www.j-gakufu.com/html/message_main.html

とある。
「コピー公害」ってなんだろうか?
「実演家、レコード製作者、放送事業者等に対し著作権に類似した権利を与え、
 著作物の伝達活動の安定と活発化を図ろうとしています。」
って、今の運用の実情をみて、これら権利者が「著作物の伝達活動の安定と活発化を図」るために使っているのか?
もっといえば、同じく「協会の主張」として、

適正なコピー・ルールの確立に向けて


 楽譜のコピ−に関する諸問題は相変わらずこれといった解決策もないまま、いわゆる「版面権」の創設も遅々として進展がみられない状況にあることは頭の痛いところです。現行著作権法は著作物の無断コピ−を禁じてはいるものの、制限規定を含め、コピ−は野放し状態です。しかし、書籍・雑誌・新聞に関しては、(社)日本複写権センタ−等の創設により、一応の受け皿は準備されていますが、楽譜についてはJASRACがこれに代わる権利処理を行えるという建前です。ただし、現在のシステムでは、コピ−する人が申し出てくることが前提であり、必ずしも積極的な管理が行われているとは言い難いところが問題です。将来的には、楽譜の複写権処理機関の創設が望まれるところではありますが、現実的には難問山積で、そう簡単ではありません。
 こうした現状のなかで、実際の損害を被る立場にある作詞者・作曲者・出版者、そして権利を預かるJASRACが一同に会し、将来的に楽譜の複写権センタ−創設を大目標に、当面なすべきことを共同して行おうという動きが始まりました。すでに、以前から、それぞれが個別に活動は続けてきたものの、こうして各団体が一同に会することは初めてであり、問題意識の共有化はその第一歩として欠くことができないものであるとの認識で一致しました。また、今後は、できるだけ早期に、コピ−をする立場の人々にも参加を願い、楽譜のコピ−問題に関する共通認識を醸成し、相互の契約に基づく適正な複写・複製のシステムを構築したいという目標を掲げています。...

とある。
「版面権」ができないのは、これが必ずしも文化の発展に寄与するのかどうか疑問があるからだろうし、
著作権に関して、「制限規定を含め、コピ−は野放し状態です。」と権利制限規定に関して
「野放し」と評していることが、この団体が本当に著作権を理解しているのか疑問に思う。
また、「コピ−する人が申し出てくることが前提であり」というのは権利の性質上のものだろうし、
そういうならそれを克服するシステムをつくればいいだけの話である。
日本複写権センタ−等はあるけど、JASRACがダメなような記述もよくわからない。
建て前があるならJASRACでできるはずだからJASRACに要望すればいいだけだし、
JASRACは日本複写権センタ−に劣っているのか?おそらく結局のところ、

日本本楽譜出版協会の目的と事業内容
  日本楽譜出版協会は、音楽事業の健全な発展と音楽出版業界全体の融和協調を図り、音楽著作権物の普及に努め、もって、我が国の音楽文化発展に寄与することを目的として、主に次の事業を行っています。
1,音楽出版事業に関する調査、研究及び資料の収集。
2,音楽出版事業に関する指導及び助言、並びに研修会、講習会等の開催。
3,著作権思想の普及と出版者の隣接権の法制化を目指す運動。
4,出版流通機構の諸問題についての調査・対策等。
5,内外の関係団体との連絡、協力及び協賛。
6,会員相互の親睦。
7,その他の事業。
http://www.j-gakufu.com/html/main.html

とあるので、単に版面権主張をしたいだけなのかもしれないが…。
何にせよ、楽譜のコピーにあたっては許諾をとりましょうということを言いたいらしい。
日本本楽譜出版協会サイトの「楽譜コピーについて」という項には

楽譜をコピーする場合は、作曲者・作詞者など著作権者の許諾が必要です。適正な楽譜の利用を推進していくことが実りゆたかな日本の音楽文化の発展につながるものと信じ、楽譜の無断コピー防止に向けて様々な啓蒙活動を展開してまいります。
音楽を愛する方々のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。


日本音楽著作権協会JASRAC)が著作権を管理している作品の楽譜をコピーされる場合は、JASRACの出版部が許諾手続の窓口になります。詳細についてはJASRACのホームページにある「楽譜など出版物の製作」コーナーをご覧ください。(JASRACの管理作品かどうかは、JASRACのホームページで公開している作品データベース検索「J-WID」で確認できます。)
http://www.cars-music-copyright.jp/copy.html

との記述がある。
そして、JASRACの「楽譜など出版物の製作」(http://www.jasrac.or.jp/info/create/publish.html)では、

手続きの前に
歌詞集、書籍、雑誌、新聞、催物プログラムなどの出版物や歌碑、ポスター、プリペイドカードなどに音楽をご利用の場合には、事前にJASRACに利用申込手続きをとり、許諾を受けてからご利用ください。
お手続きの前に(ご注意)
■既に発行されている出版物から楽譜などをコピーされる場合、別途当該出版物を発行している出版社より、コピーの許可をおとりいただく必要がございます。
■著作者の許可無く著作物に替歌を付したり、改ざんその他変更を加えたりして利用することは、著作者人格権の侵害となりますのでご注意ください。
■手続きを取らずに利用した場合、無断製造された出版物を回収のうえ廃棄していただいたり、民事上の責任のほか刑事上の責任を問われることがあります。音楽をご利用になる前に申込み手続きを行ってください。
http://www.jasrac.or.jp/info/create/bepro.html

とある。
まず確認しておくことは、楽譜それ自体には著作物性はなく(=図形・図面の著作物ではない)、
楽譜は音楽の著作物であって、著作者は楽曲の作曲者ということになる(詞は考えないこととする。)
したがって、楽譜の複製は、作曲者の音楽の著作物の複製であって、
作曲者、JASRAC管理楽曲の場合JASRACの許諾を必要とする。
ただし、権利制限規定に該当する場合のほか、
著作権の存続期間が終了していたり、放棄されているような事情がある場合には許諾は必要無い。
あくまで著作権のある楽曲の楽譜である。
許諾は

楽譜など出版物の製作
http://www.jasrac.or.jp/info/create/publish.html

で、「出版物」という語からはイメージしにしくいが、
(録音利用や固定複製以外の紙媒体への)複製許諾がこれにあてはまる。
https://jasrac.e-srvc.com/cgi-bin/jasrac.cfg/php/enduser/std_adp.php?p_sid=TBBtUDPh&p_lva=&p_faqid=126&p_created=1048067470&p_sp=cF9zcmNoPTEmcF9ncmlkc29ydD0mcF9yb3dfY250PTIzJnBfc2VhcmNoX3RleHQ95q2M6Kme44CA6KSH6KO9JnBfY2F0X2x2bDE9fmFueX4mcF9jYXRfbHZsMj1_YW55fiZwX3BhZ2U9MQ**&p_li=
ちょっと一般的にはわかりにくい。
これでは許諾を得ようとおもっても分かりにくいんじゃないかと思う。
改めるべきだろう。


また、

■既に発行されている出版物から楽譜などをコピーされる場合、別途当該出版物を発行している出版社より、コピーの許可をおとりいただく必要がございます。

という点に関して、JASRACのFAQには、

質問
合唱団の練習用に楽譜をコピーして使いたいのですが?
回答
無断でコピーすることはできません。必ず購入するようにしてください。ただし、絶版などで手に入らないときには、楽譜の出版元の了承があればコピーが可能な場合もあります。その曲がJASRACの管理作品であれば、あわせてJASRACへの出版の手続きが必要です。
https://jasrac.e-srvc.com/cgi-bin/jasrac.cfg/php/enduser/std_adp.php?p_sid=TBBtUDPh&p_lva=&p_faqid=128&p_created=1048067913&p_sp=cF9zcmNoPTEmcF9ncmlkc29ydD0mcF9yb3dfY250PTIzJnBfc2VhcmNoX3RleHQ95qW96K2cJnBfY2F0X2x2bDE9fmFueX4mcF9jYXRfbHZsMj1_YW55fiZwX3BhZ2U9MQ**&p_li=

とある。
「無断でコピーできない=必ず購入する」というのはわからない。許諾を得るというのであればわかるが…。
また、ここでも「楽譜の出版元の了承があれば」とある。
出版社が出版権を有している場合や出版社が著作者である場合には、出版社の許諾は必要であるが、
(但、著作者たる出版者がJASRACに信託している場合には、JASRACから許諾を得ればたりる)
版面権がない以上、これらの場合以外には許諾をえる必要はないはずである。
JASRACの楽譜に対するこのような不明確な説明は、公益法人として権利を適正に取り扱っているとは言い難い。
楽譜の権利処理については楽譜出版団体が権利関係を複雑にみせかけており、
実務慣行上、(出版権とは異なる)版面権を行使しているとの疑念を払拭できない。
もし、疑念が正しいとすれば、慣習物権は認められないことからしても、違法の疑いが生じることになる。
そんなことはないと思うが、楽譜に関する権利関係については、
実態をきちんと把握した上で、議論を整理して、あらためて書こうと思う。