在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件判決(4・完)〜要旨3・4〜

在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件判決(1)〜判決概要〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050914/1126692630
在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件判決(2)〜要旨1〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050915/1126779032
在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件判決(3)〜要旨2〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050916/1126801817

国政選挙/国民審査制度いろいろ
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050904/1125767573
※在外邦人の選挙権が制限されていることについて少し言及しています

最大判平成17年9月14日
平成13年(行ツ)第82号、平成13年(行ヒ)第76号、平成13年(行ツ)第83号、平成13年(行ヒ)第77号
在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件
http://courtdomino.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/8e94e6cbb1b3647e4925707c002b1517?OpenDocument


要旨:
3 在外国民である上告人らが次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは,適法な訴えである
4 在外国民である上告人らは,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にある


要旨1で、多数意見は、改正前公選法が在外国民に選挙権を認めていないことを実体上違法とした。
要旨2で、多数意見は、改正後公選法において、判決後選挙での選挙区選挙権不存在を違法とした。
では、これらの判断をできるか?
まず、違法確認の訴えという手法は認められない。

第3 確認の訴えについて
 1 本件の主位的確認請求に係る訴えのうち,本件改正前の公職選挙法が別紙当事者目録1記載の上告人らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは,過去の法律関係の確認を求めるものであり,この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから,確認の利益が認められず,不適法である。

 2 また,本件の主位的確認請求に係る訴えのうち,本件改正後の公職選挙法が別紙当事者目録1記載の上告人らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えについては,他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には,確認の利益を欠き不適法であるというべきところ,本件においては,後記3のとおり,予備的確認請求に係る訴えの方がより適切な訴えであるということができるから,上記の主位的確認請求に係る訴えは不適法であるといわざるを得ない。

いずれも確認の利益がないとして否定されている。
1.については、過去の法律関係であることを確認しても仕方がない、
2.については、別の良い方法があるから、方法選択の適切性を欠くということである。
もっとも、要旨2に関しては、

 3 本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴えと解することができるところ,その内容をみると,公職選挙法附則8項につき所要の改正がされないと,在外国民である別紙当事者目録1記載の上告人らが,今後直近に実施されることになる衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができず,選挙権を行使する権利を侵害されることになるので,そのような事態になることを防止するために,同上告人らが,同項が違憲無効であるとして,当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えであると解することができる。
 選挙権は,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから,その権利の重要性にかんがみると,具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を肯定すべきものである。そして,本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,上記の内容に照らし,確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお,この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。
 そうすると,本件の予備的確認請求に係る訴えについては,引き続き在外国民である同上告人らが,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。
 4 そこで,本件の予備的確認請求の当否について検討するに,前記のとおり,公職選挙法附則8項の規定のうち,在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反するもので無効であって,別紙当事者目録1記載の上告人らは,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあるというべきであるから,本件の予備的確認請求は理由があり,更に弁論をするまでもなく,これを認容すべきものである。

として、「在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認」請求を認めている。
なお、この点についての反対意見も

 4 私たちは,本件の主位的確認請求に係る訴えは不適法であり,予備的確認請求に係る訴えは適法であるとする多数意見に同調するものであるが,公職選挙法附則8項の規定のうち在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定している部分も違憲とはいえないと解するので,本件の予備的確認請求は理由がなく,これを棄却すべきものと考える。本件の予備的確認請求に係る訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることになるが,本件の予備的確認請求を求めている上告人らからの上告事件である本件においては,いわゆる不利益変更禁止の原則により,この部分に係る本件上告を棄却すべきである。

として、地位確認請求に確認の利益が存すること自体は、多数意見と意見を同じくしている。
下線を施した部分については、まさにそのとおりであって、かかる結論は十分評価できる。
もっとも、地位を確認しても、立法措置を待たない限り投票できない。
個別的効力説からすれば、「公職選挙法附則8項の規定のうち,
在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分」を
違憲無効としても、当然に法令は改廃されない解される以上、やむをえない。


さて、これによって、要旨2での判示事項については、一応の救済を得るが、
要旨1での判示事項については、確認の利益なしだけでは(司法審査すらされずに)却下(上告棄却)されることになる。
しかし、国家賠償請求の可否も問題になる。

第4 国家賠償請求について
 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。

まず、判示1で示したように当該立法の内容が違憲であって、改正されなかった不作為が問題となるにしても、
直ちにその不作為が国家賠償法上「違法」を生じさせるものではない。

最一小判昭和60年11月21日 公職選挙法在宅投票制度廃止事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/13A106239429E1EE49256A8500311F49?OPENDOCUMENT
 三 国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。したがつて、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であつて、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
 そこで、国会議員が立法に関し個別の国民に対する関係においていかなる法的義務を負うかをみるに、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、国会は、国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ、議員の自由な討論を通してこれらを調整し、究極的には多数決原理により統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものである。そして、国会議員は、多様な国民の意向をくみつつ、国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているのであつて、議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためにも、国会議員の立法過程における行動で、立法行為の内容にわたる実体的側面に係るものは、これを議員各自の政治的判断に任せ、その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるのを相当とする。さらにいえば、立法行為の規範たるべき憲法についてさえ、その解釈につき国民の間には多様な見解があり得るのであつて、国会議員は、これを立法過程に反映させるべき立場にあるのである。憲法五一条が、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と規定し、国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも、国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるのが国民の代表者による政治の実現を期するという目的にかなうものである、との考慮によるのである。このように、国会議員の立法行為は、本質的に政治的なものであつて、その性質上法的規制の対象になじまず、特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から、あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは、原則的には許されないものといわざるを得ない。ある法律が個人の具体的権利利益を侵害するものであるという場合に、裁判所はその者の訴えに基づき当該法律の合憲性を判断するが、この判断は既に成立している法律の効力に関するものであり、法律の効力についての違憲審査がなされるからといつて、当該法律の立法過程における国会議員の行動、すなわち立法行為が当然に法的評価に親しむものとすることはできないのである。
 以上のとおりであるから、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであつて、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。

公職選挙法在宅投票制度廃止事件も同様のことを判示し、本判決も同趣旨とする。
この点、本在外日本人選挙権剥奪事件判決は、違法となる場合に関して、

立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。

とし、在宅投票制度廃止事件判決は、

国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであつて、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。

とし、一見判断を異にするとも思えるが、両者は同趣旨であるという。
在宅投票制度は、法律上選挙を奪うものではなく、47条により立法裁量の重視したことから、
そのような場合には、「立法の内容が憲法の“一義的な文言に違反している”にもかかわらず
国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合」のみを「違法」とすべきとした。
本判決が「権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」には「違法」というのはこのことだろう。


一方で、本件は判示のように立法裁量の余地が低いことから、
「国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,
それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合」には「違法」とすべき、
という判断基準を持ち出したものと思われる。
二重の基準の一種のようなものだろうか。


確かに、平成8年当時では違憲無効というものであるから、「憲法の一義的な文言に違反している」とはいいにくい。
この点、

熊本地判平成13年5月11日 ハンセン病訴訟
<裁判所ホームページ未登載 判例時報1748号30頁>

は、

「らい予防法」違憲国家賠償請求事件 判決骨子
二 国会議員の立法行為の国家賠償法上の違法及び故意・過失の有無について(争点二)
1 新法は、六条、一五条及ぴ二八条が一体となって、伝染させるおそれがある患者の隔離を規定しているが、これらの規定(以下「新法の隔離規定」という。)は、 遅くとも昭和三五年には、その合理性を支える根拠を全く欠く状況に至っており、 その違憲性が明白となっていた。
2 国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)が国家賠償法上違法となるのは、容易に想定し難いような極めて特殊で例外的な場合に限られるが、遅くとも昭和四○ 年以降に新法の隔離規定を改廃しなかった国会議員の立法上の不作為につき、国家賠償法上の違法性及び過失を認めるのが相当である。
http://www.try-net.or.jp/~k-ohta/hansen/kokubai/hanketsu.html
http://www.mognet.org/hansen/sosho/hanketsu01.html

とする。
ここでも「一義的な文言に違反している」を重視すれば、「違法」とはならないように思われるが、
「一義的な文言に違反している」は「極めて特殊で例外的な場合」の例示であると考えると、
国民の自由という立法裁量の余地が低い事項については必ずしも「一義的な文言に違反している」ことは不要である、
とも理解できる。
本判決は、政治的に一審確定をみた熊本地裁判決(国賠違法判断)が最高裁判決と矛盾するものではないことを
確認する意味もつようにも思われる。


このような理解のもと、多数意見は、

 在外国民であった上告人らも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり,この権利行使の機会を確保するためには,在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず,前記事実関係によれば,昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの,同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから,このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり,このような場合においては,過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果,上告人らは本件選挙において投票をすることができず,これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって,本件においては,上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。
 そこで,上告人らの被った精神的損害の程度について検討すると,本件訴訟において在外国民の選挙権の行使を制限することが違憲であると判断され,それによって,本件選挙において投票をすることができなかったことによって上告人らが被った精神的損害は相当程度回復されるものと考えられることなどの事情を総合勘案すると,損害賠償として各人に対し慰謝料5000円の支払を命ずるのが相当である。そうであるとすれば,本件を原審に差し戻して改めて個々の上告人の損害額について審理させる必要はなく,当審において上記金額の賠償を命ずることができるものというべきである。そこで,上告人らの本件請求中,損害賠償を求める部分は,上告人らに対し各5000円及びこれに対する平成8年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余は棄却することとする。

とした。
「損害賠償として各人に対し慰謝料5000円の支払を命ずるのが相当である」というのは、よくわからない。
裁判所の「総合勘案」だからそういうものなのだが…。
この点については、泉徳治裁判官の反対意見がある。

判示第4についての裁判官泉徳治の反対意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見のうち,国家賠償請求の認容に係る部分に反対し,それ以外の部分に賛同するものである。
多数意見は,公職選挙法が,本件選挙当時,在外国民の投票を認めていなかったことにより,上告人らが本件選挙において選挙権を行使することができなかったことによる精神的苦痛を慰謝するため,国は国家賠償法に基づき上告人らに各5000円の慰謝料を支払うべきであるという。しかし,私は,上告人らの上記精神的苦痛は国家賠償法による金銭賠償になじまないので,本件選挙当時の公職選挙法の合憲・違憲について判断するまでもなく,上告人らの国家賠償請求は理由がないものとして棄却すべきであると考える。
 国民が,憲法で保障された基本的権利である選挙権の行使に関し,正当な理由なく差別的取扱いを受けている場合には,民主的な政治過程の正常な運営を維持するために積極的役割を果たすべき裁判所としては,国民に対しできるだけ広く是正・回復のための途を開き,その救済を図らなければならない。
 本件国家賠償請求は,金銭賠償を得ることを本来の目的とするものではなく,公職選挙法が在外国民の選挙権の行使を妨げていることの違憲性を,判決理由の中で認定することを求めることにより,間接的に立法措置を促し,行使を妨げられている選挙権の回復を目指しているものである。上告人らは,国家賠償請求訴訟以外の方法では訴えの適法性を否定されるおそれがあるとの思惑から,選挙権回復の方法としては迂遠な国家賠償請求を,あえて付加したものと考えられる。
 一般論としては,憲法で保障された基本的権利の行使が立法作用によって妨げられている場合に,国家賠償請求訴訟によって,間接的に立法作用の適憲的な是正を図るという途も,より適切な権利回復のための方法が他にない場合に備えて残しておくべきであると考える。また,当該権利の性質及び当該権利侵害の態様により,特定の範囲の国民に特別の損害が生じているというような場合には,国家賠償請求訴訟が権利回復の方法としてより適切であるといえよう。
 しかしながら,本件で問題とされている選挙権の行使に関していえば,選挙権が基本的人権の一つである参政権の行使という意味において個人的権利であることは疑いないものの,両議院の議員という国家の機関を選定する公務に集団的に参加するという公務的性格も有しており,純粋な個人的権利とは異なった側面を持っている。しかも,立法の不備により本件選挙で投票をすることができなかった上告人らの精神的苦痛は,数十万人に及ぶ在外国民に共通のものであり,個別性の薄いものである。したがって,上告人らの精神的苦痛は,金銭で評価することが困難であり,金銭賠償になじまないものといわざるを得ない。英米には,憲法で保障された権利が侵害された場合に,実際の損害がなくても名目的損害(nominal damages)の賠償を認める制度があるが,我が国の国家賠償法は名目的損害賠償の制度を採用していないから,上告人らに生じた実際の損害を認定する必要があるところ,それが困難なのである。
 そして,上告人らの上記精神的苦痛に対し金銭賠償をすべきものとすれば,議員定数の配分の不均衡により投票価値において差別を受けている過小代表区の選挙人にもなにがしかの金銭賠償をすべきことになるが,その精神的苦痛を金銭で評価するのが困難である上に,賠償の対象となる選挙人が膨大な数に上り,賠償の対象となる選挙人と,賠償の財源である税の負担者とが,かなりの部分で重なり合うことに照らすと,上記のような精神的苦痛はそもそも金銭賠償になじまず,国家賠償法が賠償の対象として想定するところではないといわざるを得ない。金銭賠償による救済は,国民に違和感を与え,その支持を得ることができないであろう。

 当裁判所は,投票価値の不平等是正については,つとに,公職選挙法204条の選挙の効力に関する訴訟で救済するという途を開き,本件で求められている在外国民に対する選挙権行使の保障についても,今回,上告人らの提起した予備的確認請求訴訟で取り上げることになった。このような裁判による救済の途が開かれている限り,あえて金銭賠償を認容する必要もない。
 前記のとおり,選挙権の行使に関しての立法の不備による差別的取扱いの是正について,裁判所は積極的に取り組むべきであるが,その是正について金銭賠償をもって臨むとすれば,賠償対象の広範さ故に納税者の負担が過大となるおそれが生じ,そのことが裁判所の自由な判断に影響を与えるおそれもないとはいえない。裁判所としては,このような財政問題に関する懸念から解放されて,選挙権行使の不平等是正に対し果敢に取り組む方が賢明であると考える。

泉裁判官は「違法」だけど「損害」がない(「損害」評価できない)ということだろうか。
もっとも、「損害」がない(「損害」評価できない)以上、違憲審査する必要がないといえ、
判示1は泉裁判官にとっては傍論ということになる。
実際にも、要旨2のみ判断して確認すれば、それで十分ということのようである。
また、泉裁判官の下線を付した指摘はもっとなように思われる。


なお、要旨1について反対意見である横尾・上田両裁判官については、

 また,在外選挙制度を設けなかったことなどの立法上の不作為が違憲であることを理由とする国家賠償請求については,そのような不作為は違憲ではないと解するので,理由がなく,その請求を棄却すべきであるところ,原審はこれと結論を同じくするものであるから,この部分に関する本件上告も棄却すべきである。

とする反対意見がある。