絵画公売オークションネット掲載事件

絵画公売オークションで提訴「画像は著作権侵害
 横浜市が税金滞納者から差し押さえた絵画をインターネットオークションで公売する際、画家の許諾を得ないで画像を掲載するのは著作権の侵害にあたるとして、著作権管理事業者が12日、同市を相手取り、掲載の差し止めなどを求める訴訟を東京地裁に起こした。
 著作権訴訟で自治体が訴えられるのは異例。司法判断次第では、無断使用の美術品の画像がネット上にあふれている現状に、一石を投じることになりそうだ。
 訴えを起こしたのは、絵画などの美術品の著作権を管理する「美術著作権センター」(東京都中央区)。
 訴状などによると、横浜市は今年2月、民間業者が運営するサイトで、市税滞納者から差し押さえた物品の公売オークションを実施。この中で、原告が著作権管理委託契約を結ぶ洋画家の絵画1点を出品し、全体写真と署名部分の拡大写真計3枚を掲載した。
 これについて原告側は、同市は著作権者から画像掲載の許諾を得ておらず、著作権を侵害していると主張。掲載の差し止めと、未払いの許諾料など約17万円の支払いを求めている。
 一方、横浜市側は、「(公売オークションでは)画像が鮮明にならないように調整しており、著作権者の許諾が必要な『複製』には当たらない。複製だとしても、今回のケースは『引用』に当たるため、やはり著作権者の許諾は必要ない」と反論している。
 今回の訴訟について、著作権法に詳しい横浜国立大学大学院の大和淳・助教授は、「公売のための情報提供であっても、著作権者の許諾が必要なことに変わりはない。(画像を不鮮明にするなどで)勝手に画像を改変すれば、別の意味で著作権侵害になる恐れがある」と指摘。社団法人「著作権情報センター著作権相談室(新宿区)も同様の見解だ。
 これに対し、公売オークションの先駆けとなった東京都は、横浜市とほぼ同じ意見。文化庁著作権課は「裁判の行方を見守りたい」と話すにとどめている。
 社団法人「日本美術家連盟」(中央区)によると、近年、著作権者に無断でホームページに作品が掲載されるケースが目立つという。美術業界には、音楽業界の社団法人「日本音楽著作権協会」(JASRAC、渋谷区)のような大規模な著作権管理団体もなく、原告側は「今回の訴訟を通じて、著作権保護への対応が遅れている美術業界にかかわる人たちの意識を変えることができれば」と話している。
(2005年10月13日3時10分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051013ic02.htm

絵画は通常著作物である、ということには問題がない。
で、公売オークションに際してその絵画の画像をネットに掲載すると複製権・公衆送信権侵害ということになる。
ここで横浜市は反論として、
「画像が鮮明にならないように調整しており、著作権者の許諾が必要な『複製』には当たらない」という。
しかし、画像が鮮明にならないように調整しても、著作物を示すために掲載したことからしても、それは複製だろう。
むしろ中途半端な改変は同一性保持権侵害の可能性すら生じてくることは記事中でも指摘されているとおりである。
あくまで可能性だが。
そういうわけで、「『複製』には当たらない」という主張には無理があろう。
では、「複製だとしても、今回のケースは『引用』に当たる」というのはどうか。
紹介文で創作者の申請を示すために署名の写真を掲載するとか、
キズ部分の写真の掲載するとかいうのは合理性がありそうだけど、
それはそもそも著作物の利用なのだろうか?という気はしなくはない。
著作物の引用ということも可能かもしれないが、全体写真となるとちょっと難しい。
確かに、オークションで商品である有体物は写真を掲載できて、
著作物はできないという不均衡があるようにもみえるが、
著作物はその鑑賞に意味があるところを考えれば、ある種已むを得ない状況だろう。
だからこそ鑑賞にならないように、画像が鮮明にならないように調整したのだろうが、
どういう絵画(著作物)かわかるように掲載したのであれば、結局著作物を鑑賞させていることになる。
もちろん原作品の鑑賞とは異なるが、原作品の複製物であっても、権利が及ぶことは否定されていない。
加えて公売オークションという経済活動に付随する利用であることからすれば、
それに対して権利処理すべし、ということも、特段の不都合がないように思える。
政策的には補償金などという手法も採りうるように思えるのだが、そのような手法は採られていない以上、
現行法上は素直に適法とはいいにくい。
ところで、美術の著作物の原作品所有者の展示には展示権の制限がある。
通常の公売では、所有者の同意を擬制しているのか、公売実施者に所有権が移転しているのかわからないが、
展示と公衆送信(送信可能化)は区別されているし、小冊子(47条)と同視することも難しいように思う。
差し押さえられた人の著作物であれば、許諾ありとすることは可能かもしれないが、
このように第三者の著作物となると権利処理不要というのは難しいだろう。
(政策的に権利制限するという議論も可能だろうが、)
許諾料を払ってまでネット公売したほうがいいのかどうか、ということを考えるべき問題のように思う。


ところで、「著作権法に詳しい横浜国立大学大学院の大和淳・助教授」は初耳ですが、文化庁出身の人のようです。
このルート結構いらっしゃるようですが、
書籍を執筆している現内閣法制局参事官作花文雄氏(元横浜国立大学助教授)の知名度には劣るようです。
書籍を執筆したか否かだけの違いではないのかもしれませんが…。