憲法改正を考える(その17)〜自民党新憲法草案について(1)〜

<目次、前文、第一章 天皇、第二章 戦争の放棄→安全保障、第三章 国民の権利及び義務>

憲法改正を考える(その1)〜国民投票法(1)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050314/1110803315
憲法改正を考える(その2)〜自民論点整理(1)〜+自民党ホームページについて
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050314/1110805753
憲法改正を考える(その3)〜自民論点整理(2)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050315/1110816281
憲法改正を考える(その4)〜自民論点整理(3)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050315/1110821749
憲法改正を考える(その5)〜国民の権利と義務に関する小委員会(1)+綿貫氏の発言について〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050326/1111775076
憲法改正を考える(その6)〜小委員会要綱案(1)といっても自民党批判〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050406/1112776329
憲法改正を考える(その7)〜民主党小委員会中間報告(1)+民主党批判〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050407/1112805346
憲法改正を考える(その8)〜衆院調査会最終報告書(1)+国民投票法(2)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050416/1113583226
憲法改正を考える(その9)〜自民党憲法第一次案について(1)〜<前文、第一章 天皇、第三章 国民の権利及び義務>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050803/1123003046
憲法改正を考える(その10)〜自民党憲法第一次案について(2)〜<第四章 国会、第五章 内閣、第六章 司法>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050804/1123090669
憲法改正を考える(その11)〜自民党憲法第一次案について(3)〜<第七章 財政>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050805/1123171407
憲法改正を考える(その12)〜自民党憲法第一次案について(4)〜<第九章 改正、第十章 最高法規
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050808/1123429668
憲法改正を考える(その13)〜自民党憲法第一次案について(5)〜<第二章 戦争の放棄→安全保障>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050810/1123610872
憲法改正を考える(その14)〜自民党憲法第一次案について(6)〜<第八章 地方自治、第九章 改正(追記)>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050814/1123984962
憲法改正を考える(その15)〜自民党憲法要綱に5項目追加〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050927/1127789333
憲法改正を考える(その16)〜自民党憲法第二次案について
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051030/1130662659


衆議院憲法調査会
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kenpou.htm
参議院憲法調査会
http://www.sangiin.go.jp/japanese/kenpou/index.htm
自由民主党憲法制定推進本部
http://www.jimin.jp/jimin/shin_kenpou/shiryou/index.html


自由民主党憲法草案について

憲法草案[平成17年10月28日]
http://www.jimin.jp/jimin/shin_kenpou/shiryou/pdf/051028_a.pdf

自民党憲法草案全文
http://www.fukushima-minpo.co.jp/news/syohou/CN2005102801002749.html
http://www.topics.or.jp/Gnews/news.php?id=CN2005102801002749&gid=G15


1.はじめに
草案のはじめに、

(注)新憲法草案の条文番号は、現段階では、参照の便宜のため現行憲法をそろえた。
実質的な変更がある条項は、ゴシック体で、表記し、網掛けをした。

とある。
憲法の条文番号については新たに付されなおされることがあるかもしれない。
承認を受けて、改めて番号を付しなおすことがあるかもしれないということだろう。


2.目次

目次
 前文
 第一章 天皇(第一条−第八条)
 第二章 安全保障(第九条・第九条の二)
 第三章 国民の権利及び義務(第十条−第四十条)
 第四章 国会(第四十一条−六十四条の二)
 第五章 内閣(第六十五条−七十五条)
 第六章 司法(第七十六条−八十二条)
 第七章 財政(第八十三条−九十一条)
 第八章 地方自治(第九十一条の二−九十五条)
 第九章 改正(第九十六条)
 第十章 最高法規(第九十七条−九十九条)

この点は確認だけ。


3.前文
便宜上、段落ごとに番号を付した。

1 日本国民は、自らの恵沢と決意に基づき、主権者として、ここに新しい憲法を制定する。
2 象徴天皇性は、これを維持する。また、国民主権と民主主義、自由主義基本的人権の尊重及び平和主義と国際協調主義の基本原則は、
普遍の価値として継承する。

憲法改正にあたり全文書き換えるようである。
いやむしろ「“新憲法”草案」とあるように「新憲法を制定」するそうである。
手続き自体は現行憲法の改正という形をとるのだが…(もっとも明治憲法改正も実質的には新憲法制定と解される)。
ただし、前述のように「制定する」とする一方で、現憲法象徴天皇制は「維持」し、
国民主権と民主主義、自由主義基本的人権の尊重及び平和主義と国際協調主義の基本原則は、
普遍の価値として継承する」そうである。
だとすれば、現行憲法の前文を踏襲するものであるので、書き換えるというのが妥当かという疑問が残る。
さらに、「国民主権と民主主義」「自由主義基本的人権」というのはわかるが、
「平和主義と国際協調主義」と当然のように併記することには違和感がある。
草案では削除された第一次案9条3項を意識したものように思われるが、
そもそも現行憲法がこれらを並列的に理解しているのかというと疑問が残る。

3 日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し、自由かつ公正で活力ある社会の発展と国民福祉の充実を図り、教育の振興と文化の創造及び地方自治の発展を重視する。

まず、「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し」という点について、
これらによって国民の権利が制約され、義務が課されると解されてはならない。
憲法が規定する政府(国)を国民みんなで支えようということの確認以外の何ものでないないだろう。
次に、日本国民が「自由かつ公正で活力ある社会の発展と国民福祉の充実を図り、教育の振興と文化の創造及び地方自治の発展を重視する。」
というのは少し理解しがたい。
日本国民は、「自由かつ公正で活力ある社会の発展と国民福祉の充実を図」るために政府を有し、
その政府は、「教育の振興と文化の創造及び地方自治の発展を重視する」のではないだろうか。
日本国民を主語にするのは構わないが、前文は国民が何のために政府をもつのか、ということを宣言するものであることを認識すべきである。
このことは、現行憲法の前文を読み比べればよくわかる。

4 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い、他国とともにその実現のため、協力し合う。国際社会において、価値観の多様性を認めつつ、圧政や人権侵害を根絶させるため、不断の努力を行う。

この点も九条改正に大きく関わる部分で、現行の国際協調主義よりも踏み込んだ内容のように思う。
「圧政や人権侵害を根絶させるため、」外交上の「不断の努力を行う」のは構わないが、
これが名目で(イラク戦争ような)戦争が行われるような気がするのは筆者だけだろうか。

5 日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球の環境を守るため、力を尽くす。

環境権とも関係するもので、この点は同意する。


ところで、前文の改正要件を難しい。
包括改正説を採れば前文も含めて改正されることになるが、この説は採用しえないことはすでに述べた(その1)。
個別改正説であっても前文のみの承認を要するのか、1以上の改正賛成をもって承認されるのか、改正技術が問題となるように思う。
たとえば、4は憲法9条とかかわるし、5は環境権条項(草案25条の2)と関わる事項である。
一部承認の場合に全文をどうするのか、ということについては考えるべき事項である。


以降は、第一次案、第二次案と変更のある部分を中心にコメントする。


4.第一章 天皇(第一条−第八条)

境を守るため、力を尽くす。
第一章 天皇
天皇
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
皇位の継承)
第二条 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第三条 (第六条第四項参照)
天皇の権能)
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
第五条 (第七条参照)
天皇の国事行為)
第六条 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
2 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 二 国会を召集すること。
 三 第五十四条第一項の規定による決定に基づいて衆議院を解散すること。
 四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員通常選挙の施行を公示すること。
 五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免並びに全権委任状並びに大使及び公使の信任状を認証すること。
 六 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を認証すること。
 七 栄典を授与すること。
 八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
 九 外国の大使及び公使を接受すること。
 十 儀式を行うこと。
3 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。
4 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負う。
(摂政)
第七条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
2 第四条及び前条第四項の規定は、摂政について準用する。
(皇室への財産の譲渡等の制限)
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与するには、法律で定める場合を除き、国会の議決を経なければならない。

用語法の一部修正のあるほか、一部条文の移動は見られるが(自民党サイトのPDFは現行憲法対照となっているので参照)、
実質的な変更点は、草案6条2項3号のみである。この点については、<その9>で述べたとおりである。


5.第二章 安全保障(第九条・第九条の二)
第九条については、第一次案より変更が見られる。

 第二章 安全保障
(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
自衛軍
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。
2 自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 自衛軍は、第一項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める。

まず憲法九条については、1項をそのまま残し、2項を削除した。
第一次案では、憲法九条も大きく変更されるようだったが、元に戻っている。
ただし、前文に以降したとも思え、その点で平和主義と国際協調主義との関係について疑問がそのまま妥当する。
集団的自衛権については、前文で十分意識されており、
自衛軍肯定、集団的自衛権否定という立場からは賛成するべきではない。
そして、九条の二で、自衛軍について定めている。
第一次案では、九条の二、九条の三で規定していたが、九条の二にまとめられている。
ただ、実質的には変更はないように思われる。
その他の点は<その13>を参照。


6.第三章 国民の権利及び義務(第十条−第四十条)

 第三章 国民の権利及び義務
(日本国民)
第十条 日本国民の要件は、法律で定める。
基本的人権の享有)
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。
(国民の責務)
 第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、保持しなければならない。国民は、これを濫用してはならないのであって、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う。

草案十二条について、「実質的変更」がある。これは草案策定者が認めている。
実は、この点、現行憲法も、

第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

と責任は規定するのだが、義務を伴うとする点が異なるのである。
しかし、国民の権利対応する義務とは何か?ここでの「権利」いわゆる民法上の権利義務とは異なる。
権利に対応する具体的義務があるのではなく、
国民の国家への義務は、納税の義務、勤労の義務、子女に教育を受けさせる義務である。
自由に責任が伴うことはわかるけれども、何を自覚するべきなのか、よくわからないのである。
この規定を根拠に、国民の国家に対する義務が拡大されないのである。
この点、現行憲法下でも、証人義務といった義務が法律上国民の義務となっているが、これに不利益は小さい。
一方で、特に危惧されるのが兵役の義務である。自衛軍の存在から導かれるともいいうるのである。
集団的自衛権を認める立場でも、この点については異論があるところだろう。
そういう点も意識してよむべきである。
なお、現段階でこの改正に筆者は賛成できないのは<その9>同様である。

(個人の尊重等)
十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

現行憲法は、

十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

とする。「公共の福祉」→「公益及び公の秩序」なのだが、草案策定者によれば実質的変更だそうだ。
自民党の今までの流れからすれば、「公益及び公の秩序」概念は「公共の福祉」概念よりも大きいというように思われる。
実質的変更が、概念縮小であれば賛成だが、拡大であれば反対である。

法の下の平等
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、障害の有無、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第二次案で、25条の2に障碍者の権利が加わえられたが、
草案では、第二次案の25条の2、1項は削除され、14条1項前段に「障害の有無」が加えられた。
確かに、障碍を理由にした不合理な区別があることは否定できないだろう。
障碍を理由にした入学拒否事例などが認められる。
もっとも、筋ジストロフィー少年公立高校入学拒否訴訟(神戸地判平成4年3月13日行集43巻3号309頁)は、
(14条を受けた)26条を根拠にしており、この点での明文化の実益というのは少ない。
最高裁判例でないことからはもしかしたら実益があるかもしれないが…。
また、前段(制限・例示)列挙事由厳格審査説からは明示列挙に意義があるかもしれないが、
判例はそのような立場ではなく、この点でも実益は少ない。
むしろ、障害の有に対する措置が、無の人に対する「逆差別」という考え方を生みやすくなるのではないかという点が気になる。
またあえて「障害の有無」ということを具体化することへの抵抗感もあろう。
書けばいいというものではない、というのが筆者の立場であるが、特に難しい問題のように思う。

(公務員の選定及び罷免に関する権利等)
第十五条 公務員を選定し、及び罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 選挙における投票の秘密は、侵してはならない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。
(請願をする権利)
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願をする権利を有する。
2 請願をした者は、そのためにいかなる差別待遇も受けない。
(国等に対する賠償請求権)
第十七条 何人も、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
(奴隷的拘束及び苦役からの自由)
第十八条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。
2 何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
(思想及び良心の自由)
第十九条 思想及び良心の自由は、侵してはならない。

以上に実質的変更はない。

(個人情報の保護等)
第十九条の二 何人も、自己に関する情報を不当に取得され、保有され、又は利用されない。
2 通信の秘密は、侵してはならない。

1項は第二次案で追加された事項である。<その16も参照>
自己情報コントロール権の一内容ということであえて明文化する必要はなく、
特に昨今の流れからすると、かえって濫用的に個人情報保護法の不都合性が増強されることになりかねないように思われる。
裁判所が何が「不当」かを示せば解消されようが、現段階では、明文化することの利益より、不利益の方が大きいように思う。
2項は現行憲法の21条2項後段である。
これにより、表現の自由とではなく、自己情報コントロール権と同じ条で保障するということになるが、
解釈上どのような相違が生じるのか考えてみる必要があろう。

(信教の自由)
第二十条 信教の自由は、何人に対しても保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及び公共団体は、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超える宗教教育その他の宗教的活動であって、宗教的意義を有し、特定の宗教に対する援助、助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるようなものを行ってはならない。

3項が「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」という文言からの実質的な変更らしい。
もっとも現行憲法の「宗教的活動」の意義については、草案3項のような基準で判断しており、実質的変更かというと疑問である。
ただし、判例変更によっても、厳格な政教分離を採用できないという点においては意義があるといえる。
第一次案のような抽象的表現ではなく、ある程度具体化された点は評価できる。
あとは、現在の判例基準の評価を含めて支持できるかどうか、ということである。

表現の自由
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の 自由は、何人に対しても保障する。
2 検閲は、してはならない。
(国政上の行為に関する説明の責務)
第二十一条の二 国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。

第二次案<その16>でも書いたが、人権規定で国の責務を規定するのはおかしい。
加えて、国民の責務と同列の責務でしかない。
これは国家の義務であるべきだし、それを求めるのは国民の権利である。
国民の権利として規定すべきであり、国の責務とすると、現在の実務解釈より弱められるおそれがある。
(もちろん、国民主権から当然に導かれるし、知る権利としても構成できるが。)
したがって、権利として規定するなら賛成だが、現在のままでは反対である。

(居住、移転及び職業選択等の自由等)
第二十二条 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 すべて国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

1項から「公共の福祉(公益及び公の秩序)に反しない限り」が削除された。
13条と22条の「公共の福祉」解釈とも関係するが、同義に解するのであれば、特段の差異はない。

(学問の自由)
第二十三条 学問の自由は、何人に対しても保障する。
(婚姻及び家族に関する基本原則)
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

以上に実質的変更はない。

生存権等)
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、国民生活のあらゆる側面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(国の環境保全の責務)
第二十五条の二 国は、国民が良好な環境の恵沢を享受することができるようにその保全に努めなければならない。
(犯罪被害者の権利)
第二十五条の三 犯罪被害者は、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利を有する。

25条の2も主語が国になっている点で、おかしい。
それならば、25条3項として、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」の周辺的努力義務とするべきように思う。
25条の3については、生存権の次に規定するべきかどうかという点のみ気になる。
第二次案での25条の3、1項が削除された以外は、第二次案<その16>も参照。

(教育に関する権利及び義務)
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、無償とする。
(勤労の権利及び義務等)
第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律で定める。
3 児童は、酷使してはならない。
(勤労者の団結権等)
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。

以上に実質的変更はない。

(財産権)
第二十九条 財産権は、侵してはならない。
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上及び活力ある社会の実現に留意しなければならない。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。

第二次案<その16>で書いた通りである。
知的財産過保護時代にあって、知的財産の特殊性を憲法が確認することは重要である。

納税の義務
第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
(適正手続の保障)
第三十一条 何人も、法律の定める適正な手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。
(裁判を受ける権利)
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。
(逮捕に関する手続の保障)
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、裁判官が発し、かつ、理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
(抑留及び拘禁に関する手続の保障)
第三十四条 何人も、正当な理由がなく、若しくは理由を直ちに告げられることなく、又は直ちに弁護人に依頼する権利を与えられることなく、抑留され、又は拘禁されない。
2 拘禁された者は、拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。
(住居等の不可侵)
第三十五条 何人も、正当な理由に基づいて発せられ、かつ、捜索する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索又は押収を受けない。ただし、第三十三条の規定により逮捕される場合は、この限りでない。
2 前項本文の規定による捜索又は押収は、裁判官が発する各別の令状によって行う。
(拷問等の禁止)
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対に禁止する。
(刑事被告人の権利)
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる権利及び公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを付する。
(刑事事件における自白等)
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 拷問、脅迫その他の強制による自白又は不当に長く抑留され、若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされない。
(遡及処罰等の禁止)
第三十九条 何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。同一の犯罪については、重ねて刑事上の責任を問われない。
(刑事補償を求める権利)
第四十条 何人も、抑留され、又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

以上に実質的変更はない。


                                           <つづく>