憲法改正を考える(その18)〜自民党新憲法草案について(2)〜

<第四章 国会、第五章 内閣、第六章 司法、第七章 財政、第八章 地方自治、第九章 改正、第十章 最高法規

憲法改正を考える(その1)〜国民投票法(1)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050314/1110803315
憲法改正を考える(その2)〜自民論点整理(1)〜+自民党ホームページについて
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050314/1110805753
憲法改正を考える(その3)〜自民論点整理(2)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050315/1110816281
憲法改正を考える(その4)〜自民論点整理(3)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050315/1110821749
憲法改正を考える(その5)〜国民の権利と義務に関する小委員会(1)+綿貫氏の発言について〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050326/1111775076
憲法改正を考える(その6)〜小委員会要綱案(1)といっても自民党批判〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050406/1112776329
憲法改正を考える(その7)〜民主党小委員会中間報告(1)+民主党批判〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050407/1112805346
憲法改正を考える(その8)〜衆院調査会最終報告書(1)+国民投票法(2)〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050416/1113583226
憲法改正を考える(その9)〜自民党憲法第一次案について(1)〜
 <前文、第一章 天皇、第三章 国民の権利及び義務>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050803/1123003046
憲法改正を考える(その10)〜自民党憲法第一次案について(2)〜
 <第四章 国会、第五章 内閣、第六章 司法>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050804/1123090669
憲法改正を考える(その11)〜自民党憲法第一次案について(3)〜
 <第七章 財政>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050805/1123171407
憲法改正を考える(その12)〜自民党憲法第一次案について(4)〜
 <第九章 改正、第十章 最高法規
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050808/1123429668
憲法改正を考える(その13)〜自民党憲法第一次案について(5)〜
 <第二章 戦争の放棄→安全保障>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050810/1123610872
憲法改正を考える(その14)〜自民党憲法第一次案について(6)〜
 <第八章 地方自治、第九章 改正(追記)>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050814/1123984962
憲法改正を考える(その15)〜自民党憲法要綱に5項目追加〜
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050927/1127789333
憲法改正を考える(その16)〜自民党憲法第二次案について
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051030/1130662659
憲法改正を考える(その17)〜自民党憲法草案について(1)〜
 <目次、前文、第一章 天皇、第二章 戦争の放棄→安全保障、第三章 国民の権利及び義務>
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20051031/1130755786


衆議院憲法調査会
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kenpou.htm
参議院憲法調査会
http://www.sangiin.go.jp/japanese/kenpou/index.htm
自由民主党憲法制定推進本部
http://www.jimin.jp/jimin/shin_kenpou/shiryou/index.html


自由民主党憲法草案について

憲法草案[平成17年10月28日]
http://www.jimin.jp/jimin/shin_kenpou/shiryou/pdf/051028_a.pdf

自民党憲法草案全文
http://www.fukushima-minpo.co.jp/news/syohou/CN2005102801002749.html
http://www.topics.or.jp/Gnews/news.php?id=CN2005102801002749&gid=G15


7.第四章 国会(第四十一条−六十四条の二)

 第四章 国会
(国会と立法権
第四十一条 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。
(両議院)
第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。
(両議院の組織)
第四十三条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員で組織する。
2 両議院の議員の定数は、法律で定める。
(議員及び選挙人の資格)
第四十四条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律で定める。この場合においては、人種、信条、性別、障害の有無、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。

44条にも「障害の有無」が加えられた。14条に連動してのことだろう。
ここでは特にコメントしない。

衆議院議員の任期)
第四十五条 衆議院議員の任期は、4年とする。ただし、衆議院が解散された場合には、その期間満了前に終了する。
参議院議員の任期)
第四十六条 参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する。
(選挙に関する事項)
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律で定める。
(両議院議員兼職の禁止)
第四十八条 何人も、同時に両議院の議員となることはできない。
(議員の歳費)
第四十九条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
(議員の不逮捕特権
第五十条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があるときは、会期中釈放しなければならない。
(議員の免責特権)
第五十一条 両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない。
(常会)
第五十二条 国会の常会は、毎年1回召集する。
2 常会の会期は、法律で定める。
(臨時会)
第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

52条2項が新設され、「常会の会期は、法律で定める」とされた。
もっとも、現在も国会法10条が定めており、明示したにとどまる。

衆議院の解散と衆議院議員の総選挙、特別会及び参議院の緊急集会)
第五十四条 第六十九条の場合その他の場合の衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。
2 衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から30日以内に、国会の特別会を召集しなければならない。
3 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
4 前項ただし書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の国会開会の後10日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失う。

1項が新設され、2項以下が現憲法の項数繰り下げである。
第六十九条の場合以外にも解散できることを明示し、衆議院の解散は「内閣総理大臣」が決定するとした。
ただ、現在の解散権の所在については合議体としての内閣と考えられており、内閣総理大臣の権限強化の一つともいえる。
その点に実際上の意義があるともいえる。

(資格争訟の裁判)
第五十五条 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。ただし、議員の議席を失わせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
(表決及び定足数)
第五十六条 両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
2 両議院の議決は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければすることができない。

56条は現行憲法から1項と2項が入れかわり、
現行1項が「両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。 」と規定するのに対し、
草案2項は「両議院の議決は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければすることができない。」とする。
つまり「議事を開き」というのが削除された。審議も重要であることを考えると、削除した理由が気になるところである。

(会議及び会議録の公開等)
第五十七条 両議院の会議は、公開しなければならない。ただし、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるものを除き、これを公表し、かつ、一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の5分の1以上の要求があるときは、各議員の表決を会議録に記載しなければならない。
(役員の選任並びに議院規則及び懲罰)
第五十八条 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、並びに院内の秩序を乱した議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
(法律案の議決及び衆議院の優越)
第五十九条 法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて60日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
(予算案の議決等に関する衆議院の優越)
第六十条 予算案は、先に衆議院に提出しなければならない。
2 予算案について、参議院衆議院と異なった議決をした場合において、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
(条約の承認に関する衆議院の優越)
第六十一条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
(議院の国政調査権
第六十二条 両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

以上に実質的変更はない。

国務大臣の議院出席の権利及び義務)
第六十三条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院のいずれかに議席を有すると有しないとにかかわらず、いつでも議案について発言するため議院に出席することができる。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁又は説明のため議院から出席を求められたときは、職務の遂行上やむを得ない事情がある場合を除き、出席しなければならない。

第六十三条  内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
現行憲法

第六十三条  内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

となっており、出席義務は厳格である。
たしかに「職務の遂行上やむを得ない事情がある場合を除き」という解除は合理性があるが、明文化しなくとも認められるであろう。
むしろ明文化することで「やむを得ない事情」内閣の裁量で拡大解釈され、司法審査も及ばない事態を懸念する。

弾劾裁判所
第六十四条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律で定める。
(政党)
第六十四条の二 国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることにかんがみ、その活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない。
2 政党の政治活動の自由は、制限してはならない。
3 前二項に定めるもののほか、政党に関する事項は、法律で定める。

草案は、国会の章の最後(ただし順序は暫定的)に政党について規定している。
本当に日本国において「議会制民主主義に不可欠」なのか、という疑問はあるが、憲法に組み入れることは否定しない。
なお、第一次案ではなかった3項が加えられている。政党の結社の自由、政党自律権との関係が気になるところである。


8.第五章 内閣(第六十五条−七十五条)

 第五章 内閣
(内閣と行政権)
第六十五条 行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する。

「この憲法に特別の定めのある場合」とは、「衆議院の解散権」「自衛隊の指揮権」
及び後述する「行政各部の指揮監督・総合調整権」(草案72条1項)は内閣総理大臣個人に専属ということ。
54条1項、9条の3、72条のうち一つでも賛成承認されることによって改正され、個別改正の対象ではないと考えられる。

(内閣の組織及び国会に対する責任)
第六十六条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣で組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。
内閣総理大臣の指名及び衆議院の優越)
第六十七条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会が指名する。
2 国会は、他のすべての案件に先立って、前項の指名を行わなければならない。
3 衆議院参議院とが異なった指名をした場合において、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名をした後、国会休会中の期間を除いて10日以内に、参議院が指名をしないときは、衆議院の指名を国会の指名とする。
国務大臣の任免)
第六十八条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。この場合においては、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
(内閣の不信任と総辞職)
第六十九条 内閣は、衆議院が不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
内閣総理大臣が欠けたとき等の内閣の総辞職)
第七十条 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員の総選挙の後に初めて国会の召集があったときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
(総辞職後の内閣)
第七十一条 前二条の場合には、内閣は、新たに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行う。
内閣総理大臣の職務)
第七十二条 内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う。
2 内閣総理大臣は、内閣を代表して、議案を国会に提出し、並びに一般国務及び外交関係について国会に報告する。

72条に関して、現行憲法は、

第七十二条  内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

となっている。
「行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う」というのが、「内閣を代表して」行うものではないことを明確にする。
内閣法6条が「内閣総理大臣は、閣議を受けて決定した方針に基づいて、行政各部を指揮監督する」とするが、
「内閣を代表」するものではなく、閣議決定を要さずに、行政各部を指揮監督するできるようにするものである。
内閣総理大臣の権限強化の1つといえる。

(内閣の職務)
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務のほか、次に掲げる事務を行う。
 一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
 二 外交関係を処理すること。
 三 条約を締結すること。ただし、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
 四 法律の定める基準に従い、国の公務員に関する事務を掌理すること。
 五 予算案及び法律案を作成して国会に提出すること。
 六 法律の規定に基づき、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。
 七 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を決定すること。

まず5号で内閣の法律案提出権が明文化されている。
なお、現在内閣法5条が内閣の法案提出権を認めているが、その合憲性については議論のあるところである。
また、6号については、現行憲法は、

 六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

であり、第一次案では、

 六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。

としていたが、「この憲法及び法律の規定を実施するために」という点が、「法律の規定に基づき」とされている。
「この憲法及び法律」は一体的に読み、憲法を直接実施する政令は認められていないと考えられており、
この点を明確にしたものということができる。
ただし書きは、国民の権利義務に関するものについては、「具体的」委任は不要ということか。

(法律及び政令への署名)
第七十四条 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣連署することを必要とする。
国務大臣の特権)
第七十五条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、訴追の権利は、これにより害されない。

以上に実質的変更はない。


9.第六章 司法(第七十六条−八十二条)

 第六章 司法
(裁判所と司法権
第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。
3 軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する。
4 すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。

3項に軍事裁判所が規定されている。
ただし、特別裁判所ではなく、最高裁判所下級裁判所としての裁判所であり、
必要的に軍事裁判所を設置すべきとしたにすぎないものと思われる。
憲法9条改正と連動して行われるものである。

最高裁判所の規則制定権)
第七十七条 最高裁判所は、裁判に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官、弁護士その他の裁判に関わる者は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
(裁判官の身分保障
第七十八条 裁判官は、次条第三項に規定する場合及び心身の故障のために職務を執ることができないと裁判により決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。行政機関は、裁判官の懲戒処分を行うことができない。
最高裁判所の裁判官)
第七十九条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官で構成し、最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は、内閣が任命する。
2 最高裁判所の裁判官は、その任命後、法律の定めるところにより、国民の審査を受けなければならない。
3 前項の審査において罷免すべきとされた裁判官は、罷免される。
4 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
5 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、やむを得ない事由により法律をもって行う場合であって、裁判官の職権行使の独立を害するおそれがないときを除き、減額することができない。

79条の国民審査に関する部分に実質的変更がある。
現行憲法は、

第七十九条
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
(1項(最高裁判所裁判官)、5項(定年)、6項(報酬)は省略)

とするが、
草案2項は、現4項と2項をあわせ、審査の機会については、任命後であることだけを残して、法律にゆだねている。
十年ごとの審査が現実に即さないことからすれば、より頻繁に行う形(参議院選挙ごと等)に向けた改正としては評価したいが、
あくまでも法律次第であり、民主的統制が後退することもありうるので注意が必要である。
また、草案5項は、報酬の減額の禁止について、
「やむを得ない事由により法律をもって行う場合であって、裁判官の職権行使の独立を害するおそれがないときを除き」とする。
その10でも書いたが、これはhttp://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/saibannkannokyuuyogenngaku.htmという事態を想定したもの。
現行規定でもそのような場合には許されるとするなばら、改正の必要はない。
むしろ明文をおくことで、裁判所の独立が害されかねないので、裁判官会議を経て、という運用でいいように思う。

下級裁判所の裁判官)
第八十条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣が任命する。その裁判官は、任期を10年とし、再任されることができる。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2 前条第五項の規定は、下級裁判所の裁判官の報酬について準用する。

草案2項は、単純に準用とした。
憲法で準用という文言を使うことの好き嫌いはあるけれども、実質的にはすでに述べたとおりである。

(法令審査権と最高裁判所
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
(裁判の公開)
第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷で行う。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審は、公開しないで行うことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪又は第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常に公開しなければならない。

以上に実質的変更はない。


10.第七章 財政(第八十三条−九十一条)

 第七章 財政
(財政の基本原則)
第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しなければならない。
2 財政の健全性の確保は、常に配慮されなければならない。

2項が新設である。
当然の訓示的なものだが、政府の健全性に対する認識は低いようなので、特筆すべき意義があろう。

(租税法律主義)
第八十四条 租税を新たに課し、又は変更するには、法律の定めるところによることを必要とする。
(国費の支出及び国の債務負担)
第八十五条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。
(予算)
第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない。
2 当該会計年度開始前に前項の議決がなかったときは、内閣は、法律の定めるところにより、同項の議決を経るまでの間、必要な支出をすることができる。
3 前項の規定による支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

草案2項、3項は新設である。
財政法(昭和二十二年三月三十一日法律第三十四号)30条(暫定予算)の規定を憲法に組み入みたものといえる。
万一成立しなかった場合の不都合を担保する規定を規定することは不合理ではないし、現状と同様であり、特段の問題はないように思われる。
なお、第一次案では86条の2が新設され、継続費として、財政法16条の2(継続費)の規定を組み込むとしてたが、撤回されたようである。

予備費
第八十七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
(皇室財産及び皇室の費用)
第八十八条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算案に計上して国会の議決を経なければならない。
(公の財産の支出及び利用の制限)
第八十九条 公金その他の公の財産は、第二十条第三項の規定による制限を超えて、宗教的活動を行う組織又は団体の使用、便益若しくは維持のため、支出し、又はその利用に供してはならない。
2 公金その他の公の財産は、国若しくは公共団体の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対して支出し、又はその利用に供してはならない。

現行憲法は、

第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

とするが、前段後段を1項2項と分離し、草案1項については、第二十条第三項と同様にするとしている。
まず1項と2項とでは、厳格さを異にするのが妥当であり、分離することについては、妥当に思う。
草案1項の妥当性については、20条3項に触れたとおりである。
草案2項については、「公の支配に属しない」が「国若しくは公共団体の監督が及ばない」となっている。
「公の支配」の内容が具体化されている点では妥当のように思う。

(決算の承認)
第九十条 内閣は、国の収入支出の決算について、すべて毎年会計検査院の検査を受け、法律の定めるところにより、次の年度にその検査報告とともに国会に提出し、その承認を受けなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律で定める。
(財政状況の報告)
第九十一条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少なくとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

<その11>でも書いたが、草案は、会計検査院の権限という観点からはトーンダウンのようなイメージを受ける。
内閣の責任で検査を受けるというもので、少し疑問を感じるところである。
一方で、国会の“承認を受けなければならない”とした点は、内閣の国会への責任の明確という点で評価できる。


11.第八章 地方自治(第九十一条の二−九十五条)

 第八章 地方自治
地方自治の本旨
第九十一条の二 地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
2 住民は、その属する地方自治体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う。

新設。
1項は第一次案第九十一条の二(地方自治の本旨)を少し改めたもので、地方自治の理念を掲げたものといえる。
「住民の参画を基本とし」は、住民自治、「自主的、自立的」は団体自治を規定したもので、
地方自治の本旨が明確にされた点に意義があるといえる。
2項は第一次案第九十一条の三(地方自治体の役割等)2項、3項を少し改めたものである。
「ひとしく受ける権利」は地方での平等権ということだろうか?
「その負担を公正に分任する義務」というのは、地方税の納税義務だろうか?
権利とは何か、義務とは何か、すこし曖昧な気がしてならない。

地方自治体の種類等)
第九十一条の三 地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括し、補完する広域地方自治体とする。
2 地方自治体の組織及び運営に関する基本的事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。

1項は新設。第一次案第九十一条の五(地方自治体の種類)1項2項をまとめたものである。
基礎地方自治体は現在の市町村、広域地方自治体は都道府県であり、二段階制を明確に採用した点に意義がある。
2項は現行憲法92条にあたるが、「“基本的”事項」という限定が付されている。
実質的変更ではないらしいが、地方分権に向けた実質的変更で、国の介入は最小限にとどめるべきとも読める。
なお、文言は「地方公共団体」から「地方自治体」となっている。

(国及び地方自治体の相互の協力)
第九十二条 国及び地方自治体は、地方自治の本旨に基づき、適切な役割分担を踏まえて、相互に協力しなければならない。

新設。第一次案第九十一条の四(国及び地方自治体の相互の協力)に同じである。
あくまで相互協力であり、「適切な役割分担」を根拠に地方が国によって制約されることがあってはならないと考える。

地方自治体の機関及び直接選挙)
第九十三条 地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する。
2 地方自治体の長、議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、当該地方自治体の住民が、直接選挙する。

現行憲法93条と同様であるが、「議事機関」が「条例その他重要事項を議決する機関」となっている。
実質的変更ではないが、趣旨は不明である。

地方自治体の権能)
第九十四条 地方自治体は、その事務を処理する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

現行憲法の「その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、」から文言が変更されている。
ただし、財産管理については、草案第九十四条の二に(地方自治体の財務及び国の財政措置)として規定されている。
また、行政執行については、第九十一条の二で規定されているといえ、重複をさける趣旨とも思われる。

地方自治体の財務及び国の財政措置)
第九十四条の二 地方自治体の経費は、その分担する役割及び責任に応じ、条例の定めるところにより課する地方税のほか、当該地方自治体が自主的に使途を定めることができる財産をもってその財源に充てることを基本とする。
2 国は、地方自治の本旨及び前項の趣旨に基づき、地方自治体の行うべき役務の提供が確保されるよう、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講ずる。
3 第八十三条第二項の規定は、地方自治について準用する。

新設、1項2項については、第一次案と同じ。
1項は、地方自治体について、資金の自主調達を基本とするもので、
憲法自身が地方分権を財政的側面から強調しているといえる。
その上で、2項が一定の場合に国が協力するとのことである。
この条項が承認された場合には、地方税の自主性を確保するような税制改革が必要になると思われる。

第九十五条 削除

現行憲法は、

第九十五条  一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

とする。
地方の権限強化にもかかわらず、地方自治特別法について住民の同意を不要とすることに違和感がある。
それとも、そもそも地方自治特別法にあたるものが法律事項でなくなるのか?
おそらくそうではないと思われ、廃止する趣旨が明らかでなく、地方重視の観点とも矛盾と思われる。
さいごに、「第八章 地方自治」は大改正であり、第一次案ではわかりにくかったが、
草案では第一次案よりもかなり条文が整理されているといえる。


12.第九章 改正(第九十六条)

 第九章 改正
 第九十六条 この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議に基づき、各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票において、その過半数の賛成を必要とする。
 2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体であるものとして、直ちに憲法改正を公布する。

1項は実質的変更。2項は文言の変更だけである。
一般に憲法改正規定の改正を改正権の限界とのどのように理解するかは難しいが、
強制的国民投票制度は維持されていることから、限界を超えるとまではいいきれないし、
限界をこえるとしても、それはまさに「新」憲法の「制定」として、改正後憲法を有効なものと理解することとなろう。
実際、草案前文も「新しい憲法を制定する」としている。
さて、草案では「発議」とは議院での提案を意味する語となったようである。
これによって、各議院は審議し、議決によって国民に提案して承認を得るというものである。
そして、提案に際しての議決(現行現行の発議)の要件については、「総議員の過半数の賛成」と緩和している。
筆者の立場としては、この要件の緩和には反対である。
国会議員でそれくらいのコンセンサスはとれてくれないと、国民投票の実効性が疑わしいし、
あまりに頻繁に改正されては、それはそれで憲法の最高規範性という観点からどうかと思う。
また、緩和すると法律と同要件で憲法改正発議がされてしまうことになり、
最終的には国民投票を経るとはいえ、この原案がそのまま提出されることも生じかねない。
(連立政権の場合でも憲法改正の発議については強調するかといえば別だが単独過半数ではありえる。)
法律が実際上強行採決されることなどを考えると十分な調整を図った上で提出されるべく、2/3要件が妥当に思う。
一方で、国民投票については、「特別の国民投票」として行うことに限定することについては、
議員選挙と同時にすると論点が混同されやすくなり、また国民議論としても不十分になりかねないことから、妥当のように思う。
ところで、国民投票における承認の要件としては、「その過半数の賛成」とするだけである。
本改正の前提として、国民投票法が必要であり、なんらかの規範は定められることになろうが、
憲法で定めておくことには議論の余地が依然あろう。
なお、96条の改正の賛否については両立しうる論点が並立しておりその問い方が難しいように思われる。


13.第十章 最高法規(第九十七条−九十九条)

 第十章 最高法規
基本的人権の意義)
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪え、現在及び将来の国民に対し侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
憲法最高法規性等)
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
憲法尊重擁護義務)
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。

以上に実質的変更はない。


14.おわりに
憲法改正については、その賛否の問い方が難しいところである。
第百条以下に相当する部分には附則があるが、この点を含めて改正に向けた技術がとわれるところでもある。
また、文言変更についてもどう行うかは難しい。
憲法をどのようなものにするか、国民が議論していくことが重要だが、
その議論をどのようにして、新憲法/改正憲法に生かすかということも重要な問題として気になるところである。


                                           <おわり>